【王城】女王の寝室・七
『リト』ゼフィオン国を治める不老不死の女王。
『リレイド』ゼフィオン国に仕える遊撃隊兵。
辰の刻。リト、リレイド、王城の、女王の寝室にて。
『リレイド』あなた様は……いつも無理をなさるお方だ。昔から、どんなに辛くても大丈夫と言い張る人でした。
『リト』ごめんなさい。迷惑をかけてしまったわね……。
『リレイド』迷惑とか、そういう問題ではないんです。どうか……どうか、ご自分のお身体を大事になさって下さい。一国を統べる人間だという自覚をお忘れにならないでほしいのです。
『リト』ええ、気を付けるわ……。……ふふ、懐かしい。リレイドに説教されるなんてね。
『リレイド』……! ……い、いえ……そんなことはよいのです。それより、またお倒れになられたら許しませんからね。
『リト』はいはい。
『リレイド』……じきにラム隊長が医者をお連れになって戻ってくるのでしょう? それまでの辛抱です。
『リト』はいはい。
『リレイド』……とにかく、安静にしていましょう。
『リト』はいはい。
『リレイド』…………。……ねえ、リト。
『リト』はいはーい、何かしら?
『リレイド』覚えてたんだね、昔のこと。
『リト』ええ、当り前じゃない。
『リレイド』嬉しいよ。
『リト』こちらこそ。……うん、よく遊んだものだわ……。文通とかもしたっけね……。私の周りって、女性が全然いなくって……リレイドくらいなのよ、一緒に遊んでて楽しかったの。……親友、ってやつね。
『リレイド』……ラムは?
『リト』あの人は遊ぶことを知らない人間よ……昔から、強くなる強くなる、って、そればっかり。ホント、子供時代の半分は損してるわ。
『リレイド』ふふふ……確かに、懐かしいですね。
『リト』ええ……。……それでその内、あなたも兵になるって言いだして、私、必死で止めたわ。友達が一人いなくなるような気がしてね。
『リレイド』あの時の制止を振り切ったことで、リトは私のこと嫌いになっただろうなって……今ではもう、覚えてもいないだろうなって……そう思ってた。
『リト』まさか。
『リレイド』ねえ、どうして……どうして私に、兵になってほしくなかったの? ……やっぱり、母さんのこと? それが……ずっと気になってたの。今、やっと訊ける。
『リト』あなたのお母さんは、とても立派な剣士だったと聞いている。ゼフィオン一の女剣士だったと……。うん、そうね……そうかも。あなたのお母さんの死が、私が物心付いてから初めて経験した、身近な死だった……。
『リレイド』私も、母さんのように逝ってしまうと?
『リト』うん。でも、今思えば、あの制止がかえって私たちの距離を遠ざけたのよね……。
『リレイド』どこにも逝きませんよ、私は。私も、できればずっと、あなたの親友ってやつでいたいものです……もちろん、公私混同はしませんけどね。
『リト』ふふ、ありがとう。




