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天使の白い肌が赤く染まる時〜中部地方縦断の旅一日目〜

ご覧いただきありがとうございます。今回は中部地方への旅行のお話です

6月末の日曜日。健太とエリスはかねてから予定していた中部地方の旅へと出発した。


今回は静岡駅、甲府駅、長野駅、名古屋駅の四駅を訪問する予定である。


エリスは天使採用試験として、全47都道府県庁所在地の駅を一年間に訪問するという課題を与えられており、健太の協力で駅の訪問を始めたが、開始から二ヶ月で岡山駅、広島駅、山口駅、宮崎駅、熊本駅しか訪問しておらず、一年間で全ての駅を訪問するのは困難に思えていたが、今回は一気に四つの駅を訪問出来るので、合計九駅となりペース的にはどうにかなりそうに見える。


ただし、関東以遠が未訪問であり、沖縄、北海道といった広島県福山市在住の者が気軽には行けない場所を残しており、まだまだ楽観出来る状況ではなかった。


旅の始まりは二人が暮らすアパートから一番近い、福塩線の備後本庄駅からだった。6時32分発の上り列車が今回の旅行最初の列車だった。


平日なら、通勤通学客でごった返す列車だが、この日は日曜日だったので車内はガラガラだった。


前回の旅行の反省を生かし、今回はスーツケースではなくリュックサックに着替えなどを詰め込んでいる。二人共リュックサックは持っていなかったので、ネット通販でそれぞれ気に入ったのを購入した。


リュックサックは移動中に両手が使えるという利点がある反面、スーツケースと違い、座る時にはわざわざ背負っているのを降ろさなければならない。


備後本庄から福塩線の列車で福山に向かう時も、わずか3分の乗車時間なので、わざわざリュックサックを降ろすのはめんどくさいので、健太とエリスは車内はガラガラにもかかわらず立ったままで福山まで乗車した。


福山駅に着いたのが6時35分、その後乗車する、のぞみ112号は7時02分発である。30分近い乗り継ぎ時間があるので、健太とエリスは一度改札から出て駅構内のコンビニで朝食を購入した。


コンビニで健太はサンドイッチを2つと飲み物を、エリスは菓子パン1つと飲み物をそれぞれ購入した。


二人は改札内に戻り、新幹線ホームのある三階へと向かった。新幹線に上がると、健太は喫煙コーナーに向かいタバコに火を付けた。


エリスは、というか天上界にはタバコという物じたいが存在しないので、当然ながらエリスには喫煙の習慣はない。そのため、健太は自宅アパートでは極力タバコを吸わないようにしている。しかし、完全に禁煙も出来ず、外出した際には喫煙コーナーがあればすぐにタバコを吸いに行くし、自宅アパートでもエリスがシャワーを浴びている時や、台所で料理をしている時など、エリスが目の前にいない時にはタバコに火を付ける事もあった。


健太が喫煙コーナーで2本目のタバコを吸い終わる頃に列車が到着するというアナウンスがあり、健太はタバコの火を消して喫煙コーナーを離れた。


エリスは既に特急券を見て、これから自分達が乗車するのは6号車であるとわかっていたので、6号車の表示のある場所へ移動していた。タバコを吸い終えた健太もエリスの後ろへと並んだ。


のぞみ112号はすぐにやって来て、健太とエリスは乗り込んだ。車内はまだガラガラで3割程度の乗車率だった。健太とエリスは指定された席に向かい、ここでようやくリュックサックを降ろして棚に上げてから並んで腰掛けた。当然、エリスが窓側である。


二人は席に座ると、前席の背もたれに付いているテーブルを倒し、そこに飲み物とパンを置いた。


今朝は早起きしたうえに、旅行に出掛ける直前に食事の片付けはしたくないので、朝ごはんは新幹線に乗ってから食べる事にしたのである。


「タマゴサンド?」


エリスが健太が買ったサンドイッチを見ながら訊いた。


「そうだけど、少し食べてみる?」


健太はエリスがサンドイッチを欲しがっているのかと思った。


「私はジャムパンがあるからいいわよ」


「玉子を食べてみればいいのに……」


エリスがいた天上界には玉子を食べる習慣がなかったのでエリスは玉子を食べない。地上界には玉子を使った食べ物で溢れているが、エリスは玉子を食べる事じたいが気持ち悪いので、あえて食べないようにしていた。


