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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
9/43

クラスメイトとの決闘

 俺達は食堂に置かれたテーブルと椅子を片付け、ある程度動き回れるだけのスペースを作った。

 その理由は言うまでもなく、俺と柳が存分に決闘できるようにというディアードの配慮からだ。


「さて、両者共に準備は良いか?」


 剣を渡された俺達二人にディアードがそんな言葉をかけてくる。


 俺の方は準備もなにもない。

 こんな決闘なんてする意味がないんだからな。

 剣も無理矢理渡されて、言われるがままに柳と対峙しているという状況で、一体何の準備をすればいいというのか。


「俺の方はいつでもいけるぜ、さっさと開始の合図をしてくれよ」


 けれど俺と対照的に好戦的な姿勢を見せる柳はディアードに決闘開始の催促までしている有様だ。

 そんな様子を見て俺は「はぁ」と小さくため息を吐く。


「……お前はそれでいいのか、柳」

「いいって何がだよ」

「…………」


 こいつは本気で言っているのか。

 こいつは本気で俺と決闘する気なのか。


「決闘だぞ? もしかしたらどちらかが死ぬかもしれないんだぞ? お前は本当にそれでも戦うのか?」

「ふん、どちらかだと? もし死ぬとしたらお前だけだ。まあ俺は殺す気なんてないがな」

「そうか……」


 どうやらこいつは本気で戦う気らしい。

 だったら俺の方も気を引き締めなければならない、か。


 俺は死ぬ気などないし、柳を殺す気もない。

 けれど下手を打てば俺は死ぬかもしれないし、柳が死ぬかもしれない。


 それは……とても嫌なことだ。

 俺はもう高杉のような犠牲者が出るのを見たくない。



 ……だったらわざわざこんなことする必要もないのか?



「お主も覚悟が決まったようだな」


 ディアードが俺を見ながらそんなことを言っていた。


 覚悟なんて上等なものでもないと思うんだが、やるだけやってみるか。

 

