出会い
「テル、いい?空中人は悪い人たちなのよ。絶対に近づいてはだめよ」
小さい頃から何度も何度も聞かされてきた言葉だ。空中人は悪魔だ、と。でもテルにはそれが理解できなかった。空中人が一般市民に悪さをしたことはない。少なくともテルはそんな話を聞いたことはないし、見たこともなかった。ならばなぜ、みんなは彼らを忌み嫌うのだろうか。
「ねえ、どうしてお空の人はわるいの?」
幼いころは親によくそう尋ねた。でも返ってくる言葉は決まってこうだ。
「物や人は、本当はお空に浮かんじゃだめなのよ」
どうしてだろう。物や人は、どうして空に浮かんじゃいけないのだろうか。
長い冬が過ぎ、雪が溶けて春が来る。まだ肌寒い空気の中、テルは朝市に急いでいた。今日はテルが朝市で買い物をする番。母に渡されたメモを見ながら、買い物を済ませる。
「鶏肉にニンジン、卵と、あとは……」
「おっ!テルちゃんじゃねーか。お買い物かい?」
肉屋のおじさんに声をかけられる。市場にはよく来るので、皆とすっかり仲が良くなっていた。
「あ、おじさんおはよう!うん、今日は私の番なの」
「そうかい、テルちゃんは偉いなぁ」
「もう16歳だもん。子供扱いしないでよね」
「そうかそうか、昨日誕生日だったもんな、じゃあ今日は安くしてやるよ!」
「わあ、ありがとう!今日は鶏肉なの」
「よし、鶏肉だな」
そう言っておじさんは、少し多めに鶏肉を入れてくれた。
その後もメモの通りに買い物を済ませていると、それぞれのお店で誕生日を祝われておまけのリンゴや桃も沢山貰った。
「あっ、急いで帰らないと、学校に遅れちゃう…!」
元々のんびりな性格なため、朝市に来る番の日は遅刻しそうになることもしばしば。今日は遅れまいと家への道を急いでいると、路地裏に人がいるのが見えた。
立ち止まって見てみると、そこにいたのはテルと同じくらいの歳の少年だった。服装から見るに、あまり裕福な家の子ではないようだけれど…
「ねえ、そんなところで何をしているの?」
気づいたときにはとっさに声をかけていた。はっと我に返るが時すでに遅く。少年が驚いたようにこちらを見つめていた。
「誰?」
「あ、私はテル。あなたは?」
声をかけてしまったものは仕方がない。悪い人には見えないし、少し喋ってみてもいいだろうと思ったテルは名前を教える。
「俺は、かなた」
「カナタ?」
「うん」
カナタと名乗ったその少年は、警戒しながらも少しテルの方に近づいてきた。
「何をしているの?」
答えを得られなかった先程の質問を繰り返す。
「別に、何かをしているわけじゃないよ。お腹、すいたんだ」
「市場で何か買えばいいじゃない」
「お金、持ってないんだ」
服装から察した通り、やはり彼はあまり裕福ではないようだ。テルはしばらく考えて、果物を沢山貰ったことを思い出した。
「これ、食べる?」
リンゴを一つ差し出すと、カナタはますます驚いた顔をした。
「えっ、いいの?」
「うん、私も貰ったものだし、沢山あるから」
「ありがとう」
リンゴを受け取ったカナタは、その場でリンゴをあっという間に食べ終えてしまった。その一部始終をぼんやり眺めていたテルは、学校に遅れそうだったことを思い出した。
「あっ!もう行かないと!」
「テル!」
路地裏を飛び出そうとしたテルを、カナタが呼び止めた。
「また、会える?」
少し照れくさそうに呟く。
「・・・・・・うん、明日また、ここで」
少し考えてからテルはそう告げると桃を一つカナタに手渡し、大急ぎで帰っていった。
路地裏に残された奏太は手の中の桃を見つめ、少し嬉しそうに微笑んだ。