「刺身とかは魚の身の部分だから、生で食べるだけだと思えば何とかなるけど、玉子はそうもいかないのよ」


「じゃあ、向こうではイクラとかカズノコみたいな魚の卵は食べないの?」


「食べないわよ。天上界では魚を捌く時に内蔵と一緒に卵も捨ててしまうから」


どうやら、天上界ではニワトリに限らず卵そのものを食べないようである。


「健太って、苦手な食べ物とかあるの?」


「どうしても食べたくないっていうほど苦手な物はないなぁ」


健太は絶対に食べたくないというほど嫌いな食べ物はなかった。


「天上界にはタバコは無いらしいけど、お酒はあるの?」


「あるわよ。私も向こうではよく飲んでたし」


健太の質問にエリスは事もなげに答えた。


「エリスって18歳だろ?」


健太がビックリして尋ねた。健太にはエリスがアルコールに酔う姿が想像出来なかった。


「18歳だけど、それがどうしたの?」


エリスが何を今更という顔で訊いた。


「日本では20歳にならないとお酒を飲んじゃいけない決まりがあるんたけど」


「天上界では13歳から飲めるのよ」


天上界ではエリスは問題なくお酒が飲めるようであるが、健太にはそれが納得いかない。


「13歳で飲んだら体に悪い気がするなぁ」


健太は日本で言う中学一年生の年齢でもうお酒を飲んでいる事が不思議でならなかった。


「天上界の人間と地上界の人間は体質的に違うのだと思うわ」


エリスはここまで言ってから、ある事をひらめいた。


「健太はお酒は? 飲んでるのを見た事ないけど」


エリスは健太がお酒を飲めるのかを確かめた。


「飲めない事はないよ。毎晩飲むような習慣はないけど」


健太はバスの運転手なので、仕事柄酒気帯びで出勤するわけにはいかない。そのため、日常的にお酒を飲むような事はないのである。


「お酒は大丈夫なのね。じゃあ、今夜ホテルでお酒を飲みましょうよ」


「いいけど、エリスはどんなお酒を飲むの?」


お酒といってもいろんな酒類がある。エリスのお酒の好みを健太は知らなかった。


「天上界ではブドウ酒が好きだったわ」


「ワインなら俺も好きだけど、今夜泊まるホテルにバーとかあったかな?」


「部屋で二人きりで飲みたいわ」


エリスは健太と二人きりの時間を楽しみたいので、部屋で飲みたかった。


「じゃあ、ホテルに入る前にワインを買っておこう」


(これは良いお膳立てになりそうだわ)


エリスは今夜健太と肉体的に結ばれるべく、色々と準備をしていた。お酒の話が出たところで、エリスは健太をお酒で酔わせて、気分が良くなったところで誘惑しようと思い付いた。


「昼ごはんは長野に着いてからだと遅すぎるから、名古屋で買って列車内で食べる? それとも、長野まで我慢する?」


健太はエリスに尋ねたが、エリスは妄想の世界に浸り、一人でニヤニヤするだけで健太の言葉は聞こえていなかった。


「エリス、聞こえてる?」


「えっ?」


「昼ごはんは遅くなるけど長野に着いてからにするか、長野に着くまでに列車内で食べとくか訊いたんだけど」


ここで、エリスは現実世界に戻ってきた。


「朝ごはんも大した物を食べてないし、昼ごはんは早く食べておきたいわ」


エリスは列車内で食べるのを希望した。


(いけない、いけない、あまり今夜の事ばっかり考えていたら、健太に怪しまれるわ)


エリスは今夜の事を考えるのをやめて景色を見る事にした。しかし、岡山駅に着く前である新幹線はトンネルに入っており、景色を見たくても見る事が出来ない。そうなると、どうしても妄想が頭の中に広がってくる。