「それでは始めい」


 そしてディアードから決闘の開始が宣言された。

 同時に柳が俺に向かって剣を構えるのが見える。


 だから俺は手を上げて――



「参りました」



 降参のポーズをとった。


 すると周囲からどよめくような声が聞こえてくる。

 傍観していたクラスメイト達は全員、俺の行動に対して唖然とした表情を浮かべていた。


「な……まだ始まったばかりだぞ! ふざけるな!」

「ふざけてなんていないさ。俺の負けでいいからこんなふざけた戦いは終わりにしようと言っているんだ」


 俺と柳が戦う意味なんてない。

 負けたところでデメリットもない。

 なら怪我をする前に降参したほうが利口というものだろう。


「……ほう。己に利がなければ争いを回避するか、18番」


 ディアードが俺の様子を見て感心したような声を上げている。

 別にこの男に感心されても嬉しくもなんともない。


「だがそれではいらぬ禍根を残すことになるぞ?」

「殺し合いをするよりはマシだ」

「ふむ」


 俺は柳を殺す気なんてない。

 なら禍根なんてどうしても残るんだから考えるだけ無駄な事だ。


「ふざけるな! 俺は認めないぞそんなのは!」


 けれど柳はそれで納得してはくれなかった。

 まあ俺が負けを認めたから何かが変わるというわけでもないから、こいつが怒るも仕方がないとは思っていたが。


「どうやら31番の方は認めないようだぞ?」

「だからどうした。この決闘はどちらかが根を上げたらそれで終了だろう?」


 決闘の終了条件がそうなっているのだから柳がどう思おうが俺の降参で決着だ。

 あまりスマートとは言えないが、これが一番平和的な解決方法だろう。


「……ふむ。それなら私にも考えがある」


 しかしここで何も解決しないまま決闘を終了させたくないのか、ディアードがそんなことを口にした。


「18番。確かお主は17番と恋仲なのだそうだな?」

「……そうだが」


 なんで俺と奏が付き合っているなんてことをこいつは知っているんだ。

 知っていても別におかしいことではないが、俺達の人間関係については興味ないものとばかり思っていたぞ。


「31番、お主は17番をどう思う?」

「え……ど、どうって……」


 ディアードが柳に訊ねると、柳は顔を赤くして目を逸らしていた。


 まあ奏は美人だからな。

 柳が彼女に気があったとしてもそこまで驚かないが、反応が正直過ぎるだろ。


「なるほど。ならばこの決闘に勝った者が17番を手に入れる、というのではどうだ?」

「「!?」」


 柳の反応を見て脈ありと判断したらしいディアードは、奏を決闘の戦利品にすると言い出した。

 それを聞いて俺はディアードに詰め寄る。


「……なぜそうなる。奏は俺達の問題とは関係ない。彼女を巻き込むな」


 俺は声を荒げそうになるのを押さえ込み、奏は無関係だと主張した。

 けれどディアードはそんな俺の声に耳を貸さず、ゆっくりと首を横に振る。


「勝たなければ守れぬものもあるということだ。お主達も教訓にせよ」

「ぐ……」


 どうやらディアードは俺が早々に降参しようとしたことがお気に召さなかったらしい。

 あの時感心していたような様子だったが、どうやらそれは俺の勘違いか。


「私に拒否権は無いのかしら?」


 そして当然奏もこんな取り決めをされて黙っているわけもなかった。

 だがこの場においてディアードが立場的に上な以上、どうする事もできなかった。


「無論、17番に拒否権は無い。抵抗も私が許さぬから、そのつもりで18番と31番は戦うがいい」

「あらそう。それじゃあ鋼には頑張ってもらわないといけないわね」

「…………」


 ……つまり奏は俺に本気でやれと言っているのか。

 彼女も一体何を考えているんだかわからないな。


 しかしここで負けるわけにもいかないということはわかる。


「……わかった。それじゃあ合図をくれ」

「フッ」


 俺が渋々その決闘内容を承諾すると、ディアードは薄く笑う。

 この男はもしかして遊んでいるんじゃないだろうか。


「それでは決闘を再開する。始めい」


 ディアードから決闘開始が宣告された。

 すると柳が若干戸惑った様子を見せながらも俺に剣を向けてきた。


「なんだかよくわからんが……とにかく俺が勝てばお前は白上さんと別れるってことだよなぁ!」

「……そういうことにもなるんじゃないか?」


 俺が負ければ奏は柳のものになる。


 その時柳が奏をどうするかは知らないが、少なくとも俺と彼女は別れるという事になるのだろう。

 ディアードの言動や俺に訊ねた内容から考えてもそれは確定だ。


「だったら悪くないな! 俺はお前が白上さんと付き合ってるなんておかしいと思ってる派だからよぉ!」

「そうか」


 まあ何の脈絡も無く突然付き合ってるという宣言だったからな。

