想いで神社
結び付けられた御神籤が1月の風にゆれる。その1枚1枚の御神籤には様々な運勢が書かれている。ある者は「大吉」を。そしてまたある者はその逆の「凶」を引いてしまったのだろう。御神籤を見るときの表情は人によって違い千差万別だ。
「あっヤバイ。私、凶引いちゃった」
隣で佇む洋子がそっと私の袖を引きながらそう呟く。彼女の御神籤を見てみるとたしかに「凶」と書かれていた。
「どうしよう。私の今年の運勢最悪じゃん」
別に御神籤くらいで落ち込むなよと言おうと思ったのだが、彼女の落ち込み具合を見るとそうも言えなかった。
「ちょっとあなたは?」
洋子は俺が引いた御神籤を覗き込む。ちなみに俺が引いたのは「大吉」であった。
「もうなんであなたは大吉なのよ。私悲しくなるじゃない」
この時ばかりは大吉を引いたことを後悔した。小吉とかそんな無難なヤツを引けば良かったなと思った。周りを見ると御神籤を片手に一喜一憂する人々がたくさんいる。それだけ神社と御神籤というものは参拝者にとって欠かせないものなのだろう。
「これって誰が始めたんだろうね、御神籤」
一言ポツリと呟いた後、洋子はため息を付きながら空を見上げた。その表情を見ると「凶」を 引いたことがよっぽど悲しかったのだろう。
「大丈夫だよ。日頃良い行いをしてれば悪い運勢もどこかへ逃げていくよ」
何かを言って励まさないとと思いそう声をかけたのだが彼女の機嫌は一向に良くならない。どうも書いてる内容が気になるらしく御神籤とにらめっこをしている。
「あっ、見てよこれ。待ち人は来ないだって。ちょっとどういうことこれ?最悪だよ」
「待ち人ねぇ。すぐ隣にいるのにね」
「いや、あなたは私の恋人でしょう。ちょっと変なツッコミをさせないでよね。もう」
「それならいいんじゃない?べつに待ち人来なくても。洋子の隣に恋人きてるんだし」
「あっ!そうか!」
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女はまた笑顔を取り戻した。やっと俺が言いたかったことがわかったらしい。結局のところ御神籤というのは験担ぎみたいなもので、未来が分かるものではない。未来というのは自分の力で掴むものなのだ。きっとその強い想いが形を変えて力へと変わっていくのだろう。
「そういえばさ、知ってる?この神社って願い事が叶うことで有名なんだって」
「えっそうなの?それじゃあさっそくお願いに行こうよ!御神籤早く結ばないとね」
彼女はそう言いながら結び木の方へと向かった。
参拝の帰り道、私はあえて洋子がどんな願い事をしたのかを聞かなかった。
誰かが来て御神籤を引いて
誰かが来て願い事をする。
ここは皆の想いが集まる場所。
そう、ここは想いで神社。
たくさんの願いが眠る場所