しかたないので、エリスはポケットからスマホを取り出し、やりたくもないゲームを始めた。


「景色を見ないのかい?」


横から健太が訊いた。


「トンネルばっかりで景色が見えないじゃない」


「岡山県内はトンネルが多いからなぁ」


健太は他人事のように言ったが、エリスは妄想を頭の中から追い出そうと必死だった。


エリスはスマホのゲームに集中して、どうにか精神的には追い付いた。


列車は岡山駅でかなりの乗客を乗せ、健太とエリスの乗車している車両も過半数の座席が埋まっていた。列車は相生駅を通過して姫路駅に到着しようとしていた。


「このあたりから、新神戸の手前まではトンネルがないから、景色を見るならちょうどいいよ」


健太がエリスに話しかけた。エリスはスマホの電源を落とし、窓の外に目をやった。


「トンネルばっかりだと退屈しちゃうわ」


エリスはようやく落ち着いて景色を楽しむ事が出来るようになった。


姫路駅で更に乗客を乗せて出発したのぞみ112号は兵庫県内をひた走る。


「ずっと遠くまで街が続いてるわ」


エリスが健太に言った。高いビルやマンションがほとんど無く、二階建ての住宅がどこまでも続いていた。


「加古川か明石あたりだな」


健太が景色を見ながら言った。


日曜日の朝、レジャーに出掛ける人が多いのだろうか、車窓から見える道路はどこも混雑している。


西明石駅を過ぎてもしばらく風景は変わらないが、突然山が迫って来てトンネルに入る、トンネル内で列車はスピードを落とし始めた。


列車がトンネルを抜けたところが新神戸駅である。新神戸ではいくらかの乗客が降り、それより多くの客が乗り込んで来た。


山と山との間のわずかな空間に建てられた新神戸駅を出発した列車はすぐにトンネルに入ってしまった。


長いトンネルを抜けると、列車はビルやマンション、住宅に工場と、様々な建物が立ち並ぶ街へと入って行った。


「見て、あんな所から飛行機が」


突然エリスが窓の外を指差しながら言った。健太がその方向を見ると、新幹線の線路から少し離れた住宅地の向こう側から巨大な飛行機が離陸していた。


「あぁ、あれは伊丹空港だな」


「あんな建物が立ち並ぶ中に空港があるの?」


「このあたりは、どこも建物があるからね」


「天上界だと、空港は街から離れた原野の中にあるんだけど」


「日本に何も使ってない平らな土地なんて、ほとんどないよ」


天上界は日本のように人口密度が高くなく、どちらかと言えばアメリカのような大陸的な風景だとは健太もエリスから聞いていた。


「あっ、今度は反対側から飛行機が降りて行くわ」


エリスが着陸する飛行機を見ながら言った。


そうこうするうちに、高い建物が多く見えるようになり、列車は速度を落として行き新大阪駅に到着する。


大都会だけあって、新大阪ではかなりまとまった数の降車客があった。しかし、すぐさま同じ位の客が乗って来たので、車内はやはり混雑したままだった。


その後、のぞみ112号は京都にも停車し、やはりまとまった数の降車客がありほぼ同数の乗車客があった。


大阪、京都は外国からの旅行客も多く、車内にもけっこうな数の外国人が乗り込んでいた。外国人といっても、大半は中国人か韓国人であるが、中にはエリスのような欧米の白人もいる。


「エリスってさ、地上界の白人と天上界の人の見分けはつくの?」


健太は自分が座る席から通路を挟んだ向こう側に座る白人の老夫婦を見ながら言った。


「天上界の服は地上界とは少し違うからすぐにわかるわよ」


エリスは質問に答えたが、健太が聞きたかった答えとは違っていた。


「服で見分けるんじゃなくて、例えば、天上界の人と地上界の人が同じ服を来ていたら見分けはつくのか聞きたかったんだよ」


「それは無理。だって、健太が私を見て、普通の白人の女とは見た目がちょっと違うなって思った?」


「なるほどね。そういう事か」


今度はエリスが健太が納得出来る回答を出した。


京都駅を出発し、次の米原駅を過ぎると車窓は急に田舎の風景になった。トンネルも多くなり山が間近に迫っている。


山岳地帯を抜けると、田園風景が広がり、徐々に住宅が増えてきた。それが街を形成するようになったあたりで大垣市に入り、しばらくして岐阜羽島駅を通過する。


その後、大きな川を立て続けに渡ると遠くにビルが立ち並ぶ都市が見えて来た。それが名古屋である。そのあたりで、車内には名古屋に到着するというアナウンスが流れる。


健太とエリスは降りる支度を始めた。


のぞみ12号は9時ちょうどに名古屋駅に到着した。エリスが名古屋駅を訪問した証明となる入場券を買うために、一度改札口を出なければならない。


健太とエリスは階段を下りて改札口へ向かい、改札口から外に出た。


エリスは改札口から外に出ると、まずは、切符を売る券売機を探し、改札口の近くにそれを見つけ、早速入場券を購入した。


「次に乗る列車は10時ちょうど発だから、一時間ほど時間があるけどどうしようか?」


「昼ごはんを買うんじゃなかったかしら?」


「そうだった。でも、それだけじゃ一時間は潰せないなぁ」


「買い物も特にしたくないし、その辺でお茶にしましょうか?」


エリスは喫茶店で休憩する事を提案した。


「じゃあ喫茶店でも探そうか」


健太とエリスは喫茶店を探して構内を歩いた。そして、商店街のようになっている一角に喫茶店を見つけた。


喫茶店に入ると、待ち構えていた店員が奥の方の空いているテーブルに案内してくれた。


「これ、美味しそうよ」


エリスがメニューを見ながら言った。


「何?」


「これよ、フルーツパフェ。健太もこれにすれば?」


「じゃあ、これにしよう」


健太が店員を呼び、エリスがフルーツパフェを二つ注文した。数分待って、ようやくフルーツパフェが運ばれて来た。


「あぁ、美味しい。地上界の食べ物って美味しいから来て良かったわ。これなら、いくらでも食べられるわね」


エリスが至福の表情を浮かべながら言った。甘い物は別腹というのは天上界の女の子にも当てはまるようである。


二人は満足して喫茶店を出た。そして、昼ごはんを買いに駅構内にあるコンビニに向かった。


「昼ごはんはパンじゃなく、ご飯を食べたいからお弁当にしましょうよ」


エリスはフルーツパフェを食べた直後にもかかわらず食欲旺盛である。健太は独りで乗り鉄旅行をする時は、列車内ではおにぎりだけで済ませる事も多いが、ここはエリスに合わせて弁当を買う事にした。


