光の石
「ねえお母さん、今日も私が朝市に行ってもいい?」
思い出すのはカナタのこと。明日またここで、と約束したのだから行かなくてはならない。それに何よりも、テル自身が会いたいと思っていた。
「あら、珍しいわね、そんなこと言うなんて」
「なんとなくね。昨日朝の空気が気持ちよかったから」
適当なことをとりあえず言ってみると、あっさりと許可が降りた。
「いいわよ、行ってくれるならありがたいし」
「うん、じゃあ行ってきます」
今日は自分のお小遣いをこっそり持ってきていた。カナタがまたお腹をすかせているかもしれないし、そしたら一緒に何か食べよう。
いそいそと買い物を済ませ、2人分の菓子パンを買って路地裏に向かうと、そこには昨日と同じようにカナタが佇んでいた。
「カナタ!」
名前を呼ぶと、カナタが振り向く。
「テル、来てくれたんだ」
「約束したでしょ、私約束は破らないもの」
そう言ってテルはにっこりと笑った。
路地裏は薄暗いので、日当たりの良い近くの公園に行く。テルがはい、と菓子パンを渡すと、カナタは少し戸惑いつつも受け取った。傍にあった切り株に腰を下ろす。
「昨日も貰ったのに、いいの?」
「今日は私がおなかすいてるの。一人で食べるのは悪いでしょう?」
えへへ、とテルが笑う。気を利かせてくれたのだと気づき、奏太は嬉しそうに微笑んだ。
「もらってばかりじゃ悪いな」
奏太はテルに手を出すようにいうと、今朝来る途中に拾った小さな綺麗な石を載せた。
「ただの石だけど…凄く綺麗だったから。」
今度はテルが驚いたような顔をして、手のひらの石を見つめる。
「わあ…綺麗…」
「だろ?」
テルの瞳みたいでさ、と小さく呟いたが、テルの耳には届かなかったようだ。
その小さな石はテルの手のひらの上で太陽の光を浴び、キラキラと輝く。
「光が、溢れてるみたい」
そんなテルの一言は、その石の輝きを表すには十分だった。
「ありがとう!」
テルはニッコリと笑って、そろそろ行かなくちゃ、と腰を上げた。
「また明日、ここで待ち合わせ、どう?」
「うん、わかった」
何となく別れるのが惜しくて、また会う約束をして二人は別れた。
光の石、と名付けたその小さな石を眺めながら、テルは公園でカナタを待っていた。
「遅れてごめん」
しばらくぼんやりしていると、後ろから声がかかる。カナタだ。
「大丈夫だよ。この石、眺めてた」
そう言ってテルは光の石を掲げた。喜んでもらえてよかった、と奏太は内心ホッとする。
「来てくれて、良かった」
「約束しただろ?俺は約束は破らないんだ」
奏太は今朝のテルと同じことを言うと、いたずらっぽく微笑んだ。
「それ、私の真似じゃない」
そう言いつつも、テルは嬉しそうだった。




