舞台裏の論評
座長、座付詩人、道化役。
『道化役』ほら、ほら、見てみなさい。この光景! 大成功の兆しですぜ。お客さん方、もう次のお話が聞きたくて聞きたくてしょうがないといった様相だ。今ここにいる数えきれないほどのお客さん方が、みんな、我々の手による物語を面白がってんですぜ。こりゃあ、もう、痛快なこと、痛快なこと。
『座長』本当にそうだろうか? 私にはそうは見えない。平凡普通な面持ちばかりだ。ここまで観ずに帰ったお客さんも、実際に何人かいた。こんなことなら、遠い昔に書かれた偉大なる作品群を見せた方が、よっぽどよかったのではないだろうか?
『道化役』何を言います! あなたがそんなことでどうするんですか。我々の作品は奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議。あなたにそんなことを言われる筋合いはないと考えますがね。
『座付詩人』そうですぞ。我々は今まさに、面白い作品を続けているのです。自信を持ちましょうぞ。ご安心ください、このまま舞台を続けていれば、お客は増える一方! それに間違いなどありません。これは絶対です。
『座長』ううむ、そうか、そうか。いやはや、すまなかった。わるいことを言ってしまったな。そうか、そうか、うむ、そうだな、自信を持とう。この物語は面白いのだ。面白いのだ。
『道化役』その調子です。ささ、お客さん方が待っておられる。こんなところでお喋りに興じている場合ではない。お客さん方が、次のお話を待っておられるのだ。ささ、次の物語へ……次の物語へ……。




