健太とエリス、ワープする〜青春18きっぷで四国の旅・前編〜
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今回は青春18きっぷの旅の話ですが、長くなりそうなので前後編に分ける事にしました。
今回は前編です。
7月も終わりが近付いたある平日、健太とエリスは日本全国47都道府県庁所在地の代表駅訪問の旅に出掛ける事になった。
7月に入ってから、ここまでどこにも旅行していなかったのは、青春18きっぷの利用開始日を待っていたからである。
今回は高松駅と徳島駅を訪問する。エリスにとっては四国初上陸となる。
『青春18きっぷ』とは何か? 簡単に言えば、JRの普通列車、快速列車の自由席に乗り放題というきっぷの事である。
これは年中いつでも売っているわけではなく、利用期間が限定されている。春、夏、冬の年3回発売される。つまり、学生の長期の休みがある時期に合わせて発売されているのである。
これは、元々この切符がお金をあまり持たない学生が、少ない費用で旅行するために考えられた切符だからである。しかし、現在ではこの青春18きっぷの利用者の多くは高齢者である。
二人が自宅マンションから最寄りの備後本庄駅から列車に乗ったのは7時05分である。福山へはわずか3分で到着し、通勤通学ラッシュの人波をかき分けながら階段を下りた。一度改札口に行き、無人駅から乗車したため青春18きっぷにハンコを押してもらってないので、駅員のいる福山駅で二人分のハンコを押してもらい、階段を上がり山陽本線の上りホームに向かった。
ホームには列車がすでに入線しているので、健太とエリスはすぐに乗り込んだ。
「これじゃ座れそうにないわね」
車内には空席は無く、立っている客の姿も見える。
「ここから岡山までは、降りる客より乗って来る客の方が多いから、乗ってみてすぐに座れなかったら岡山まで一時間立ったままになると思うよ」
「今日は大きな荷物が無くて良かったわ」
今日の二人は泊まりがけではなく、日帰りの旅行なので健太は手ぶらだし、エリスも小さなハンドバッグだけしか持っていない。
健太とエリスはしかたなくドア付近に立つ事にした。
福山駅7時16分発、快速サンライナー岡山行きは定刻通りに出発した。二人の他にも立っている乗客がちらほら見える。
列車内で座れずに立っている時は普通はつり革や手すりに捕まるのだが、エリスの場合は、健太が一緒にいる時は健太の横に立ち、健太の腰に手を回しもたれ掛かるようにして立っている。健太からすれば、エリスが体重をかけて来るのでけっこう疲れるし、何より周囲の視線が痛いところである。もっとも、健太も慣れてしまったため、周囲の視線はあまり気にならなくなっていた。
今日もエリスは健太にもたれ掛かっていたが、健太は平然としていた。
東福山では降りる客より乗って来る客の方が多く、車内は徐々に混雑してきた。笠岡ではかなりまとまった数の客が乗り込んで来たので、立っている健太とエリスは狭苦しさを感じるようになった。
首都圏のような大都会ならまだしも、地方ではブロンド美少女は珍しい存在なので、エリスの近くに立っている人は皆エリスをジロジロと見る。エリスにしがみつかれている健太もついでに見られるので、健太としてはたまったものではないが、優越感に浸れるのもまた事実である。
新倉敷では笠岡より多くの客が乗って来たので、車内は更に混雑の度合いを増した。
「こんな混雑した列車で毎日通っている人とか、学校や会社に着くまでに疲れてしまうんじゃない?」
エリスがあまりの混雑に呆れたように言った。
「この列車、これからもっと混雑するよ。それに、東京や大阪に行けばもっと凄い混み具合だから、こんなのは混雑のうちに入らないね」
「私からすれば、考えられないわ」
エリスの生まれ育った天上界では、人口そのものがそんなに多くないし、人口密度も低いので、鉄道も道路も余裕たっぷりに造られている。エリスにしてみれば、列車に乗って座れないというのは考えられないのである。
