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旅の始まり、1駅目岡山駅へ

ご覧になっていただき、誠にありがとうございます。

今回は長い話で、ついに1駅目の訪問となります。


今日は金曜日であるが健太は仕事が休みである。


年中無休のバス会社に勤めていると、日曜日も当たり前のように仕事がある代わりに平日に休みが入る事も多い。


むしろ、健太は多くの人が労働している平日に休むのが好きだったので、日曜日に仕事が入る事は何の問題もない。


今日はエリスの天使採用試験である、日本全国47都道府県庁所在地の主要駅訪問の記念すべきスタートの日である。


まずは手始めに福山市から一番近い岡山駅へ行ってみる事にした。


岡山駅前に大型ショッピングモールがあるので、買い物も出来る。エリスと同居するにあたり、まだ必要な物が揃っていないので、少しでも何か買って帰るつもりだった。


ようやく試験に臨めるとあって、エリスは前夜から興奮気味で、この日も朝6時前に目を覚ましていた。


エリスはパジャマを持っていないため下着姿で寝ていたのだが、起きてからも服を着ないでそのまま朝ごはんを作りだした。


エリス自身は天上界にいた時から、自分の部屋では寒い時期以外は下着姿で過ごしていたので、特に変わった事をしているわけではないのだが……


朝ごはんといっても、食材が乏しいので、トーストとインスタントのコーンポタージュスープだけである。


(今日は食材を買いに行きたいわね)


エリスは天上界ではなかなか食べられない米を買いに行きたいのである。


そのような事を考えているうちに、トースターに入れた食パンが焼き上がった。


健太は食パンが1枚では足りないと思ったので、たった今焼き上がった2枚は健太用にして、エリスは自分用にもう1枚食パンを焼き始めた。


マグカップを2つ用意して、粉末のスープを入れたのだが、お湯を注ぐのは食べる直前にした。


そして、エリスが食べる食パン1枚もすぐに焼き上がり、皿に乗せて朝ごはんは完成である。


しかし、出来上がったからといっても、すぐに食べられるわけではない。


食べる前に寝床を片付け、座卓を用意しなければならない。


寝床を片付ける前に健太を起こす必要がある。


エリスは居間に行き、床に敷いた毛布の上で眠っている健太の前に立った。


(仕事が休みの日くらいはゆっくり眠ってもらいたいけど……)


エリスは少し躊躇したが、朝ごはんの準備が出来てしまったので、しかたなく健太を起こす事にした。


「健太、起きて……朝ごはん出来てるから」


エリスは健太の頬を軽く触りながら、健太の耳に自分の口を近付けてささやいた。


「ん……?」


健太は程なく目を覚ましたのだが、目に写ったエリスの姿に驚愕した。


「な、な、何だよ……その格好は?」


健太が驚くのも無理はないだろう。


エリスが身に付けていたのは、昨日買ったレースの下着だけである。


ブラジャーもパンティも重要な部分の大半が透けており、彼女いない歴=年齢の健太には刺激が強すぎた。


「どう? 似合う?」


エリスは健太が目のやり場に困ってるのをわかっていながらも、わざとモデルがポーズをとるように自らの肢体を誇示しながら言った。


エリスは真面目で思いやりのある性格だが、自分の美貌に自身があるためか、男性の視線が注がれる事を恥ずかしがらない、むしろ、それを喜ぶ傾向があるのが欠点だ。


「とりあえず、ちゃんと服を着てくれない?」


健太はエリスがこのままの姿だと理性を失いそうな気がしたので、わざとらしく大袈裟に顔を横に向けて言った。


「はいはい、服を着るからその間に寝床を片付けといて。このままじゃ、朝ごはんが食べられないから」


エリスがそんな健太の様子を見て苦笑しながら言った。


エリスが昨日買ったデニム地のショートパンツとTシャツを着用する間に、健太は寝床を片付けて座卓を接地した。


服を着たエリスが朝ごはんを座卓に並べようやく食事の準備が出来た。


エリスは更にマグカップに入れた粉末のスープにお湯を注いで持ってきた。


朝ごはんを食べながら、健太とエリスは今日の出掛ける計画を話し合った。


話し合った結果、昼前に出発して、岡山に着いてまず昼ごはんを食べてから、駅の近くのショッピングモールで買い物をして、更にそのモール内のシネコンで映画を観て、夕方に福山に帰る事にした。