健太は幕の内弁当、エリスは唐揚げ弁当、そして二人共飲み物のペットボトルを2本ずつ買った。


健太とエリスは再び改札口から中に入り、次に乗るしなの7号が入線するホームへと出た。そして、予約してある2号車指定席乗り口の標示の下で列車を待つ。


「気付いたんだけどさ、エリスって遠出の時はショートパンツを履かないんだね」


突然思い立ったように、健太がエリスを見ながら言った。今日のエリスは水色のブラウスに茶色のワイドパンツを組み合わせていた。


「普段はショートパンツが楽でいいんだけど、長時間列車に乗ってると足の皮膚が擦れて傷むので、あえて履かないようにしてるの」


エリスにはエリスなりの事情があったようである。


「健太はいつ見ても同じ服装に見えるわ」


「まぁ、あんまり服の種類持ってないから」


服装に無頓着な健太は数種類の服を使い回していた。


「もう少し、服装や髪型に気を遣った方が女性にモテそうだけど」


エリスがつい口を滑らせてしまった。


「でも、健太はそういうのにお金を使いたくないんだから、今のままでいいわ」


エリスとしては、健太がモテるようになると困るので、ちょっと不自然ではあるが前言を訂正した。


しばらくして、しなの7号が入線して来た。健太とエリスは指定席を予約しているので、指定された席に座る。名古屋や西日本から松本や長野へ鉄道で向かうにはこの特急しなのを利用するしかないので、車内はわりと混雑していて、2号車は始発の名古屋で既に7割くらいの乗車率だった。


しばらくして列車が動き出した。名古屋市の中心部の高い建物が立ち並ぶ中を列車は走り、すぐに最初の停車駅である千種駅に到着する。


千種でもわずかな乗客が乗り込んで、名古屋市の郊外へと列車は進む。しばらくははるか遠くまで住宅地が続くような風景だが、西日本の都市部の住宅地と比べると幾分土地に余裕があるように見えるような気がする。


住宅地の中を走っていた列車が突然山の際を走り、大きな川が見えて来た。川と山しか見えないような場所を走り抜けると再び住宅地となり多治見駅に到着する。


多治見からしばらくは田舎とも街とも言えないような、微妙な風景の中を走りながら、土岐市、瑞浪、恵那といった駅を通過して行くが、恵那を過ぎたあたりから徐々に山深い風景へと変わって行く。


恵那から中津川あたりまでは遠くに見えていた山が、次の停車駅である中津川を過ぎたあたりから急に山が近くに見え始める。山と山との間の谷を列車が走っているようだ。


中津川から10分ほどして、南木曽という山の中に忽然と現れた小さな街にある駅に停車する。中津川に停車した時もそうだったが、南木曽でも2号車から数人、他の車両からもそれなりの数の客が降りている。このあたりの山にでも出掛けるのだろう。車内は幾分空くかと思われたが、南木曽からけっこうな数の乗車があった。


これは中津川からバスを使い、馬籠、妻籠といった古い宿場町を観光した客が、バスの終点である南木曽から列車に乗ったからだろうと健太は想像した。


南木曽を出発した列車は中央西線で一番山深い地域へと入って行く。


「ちょっと早いけど、弁当を食べとこう」


南木曽を出発してしばらくしてから健太が言った。二人は長野を目指しているが、健太が途中で寄り道をする計画を立てているために、手前の松本で降りる事にしている。そのため、早めに昼ごはんを食べておく必要があった。


「わかったわ。早速食べましょう」


エリスが袋から名古屋駅のコンビニで買った唐揚げ弁当を取り出して食べ始めた。しかし、景色のいい所なので、普段は食事中は健太とお喋りをするエリスだが、今回ばかりは外を見ながらの食事である。


一方、健太も幕の内弁当を食べ始めた。


「ほら、あんなに高い山がたくさん」


エリスが遠くに見える高い山を指差して言った。健太にはそれが何という山なのかはわからなかったが、確かに中国地方とは山の高さが全然違う。


「それに、このあたりは広島県とは木々の緑の色が違うなぁ。緑が濃いんだよ」


健太が車窓から見る景色の色合いを指摘する。


「言われてみれば、そんな気もするわ」


エリスはまだ地上界の山などそれほど見ていないので、健太の言う緑の色の違いはわからないのだが、ここは健太に話を合わせるべきだと思い同意した。


健太は新幹線でサンドイッチを食べ、名古屋でパフェを食べたので、だいたい一時間半ごとに何かを食べている。そのため、弁当がなかなか食べられなくて苦労していたが、隣のエリスを見ると、平気な顔をして唐揚げ弁当をパクパクと食べている。


(やっぱり、十代はよく食べるんだなぁ)


健太は関心したが、自分だけ弁当を残したらカッコ悪いと、妙な対抗心から努めて平静を装いながら弁当を何とかして食べ切ろうとした。


エリスは景色を見ながら食べて、健太はお腹が空いていなかったので無理して食べたので、食べ終わる頃にはしなの7号は木曽福島という、山の中にしては開けた街にある停車駅を出発して塩尻に向かっていた。