列車は倉敷に着いた。倉敷は福山と同じくらい大きな街なので乗降客は多い。まとまった数の客が降りて、車内の混雑が幾分解消されたのも束の間、降りた客よりはるかに大勢の客が乗って来たので、車内はすし詰めとなった。
倉敷から岡山までの間は窮屈なほど混雑していた。
快速サンライナーが岡山に到着したのは8時15分である。
「次に乗る列車までの間に時間の余裕はあるのかしら? お手洗いに行きたいし、飲み物も買いたいわ」
列車から降りて、大混雑して混乱しているホームから跨線橋への階段を上がりながらエリスが言った。
「25分の乗り換え時間があるから、トイレに行って来ればいいよ。飲み物はその間に買っとくから。トイレはあっちだよ」
階段を上がり切った所で健太が左の方を指差しながら言った。
「済ませたら、あそこの8番乗り場に通じる階段を降りて来てよ。あと、飲み物は何がいい?」
「ええと……紅茶の冷たいのがいいわ」
エリスは健太に紅茶を頼んでからトイレの方に向かって小走りに消えて行った。
(日本人が着るとダサい服装だけど、エリスが着るとカッコいいなぁ)
エリスの後ろ姿を見送りながら健太は思った。今日のエリスは白いTシャツにデニムのパンツという、日本人だとオバサンしか着ないような組み合わせであるが、エリスが着るとちゃんとしたファッションに見えるのだから不思議である。
健太は8番乗り場へ降りて、自動販売機でエリスに頼まれたペットボトル紅茶と自分用の缶コーヒーを購入して、階段近くに戻りエリスを待った。
10分近く待って、ようやくエリスが階段を降りて来た。
「こっちこっち」
健太が手招きしながら言った。ちなみに、日本人がよくやる手の甲を上にして手招きするやり方は、欧米人にとっては「あっちに行け」という意味になる。欧米での手招きは手のひらを上にして手招きする。エリスの住んでいた天上界でも欧米式の手招きなので、エリスには健太が「あっちに行け、シッシッ!」とやってるように見えるが、文化の違いは学習済みなので勘違いする事はない。
「次に乗る列車はまだ来てないみたいね」
「もうじき来るから並んどこう」
健太が自動販売機で購入した紅茶をエリスに手渡しながら言った。二人は乗降口の表示のある場所に並んでいる人の列の後ろに並んだ。
二人が列に並んですぐに列車がやって来た。
「福山で走ってるのとは、ずいぶん違うデザインの電車なのね」
エリスが入線して来た列車を見ながら言った。
「5000系と223系の併結だけど、俺達が乗るのは223系の部分だね。223系は福山の方では走ってないね」
健太がこの車両について説明するが、エリスは車両には興味がなさそうなので、詳しく解説する事はしなかった。
二人は列車に乗り込むと、近くの空いている席に並んで座った。当然、エリスが窓側である。
岡山発8時40分、快速マリンライナー13号高松行きは定刻の8時40分になっても出発しなかった。
「お客様にご案内申し上げます。接続列車の到着が遅れておりますので、お乗り換えのお客様をお待ちいたします関係で、発車時刻が少々遅れます。お急ぎのところ、列車が遅れました事をお詫び申し上げます」
どうやら、他の線区の列車が遅れたため、健太とエリスが乗ったマリンライナーの発車も遅れたようである。
車内アナウンスを聞かなくても、健太にはだいたいそんな事じゃないかと想像がついていた。接続待ちで列車が少し遅れるのはたまにあるからである。
「遅れるみたいだけど、この先の乗り換えは大丈夫なの?」
エリスがアナウンスを聞いて心配そうに言った。
「高松での乗り換えには余裕があるし、遅れるといってもほんの少し遅れるだけだから大丈夫だよ」
健太がエリスに言い終わるとすぐにドアが閉まって列車は出発した。
「お待たせいたしました。当列車は岡山駅を定刻より2分遅れて出発しております。それにともない、この先の駅の到着時刻が遅れる場合もございます。列車が遅れました事を重ねてお詫び申し上げます」