岡山へ昼食のピークを避けて13時過ぎに着く予定なので、最寄りの備後本庄駅を11時57分に出発する予定でなので、出発まではまだ4時間以上ある。


そうなると、満腹になった健太に眠気が襲いかかってきた。


「ファーア……」


健太は大きな欠伸をした。


「眠いのなら、お布団敷きましょうか?」


健太の様子を見てエリスが言った。


「欠伸が出たけど、眠るほどじゃないよ」


健太は本当は眠りたいのだが、エリスに気を遣わせたくなかったので眠るつもりはなかった。


「普段、仕事が休みの時は何時に起きてるの?」

「遠くの鉄道に乗りに行くとか、特別な用事がない時は、だいたい昼前まで寝てるかなぁ」


「だったら、今日は悪い事をしたわね。ごめんなさい。無理に早起きさせて……」


エリスはバツが悪そうに謝罪した。


「別にいいよ。元々、今日は昼ごろまで寝てるつもりはなかったし」


実際、健太はエリスと出掛ける計画を立てるなど、やっておかなければならない事があったので、早めに起きるつもりではいた。


「うーん、予定よりほんの少し早起きしてしまったけど、睡眠時間は足りてるはずなのに、何で眠くなったのかなぁ?」


健太は眠気を払いのけようと、立ち上がって背伸びをしながら言った。


「やっぱり、床に毛布を敷いてその上に寝るのは無理があるんじゃないかしら」


エリスは自分が敷き布団を独り占めしている事を気にしている。


「健太は私と違い仕事があるんだから、敷き布団に寝るべきよ」


「しかし……エリスも床に寝るのは辛いんじゃないかな?」


エリスが健太に言った。とはいえ、健太も女の子を床に寝かせるわけにはいかない。


「ねぇ……同じお布団に一緒に寝ましょう」


「えっ!?」


エリスの提案は健太にとっては衝撃的だった。


「いや……さすがに……それは……」


健太はドギマギしながら言った。脳内でいろいろな事を想像してしまう。


「昨夜だって隣で寝てたでしょ。距離が少し縮まるだけよ」


エリスは事もなげにさらりと言った。


「いい歳して、女の隣で寝るくらいで尻込みしないでほしいわね」


「しかし、エリスだって、見ず知らずの男と寝られる?」


「三日前に知り合ったから、見ず知らずじゃないわ」


「そういう意味じゃなく……」


こんな押し問答が続いたが、エリスが押し切って、健太はエリスと同じ布団で寝る事になった。


仕事をしてエリスの地上界での生活費を稼ぐのは健太であるから、健太の体に負担をかけたくないとエリスが譲らなかったからである。


(参ったな……いや、嬉しいけど)


健太は今夜の事を妄想しながらにやけてしまう。


(もう少し堂々としてほしいわね)


エリスはそんな健太を見て心の中でため息をついた。


実際のところ、健太は自分に自信が無いためか、自分はモテないと勝手に決め付けていた面がある。


本当は中学、高校時代にも健太に想いを寄せる女子生徒はいたのだが、健太が女子に対してあまりにも素っ気ない態度だったため、女子生徒の側が健太に告白するのをためらっていたのである。


健太に少しでも異性に対して気の利く面があれば、彼女の一人や二人くらいは出来ていたに違いない。


そんな少年時代を過ごして大人になった健太は、自分は女性には好かれないタイプだと決め付けていたため、女性と付き合うのを完全に諦めていた。


健太も当然ながら、中学、高校時代から社会人になった現在に至るまで、同級生や会社の同僚、果ては行きつけのスーパーのレジ係まで、一目惚れした女性は何人もいたのだが、健太の妄想の中では彼女になっていたり、中には奥さんになっている女性もいるのだが、実際に健太が彼女達にアプローチするような事は無かったのである。


エリスも健太に最初に会った時にルックスは悪くないと思っていたし、不器用ながら思いやりのある態度で接してくれたので好感を抱いていた。


そして、エリスはこの好感が、やがて恋愛感情に発展するかも知れないとも考えてはいたのだが、それは絶対に健太に知られてはならないと自分自身を戒めていたのである。


エリスと健太の関係は長くても試験期間である一年間限りである。


天使になるという目標があるエリスはそのあたりは割り切れるのだが、女性と付き合った事が皆無の健太はそうはいかないだろう。


健太のようなタイプは、女性と付き合う事も難しいのだが、いざ付き合い始めるとスマートに別れる事はもっと困難である。


エリスは健太と少し接してみて、そのあたりをすぐに見抜いていた。


とはいえ、エリスも健太と一緒に寝る事を提案するのであるから、矛盾していると言えなくもないのだが、そこはエリスの女性的本能が勝ってしまったのであろう。


(まぁ、一線を越えないようにはしなくちゃね)


