俺にチートな彼女ができた経緯
盲腸で入院した。
今は夏休み期間中。
腹が痛い事は自覚していたが、大したことが無いと放置していたが、いよいよ我慢できなくなって近くの総合病院に行ったら即日手術になった。かなりヤバかったらしい。
手術自体は成功。
順調にいけば3日で退院できるらしい。
が、暇だ。
VRゲーム機は家から持ってきていない。
どうせ3日程度の入院期間なので、親に持ってきてもらうのも気がひける。
では、本来は宿題でもしていれば良いのだろうが、夏休みに遊び倒すつもりで最初の3日で全部終わらせてしまった。
変に真面目な自分が恨めしい。
と、いうわけで、ただいま絶賛暇中なのだ。
さて、ここは総合病院。
何か面白いモノがあるかも知れない。
散歩でもするか……
実際は何も無いのだろう。
だが、暇で仕方がなかった俺はとにかく刺激を求めていた。
「あれ? 城島くん?」
聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、クラスメイトの源さんがそこに居た。
「源さん?」
「やっぱり、城島くんじゃない。どうしたの? そのカッコ……まさか、入院!?」
心配する源さんに、俺はただの盲腸ですぐに退院できることを伝えた。
「よかった、心配しちゃった」
源さんは、誰にでも優しい。
俺とはあまり接点がない彼女だが、こうして心配してくれるような女の子なのだ。
「そういう源さんは? 誰かのお見舞い?」
「ええ、そんなものよ」
言い方が気になったが、立ち入った事を聞く仲でもない。
その時はそれだけの会話で別れた。
だが、次の日も、退院する日も、そして経過観察で通院している時も、彼女の事を見かけた。
声をかけることもあったし、遠くから姿を見かけただけの時もある。
とにかく、彼女がほぼ毎日この病院に通っている事は確実だった。
そんなに見舞うのは、親兄弟か、彼氏といったところだろうか?
少なくとも、ただの友達程度の関係ではあるまい。
2学期が始まり、彼女と会話する事が増えた。
というか、増やした。
特別美人というわけではない彼女だが、可愛い部類の容姿をしているし、色々気が利くところも気になっていた。
もっと彼女のことが知りたくなり、再度誰を見舞っているのかを聞いてみた。
その時もはぐらかされたが、彼氏ではないことは確かなようだった。
というか、誰とも付き合っていないらしい。
気がつくと俺は彼女に告白していた。
自分でも驚いているが、俺は彼女が好きだったらしい。
彼女も驚いているが、「考えさせてほしい」と、回答を保留にした。
少なくとも、即お断り。という事態にはならなくて良かった。
その日も病院に行くということだったので、彼女を送って行くことにした。
道中、俺のことや彼女のこと、色々話した。
感触としては良い感じだったと思う。
俺たちの横を、小さな女の子が駆けていく。
将来はあんな子を源さんと……なんて、気が早すぎることを考えたりなんかして。
そんなに走ると転ぶぞー
心の中で女の子に注意した瞬間、女の子が躓いた。
ほら、言わんこっちゃない。
が、女の子は躓いただけで、転びはしなかった。
ただ、手に持っていたボールを落とした。
ボールは女の子の手を離れ、車道に……
って、コレ女の子が飛び出すフラグじゃね?
心配はしたが、その子は利口だったらしく、車道に飛び出すことは無かった。
ホッとした。
次の瞬間、誰かに後ろに突き飛ばされた。
すごい力で、抵抗できなかった。
何が何だか分からないまま、辺りを探ると、歩道に……女の子に突っ込んでくるトラックと、それに走り寄る源さんの姿が見えた。
源さんが女の子を抱え込んだと同時に、彼女はトラックに跳ね飛ばされた。
ガン! ガリガリガリ!
およそ人間の体からでてはいけない音が辺りに響いた。
ドン
俺の目の前に、何か棒状のモノが落ちてきた。
……脚?
女の子の脚。
……の模型?
マネキン?