「あぁ、美味しかった」


エリスが満足げに呟いてから、空になった弁当の容器をレジ袋に入れて袋を縛っていた。


「お腹一杯だよ、これで晩ごはんまでは大丈夫だな」


健太もどうにか食べ切れたようである。


しばらくして、景色が開けてきて塩尻駅に到着する。


塩尻では特急あずさに乗り換えて甲府や新宿方面に向かう人や、普通列車で諏訪や岡谷あたりに向かう人が降りるのでけっこうな数の乗客が降りた。


少し身軽になった列車は塩尻を出発し、健太とエリスが降りる松本へ向かう。


塩尻から松本までは9分間しかないので、健太とエリスはそれぞれトイレに行ったり、ゴミを捨てたりして降りる準備をした。


しなの7号は定刻通り12時04分に松本駅に到着した。健太とエリスは列車から降りると、すぐ隣に停車している普通列車長野行きに乗り換えた。


車内は座席は全て埋まっていたので、二人はしかたなく立っている事にした。


二人が列車に乗り込んで数分後、12時10分に普通列車長野行きは松本駅を出発した。


エリスが健太と列車に乗って座れずに立っている時、普通はつり革や手すりを持って立つのだが、エリスは健太のそばに立ち、健太の腰に手を回して健太にもたれ掛かるようにして立つのである。端から見れば健太に抱き着いているように見えなくもないが、エリスは他人の目は全く気にならないようである。実は、健太はこれが恥ずかしくてしかたないのだが、最近では慣れてしまったのか気にならなくなっていた。


この日もエリスは当然ながら健太にしがみついて立っている。


周囲から嫉妬や羨望の視線を受けながら健太は立っているのだが、エリスが美少女だからこれはこれで気分が良い。


松本から二つ目の明科という駅でけっこうな数の客が乗って来て、車内は混雑してきた。


聖高原でさらに乗客が増え、立っている客もかなりの数に増えている。健太は日曜日の昼間だから、空いていると予想していたが、松本と長野という大きな街を結ぶ列車だけに乗客も多いのだろう。


「次は姨捨(おばすて)、姨捨です」


車内にアナウンスが流れた。


「降りるよ」


「えっ、ここで? なぜ?」


「降りたらわかるよ」


健太はエリスに言ってから、しがみついていたエリスを放し、手を引いて降り口の方へ向かって行った。


列車から姨捨駅へ降りた後、普通なら改札口から外に出るのだが、健太はそのままホームに立っている。他に降りたのは10人くらいだが、大半が健太と同じくホームに残っていた。