 多少疑われるかもしれないとは思っていたことだ。


「付き合うことになったのも、どうせお前が白上さんの弱みを握ったとかなんじゃないかって俺らの間ではもっぱらの噂だぜ?」

「…………」


 ……いや、それはないだろ、いくらなんでも。


 俺ら、というのがどれほどの人数なのかわからないが、俺が奏を脅して付き合ったとか、そんなのは言いがかり以外の何物でも無いだろ。

 誰だそんな噂を流した奴は。


「だからこの戦いは白上さんを救う戦いでもある! 覚悟しろ白瀬!!!」


 柳はそう叫びながら青い光を放ち始める。

 これはこいつが加護を使用する際の光だ。


「『幻影の加護』!」


 柳がその加護を発動させると、俺の目に映る柳は五人になった。


 なるほど。

 加護の力で光る自分の幻影を四人作り出したか。

 一見するとどれが本物かわからないな。


「早いうちに降参するんだな! 無能野郎!」


 ……さっきは即降参で怒っていたくせに現金な奴だな。


 柳は五人で固まった後、俺を取り囲むように散開し始めた。

 一度固まったのはどれが本物かわからなくするためか。


「おらいくぞぉ!」


 そして五人の柳は一斉に走り出し、俺へ向けて剣を振るった。


「ッ!?」

「シッ!」


 だが俺は背後にいた柳の方へと走り、柳の手に持つ剣を剣で弾き落とす。

 その後更に俺自身も剣を捨て、そのまま目の前にいる柳に殴りかかった。


 確かに『幻影』で作られた柳は本人そっくりだったが、音までは再現できていなかった。

 それに本人以外表情が硬い上に動作もぎこちなく見える。多分一体一体操作するのも難しいのだろう。


「前から思ってたことだが、人のことを無能と言う前にまず自分の力を磨くべきじゃないのか」

「ぐっ!?」


 俺の拳を顔面に貰った柳の足がふらついている。


 それを見た俺は柳へと近づいて足払いをした。

 するとうつ伏せに転んだので柳の背に足を乗せて右腕を取り、肘関節を極めた。


「参ったと言え、柳」

「だ、だれがそんなこと――」

「……じゃないともっと痛くなるぞー」

「いだだだだだだだだだだだだだ!?」


 もうこんな状況になってしまえば『幻影』ではどうしようもない。

 後は自力が物を言う。


 これでも俺は少し怒っている。

 なのでクラスメイト相手だろうが容赦しない。


 俺はなかなか降参しない様子の柳に関節技を極め続けた。


「早く降参しろー」

「ぐ……ま、参った……」


 けれどそれも一分程度の事だった。

 抵抗らしい抵抗もできずにいた柳は結局降参の意思を示してきた。


 その言葉を聞いて俺は柳を離し、「ふぅ」と一息つく。


「あっけないな、31番。だが己の加護を過信しすぎたための惨敗だ。仕方あるまい」


 すると今度はディアードからそんな厳しい言葉が柳に降りかかる。

 柳の敗因を過信であるとディアードは断言した。


 確かにその通りだ。

 知能の低い魔物相手ならある程度の効果もあったのかもしれないが、よく見ればあっさり看破できる程度の加護であったことに気づかず、柳は俺に『幻影』を使った。

 それによって俺が柳を見失ったと勘違いしたからこそ、俺の攻撃が柳にすんなりと通ったと言える。


 柳がもう少し用心深ければ、あるいは加護をより上手く使いこなせていれば、こうも簡単に倒す事は出来なかっただろう。


 だが勝ちは勝ちだ。

 俺は立ち上がって柳と目を合わせる。


「奏は俺の女だ」


 そして俺は告げた。

 奏は俺の物であると。誰にも渡さないと。俺はこの場にいる全員に向けて宣言した。


 これくらいはしておいたほうがいいだろう。

 どうも柳を含めた何人かは俺が奏と付き合っていることに懐疑的な様子だし、ここで念のために釘を刺しておく。

 奏にここまでする義理はないが、今回のとばっちりを受けたことによる謝罪の意味も兼ねての行為としては悪くない。


「随分と嬉しいことを皆の前で言ってくれるじゃないの、鋼」


 俺の宣言で場が静まり返ったところへ、今度は奏の声が響き渡る。

 よく見ると奏の顔は何か嬉しいことでもあったかのような微笑を含んでいた。


 だが、それを見て柳が忌々しそうな顔をしながら俺達へ声をかけてくる。


「なあ……ぶっちゃけお前らって本当に付き合ってんのか? 俺にはどう考えてもそうは思えねえよ」

「あら、どうしてかしら?」


 柳の疑問に奏が疑問で返した。

 まあ俺には柳の思っているであろう事が大体想像できる。


「だってよ……お前らって学校では全然話すそぶりもなかったじゃねえか。なのにいきなり付き合ってるなんて言われても納得できるかよ」


 まったくその通りだ。


 学校に通っていた頃の俺と奏は録に接点もなかった。

 苗字が若干似ていることから学校の雑用で一緒になる程度が精々。

 そんな俺達がいきなり付き合いだしたというのはどう見ても不自然だ。