エリスは心の中で折り合いをつけていた。


健太とエリスの心の中で様々な思いが駆け巡っている間、やや気まずい沈黙が続いたので、エリスは台所に向かった。


「喉が乾いちゃった。何か飲み物があるかしら?」


「冷蔵庫の中にお茶があるし、コーヒーならインスタントでよければ戸棚にあるけど」


「お茶をいただくわ」


エリスは冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して戻って来た。


「ねぇ、岡山から帰って来たら晩ごはんの買い物に行くでしょ? その時にお米を買って欲しいんだけど」


エリスが気まずい雰囲気だったので話題を変えた。


エリスは米を手に入れたいのはちょうど頼みたい事だったので、タイミング的にも良かった。


「米があればご飯が炊けるな。炊飯器があるけど、独り暮らしだと使う機会があまりなくて……」


「天上界ではお米が貴重だから、なかなか食べられないの」


エリスは地上界に来てご飯を食べる事を楽しみにしていたのである。天上界では主食がパンであり、ご飯は高級品とされていた。


「歩いて行くには遠いけど、車ならすぐに行ける所に安いスーパーがあるから、帰って来たら買い物に行こう」


「決まりね。私が料理するから、食材も色々買いましょう」


エリスが楽しそうに言った。


「料理出来るの?」


健太がエリスに尋ねた。


「こう見えても料理は得意なのよ。天上界の料理も地上界と大して変わらないから、健太の口に合わないという事はないと思うわね」


エリスが自信ありげな表情で言った。健太はそんなエリスの様子を見て晩ごはんが楽しみになってきた。


「ねぇ、今何時なの?」


エリスが尋ねた。


「まだ9時過ぎだな」


「出発まで3時間近くあるわね。それまでどうする?」


健太もエリスもする事がないので、出発までどう過ごすかが問題になってきた


「そういや、さっき言ってた安いスーパーなんだけど、朝は9時からやってるんだった。時間が余ってるから、今のうちに晩ごはんの買い物を済ませとく?」


健太がスーパーの開店時間を思い出して言った。


「それだと、夕方に帰ってからすぐに晩ごはんの支度が出来るわね」


エリスがにっこりと笑みを浮かべる。


「うん、そうだね。じゃあ、今から食材の買い出しに行こう」


健太がクルマの鍵を探しながら言った。


「その前に、健太はちゃんと服を着替えなきゃ」


エリスは健太がまだ昨夜寝る時に着たジャージのままである事に気付いた。


「そうだった。すぐ着替えるよ」


健太が慌てて台所に行き服を着替える。


「よし、これでいいな。じゃあ、出掛けるよ」


健太は本当にあっという間に着替え終えた。そして、エリスに出掛けるよう促した。


「だめだめ、ちゃんとヒゲ剃らなきゃ」


エリスが洗面所があるユニットバスの方を指差しながら言った。


「休みの日くらい、ヒゲそらなくてもいいだろ?」


「何言ってるの? 休みだからって、ちゃんとすべき事はちゃんとしなくちゃ」


「はいはい」


エリスに言われて健太は渋々洗面所に向かった。


(やれやれ、見た目はチャラい女の子だけど、なかなかしっかりしてるんだな)


健太は電動シェーバーでヒゲを剃りながら考えていた。この調子だと、この一年間エリスの尻に敷かれるんだろうと覚悟した。


(どうせ尻に敷かれるなら、俺の顔の上に座り込んでくれたらいいな…)


健太は良からぬ妄想をしてしまったが、そのために、下半身が興奮してしまった。


(いかんいかん、このままだと、また何か言われるに違いない)


健太は下半身が落ち着きを取り戻すまで、充分に時間をかけてヒゲを剃った。


「お待たせ。じゃあ、行こうか」


健太はようやくヒゲを剃り終えて戻って来た。


「ヒゲを剃るのって、ずいぶん時間がかかるのね」


「入念にやると、これくらいの時間がかかるんだよ」


「まぁ、いいわ。じゃあ、行きましょう」


健太は良からぬ妄想をエリスに気付かれなくてホッとしていたが、エリスがさっさと外に出て行ったので、慌てて追い掛けた。


健太の住んでいるマンションから徒歩数分の場所にもスーパーはあるのだが、そのスーパーは商品全般の値段が高い。車で数分ほどの場所に安いスーパーがあるので、健太は主にそちらを利用していた。


スーパーについた健太とエリスは、店内を回りながら今夜の献立を考えていた。


「エリスは何か食べたい物はある?」


健太がエリスに尋ねた。健太としては、特に今夜食べたいと思う物がないため、エリスに何を食べたいか聞かれると返答に困るので、先に健太の方からエリスに尋ねたのである。


「私はカレーライスを食べたいわ。天上界では高くてなかなか食べられないから」


エリスは目を輝かせながら言った。


健太からすればカレーライスなどいつでも食べられるのだが、天上界では米が貴重品であるからカレーライスは相当なご馳走なのである。


「じゃあ、カレーライスの材料を買おう」


健太とエリスはカレーライスの材料として、カレーのルウ、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、牛肉の小間切れを買い物カゴに入れた。


更に、翌日の朝食分などを買い込むと買い物カゴは一杯になった。


「自炊はほとんどしてなかったから、いざ料理するとなるといろいろ買い込まなければならないな」


健太が溢れんばかりに一杯になった買い物を乗せたカートを押しながら言った。


「まだお米を買ってないわ」


エリスが米を買ってない事を思い出した。


「じゃあ、俺が米をもって来るから、先にレジに並んどいて」


健太はそう言ってから米を陳列しているコーナーへ行った。


(さて、米といっても、どれを買えばいいんだ?)