列車は姨捨駅を出発する。健太は列車が出て行った後、跨線橋を渡り、二つあるホームのもう一つの方へ向かった。


「ほら、見てよ」


健太が指差す方向をエリスは見た。


「うわぁ、すっごい!」


エリスが感嘆の声を上げた。


姨捨駅のホームからは善光寺平と呼ばれる平野部が一望出来る。


「日本三大車窓って覚えてる?」

健太がエリスに尋ねた。


「こないだ、九州に行った時に言ってたわね。三大車窓の一つは矢岳という所で見たわ」


エリスが答えた。


「そう、その二つ目がここだよ」


「三つ目は今は無くなってるのよね?」


「そうだよ」


健太はエリスにこの景色をじっくりと見せたかったからわざわざ姨捨で降りたのである。


二人と一緒に降りた人達もおそらく鉄道ファンであろう。ホームから写真を撮る者、じっくりと景色を眺める者、駅舎を見物する者など様々に姨捨駅での一時を過ごしていた。


しばらく景色を眺めた後駅舎に向かい、待合室でベンチに座り二人でお喋りをしながら次の列車を待つ事にした。


しばらく健太とエリスはお喋りをしていたが、待合室にいた人達がホームへと出て行き始めたので、二人も続いてホームへと出た。


しばらくして、列車がやって来た。姨捨14時09分発、普通列車長野行きである。


健太とエリスは乗り込んだが、姨捨まで来た時に松本から乗った列車ほどではないが、この列車も混んでいて座れなかった。


結局、立ったままで長野に到着する事になった。長野駅に降り立った二人は、改札口から出るといつも通りに入場券を買うために自動券売機に向かった。


「これからどうするの?」


入場券を買いコンコースの隅で待っていた健太の所に戻って来たエリスが尋ねた。


「ホテルは15時にはチェックイン出来るはずだから、一度ホテルに入りそれから外出しよう。ホテルまで歩いているうちにちょうど15時になるだろうし」


「じゃあ、ホテルに向かいましょうか。ホテルの場所はわかってるの?」


「予約したのはエリスだろ? 調べてないの?」


「健太が調べてくれてると思っていたわ」


二人共、相手がホテルの場所を調べていると思い込んでいたので自分では調べていなかった。


健太がスマホを出して地図を見ながらホテルの場所を調べた。


「だいたいわかったから、歩いて行ってみよう」

健太がコンコースの出口に向かって歩き出した。エリスが後に続く。


「この駅前の大通りを真っ直ぐ行けばいいみたいだ」


健太とエリスは善光寺口という出口を出て、駅から伸びる大通りを真っ直ぐ歩いて行く、いくつかの信号を渡ると、大きな交差点がありその向こうにホテルが見える。


「あれだね。大きなホテルだな」


健太とエリスは交差点を渡りホテルに入って行った。


ホテルの玄関からなかなか広いロビーに入った二人はフロントに向かった。フロントには立ち姿からして様になっている50歳前後の男性社員が立っている。


「予約した時、誰の名前で予約した?」


健太がエリスに訊いた。エリスが自分のスマホでホテル予約サイトを通して予約していたので、健太かエリスかどちらの名前で予約していたのかを健太は知らなかった。


「私の名前で予約したけど」


「じゃあ、エリスがフロントに行って」


エリスが先にフロントに向かう。


「いらっしゃいませ」


ベテランのフロント係の男性が静かな声で挨拶した。


「日本語で大丈夫ですよ。予約してますエリス・ローバーンですが」


「エリス・ローバーン様ですね。お待ちしておりました」


このフロント係は、営業スマイルなどは見せず『何なりとお申し付け下さい』と言わんばかりの真剣な表情で静かに話す。


フロント係の男性が手元のパソコンを操りエリスの予約を確かめる。


「こちらにご記入お願いします」


パソコンを操作しながら宿泊カードをエリスの前に取り出した。エリスはカードに名前、住所等を記入した。その間にフロント係はエリスの予約状況の確認が終わったようで、エリスがカードの記入が終わる前にパソコンに触るのをやめていた。


エリスはカードの前から一歩右に移動し、健太にどうぞという感じで手で示した。健太がカードへの記入を始めると、フロント係がエリスにカードキーを渡している。


「あ、書きましたが……」


「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


フロント係は健太からカードを受け取ると一礼した。


「エレベーターは右手にあります」


「はい、わかりました」


エリスは右の方へ歩き始めた。健太もそれに続いた。


「何号室?」


健太がエリスに訊いた。


「912号室ね」


エリスがカードキーの番号を見ながら答えた。


「ひと部屋しか予約してないわよ」


エリスは努めて平静を装いながら言ったが、内心はドキドキしていて心臓の鼓動が全身に響くほどだった。


「あ、そうなの」


健太は無関心な様子で言った。健太からすれば、二つ部屋を予約するより、同じ部屋に二人で泊まれば安上がりだからとエリスが考えて二人部屋を予約したのだろうと思っていた。


エレベーターで9階に上がり、912号室を探しながら廊下を歩いて行く。廊下の端から二番目に912号室があった。


(部屋に入って健太がどんな反応をするかしら)


カードキーをドアに差しながらエリスは考えていた。健太の反応により、夜にどんな対応でベッドシーンに持ち込むかの作戦が違ってくる。エリスはこれまでに何十回も様々なパターンを脳内でシミュレートしていた。


カードキーをドアに差すとすぐにカチンと音がしてロックが解除された。エリスはカードを差したままレバーを動かしてドアを開いた。そして、カードを抜いて入口付近の差し込み口に差し込んだ。ここにカードキーを差し込まないと、部屋の中の電気が使えないのである。


そして、エリスは無言のまま入口から入る。入ってすぐに靴を脱ぎスリッパに履き替えてから部屋の中へ向かった。健太も同じように中に入って来た。


(さぁ、ダブルベッドを見た健太の反応は?)


エリスはドキドキしながら健太の方を見た。


「さて、これから出掛ける? どうせ晩ごはんを食べに出なきゃならないんだけど、それまでにどこかに行ってみる?」


健太は背負っていたリュックサックをダブルベッドの上に放り投げてからエリスに尋ねた。ダブルベッドについては何の反応もない。


(え、どうして?)


エリスは健太の様々な反応を想定していた。怖じ気づくパターン、いきなりスイッチが入りベッドに押し倒されるパターン、ベストなのはエリスの意図を察して優しく抱きしめてくれるパターンだったが、無反応というのは想定していなかった。


なぜ健太がダブルベッドを見ても何の反応も見せなかったのかというと、これからどこに出掛けるかが頭が一杯で、ダブルベッドを見ても何も思わなかったからである。


「どこか観光する? それとも、街中をブラブラする?」


混乱するエリスに健太が訊いた。


「ええと、街中を散歩でもしたいわね」


エリスは健太の質問に適当に答えた。混乱していてそれどころではなかった。


「じゃあ、駅前にデパートがあるのが見えたから行ってみる?」


「ええ、いいわ」


結局、エリスは健太から何の反応も得られないまま部屋を出て外出する事になった。


先程カードキーを受け取ったフロントに逆戻りして、カードキーを預けてホテルの外に出た。


ホテルに来る時に通った道をそのまま長野駅まで戻り、駅前にあるデパートへ二人は入った。


デパートに入ったとはいえ、特に買い物をしたいわけではないので、適当に歩いて時間を潰すしかない。しかし、目的もなくブラブラすると時間がなかなか経過しない。そのうち歩くのにも飽きてしまった。


