【王城】女王の書斎・二
『ラム』ゼフィオン国防衛隊を指揮する隊長。
『リト』ゼフィオン国を治める女王。
卯の刻。ラム、リト、王城の、女王の書斎にて。
『ラム』噂はもう、町中に広まっています。襲撃の犯人は不死身らしい、二つの村を襲った極悪犯は死なないらしい、……おそらく、あの時の会話を兵の誰かが聞いていたのでしょうね。新聞もその話題で持ちきりです……当然ですが……僕と姫様を中傷する内容の記事もありました。
『リト』私たちはあろうことか、一般市民を犯人に会わせ、それが原因で犯人を取り逃がしたのです。多大な犠牲を払って捕らえた犯人を、です……。そんな私たちをそれでも擁護する国民が一定数いる方が、私は不思議に感じるわ。……要は信用され、期待されているのです。今回の一件で、そのことを改めて感じた……。私たちはそれに応えなければいけません。応える義務がある……。
『ラム』姫様は、あくまでこの事件から手を引く気はないのですね。
『リト』当り前じゃない。この事件の根底には不老不死があるのよ? 私とあなたは、この事件に最後まで付き合う義務があると思うの。王だから、とか、兵士だから、とか、そういうの関係なく、ね。
『ラム』ええ、同感です。
『リト』はあ……、にしても、はあ。シニカロレイヴさん……私、あの人のこと、元から苦手だったのだけれど……あの人の、中立を貫く心構えは本物だと思っていたわ……。誰の味方にもならない、っていうスタンスの人だと……。ううん、違う、悔やんでも仕方がない。信じる……という表現が適切かどうかはわからないけれど……信じる相手を間違えた、それだけのことなのよ。はあ、どうしてこんなことになっちゃったのかしら。どうして上手くいかないんだろう……。何が魔法よ、笑わせる。魔法なんて使えたって、失敗するものは失敗するのよ。できないものはできできないのよ。
『ラム』……自分を責めるなよ。それは一週間前に散々やったろう。過去の失敗を見るのも大切だけど、今は未来のことを考えよう、な?
『リト』……うん、そうだね、ごめん。こんなの私らしくないわよね。……ん。
ノック音。
『リト』どうぞ。
セルミニト、入室。
『セルミニト』おはようございます、姫様……おや、ラム殿まで。
『ラム』おはようございます、大臣。……では、姫様、私はこれで。
『セルミニト』ああ、いやいや、待つのじゃ待つのじゃ。姫様と、それにラム殿にも関係のある話じゃ。
『ラム』え、僕にも?
『リト』何でしょうか?
『セルミニト』実はな、今朝、門前警備の者が見つけたのじゃがな、姫様に手紙が来ておる。門の所に落ちていたそうじゃ。清掃の者が持っていかなくてよかったわい。……ええと、これじゃ。
セルミニト、リトに白い封筒を渡す。
『リト』……本当だ、私宛……。
『セルミニト』郵便を使わずに本人が置いていったようじゃな。本来ならそんな物、不審物扱いですぐに焼却するところなのじゃが……。書いてある名前が名前でな。ほれ、裏を見てみなさい。
リト、封筒を裏返す。
『ラム』……シニカロレイヴ……。
『セルミニト』昨夜その周辺を回っていた者に訊いてみたが、そやつを見た者はおらんかったよ。果たして、いつ置いていったのか……。さて、わしの用はそれだけじゃ。ではお二方、よい一日を……。
セルミニト、退室。
『リト』手紙なんて……どういうつもりなのかしら。
『ラム』……とにかく、読んでみよう……。
リト、封筒を開ける。