車内アナウンスによると、2分の遅れのようである。これくらいの遅れでわざわざお詫びなんかする必要はないように思えるが、日本の文化はお詫びの文化である。何でもお詫びするが、お詫びされた方は許さなければならない。エリス達、天上界の人間からすればめんどくさい文化と思われているかもしれなかった。
列車は岡山駅を出発すると、単線の高架を通り岡山駅から離れて行く、この単線区間が瀬戸大橋線の列車運用を難しくしている。
単線というのは、道路で例えるならすれ違いの出来ない狭い道路だと思えばよい。反対側からクルマが来たら、すれ違い出来ないので広くなっている場所で待っていて、反対側から来たクルマをやりすごしてからでないと通行出来ない。一方、単線ではない上下線の線路があるのは複線と呼ばれている。
この瀬戸大橋線で言うなら、岡山駅からしばらく続く単線区間では、交換設備(すれ違いのための上下線)のある駅以外ではすれ違いが出来ないため、列車の本数を増やせないのが問題となっている。
健太はこんな話をエリスにしたかったが、エリスが興味を持ちそうにないので、話せないのが歯がゆかった。
列車は岡山を出発してからしばらくは岡山市の市街地から郊外の住宅地を走る。住宅地を走るうちに、最初の停車駅である妹尾に到着する。
車内はほぼ満席で立っている客もいるが、この妹尾では乗り降りする客はわずかしかいなかった。また、この妹尾では反対側から来る特急列車の待ち合わせのため、停車時間が長くなっていた。
数分間の停車の後に列車は出発すると車窓には田んぼが広がった。広い平野に田んぼがどこまでも続く中に、小さな集落がポツポツとあるような風景である。
「岡山駅を出発して、すぐに海を渡るんじゃないのね」
エリスが田園風景を眺めながら言った。
「確かに、岡山市は海に面してるけど、街の中心が海辺にあるわけじゃないからね。福山市だって福山駅は海辺じゃないよね」
よく勘違いされるが、海辺の都市だからといっても、必ずしも市街地が海辺とは限らない。
そうこうするうちに、車窓に広がっていた田園風景が住宅地に変わった。そして、列車は茶屋町駅に到着した。宇野線との乗り換え駅のため、妹尾よりは多くの乗客が降りたものの車内が混雑している事に変わりはなかった。
茶屋町駅を出発すると、風景はとたんに田舎っぽくなってしまう。トンネルも多いのだが、茶屋町からは瀬戸大橋線開業にともない新たに建設された区間なので、線路規格も高く列車はスピードが出せる。ちなみに、岡山から茶屋町までは瀬戸大橋線開業までは岡山〜茶屋町〜宇野の区間を宇野線と呼んでおり、宇野線は瀬戸大橋線に岡山から茶屋町の区間を奪われた事になる。
高架線をスピードを出して飛ばす列車は、途中の小さな駅を通過して本州最後の駅となる児島に到着した。
なお、瀬戸大橋線は岡山から児島までがJR西日本の管轄であり、瀬戸大橋の区間も含め、児島より先はJR四国の管轄となっているので、瀬戸大橋線を通って四国に向かう列車は、この児島でJR西日本の乗務員からJR四国の乗務員に交替する。
その証拠に児島駅を発車した直後に「児島駅より乗務員が交代しました」という車内アナウンスが流れた。
児島駅からしばらくは海辺を走るのだが、すぐにトンネルに入ってしまう。
「このトンネルを出たら、いきなり海の上に出るよ」
列車が長いトンネルに入ってから健太がエリスに言った。やがて、列車はトンネルを出た。
「ホントね。海に出たわ」
トンネルを抜けると、そこは海だった。
トンネルに入った時は地上からそんなに高い場所ではなかったはずだが、トンネルを抜けてみるとずいぶんと海面より高い場所だった。トンネル内が登り坂だったのだろうか。
瀬戸大橋は一本の長い橋ではなく、何本もの橋を繋いでいるので、途中でカーブしている。橋脚は途中の島に立ててあるが、本州から四国の間に都合よく島が連なっていた事にエリスは関心していた。もっとも、だからこそ、そこに橋を建設したのであるが。
「ずっと向こうに四国が見えるし、思ったより距離が離れてないのね」
エリスが遠くに見える四国を眺めながら言った。
「わざわざ橋を建設するんだから、距離が近い場所を選んで造ったんだろうね」