米にもいろいろ種類があり、値段も高い物から安い物までいろいろある。


(やっぱり、こしひかりが美味しいのかな……)


美味しい米の代名詞と言えるこしひかりだが、値段は高い。


(あきたこまち、ひとめぼれならどうかな?)


こちらは若干安い。


(広島県産あきひかり? 地元の米か……)


これはこれまで見た米より安い。


(地元の米ってのも悪くないな)


健太は広島県産あきひかりの10kgの袋を担いでレジに向かった。


レジでは既にエリスの順番が来て、既に会計が始まっていた。


「お待たせ」


「遅いじゃない。早く早く」


「ごめんごめん。あっ、これもお願いします」


健太は米をレジに置いた。


「5062円のお買い上げです」


「5000と……60……2円ね」


「5062円ちょうどお預かりします」


健太は小銭の中から62円を出して、おつりが出ないように支払いを済ませた。


その間にエリスは既にカートを移動させて、買った物をレジ袋に詰め始めていた。


健太が支払いを終わらせてエリスの所にやって来た時には、買った物の大半がレジ袋の中に収まっていた。


「上手く詰め込んだなぁ」


健太は関心した。


「きれいに詰め込まないと、袋がたくさん必要になってかさばるでしょ?」


「俺が詰めると、汚く詰めるからたくさん入らないんだよな」


健太がエリスの詰め込み方を観察しながら言った。健太は普段は適当にレジ袋に放り込んでいたが、エリスは効率よく、無駄の無い詰め込み方だった。


「レジ袋は私が持つから、お米は健太が持ってくれる?」


エリスがレジ袋を持ち上げて言った。


「うん、いいよ。じゃあ、車に持って行こうか」


健太が米袋を担ぎ上げて言った。


二人は買った物を車に乗せて、来た時と同じ道を逆戻りしてマンションに帰って来た。


二人がマンションに戻ったのは10時すぎで出発にはまだ時間があったので、健太は窓拭きとベランダの掃除をして、エリスは台所と流し台の掃除をして時間を潰した。


そうこうしるうちに、時計はようやく11時半をすぎたので、健太とエリスは出掛ける事にした。


二人は歩いて備後本庄駅に向かった。


備後本庄駅で岡山までの切符を券売機で購入した。


「これだよ、自動改札機」


健太が備後本庄駅の待合室からホームへの出入口にある自動改札機を指差して言った。


先日、エリスが一人で列車に乗った時、この改札機に切符を通さなかったために、福山駅で改札機に引っ掛かってしまったのである。


「あぁ、これね。さりげなく設置されているから気付かなかったわ」


エリスが自動改札機をまじまじと見ながら言った。


「こうやって切符を入れると反対側から出て来るんだ」


健太が自分の切符を改札機に通す、そして反対側から出て来た切符を取ってエリスに見せた。


「よく見てごらん、切符の端の方に小さな穴が空いてるだろ。自動改札機を通すと、この小さな穴が空いて、それが改札機を通したという証明になるんだよ」


健太がエリスに切符を見せながら説明した。


「なるほどね。じゃあ、私のも通してみるわ」


今度はエリスが自分の切符を改札機に通した。そして、反対側から出て来た切符を取って確かめた。


「ホント、穴が空いてるわ」


エリスが納得したように言った。


こんなやり取りをしているうちにアナウンスが流れ列車が到着した。


やって来た列車は先日エリスが乗ったのと同じ黄色い列車で、やはり2両繋がっていた。


「あそこのドアから乗るのよね?」


エリスは先日一人で乗った時に、ドアが一つしか開かなかったのを思い出して言った。


「そうだよ、あそこから乗るんだよ」


健太がうなずいてその一ヶ所だけ開くドアに向かって行く。エリスはその後に続き列車への乗り込んだ。


備後本庄から福山へはわずか1駅、時間にして3分である。


二人を乗せた列車はあっという間に福山駅に到着し、健太とエリスは他の乗客約30人と共に下車した。


福山から岡山へは山陽本線の列車に乗らなければならない。山陽本線の列車は備後本庄から乗った福塩線の列車とは違うホームにやって来る。


健太はエリスを先導して山陽本線のホームへ向かった。


二人が乗る列車は12時07分発の相生行きである。ちなみに、相生というのは兵庫県西部にある都市で、福山から見れば岡山のずっと東、姫路の手前にあたる。


山陽本線の上りホームへやって来た二人は、列車に乗るために既に並んでいる人の列の後ろに並ぶ。なお、山陽本線の列車は、先程の福塩線の列車とは違いドアは全て開くので、どのドアからでも乗車出来る。


健太とエリスが山陽本線の上りホームに移動して、一息つく暇もなく相生行きの列車がやって来た。


先程乗った福塩線の列車とは一目で車両の型式が違うとわかるのだが、色は全く同じ黄色い列車がやって来た。


この列車は4両編成であるが、かなりの乗客が乗っているように見える。


しかし、乗っている乗客の多くが広島県東部の中心都市である福山への乗客だったようで、混雑していた車内の乗客の大半が福山駅で下車したため、健太とエリスが乗り込む時には車内はガラガラだった。