「ここにいる奴らは全員疑ってるぜ? 最近はよく一緒にいるところを見かけるけどよ、それも恋人というより友達って感じだし」

「そうそう。ここに来て一週間は経つけど、白上と白瀬がカップルっぽいことしてるとこなんて見たことないよな」

「ホントにカップルだってんならチューくらいしてみろってんだ」

「おいおい……」


 チューしてみろて。

 小学生かお前は。


 俺は柳達三人の言葉を聞き、ややげんなりとした気分になっていった。


「あら、そんなに見たいの?」

「え?」

「なら見せてあげるわ」

「奏? 何を言って――」


 だがそんな俺の気分に構うことなく、奏はスッと寄り添ってくる。


「んぐっ……!?」



 そして奏は俺に腕を絡め――俺の唇に唇を重ねてきた。 



 しかもそれは唇同士を触れさせるだけというようなついばむキスではなく、舌同士を絡ませるディープなキスだった。


 奏の舌が俺の口中を舐めとるように動き回り蹂躙する。

 時折歯と歯が当たるが気にならない。


 そんなことを突然された俺は思考が真っ白になって体が動かせない。

 俺は奏の舌を無抵抗のまま受け入れることしかできなかった。


「……はぁ……ん……これでいいかしら?」


 奏は俺の口内から舌を戻して唇を離すと、俺に腕を絡めて抱きついた状態のままで柳達に目を向ける。

 口元から垂れる唾液をぺろりと舌で舐めとる仕草が艶かしい。


 そんな中、俺は上気した表情で流し目をする奏の色気と、密着していることで胸元に当たる柔らかさを意識しないよう必死に努めていた。


「……え?」

「『え?』じゃないでしょう? 君が言った事じゃないの。チューしてみろって」

「あ、ああ……」


 チューしろと言った張本人である多田野は奏の迫力に圧されてしどろもどろな声を出していた。

 けれど奏はそれを肯定したという意味で捉えなかったようで、俺との密着度合いを更に高める。


 おまけに奏は右手をするすると下腹部へと移動させ……


「それとも……これ以上のことが見たいのかしら?」

「「「…………!!!」」」


 ……俺の股間付近を優しく撫で回してきた。


 奏は柳達へ見せつけるようにして俺のを服越しにスリスリと触り続ける。

 もはや俺は全身が硬直状態で、動揺が顔に出ないようにするので精一杯だった。


「わ、わかった……わかりました……それ以上はしなくていいです……」

「あらそう? ちょっと残念ね」


 多田野は心が折れたかのように敬語口調で答えると、奏は微笑を浮かべつつ俺から離れていった。


 ……と思ったら奏は俺の腕に腕を絡ませてきた。

 俺はもうされるがままという状態で、そのまま奏に引っ張られて歩き出す。


「ならいつまでもここにいる必要はないわね。訓練所の方へいきましょ、鋼」

「……ああ」


 時間的にももう次の訓練を始める頃だったからか、奏は俺を連れてさっさと食堂から出て行く。

 退出する直前にちらりと背後を見ると、クラスメイト達は全員ポカンとした表情をしていて、まさに呆気にとられたというような状態だった。






「……さっきのはやりすぎじゃないか?」


 食堂から少し離れたところまで移動し、周囲に誰もいない事を確認した俺は、今の行為について奏に訊ねた。


「そうかしら?」

「……あれは明らかにやりすぎだろう」

「でもその前に君が言った事もなかなか大胆じゃなかったかしら? 『奏は俺の女だ』って」


 まあ確かにそうなんだが……

 でもそれは俺なりに考えがあってのことだ。


 それに俺がしたのはあくまでフリであって行動が伴ったものではない。


「だがあれは奏のしたことと比べれば大したことじゃない。なんであんなことしたんだ」

「あら? 触った様子だと結構感じていたようだけれど、もしかしてイヤだったかしら?」

「そういうことじゃなくてだな……」


 感じてたとか恥ずかしい事言うなよ。

 あとイヤだったかイヤじゃなかったかという問題じゃないだろ。


 恋人のフリをしているとはいえ、普通好きでもない男にキスなんてしない。


 しかもクラスメイト全員に見せつけるかのように、あんな濃厚な……


「フフッ、思い出しちゃったかしら? 顔が赤くなっているわよ?」

「うるさいな。だからそうやって問題をはぐらかすような――」


 と、俺はその時、奏の口の端に唇とは違った赤みがあることに気づいた。


「奏、なんか口から血が出てないか?」

「え? ……あ」


 俺はそれを血だと判断して聞いてみると、奏はポケットからハンカチを取り出して口に当てる。

 どうやら当たりだったらしく、そのハンカチには血が付着していた。


「……慣れない事はするものではないわね」


 つまりさっきのキスでうっかり口内を切ったらしい。

 何をやってるんだ彼女は。


 というか、慣れていないと言う事は、もしかして奏はあれがファーストキスだったんじゃないだろうな?