「ここの海は船が多いのね。大きいのから小さいのまでたくさん見えるわ」
海上には大小様々な貨物船が航行しているが、他にも操業中の小さな漁船がいたり、釣りにでも行ってるのだろうか、高速で移動するプレジャーボートの姿も見える。
瀬戸大橋の中間あたりにある与島には高速道路から島に降りた所に巨大なサービスエリアがあり、それに併設されたレジャー施設が見える。
列車が橋を進むにつれ、対岸の四国がだんだん近付いて来る。そして、四国側に到達すると海岸付近は工業地帯である事がわかる。
このあたりで線路が複雑に分岐している。橋から高松側に向かう線路と高知・松山側に向かう線路に分かれる上に、複線なので上下線あるため、線路の分岐はさしずめ高速道路のジャンクションのようである。
「この橋はずっと昔からあったの?」
「いや、完成したのは20年ちょっと前くらいじゃなかったかな」
「橋が出来る前は橋の架かる下を船が走ってたのかしら?」
「本州と四国は船で結ばれていたけど、船が出ていたのはこの列車で児島の前に停まった茶屋町から宇野線というのが分岐しているんだけど、その宇野線の終点の宇野だったよ。宇野からこの列車の終点の高松まで、24時間ずっと船が走っていたよ」
「橋が出来て船は無くなったの?」
「鉄道会社が運営していた航路は廃止されて、フェリー会社が運営するフェリーは今もわずかに残っているよ」
瀬戸大橋線の開業により、宇高航路は寂れてしまった。更に明石海峡大橋やしまなみ海道も完成したため、かつては無数にあった瀬戸内海航路はほぼ全滅してしまったのである。
「昔は、福山からも対岸の多度津っていう、ここから少し西に行った所にある港までフェリーがあったんだよ」
「船で渡るのもよさそうね」
天上界では旅客船はほとんどなく、移動はクルマか飛行機が主流なので、エリスは船にみたいようである。
「船は遅くて時間がかかるからね。のんびりと船旅をしたい人は別として、普通はなるべく時間を短縮したいから、時間のかかる手段が寂れるのはしかたない事だよ」
健太がエリスに言った。
「天上界でも、同じ理由で飛行機が発達しているからわかるけど、地上界には大きな海があるんだから、船で色んな所を巡りたいわ」
「あぁ、それはクルージングといって、何日もかけて各地を巡る旅行はあるんだけど、料金がとても高くて俺には払えないよ」
「あぁ、それは残念ね」
エリスがガッカリして言った。
二人が話をしている間に、列車は四国最初の停車駅にして、この列車最後の停車駅である坂出に到着した。坂出では多度津、観音寺方面への乗り換え客も含めそれなりの客が下車した。しかし、それよりはるかに多くの客が乗車したので車内は混雑していた。
坂出を出発した列車は、住宅地をしばらく走ると、坂出市の郊外へ出て田園風景に変わる。しかし、高松市近郊のためか、最近造られたと思われる住宅地がちらほら見受けられた。
坂出から高松の間にはいくつもの駅があるのだが、マリンライナーはそれらの駅を全て通過する。
やがて、山の際を走っていた列車の車窓の視界が開け、住宅地が広がった。このあたりが高松市の郊外である。
住宅地から商業地へと風景が変わり、ビルやマンション等の高い建物が増えて来ると終点の高松である。
高松駅での乗り継ぎ時間は約20分である。二人は駅訪問の証明となる入場券を買うために一度改札口から外に出た。そして、入場券を買うとすぐに改札口から中へ入る。
健太とエリスは高徳線の列車が発着する一番隅っこのホームへと歩いて行く。ホームには既に列車待ちの乗客が数人いた。
乗り口と書かれた表示の所で待っている人の列の後ろに二人で並んで列車が来るのを待った。
「高松って、さぬきうどんで有名なんでしょ?」
「よく知ってるね」
「列車の中でスマホで調べたから」
「うどんなら10分もあれば食べられるから、食べればいいんじゃないかしら?」
どうやら、エリスはさぬきうどんを食べてみたいようである。