健太はエリスに先立って列車に乗り込み、素早く二つ並んだ空席を見付けて座った。


「こっちこっち」


健太は後から乗り込んだエリスに手招きをして呼んだ。そして、健太は立ち上がり、エリスに窓側の席を譲り自分は通路側の席に座った。


二人が席に座ると同時に、開いていたドアが閉まり列車が走りだした。


福山駅で乗客の大半が下車したとはいえ、福山駅からかなりの数の乗客が乗り込んだため、座席の7〜8割は埋まっていた。


「座れて良かったわね。たくさん人が乗ってたから、座れないと思ったわ」


エリスが隣に座っている健太の方を向いて言った。


「福山はこのあたりじゃ大きい駅だからね。大きい駅だと降りる人が多いから、うまくすれば座れると思ってたよ」


健太がエリスに言った。


福山から岡山まではおよそ1時間である。


エリスは始めて見る地上界の景色に興味津々のようである。何度も健太にあれは何かと尋ね健太がそれに答える。


健太とすれば、エリスに鉄道の知識を披露したいところだが、ヲタクが知識自慢をすると嫌われる事をよく知っているので、あまり専門的な知識を話す事はしなかった。


健太は車窓から見える風景をエリスに解説する事にした。あそこに見える工場は何を造っているとか、あの池には魚がたくさんいるようでいつ列車で通っても釣り人がいるとか、この駅は近くに高校があるから通学時間帯は大変な混雑だとか、エリスが何にでも興味を示すので健太も饒舌になる。


話が弾んでいたので1時間はあっという間に過ぎて列車は岡山駅に到着した。


岡山駅到着は13時04分である。


健太とエリスは岡山駅で下車するのだが、さすがに福山駅とは比べ物にならない大きな駅である。二人と一緒に降りた乗客の数は100人どころではない。どう見ても2〜300人はいるだろう。


健太はエリスとはぐれないように注意しながら、ホームから地下道へ階段を下りて向かった。そして、地下改札口にある自動改札機に切符を入れて改札の外へ出た。


岡山駅は地下改札口の外はかなり大きな地下街となっている。洋服屋、飲食店などがずらりと並んでいて人通りも多くとても賑やかだ。


「朝から出掛けたり、掃除したりでお腹が空いたなぁ」


地下街を歩きながら健太が言った。


「そうね、私も何か食べたいわ」


エリスもお腹が空いてるようである。


(俺一人だとそこいらのうどん屋でもいいけど、エリスは何を食べたいのだろうか?)


健太が足を止めて思案する。エリスがそんな健太の様子を見てその思考を読んだ。


「私に気を遣わず、あなたが食べたい物を食べればいいわよ」


「うん……それなら……」


エリスが健太の考えている事を読み、健太がそれに答える。とはいえ、エリスに超能力があるわけではなく、すぐれた洞察力で健太の思考を読んでいるのである。


健太は再び歩き始めた。


「箸使える?」


歩きながら健太がぽつりと言った。


「ハシ?」


突然の言葉にエリスは戸惑った。ハシというのが何の事なのかよくわからない。


「箸だよ、箸……うーん、何て言えばいいのかなぁ……」


健太は言葉で上手く説明出来ず、右手でじゃんけんのチョキを作り、それを顔の前で何かを挟むような真似をして、それを口の方に持って行く。箸で食べ物をつまんで食べるのを真似してみた。


エリスはそれを見て意味が通じたのか、笑顔を見せてうなずいた。


「あぁ、お箸の事ね。向こうで少し練習したから、一応は使えるわよ。あまり上手くはないけどね」


天上界ではフォークとナイフ、それにスプーンの三種類の食器で食べるのが普通であり、基本的に箸を使う事はない。エリスも試験の実施場所が日本と決まり、日本での生活についていろいろ予習するなかで、箸の使い方を練習していたが、慣れてないのでなかなか上手く使えないのである。


