【城下町】とある店・二
巳の刻。旅人、店主、城下町の、とある店にて。
『店主』おや、お客さん……、ひょっとして、旅の者かい?
『旅人』え? あ、ええ。そうですが……。
『店主』へえ、今時珍しいね。
『旅人』そうでしょうか?
『店主』ああ。昔だったら、三日に一人は見かけたもんだが……最近は物騒だからね、もう異国の話は聞けないのかと思ってましたよ。
『旅人』……物騒と言うのは、夜森人の事ですか?
『店主』夜森人もそうだけど、まあ、何よりも怖いのは人間だな。人間が一番怖いよ。嫌な話も、風の便りでよく聞くんだ。盗難然り、殺人然り。
『旅人』……しかしまあ、異国から流れてきた私から見た印象ですが、この国の治安は良い様に感じます。
『店主』はは、そう言ってくれると、まるで我が事の様に嬉しいね。……でもそれは、言っちゃあ悪いが、確かに印象だな。印象に過ぎねえ。
『旅人』……と言うと?
『店主』暮らしてりゃすぐに分かる事だが、この国は見かけよりも、ずっと多くの問題を抱えている。何ヶ月か前にも、またどでかい問題が生まれちまった。
『旅人』……え……?
『店主』…………お客さん、赤い悪魔と……黒い死神の話は……耳にした事は?
『旅人』……? いいえ……何ですか、それ?
『店主』まあ、知らないんだったら知らないで、それは、その方が全然良いんだ。
『旅人』気になりますね、教え……。
『店主』ところでお客さん、ここの女王の事は知っているかい?
『旅人』……ええ……、不死身、なんですよね。知っていますとも。私の故郷にまで、そのお話は届いておりますので……。…………実は、そのお話を頼りに、この国に来たんです。
『店主』ほう? どういう事です?
『旅人』ええと、見て下さい……。
旅人、マントで隠していた右腕を出す。
『旅人』…………私、旅に出る前は画家をしておりました。右利きです。……しかし今では、この通り、ピクリとも動きません。夜森人に……やられたんです。
『店主』……そうでしたか……。それは……失礼な事を言ってしまったね。
『旅人』いえいえ、お気になさらず。むしろ、面白いお話を聞かせて頂きました。えと、ご主人、この林檎、おいくらです?




