【結】魔神
暗闇。暗闇。暗闇。
………………意識が……有る………………。
手足を動かす事も、首を左右に振る事も出来ないが……、頭は働いていた。……それ以外の感覚が無い…………。
口を動かす感覚も無いが、それでもと必死になって、二人はお互いの名前をもう一度呼び合う。
「良かった……そこに……居るのね……」
「うん……居るよ……。……ここは……何処だろう……? 僕等…………」
「……死んじゃった……のかな……」
女の子がか細く言う。
「…………儀式は失敗したんだ……。僕等はただ、焼かれただけなんだ……」
「……良かった……のかな……?」
「……うん……。僕等の誓いは……、ちゃんと果たせたんだし……」
相変わらず何も見えない。何処なのかも分からない……が、二人は次第に、自分達の身に起きた様々な事を思い出してきた。
自分が死んだ、と言う事実も、やがて理解が追い付いてきた。
「……もっと……生きたかったね……」
女の子が呟く。その言葉には切なさが有った。
それに男の子が答える。
「……二人で居れさえすれば、悲しい事なんて、何も無いよ」
「ふふ、それもそうね、嬉しい」
と、女の子がそう言った直後、暗闇に変化が生じた。
――――光だ……――――――
『――我――汝等ニ――慈悲ヲ与エル者也――』
その光と共に、『何か』が現れた――否、不思議な事だが、二人にはすぐに分かった。『何か』ではない。それは、あまりにも大きな存在を持つ――
『――――魔神――――カツテ人ハ――我ヲ――――ソウ呼ンダ――』
魔神。
災いを――起こす神――――。
「魔神様……」
二人は驚きと畏怖で、それだけを言うのが精いっぱいであった。
魔神は暗闇よりも暗く、そこに存在した。
……再び、言葉を発する。
『幼キ子等ヨ――――我ハ教エル――――其方等ハ――死ンダノデハナイ事ヲ――――其レデイテ――生キテサエモイナイ事ヲ――――』
死んだのではない? 二人はその言葉を心の中で静かに繰り返した。
『アノ者等ノ術ハ――半分ガ成功シ――ソシテ――半分ガ失敗シタノダ――――幼キ子等ヨ――我ハ言ウ――其方等ハ既ニ――永遠ノ存在デアル事ヲ――――』
「……永遠の……存在…………」
「そんな事……」
半分成功し、半分失敗した。それはつまり、どういう事なのだろう……。もう既に、永遠の存在……、それが半分の成功だとしたら、もう半分の失敗は……?
そんな疑問が、新たに生まれた。
……しかし、そんな疑問も、魔神の放つ次の言葉の前では脆かった。
『永遠ノ存在ト成ル未来ヲ――其方等ガ望ンデイナイ事ヲ――我ハ知ッテイル――――ソコデ我ハ――其方等に問ウ――――其方等二――報復ノ心ハ有ルノカ――――ト――――――』
報復。
魔神のその言葉は何処か尋常でない魔力を帯びていて、その言葉を受けた瞬間、二人の心は闇の中で輝く光の如く変わった。
二人の心を熱情で満たした。
報復。
その単語の持つ響きには強い魅力が有った。自分等を殴り、縛り付け、挙句の果てに焼き殺したあの大人達――そして司祭――あの人間達に仕返しをする……。
心の隅で、幼い考えだと分かっていながらも、二人はもう、その考えに取り憑かれてしまった。
報復。
自分達はただ、二人で幸せに暮らしたかっただけ。慎ましく、穏やかに生きたかっただけ。それなのに、何故こんな事になってしまったのだろう、と言う納得するはずのない疑問が、頭を離れようとしない……。
男の子は、女の子は、もうコミュニケーションを取らなくても、二人が同じ考えである事が十分過ぎる程に理解出来た。
報復――――――。
『我ハ――慈悲ヲ与エル者――――其方等ニハ――二ツノ道ガ有ル――――一方ハ――コノママ二人デコノ暗黒ノ世界ヲ永遠二彷徨ウカ――――モウ一方ハ――現世二蘇リ永久ノ時ヲ好キニ生キルカ――――――選択セヨ――――』
この暗闇の世界を生きるか、元の世界に戻って生きるか……。
どちらを選んでも、終わりが無い事に変わりは無い…………ならば、ならば……迷う事など無かった。
二人は魔神と向かい合い、真正面からその姿を見つめ、そして同時に答えた。
「――蘇る――」
その短い回答に込められた様々な想い、感情、願い……、測り知れない重みを秘めるその言葉に、魔神は――
『――我ハ慈悲ヲ与エル者――ソシテ同時ニ――災イヲ起コス神デアル――――少年ヨ――少女ヨ――――ソノ答エヲ待ッテイタ――――我ハ与エン――――――少年ヨ――其方ニハ――全テヲ切リ捨テルチカラ――ソシテ――『ミーグ』ノ名ヲ――――――少女ヨ――其方ニハ――全テヲ吹キ飛バスチカラ――ソシテ――『ライブド』ノ名ヲ――――――大切ニスルガ良イ――――――幼キ子等ヨ――今一度言オウ――我ハ――災イヲ起コス神デアル――――人ハ我ヲ――魔神ト呼ブ――――――其方等ノ生ム災イニ――我ハ期待スルバカリデアル――――――』