健太はエリスが箸を上手く使えるなら、うどんやラーメンを食べようと思ったのだが、箸を上手く使えないならそうもいかない。


とはいえ、エリスは箸の使い方を全く知らないわけではなさそうなので、うどんやラーメンでも何とかならなくもないだろう。


それに、エリスは実際は異世界人であるが、一般的日本人にはエリスが外国人に見えるはずだ。


外国人が苦労して箸を使いながら食事をする光景は、日本人にとっては微笑ましく見えるのだが、食事をする当人にとっては大変な苦労になるかもしれない。


健太はなるべくエリスの負担にならないよう、フォークを使って食べるパスタを選択したのである。


「ええ、パスタでいいわよ。でも、もし私が箸を上手く使えるとしたら、何を食べるつもりだったの?」


エリスが健太に尋ねた。


「うどんかラーメンを考えてたんだけどね」


健太が答えた。


「だったら、うどんかラーメンでいいんじゃない?」

エリスがため息をつきながら言った。あまり気を遣われ過ぎるのも逆に申し訳なく思っていた。


「いや、箸が上手く使えないと、うどんやラーメンを食べるのは大変だからね。食事で疲れたくはないだろ? それに、エリスに恥をかかせるわけにはいかないし……」


「なるほどね、わかったわ。じゃあ、パスタにしましょう」


二人はパスタが食べられそうな店を探して歩きだした。


(本人は女性にはモテないと言ってるけど、ちゃんと女性への配慮も出来るのね。顔も悪くないし、お金を全然持ってないわけでもない。これで実際にモテないというのは、健太自身が女性に対する積極性が欠けてるからだと思うわ)


歩きながらエリスは健太がモテない理由を考えていた。


(女性と付き合うための最初の一歩を踏み出す勇気があれば、おそらくこれまでに恋人の一人くらいはいたと思うわ)


エリスは更に考えを進めた。そして、健太は女性に対して消極的なのは女性慣れしていないからだろうと考えるに至った。


また、エリスは健太に余計な気を遣わせないために、箸の使い方を練習しておこうと心に誓った。


二人で地下街を少し歩いていると『パスタ&ピッツァ』と書かれた店があった。店の入口付近から店内をのぞくと空席もちらほら見える。


「ここにする?」


健太がエリスに尋ねる。


「ええ、いいわよ」


エリスは健太が食べたい物を食べるつもりだったのだから反対する理由はない。


健太はエリスを伴って店内に入る、そして、店員に案内されて空いているテーブルについた。


店員はテーブルに立ててあったメニューを出すと一度下がって行った。


二人でメニューを見ながら何を食べるか決める。健太は明太子パスタを食べる事にした。


「これは何? 天上界では見た事ないパスタだわ」


エリスがメニューを指差して言った。


「これはナポリタンだろ?」

健太が怪訝な表情で言った。一番ポピュラーなパスタなのに、天上界には無いというのが信じられない。


「ナポリタンって言うの? 初めて見たわ。食べてみようかしら」


エリスは初めて見るナポリタンに興味を示した。


実は、ナポリタンは日本だけでしか食べられていないパスタであり、パスタの本場イタリアには存在しない。もちろん、イタリアの都市であるナポリが発祥なはずもないのである。


したがって、日本に来る外国人もナポリタンを見て驚く事がしばしばある。


「ナポリタンでいいの?」


「ええ、いいわよ」


テーブルに置かれているボタンを押して店員を呼んで注文をした。


健太は明太子パスタ、エリスはナポリタン、飲み物として健太はコーラ、エリスはオレンジジュースを注文した。


数分待って注文した品が運ばれて来て、二人はようやく昼ごはんにありつけた。


「エリスと一緒に歩いてると、周りの人がチラチラこちらを見てるような気がするなぁ」


パスタを食べながら健太が言った。


「まぁ、私の見た目が日本人と違うから珍しいんでしょうね」


エリスが何を今更という感じで言った。エリスは自分が美人だから周りの人に見られるのだと思ったのだが、さすがにそれは口には出さなかった。


「いや、エリスが美人だからだと思うよ」


「あら、ありがとう」


健太の言葉にエリスはにっこりと微笑む。


「でもさ、エリスの隣にいるのが俺だと釣り合いがとれてなくて、何か恥ずかしいな」


健太が苦笑いしながら言った。


「恥ずかしくなんかないわよ。自信を持ちなさい」


エリスがため息をつきながら言った。


(どうして健太は自分に自信が持てないのかしら? 美人と一緒で優越感があるくらい言ってくれたらいいのに)


エリスは健太がもう少し自信のある態度を見せるようになってほしかった。


(やたら気を遣いすぎたり、自信が無かったり、これじゃこれからが大変だわ。少し女性慣れさせとかないといけないわね)