二人供退屈してしまい、どうしようかと思っていたが、健太が最上階の催事場で『長野県で見る事のできる鳥の写真展』というのをやっているのに気付き、二人は行ってみる事にした。


健太もエリスも鳥には興味がなかったが、行ってみると鳥類のきれいな写真や迫力ある写真が多数展示されており、二人は充分に楽しむ事が出来た。


催事場を出てから健太がスマホで時刻を確かめると17時50分、晩ごはんには少々早い。しかし、する事もないので健太は催事場のある階の喫煙所に行き、タバコを吸わないエリスもついて行き、健太はタバコを吸いながらお喋りをして時間を潰した。そして、19時前になってようやく晩ごはんを食べるために喫煙所を離れた。


レストラン街は催事場のある最上階の一つ下の階にある。エレベーターを使うまでもないので、階段で一つ下の階へと降りて飲食店を物色した。


しなの7号の車内で弁当を食べた後は二人共飲まず食わずなので、お腹が空いている。ガッツリ食べたいので焼肉屋へ入って行った。


注文した肉を網に乗せて焼いていく、焼けてからこの店秘伝というタレに浸けて食べてみる。空きっ腹に染み渡る味に健太もエリスも大満足である。互いに食べたい肉をどんどん注文したので、健太は会計で6000円支払う事になった。


健太とエリスはデパートの食品売り場でホテルの部屋で飲む赤ワインと、おつまみにお菓子を買ってからデパートを出た。


ホテルに向かい、健太とエリスは手を繋いで歩いていた。健太は手を繋ぐのはあまり好きではないのだが、エリスが絶対に手を繋ぎたがるので、二人で歩く時は必ず腕を組むか手を繋ぐ事になる。


健太とエリスは大通りの歩道を歩いていたが、向こうから日本人男性と白人女性のカップルが歩いて来る。男性は健太よりやや年下で25歳くらい、ボーッとした感じであまりイケメンとは言えない。女性は白人とはいえ、金髪碧眼のエリスとは違い、茶色の髪に茶色の眼をした東欧系の女性に見える。年齢は男性と同じくらいで、そこそこ美人だが特にカワイイとは言えない。


(あの白人の女の子より、エリスの方が可愛いだろ)


健太はカップルの男性の方に無意味な優越感を抱いていた。手を繋いでいたエリスは健太が手を握る強さが変わるのに気付いて健太の気持ちを察した。


(そうね、私の方が可愛いでしょう)


エリスは自分がかなり可愛い事を自覚しており、やや思い上がったところもあるが、実際に可愛いのだからしかたない。


(男性の方は健太と比べたらいい勝負ね)


健太も見た目は平凡だからカップル男性と同レベルだろう。


カップルの男性の方が視線を合わさないようにエリスを見ている。口が半開きになってだらしない。エリスは視線に気付いたが素知らぬふりをしていた。


カップルの白人女性の方が男性がエリスを見て健太を羨ましがっているのに気付いたのだろうか、少し表情がキツくなり、ほんの一瞬だがエリスを睨みつけた。


(勝った)


健太とエリスは共に心の中で優越感に浸りながらカップルとすれ違った。


その後であのカップルが気まずくなったかもなどはエリスは全く気にしていない。エリスはこれからが本番なのだ。


ホテルの部屋に戻った二人は、ベッドの脇に置かれた小さなテーブルのそばにある小さな椅子に座り、健太は座ってからエリスの許可を得てからタバコに火を付けた。一方のエリスはリモコンでテレビのスイッチを入れてテレビを見ていた。


エリスは健太がここまでダブルベッドに対し、何ら言及せず無反応のままなので、この後の作戦をどうするか考えていた。


(お酒に酔わせ、気分が良くなった所で、シャワーを浴びてバスルームから出てから誘惑して……)


エリスは色じかけで行く作戦を固めた。


健太がここまでダブルベッドに無反応なのは無関心だからではない。チェックインした時は外出先の事を考えて気付かなかったのだが、デパートに入ってからダブルルームだという事を思い出していた。


なぜダブルルームをエリスが予約したのか、真意はわからなかったが、文句があるわけでもない。うまくすれば今夜エリスを美味しくいただけるかもしれない。しかし、天上界では男女同室の際はダブルルームなのが常識でそれ以上の意味がないかもしれないし、エリスがダブルルームとツインルームの違いを知らずに予約していた可能性もある。


健太は、変な態度を見せて、エリスに余計な不安感を与えないように配慮し平静を装っていた。 エリスの企みなどは夢にも思っておらず、純粋にエリスへの配慮であるから始末が悪い。