 もしも初めてだったのなら尚更さっきの行動はまずいだろう。

 奏が何を考えているのか全然わからない。


「ちなみに慣れていないといっても、私のファーストキスは去年にもう済ませてあるわよ」

「……あっそ」


 ……なんだ。

 初めてじゃなかったのか。




 …………って何ちょっとガッカリしているんだ俺は。


 別に奏が誰とキスしていようがどうでもいいだろ。

 俺と奏は恋人のフリをしているのであって本物の恋人ではないんだからな。


「お相手は可愛らしい女の子だったわ。あの時の出来事は私の一生に残る思い出ね」

「女の子って……」


 同性とのキスはキスとしてカウントされるのだろうか。

 もしかして奏はそっち系の趣味があるんだろうか。

 まあいい。


 俺は奏のそんな発言を聞き、胸を撫で下ろした。


「…………」


 俺は心の中でホッとしてしまっていた。

 その事実を認識した時、俺はどうしようもなく自分が嫌になった。


 奏は俺が無害そうだと言っていたが、これじゃあ俺はただの惚れやすい軟派男じゃないか。

 たかが一回のキスで何を動揺しているんだ。

 平常心を保て、俺。


「随分焦っているようね。キスはあなたもこれが初めてではないでしょうに」

「? いや、残念ながらこれが初めてだ」


 ……何いきなり俺を買い被るようなことを言い出しているんだ奏は。


 俺は今まで女性と付き合ったりキスをした事は無い。

 絶対に無い。


「…………」


 けれど俺が奏の言葉を否定すると、彼女は俺の目をじっと見てきた。


「……なんだその目は?」

「別に、何でもないわ」


 ……なんなんだ。

 いかにも何か言いたそうに見えたが、それは俺の気のせいか?


「それよりもお腹すいたでしょう? これをあげるから早く食べちゃいなさい」

「……パン?」


 奏はハンカチを口に当てたままそっぽを向くと、服の下から昼食にあった硬いパンを取り出して俺に押し付けてきた。

 けれどそのパンは両サイドから押し潰されたかのようにペシャンコなうえに人肌で温かくなっていた。


「……なんか潰れててしかも妙に生温かいんだが」

「……さっきまでお腹に隠してたし、君に抱きついた時に潰れたのよ。気持ち悪かったら無理に食べなくてもいいわ」

「いや、食べるよ。ありがとう」


 確かに今の俺は空腹状態だ。

 もう昼食の時間も過ぎているし、床にぶちまけてしまった食事の代わりを貰えるかどうかもわからなかった。


 だからこのパンは奏が俺のために残しておいたものなのだろう。

 それならその厚意を無駄にするわけにはいかない。


 俺は平べったくなって更に硬くなったパンをもそもそと食べ始める。

 ただ飲み物は欲しかったな。




 こうして、ある日の食堂で起こった俺達の騒動は終わりを告げた。

 まだ柳達とは確執があるものの、俺が勝ったという事であいつらもしばらくは落ち着きを見せるだろう。



































 と思っていた。

簡易人物紹介


勇者番号1  相沢良人あいざわりょうと、イケメン、加護判定A

勇者番号11 黒川くろかわ、加護判定A、ディアード達から特別視されている

勇者番号15 坂本さかもと、不良、加護判定A

勇者番号17 白上奏しらかみかなで、主人公の恋人(嘘)、加護判定A【神速の加護】

勇者番号18 白瀬鋼しらせこう、主人公、加護判定無し

勇者番号20 曽我そが、柳の友人その1、加護判定B【早足の加護】

勇者番号21 高杉陸たかすぎりく、草食系男子、『生き残る』にて主人公の目の前で死亡、加護判定D【補聴の加護】

勇者番号22 多田野ただの、柳の友人その2、加護判定B、【強化の加護】

勇者番号25 葉山咲はやまさき、主人公にラブレターを渡した、主人公とは未だ話す機会がない、加護判定A

勇者番号28 水谷正太郎みずたにしょうたろう、若干オタク、最近調子に乗っている、加護判定A【龍炎の加護】

勇者番号30 八木春香やぎはるか、『実戦訓練』にてディアードから死亡と告げられる。

勇者番号31 柳賢やなぎけん、何故か主人公を敵視している、加護判定B【幻影の加護】

勇者番号35 竜崎結りゅうざきゆい、ギャル系

勇者番号36 綿貫楓わたぬきかえで、転校生、加護判定C

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