エリスは何やら考えているようだ。


そのうちに、健太とエリスは昼ごはんのパスタを美味しくいただき、会計を済ませて店を出る事にした。


さて、これからどうするのか? 二人は店から出た所で立ち止まって話し合った。


買い物と映画観賞を予定している。


「買い物を先にすると、荷物を持って歩き回る事になるから、先に映画を観た方がいいと思うわ」


エリスが提案する。


「なるほどね。じゃあ、映画を観に行こうか」


健太も賛成して、映画館があるショッピングモールに向かって地下街を歩き始めようとした。


「……腕」


健太の左隣を歩いていたエリスが言った。


「え?」


健太は何の事かわからなかった。


「腕出して」


エリスに言われて健太は自分の左腕をエリスに見せる。


「フフッ」


「……!」


エリスはニヤリと少し意地悪な笑みを浮かべてから健太の左腕に自分の右腕を絡めた。


「さっ、行きましょうか」


エリスは余裕たっぷりの表情で言ったが、健太はそれどころではない。


「腕組んで歩くの? 何か変じゃないかな?」


健太は女性と腕を組んで歩いた経験がない。


自分がエリスのような美少女と腕を組んで歩くのは、不自然に見えないかと心配していた。


「男女が並んで歩いていて、腕も組まず、手も繋がないで微妙な距離を空けて歩く方が変に見えるわよ。どうせなら、腰に手を回して抱き寄せてくれても良いくらいだわ」


エリスは自分から健太の腰に手を回しながら言った。


「い……いや、でもさ……」


「さあ、私みたいに腰に手を回して。つべこべ言わずやってみなさい」


健太が気が気でないのとは対照的に、エリスは涼しい顔で微笑んでいる。


健太は恐る恐るエリスの腰に手を回すが、腰の向こうに手を回しただけで、エリスの腰には手を触れないようにしていた。


「それじゃ、余計に不自然でしょ。私を腰から抱き寄せる感じで手を回して」


エリスが呆れ顔で言った。


健太はようやく観念したのか、エリスの腰にそっと手を触れた。


「それでいいのよ。じゃあ、映画館へ行きましょう」


エリスは上機嫌だが、健太はエリスがぴったりと密着するので、歩きにくいうえに、周囲からの羨望の視線が気になってしかたがなかった。


岡山駅前の地下街はなかなか大きく店の数も多い。映画館があるショッピングモールまでは、数百メートルの距離があるのだが、岡山駅からショッピングモールまで、賑やかな地下街がずっと続いていた。


健太とエリスは数百メートルの距離を歩いて、地下からショッピングモールに入り、エレベーターで映画館のある階まで上がって行った。


岡山駅前のショッピングモールにある映画館は、最近出来たばかりの最新鋭の設備を誇るシネコンであるが、平日の昼過ぎなのでそれほど客は多くなかった。


映画館のロビーで上映中の作品を確認する。


「エリスは何が観たい? それより、天上界にも映画ってあるの?」


健太がエリスに尋ねた。


「向こうにも映画はあるわよ。私は映画を観るのは大好きだから、学校が休みの時はよく映画を観に行ってたわ」


エリスが答えた。


「どんな映画が好きかな?」


「そうね、怖い映画以外なら何でも……」


ロビーにある上映案内の書いてあるボードを見ながら、健太は観る映画を考えている。


エリスの言葉から判断すれば、ホラーは除外しなければならない。更に、戦争物も避けた方がよさそうだ。


子供向け作品や、時代劇は健太自身が興味がないのでこれらも除外。


また、上映時間までかなり待つような作品も、時間を無駄にしないために除外する必要があった。


絞り込んでいるうちに、残る作品は三つに絞られた。


一つ目は邦画で、高校を舞台にした恋愛物で、若い女性に人気のイケメン俳優が主演で話題になっている作品。


二つ目は洋画で、ずっと田舎暮らしをしていた老人が、初めてラスベガスに旅行する事になり、色々な騒動を巻き起こすコメディ作品。


三つ目は邦画で、交通事故で死亡した中年男性が死後の世界で神様に会い、自身の小学生時代に転生して一年間無事に過ごせば生き返る事が出来ると言われ、小学生になって一年間を過ごすコメディ作品。


上映開始時刻から判断すれば、この三作品のどれかを観賞するしかなさそうである。


健太はエリスに三つの作品の大まかな内容を聞かせて、エリスに観る作品を選んでもらう事にした。


ただし、実際のところ、健太は映画には詳しくないので、配布されていたパンフを見ながら想像して説明していただけであるのだが。


「そうねぇ……その中から選ぶのなら……」


エリスが選んだのは、三つ目の中年男性が小学生に転生する話だった。


「よし、じゃあチケットを買おう」


健太はエリスと一緒に券売機に向かいチケットを購入した。


チケットを買ってすぐに上映開始であり、シアターに入場出来るとの案内放送が流れた。


健太とエリスは案内放送に従ってシアター内に入場した。あまり流行ってない作品なのか、200席ほどのシアターにもかかわらず9割がた空席だった。


入場後10分ほどしてから上映が始まった。


上映時間はおよそ2時間であったが、なかなか面白い映画であっという間に時間が過ぎていた。


中年男性が小学生に転生するというコメディ作品との触れ込みであったのだが、実際は転生先での恋愛話がメインでシリアスな場面も多く、健太が想像していたよりも楽しめた。


映画が終わり、健太とエリスは映画館から出た。


「なかなか良い映画だったわね」


エリスも地上界の映画を楽しめたようだ。


「映画が好きなら、福山にもここほどの規模じゃないけど、シネコンがあるからまた観に行こうか」


「ホント? 絶対連れて行ってね」


エリスが喜んで言った。


それから二人はショッピングモール内に繰り出して買い物を始めた。


健太の財布は無限にお金が出て来る魔法の財布ではないので、予算には限りがあるのだが、エリスが買い物上手なうえに、品物を見ながらあれしようかこれにしようか迷うような事もなく、安いと思ったら迷わず買い、少しでも高いと思ったならば即断で購入を諦め他の店に回る。