そんな二人の思惑はあったが、とりあえず二人でテレビを視る事にした。


健太はテレビを視ながらワインを取り出した。チリ産の赤ワインで900円で買った安ワインである。エリスがデスクの上にあるコップを二つ洗面所で洗ってから持って来た。


健太がそれぞれのコップにワインを注いだ。健太は乾杯してから飲もうとしたが、天上界にはそのような習慣がないみたいで、エリスはすぐにゴクリとワインを飲んでしまった。健太も続いてワインに口を付けた。


健太は日常的にお酒を飲まないので、アルコールを体内に入れたのが久し振りである。そのためか、コップ一杯飲んだだけなのに体が熱くなってきた。


エリスもコップのお酒を飲み干したようで、早くも二杯目を注いでいる。エリスは自分のコップにワインを注いでから、健太のコップきもワインを注いだ。


健太とエリスはワインを飲みながらお喋りをしていたが、話題が尽きたところで健太が疲れが出たのか、あくびをしながらシャワーを浴びに行ってしまった。


健太は部屋の隅に置かれているリュックサックから着替えを取り出して、服を着たままバスルームに入って行った。


そんな健太をエリスは複雑な表情で見つめていた。健太は、自宅でもシャワーを浴びる時は、必ずエリスの目の届かない場所で服を脱ぐ。また、エリスにもそのようにさせている。


健太からすると、それがエリスに対する配慮だと思っている。


エリスは自身は健太に裸を見せる事に抵抗はないし、一緒にシャワーを浴びたいくらいなのだが、健太がそのような態度なので自分も合わせるしかない。そのくせ、台所で服を脱いで裸になるところを、居間から気付かれないようにチラチラと見ているのだから始末が悪い。


エリスからすれば、健太が自分の裸をチラ見して、変な気を起こしてくれれば助かるのだが、チラ見するだけでそれ以上の事はしないのだから、モヤモヤしてたまらないのである。


健太がシャワーを浴びている間にエリスはワインをコップ一杯飲んでいた。エリスも久し振りにお酒を飲んだためか、酔いが回りはじめ頭が少しボーッとしていた。


やがて、シャワーを終えた健太がバスルームから出て来た。トランクスに肌着を着けた状態で、バスタオルで髪を拭きながらベッドに腰かけた。


(この後脱がなければならないのだから、裸で出て来たら良かったのに……)


もちろん、エリスはそんな事は口には出さないが、内心ため息を吐いていた。


エリスは健太のコップにワインを注いでから、自分のリュックサックから着替えを出してバスルームへ向かった。


バスルームに入ったエリスは、こんな狭い所で服を脱ぐなんて無茶苦茶だと思いながら服を脱いで裸になった。


一方の健太は、ベッドに腰かけたままワインを飲んでいた。


エリスはシャワーの栓を開けて熱いお湯を浴びる。エリスの白い肌はお酒を飲んだためか、顔を中心にほんのりと赤く染まっている。


体全体にお湯をかけてから、シャワーソープで全身をくまなく洗う。デリケートゾーンはいつになく入念に洗った。


お湯を出して、一度泡を全部流してから髪を洗う。濡れたブロンドヘアは黄金の輝きを失っている。乾かさなければ輝きは取り戻せない、時間稼ぎをするかのようにゆっくりと入念に髪を洗った。


エリスはずっとバスルームから出た後の事を考えていたが、いくら考えてもどうするのがベストなのか思い付かないので、健太に甘えに甘えて無理矢理ベッドシーンに持ち込むしかないと考えた。


髪を洗い、シャワーカーテンを開けて、洗面所の上にある棚からタオルを出して髪を拭いた。後はドライヤーで乾かすしかないだろう。


続いて、棚からバスタオルを出して全身を拭く、拭き終えてからエリスはバスタブから出て、便器の蓋の上に置いてあるショーツを手に取った。当然、下腹部の金色の繁みが透けるシースルーのショーツである。


エリスは一度手に取ったショーツを元に戻した。そして、バスタオルを体に巻いて着替えは全て手に持ってバスルームを出た。


(さぁ健太、私の裸を……)


18歳にしては妖艶な眼差しでバスルームから出て来たエリスは、目の前の光景に目を疑った。


「こんな事って……」


エリスは思わず呟いてしまった。


健太はダブルベッドに大の字になり、ゴーゴーと大いびきをかきながら眠っていた。


エリスは一気に気分が萎えるのを感じた。深いため息を吐いてから、下着とパジャバ代わりのスウェットを着込んだ。健太がこのあたりで目を覚ませば良いのだが、そんな気配はどこにも見えない。


「長旅の後のお酒は失敗だったわ」


エリスは大いびきをかく健太を見つめながら言った。


それから、テーブル横の椅子に腰かけ、残ったワインをガブガブ飲んで行ったので、エリスの白い肌は更に赤く染まるのであった。

次回は旅の二日目のお話です。

お楽しみに

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