『悪い夢』
自分が今、夢の中にいることはすぐにわかった。気持ちのいい浮遊感に包またこの場所は、何もできないけど何もしなくていい空間だ……。どこでもない景色が浮かんでは消え、消えては次の景色が浮かび上がってくる……。いろんな場面がまるで走馬灯のように過ぎ去っていく。どれもぼんやりとしていて、私はそれらの輪郭がはっきりと掴めずにいる。
ただ眺めることしか許されていないんだ……。
気付けば私はどこかに立っていた。ここは、そうだ……、お城の廊下だ……。見慣れた場所だ……。よく見れば、目の前で誰かが話している……。
誰だろう……。
一人は、そう……大臣だ……。もう一人が……たぶん、遊撃隊の兵士さんかな……直接お会いしたことはないけれど……。
……あ。
大臣が……何か言ってる……。
「…………。……むう……、しかし困ったものじゃな……。あれではどうすることも……」
あれ……。何の話だろう……。……例のあの二人の話……かな……?
「……、いいえ……ここはまだ様子を見ましょう……時間による解決も……まだ……」
時間……。夢の中での時間って……何……? ……夢………………。
「……それでは駄目なのじゃ……あの二人ばかりは……時間ではどうにも……」
あの二人……。
「……うーん……」
「……まあ……案ずることはない……。じきに決着も付くだろう……それまでの辛抱じゃ……」
決着も……付く……。やっぱり……あの二人の……確保の話……? わからない……。……これは……本当に夢……? ……うーん……。
違う……。
「……あの二人は……」
「……とても目障り……」
ライブド……。ミーグ……。
「……邪魔な……」
「……存在……」
赤い悪魔……。黒い死神……。
「……いらない……」
「……不必要……」
無限の爆薬……。無限の大鎌……。
「……人の……上に立つ資格のない者ども……」
「……国を……統べる資格のない者ども……」
え……。……何……?
「……ラム……」
「……リト……」
……それ……って……。
「……暗殺の計画は……もう……動いている……」
どういうこと……なの……?
そこで景色が変わった。……今度は……兵舎だ……。
ロッドライズさんと……リレイドがいる……。
「……あの者たちは……何を考えているのか……」
「……理解ができませんね……」
理解……できない……何が…………?
「……不死身を望むなんて……、神が人に死を与えた理由を……まるでわかっていない……」
「……まさしく……狂人の発想……」
……え……、どうして……どうしてそんなこと、言うの……? みんな、受け入れてくれたのに……。みんな、私たちの願いをわかってくれていたと思ってたのに……どうして……。
「……死は……許されたことなのだ……」
「……死から逃げた者など……人ではない……」
止めて……そんなこと言わないで……。聞きたく……ない……。私は……ラムと……永遠を誓ったんだ……後悔なんて……してないんだから……。……今更……そんなの……。
違う……。
また変わった……。
これは……私の寝室……。……ラム……。
ラム……会いたかった……。
「……リト……、あなたと一緒には……いられない……」
え……? どうして……。ラム……何で……。どうしたのよ……急に……。
「……リトの事が嫌いだ……、嫌いだ……、嫌いだ……」
何で……? 何で……? 私たち……、私たち、一緒に……ずっと一緒に……いようって……。
「……不死となったことを……後悔している……」
誓ったのに……。
「……さよなら、女王様……」
待って……行かないで……行かないで……一人は嫌……独りぼっちなんて嫌……。お願い……ラム……行かないで……。独りぼっちは嫌なの……。お願い……話を聞いて……ラム……お願い……。
……ラム……。
……行っちゃ……やだ……。
…………。
…………あ…………。
…………ああ…………。
…………あああああ…………。
…………ああああああああああ…………。
……!
……え……、だ……れ……?
……。……!
……聞こえない……、誰……なの……。
……、……ト……!
……声……。……聞こえる……聞こえる……。……その声……。
……リ、……ト……!
リト!
ラ……ム……?
ああ……そうだ……今までのは……全部……夢なんだ……。
現実じゃないんだ……。
夢なんだ……。
そして。
今、自分は……夢から覚めたんだ。
悪夢が……終わったんだ……。
なんて……なんて……安らかなんだろう……。




