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聖戦に舞う不死鳥たち  作者: 戯画葉異図
幕外 済世劇
308/346

『夢』 危機的状況に陥った現実世界。そして響く新世界の胎動音。

 彼女の空想は完成度が高過ぎたんだ。大まかな構成から細部に至るまで、その全てが現実世界に肉薄していた。人も、動物も、植物も、全てが本物と見まがうほどに創り込まれていたんだ。


 それはもう、フィクションの域を凌駕していた。空想でも妄想でもなく、ましてや創作物などではなく、それはまさしく世界だった。現実世界と肩を並べられるくらいに育てられた、ノイズレッドの醜い第三の子だった。彼女の、我が子に対する想い、未来に対する想いが、いびつな形に結晶して出来上がった壮大なる世界だ。


 ……世界の創造は神にだけ許された行為だ。神以外の存在には許されていない行為だ。人に許されているはずもない。


 それは何故か。


 世界は二つも存在できないからだ。


 そこに二つの世界が広がっていれば、どちらか一方がもう一方を呑み込んでしまうからだ。共存なんて望むべくもない。大瓶にカマキリと蝶を封じ込めればカマキリがいずれ蝶を狩るように、力のあるものが力のないものを喰らうように、大きい方が小さい方を呑み込むんだ。


 そしてこの場合、大きい方は彼女の世界だった。


 難しい話だが、その恐ろしさは君たちにも理解できるだろう。彼女の空想力は神をも超えたってことだよ。元々は神の創造物の創造物程度にしか過ぎなかったはずの彼女が、神による世界と同等、否、それ以上の世界を創造してしまったんだ。


 恐ろしいね。笑えないほどに。


 今、現実世界は彼女の世界に呑まれようとしている。数字で言えば十パーセントだ。


 十三年で、十パーセントだ。そしてその勢いは年々増加の傾向にある。このままでは百年以内に、確実に現実世界は呑まれてしまうだろう。


 ……呑まれるとどうなるんだ、と訊きたそうな顔だね。


 ハッキリ言って不明瞭だ。現実世界が仮に呑まれた場合、何がどうなるのかは、何も分かっちゃいない。だが、それが良くないことは自明だろう。どんなに完成度が高かろうと、どんなに現実世界に類似していようと、そんなの関係なく彼女の世界は所詮偽物なんだ。神のような絶対性がない。設定も彼女の都合の良いようにいじられているし、彼女の全く知らない概念は当然そこにはない。ない部分は彼女が勝手に想像して、勝手に補完している。


 そうなるとつまり、事実の上塗りが為される可能性だってあるわけだ。君たちの存在を彼女は知っているが、君たちが生まれてからこっちの十三年、君たちがどんな生活を営んで来たのかを彼女は知らない。知らないから、自分でいいように補う。


 そんな風にして彼女の世界は成り立っている。設定を考え、裏設定までをも練り込んでね。


 が、しかし、ここで早くも彼女の世界は破綻の兆しを見せた。これだってまた難しい話だが、ああ、この一か月間に、どうやら向こうで、つまり王城サイドで、とある動きがあったんだね。君たちは知らないし、知らなくとも問題のないことだが、一言で表すならば、ノイズレッドの知らないニューカマーの存在さ。それは自体は小さい事実だが、無視できぬほどに大きい意味を持つ存在だ。これが、彼女の世界で矛盾をもたらしている。


 知らない人間が到来して、知らないままに創られた世界に亀裂が入ってしまった。現時点ではまだ気にもされないような薄い亀裂だが、全体と先のことを見据えれば、これは重大な問題だ。


 より一層、我々は全力を以って事に当たる必要性が増したわけさ。大丈夫、理解しなくていいよ。ただのお膳立てだからね、ふふふ。


 ……最低限のマナー的フォローとして私から言っておきたいのは、空想することまでは彼女の意思だったが、それ以上のあれやこれやは、全く彼女の意図していなかったことだよ。事故と言うには規模が巨大過ぎるけれど、少なくとも故意ではないことを、注意文句としてここで挟ませて頂く。


 彼女はね、彼女の創り上げたその世界に名前を付けているんだ。大切な我が子を手放してから数えて十三年の後の世、現実世界がこんなことになっているだなんて露ほども知らない彼女は、まるで自分の世界がささやかな小説か何かであるかのように、世界にタイトルを付けているんだ。


 それはね。


 『未来永劫、無限の命、無限の愛、聖戦に舞う』

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