【起】二人
死ぬ時は一緒に。
とある森の奥深く、ひっそりと存在するその小さな村に、そんな風にして共に誓った二人が暮らしていた。
二人はとても仲が良く、村の人間はそんな二人をまるで同じ親の元に生まれた子のようだと言った。兄弟姉妹のようだ、と。いや、もしかしたら、本当にそうなのかもしれない。彼等彼女等の絆は、それ程に強いものであった。
二人には親が居なかった。二人は親に捨てられた身なのだ。まだ二人が赤ん坊である時に、村民の一人が森で偶然見つけたのは、非常に運が良かったとでも言うべきか。それ以来二人は、村に暮らす者全員を親として、大切に大切に育てられたのである。村に住む大人達は、二人をとても可愛がった。
……故に、二人に血縁関係が有るかどうかは誰にも分からなかった。本当の親が誰なのかも、未だ判然としないままである。
しかし二人は、そんな事などまるで関係が無いとでも言うように、すくすくと成長していった。成長した二人は、それはそれは、とても、よく似ていた――
「……あっ、見て! 虹だ! ほら、あそこ。綺麗だなあ……」
そう言って男の子は空を指差した。その方向には確かに、大きな虹が豪爽と浮かんでいた。
「本当だ……綺麗……」
女の子の方もそれを見て、男の子と同じように目を輝かせている。そしてその瞳にも、小さな虹が映っていた。
今朝の雨の為に外で遊ぶ事が出来ないでいたが、思わぬ光景に二人の心も今の天気同様、サッと晴れ渡っていた。
快く、晴れ渡っていた。
「……そうだ! こんな事しちゃいられない、おばあさんに呼ばれてたんだ!」
そんな風にして空を眺めていると、不意に男の子が思い出したように叫んだ。今日のお昼頃に家に来なさい、と近所のおばあさんから言われていたのだ。お昼ご飯のお誘いである。
「そうだったわ! つい見とれちゃった。あんなに大きな虹、見るの初めてだもん」
女の子もようやく空から目を離した。ちょっと名残惜しそうな表情だ。
「そりゃ僕もだよ。感激しちゃった。……でも、今は仕方ないね、行こうか」
「うん、そうね」
二人は再び歩き出した。