「徳島で昼ごはん食べるから、今食べたら昼ごはんが食べられなくなるんじゃないかな? それに、次に乗る列車は席の数が少ないから、早めに並んでおかないと座れなくなるからね」
健太はうどんを食べられない事情を説明した。
「えーっ、うどんくらい食べても無理すればお昼ごはんは食べられるでしょ? せっかく来たのに食べないなんてもったいないわ」
エリスはどうしてもさぬきうどんが食べたいようで、しつこく食い下がった。
「ちょっと待って」
健太はホームの時刻表の所に歩いて行った。
「よし、大丈夫だな」
健太は時刻表を見ながら独り言を言ってエリスの所に戻って来た。
「よし、うどんを食べに行こう。次に乗る列車じゃなくて、もっと後の列車に乗るからゆっくり食べられるよ」
健太がエリスに言った。
「時間は大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、さぁ行こう」
健太はエリスの手を引いて改札口から外に出た。
うどん屋なら駅の構内にもあるが、どうせなら、有名な店で食べたいところである。健太は改札口から出た所でスマホを取り出し、高松駅近くのうどん屋を検索した。
「駅のすぐそばに良さそうな店があるので、そこに行ってみよう。10時から営業しているので、すぐに開店だよ」
健太がスマホの画面を見ながら言った。
「ちょうど良かったわね。早速行きましょうよ」
エリスが喜んで歩き出そうとした。
「ちょっと待って」
健太がエリスを呼び止めた。
「ワープするから切符を先に買っておこう」
「ワープ?」
エリスがきょとんとした顔で尋ねた。ワープなど、天上界ですら壁抜けに使う短距離転送装置程度しか出来ない。健太はいかにしてワープしようとしているのかエリスにはわからなかった。
「あぁ、そうか」
健太はエリスがワープを短距離とはいえ実際に使える事から、本当に空間移動するのだと勘違いしている事に気付いた。
「ここで言うワープってのは、普通列車で旅行する時に、新幹線や特急列車など早く目的地に着く列車に乗り換えて時間短縮を図ったり、高速バスなどを利用してショートカットする事なんだよ」
健太はワープの意味を説明した。
「つまり、のんびりと普通列車で旅行したいけど、時間が間に合わないから速い列車を使う区間があるって事ね」
さすがにエリスは天上界ではエリートだったので頭が良い。ワープの意味を健太の簡単な説明だけで理解した。
「それで、今回はどんなワープをするの?」
「当初は10時02分発の徳島行きの普通に乗って、12時06分に徳島に着く予定だったんだ。だけど、うどんを食べてたらこの列車には乗れないから、11時07分の特急うずしお9号に乗ろうと思う。これだと徳島には12時13分に着くから、普通列車で行った場合の7分後に徳島に着けるので問題ないよ」
健太がこの後の計画を説明した。
「切符を買うってのはどういう事?」
「青春18きっぷでは特急列車には乗れないから、乗車券と特急券を改めて買わなければならないんだよ」
「私がわがままを言ったために、余分な切符を買わなければならなくなったのね。ごめんなさい」
エリスがバツが悪そうに謝罪した。
「本来は特急を使って回ってもいいコースだけど、エリスに青春18きっぷの旅行をしてもらいたくて、わざわざ普通列車に乗ってるんだから、気にしなくていいさ」
健太は笑いながら言った。
「切符買って来るから、ここで待ってて」
健太はみどりの窓口に向かった。みどりの窓口では二人分の乗車券と特急券を購入した。健太は自由席でも座れると思ったが、万一、団体客でも乗り込んで来て座れない可能性も考えて指定席を確保した。
「お待たせ、切符を買って来たよ」
健太は手際よく切符を購入しエリスの所に戻って来た。
「よし、うどんを食べに行こう」
健太は駅の外に向かって歩き出した。
「あっ、待って」
エリスが健太を呼び止めた。そして、自らの右腕を健太に向かって差し出した。
「わかったよ」
健太はエリスの側に戻り、苦笑いをしてから腕を組んで歩き出した。
次回は今回の話の後編となります。
お楽しみに。
 