あちこち見て回りながら、一番安い店を判別して購入している。


健太は買い物はエリスに任せて横から眺めているだけだったのだが、エリスの買い物上手に感心していた。


この日購入したのは、まずは、エリスが出掛ける時に持つ財布やハンドバッグ。


更に、下着姿で寝られては理性を保つのが苦労しそうな健太の強い勧めでパジャマを購入した。


後は洋服を数点、そして、化粧品も購入した。


「荷物が増えてこれ以上持つのは大変だから、今日はここまでにしましょう」


エリスは買い物を終わらせる提案をした。


「確かに、これ以上持つのは大変だ」


健太も同意した。


「駅に戻りましょう」


エリスは買った物を健太が持ってくれているので、長い時間荷物持ちをさせたくないから、なるべく早く帰宅するつもりである。


二人でショッピングモールから駅に繋がる地下街を来た時とは逆方向に歩いて駅に戻った。


駅に戻ると、健太はエリスに買い物した荷物を渡して券売機に向かった。


健太は券売機で備後本庄までの切符を二枚買ってエリスの所に戻って来た。


さて、これから帰ろうかという時になって、ふと健太は疑問に思った。


「あのさ、エリスは全国の都道府県庁所在地の駅に行かなければならないんだよね?」


「そうだけど、何か?」


エリスが首をかしげる。


「その駅に行ったという証明はどうするの?」


これが健太には疑問だった。


「そういえば、どうやって証明しようかしら?」


エリスは困ったような表情になった。


「そうだなぁ…………そうだ、手軽な方法があった」


健太はそう言ってからまた券売機へ向かう。そして、券売機で何かを購入して戻って来た。


「これはどうだろう、入場券。これなら駅の名前が大きく書かれているから良い証明になる。これから訪問する全ての駅でこれを買って、それが47枚貯まれば試験はクリアだ」


健太が入場券をエリスに見せながら言った。


「それは良い考えだわ。それならその入場券は大事に保管しなくちゃ」


エリスが入場券を見ながら満足そうに言った。


「家に小さなアルバムがあるから、それに入場券を貼って行けばいいよ」


「証明方法も見つかったし帰りましょう」


健太とエリスは自動改札機を通り、地下からホームへと上がって行った。


二人がホームへ上がって健太は今の時刻を調べる。


(17時47分か)


そして、列車の出発時刻を表示する電光掲示板に目を移した。


電光掲示板の一番上には、17時52分発の普通列車糸崎行きが表示されていた。


そして、二番目には17時59分発の快速サンライナー福山行きが表示されている。


快速サンライナーの出発時刻は先に出発する普通列車の7分後である。これくらいの時間差なら、快速サンライナーは福山に着くまでに、先行する普通列車をどこかで追い抜くはずだ。


それならば快速サンライナーに乗るのが賢明である。


健太とエリスは普通列車には乗らず、後発の快速サンライナーに乗って福山に帰った。


福山着は18時53分だった。福山からは福塩線に乗り替える。


健太とエリスは19時12分発の府中行きに乗り替えて備後本庄へ戻ってきた。


駅からは歩いてマンションに戻り、記念すべき47都道府県庁所在地の中心駅訪問の旅の第一回はこうして終わったのである。


マンションに戻った健太とエリスは部屋の前までやって来た。


健太がポケットの中の鍵を出そうとゴソゴソしている。


「簡単な方法があるわ」


エリスが得意気な表情で言ってから、ドアの真ん前に立ち、指を鳴らして壁抜けを使い、閉まったドアを通り抜けて中に入り内側から鍵を開けた。


ちなみに、壁抜けをする際に指を鳴らしたように見えるのだが、実は、手に持った小さな機械のボタンを押しただけである。ボタンを押す時のパチンという音が指を鳴らしたように聞こえるだけである。


「人前でそれはやらないでよ」


健太は苦笑しながら言ったが、同時に合鍵をエリスに渡してない事に気付いた。そして、すぐに合鍵を渡しておく事に決めた。


「あぁ、疲れたなぁ。でも、晩ごはんはエリス手作りのカレーか、これは楽しみだな」


これまで、出掛ける時は専ら独りだった健太であるから、誰かと、しかも女性と出掛ける事などなかったので、やたら気疲れしたのだろう。


しかし、帰宅後にエリスが美味しいカレーを作り、これまた久しぶりに誰かと共に晩ごはんを食べる事が出来て、昼間の疲れが吹き飛ぶくらいの楽しい時間を過ごす事が出来た。


健太にとって、久しぶりに充実した休日となった一日は、こうして終わって行った……………………わけではない。


この日は一番最後に過去最大級の試練が待ち受けている事を健太は忘れていた。

次回は健太とエリスが岡山から帰った後の話で、やや短めの話となります。


お楽しみに

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