別に、ホンモノを見てるのに、現実逃避をしているわけではない。
血も出ていなければ、骨や肉の代わりに機械部品が見えているものが、ホンモノの脚のはずがない。
ただ、見覚えがある脚だった。
このところ毎日、チラチラと。
だがしっかり見続けている脚だった。
辺りを見渡すと、ブロック塀に突っ込んだトラックの向こうに源さんが倒れているのが見えた。
近寄ると、泣いている女の子を抱いている。
手で女の子の目を覆っているので、その子は何も見えない。
それで余計に不安になっているのだろう。
だが、見えなくて正解だ。
源さんは片脚は捥げ、もう片方は変な方向に折れ曲り、腰もありえない角度にねじれ、制服は擦り切れ、そこかしこに金属部品が見え隠れしている。
こんな光景を、女の子に見せたらトラウマどころじゃないだろう。
VRミリタリーゲーで耐性ができてるツモリの俺でも、キツイ。
「ああ、城島くん、怪我はない?」
そんな状態で、彼女は俺の体を気遣ってきた。
「あ、ああ。ちょっと擦りむいたけど」
「ゴメンね。とっさだったから、余裕なかった。 あ、警察と救急車はもう呼んでるから」
「いや、そんなことより、お前は平気なのかよ!?」
「あー、うん。動けないけど、私自身は大丈夫だから」
「源さんって……ロボット?」
言ってから、しまったと思った。
彼女が悲しそうな顔をしたからだ。
「後で、ちゃんと話すから」
そう、彼女が言うと同時に、サイレンの音が聞こえてきた。
結局、彼女と女の子が救急車で。俺はパトカーで病院まで運ばれた。
念のためにと検査を受けた後、待合室で座っているところに声をかけられた。
「城島くん」
源さんだった。
あれだけボロボロだったのに、元に戻っていた。
いや、服だけは私服になっていたが。
ーーやはり、ロボットなのだろうか?
「来て」
俺の内心を知ってか知らずか、源さんはついてくるように言った。
案内されたのは、病室だった。個室で、ベッドに寝ている人物には、色々な機械が繋がっている。
「今日も、誰を見舞っているのか聞かれたよね?」
それも確かに気になるところだが、今関係あるのだろうか?
訝しむ俺に彼女は続けて言う。
「お見舞いじゃなくて、介護してるの。私自身の」
意味が分からない。
何を言っているのだろうか?
「見て」
そんな俺の手を引き、ベッドに近付いた。
寝ている患者さんの許可は要らないのか。とも思ったが、意識不明とかならどうしようもない。
俺はその人の顔をみた。
「!?」
「これで、納得した?」
寝ていたのは、源さんだった。
いや、この源さんの方が痩せている。痩せこけている。
ついでに、右目がない。
目を瞑っているのではなく、まぶたもない。
「目だけじゃないの」
そう言って、源さんがかけてあったシーツを剥がす。
そこには、手も足も無かった。
「産まれたときから無いの」
そういう子供も居るだろう。
「内臓もね、色々無いの。……ちゃんと女の子なんだけどね、子宮も無いの」
何と言っていいか分からない。
「一番問題なのが、肺も無いの。だから、この体は呼吸をしていないの」
それで生きていけるのだろうか?
「5年早かったら、死産になっていたらしいわ」
俺の内心を読んだのか、源さんがそんなことを言う。
「VRと義肢技術の発達で、私もこうやって学校に通えているの」
俺にとっては、ゲームの技術でしかないVRがこの子にとっては生活するための必須技術なのか。
「私の体は、こんな機械人形なの。それでも彼女にしたい?」
彼女はそんなことを言って来た。
「機械人形が彼女は嫌だなぁ」
「そう、だよね……」
まったく、バカにしないでほしい。
「俺が彼女になってほしいのは、中身だから。こっちの本体だから。機械人形なんかじゃない」
「え?」
「ぶっちゃけ、外見だけなら、坂上さんとかの方が好みだし」
「ええ!?」
うん、からかうと面白いかもしれない。
「で、彼女になってくれるの?」
改めて聞いてみる。
「え、あ、あの、その……ヨロシクオネガイシマス」
うん、可愛い。
「じゃぁ、キスしていい?」
「へぇぁ!? その、あの、……ど、どうぞ」
これは断られるかと思ったが、彼女は瞳を閉じておとがいをそらした。
許可が出たので、俺は遠慮なく、彼女自身と唇を重ねた。