『回顧』 子を守ること
いつまでも赤ん坊を、それも二人も、村民の目から隠し通せるわけもないだろう。出産から一月と経たぬうちに、隠し子の存在はバレてしまったんだ。あっさりとね。
今から十三年前の話だ。
さあ、大変。許嫁が決められているにも関わらず、村長の息子であるお相手さんには実は子供がいた。しかも双子だよ。村中が大騒ぎさ。お祭り騒ぎなんてものじゃない。これからこの地で劣悪な伝染病が流行すると、腕の立つ占い師に予言されてしまったみたいな光景だよ。まさに驚天動地。まさに天変地異。そんなゴシップニュースが一日で村人全員に知れ渡った。
ノイズレッドは焦った。このままではまずいことになると、本能的に察知した。お相手さんにどうしたらよいか救いを求めたいと思ったが、そのお相手さんは押し寄せて来た村人の壁の向こう側で、もう一方の村人の壁に迫られている。押し寄せて来た村人が、ドンドンドンと家の扉を叩いている。扉の向こうでヤジが飛び交っている。「扉を開けろ」「開けろ」「女を出せ」「今すぐに」「子供も出せ」「さあ、早く」「早く」……。
今外に出ればどうなるか、それは火を見るよりも明らかなことだ。このままでは何をされるか分かったもんじゃない。何を言われるだろう。子を奪われるかもしれない。最悪な事態も想定できる。ノイズレッドは両親に助けを求めた。
両親はこう言った。二人の子供を連れて、家の裏の窓から逃げるんだ。走って、走って、うんと遠くへ行け。
ノイズレッドはその言葉の通りにした。我が子を柔らかい毛布にくるんで、両親に別れの言葉を放った。
「ありがとう、父さん、母さん。いつになるか分からないけど、いつか絶対、戻って来るからね」
それを最後にして、彼女は開け放たれた窓から外に飛び出した。村民に見つかることのないように、家の裏側から、村の裏側から、急いで森に駆け込んだんだ。




