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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
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悪者の決め方

 高杉を含めた三人のクラスメイトが死んでから一日経過した。

 これで四人が犠牲となった事により、俺達の雰囲気にも変化が生まれ始めた。 


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 朝の基礎鍛錬が終了し、昼食を取るべく食堂へと集まった俺達の空気は重かった。


 無理もない。

 昨日の実戦訓練はここにいるクラスメイトの大多数が苦戦したようなのだからな。


 Aグループは全員無傷だったようだが、B、C、Dグループは結構な数の負傷者が出た。

 一応命に関わるほどの重傷者はディアード達の魔法(正確には法術というらしいが、俺にはその違いがわからない)で全快している。

 けれど、既に死んでしまったDグループの二人、それに俺と組んでいた高杉はどうあっても俺達のところへ帰ってくる事はなかった。


 そして今日もまた午後から昨日と似たような実戦訓練を行わされるのかもしれない。

 つまり今日もまた俺達の中の誰かが死ぬのかもしれない。


 そう考えているであろうみんなのことを思うと、この空気も仕方がないと考えるしかなかった。


「…………」


 俺は給仕役の男からトレイを受け取り、いつも座っている奥の席へと進む。

 ここ最近は同じDグループ同士ということもあってつるんでいた高杉が俺の隣を歩いていたはずなのに、今はもういないということを考えると無性に寂しく感じてしまう。


 少し前まで一人でも特に寂しいと思ったことはなかったのにな。

 高杉が何を思って俺とつるみだしたのかは知らないし、知る機会も失ってしまったが、寂しいと思ってしまうという事はつまり、俺はあいつがいたことで救われていたのだろう。


 そんなことを考えながら、俺は前を見ているようで見ていないというような、ボーっとした足取りで歩き続ける。



 するとその時、俺の足に何かが引っかかった。



「うっ……!」


 俺は体勢を立て直せずその場に転がり、トレイに乗った食事も床にぶちまけてしまった。

 一体何に躓いたんだ?と思い、俺は後ろを見る。


「おいおい、何すっ転んでんだ無能。危うくメシが俺にかかるところだったじゃねえか」


 そこには冷淡な目をした柳が椅子に座りながら俺を見下ろしている姿があった。


「勘弁しろよな。メシの時間だって限られてんだから、俺らに迷惑かけんじゃねえよ」

「さっさとこぼしたの片付けろよ邪魔くせーな」


 柳と同じ卓に座っている曽我、多田野も俺にそんな言葉をかけてくる。


 ……こいつらわざとやっているな。

 今俺の足に引っかかったのはおそらく柳の足のようだし、曽我、多田野は顔をニヤつかせていやがる。


「……まあいい」


 この三人には何か言ったほうが良いのかもしれない。

 しかし俺はこいつらを無視して、ひとまずこぼしてしまった食事を片付けるべくバケツと雑巾を借りにいった。


「? どうしたの?」

「…………」


 その途中、奏から声をかけられた。


「トレイ落としちゃってな、その掃除」

「あら……手伝おうかしら?」

「いや、奏達は先に食っててくれ」

「……そう」


 が、それも俺は軽く受け流す。

 手伝いたそうな様子ではあるが、複数人でやってもそこまで効率的ではないからな。


 そして俺は一人で床を拭き始める。

 その横では柳達がまだぶつぶつ何か文句を言っているが気にしない。


 この程度のことならわざわざ怒るまでもない。

 柳が足を引っ掛けたという確証もなく、もしかしたら俺が一人で勝手に転んだだけかもしれないしな。

 俺が勝手に転んで床を汚したのなら、カンジ悪いと思うけれどこいつらが文句を言うのも無理はないさ。


 だから俺は特に怒る事もなく――


「……ぐっ!?」

「…………」


 ……顔に何か汁のようなのが飛んできた。


 俺は顔を上げる。


 柳と目が合った。

 手にはスープを飲むためのスプーンが握られていた。


「…………」

「…………」


 しばらくすると柳は目を逸らし、そのままスープを飲み続けていた。


「…………」


 今のはわざとだよな。

 わざとこいつは俺の顔にスープをかけてきたんだよな。

 つまり、さっき足をかけてきたのもやっぱり俺の勘違いじゃなく、こいつがわざとやったってことだよな。


 この場合どうするか。


 こいつが何を思ってこんな事をしているのか、この場で問い詰めてみるか?

 さっきまでの一連の行為に謝罪を要求してみるか?

 問答無用でぶん殴ってみるか?


「……はぁ」


 ……いや、やはり怒る気にはなれないな。


 こいつがこんなことをするのはこの環境が悪いんだ。


 俺達がここに着てから早くも一週間経っている。

 そろそろ精神的に限界がきているのだろう。


 だったらこの程度の事、広い心を持って許してやろうじゃないか。


 そう思って俺は掃除作業に――


「おい、さっきからてめえ、何してんだ」

「さ、坂本……?」


 と、俺が特に何もしないでいると、坂本が俺達のところへやってきて柳にガンを飛ばし始めた。


「さっきから見てりゃあ随分気にいらねぇことしてんじゃねぇか、柳ぃ」

「な、なんだよ。お前には関係ないだろ……」

「ああ、関係ねぇな……関係ねぇけどよ……」


 坂本はそこまで言うと柳の胸倉を掴む。


「なんかムカついてきたからちょっとぶん殴らせろや」

「ガッ!?」


 そして坂本は拳を握り締め、柳を盛大に殴り飛ばした。

 柳はそのままの勢いでテーブルに叩きつけられる。


「ちょ! さ、坂本、落ち着け!」


 坂本が突然暴力を振るったところへ更に相沢が駆けつけてきた。


「邪魔だ! どけ! 相沢!」

「待ってくれ! こんな騒ぎを起こしたらあいつらが来てしまうぞ!」


 あいつらとはつまりディアード達の事か。

 それなら割り込んでくるのが一歩遅い。


 もしもこの騒動を止めたかったら、相沢は坂本が柳に絡む前、つまり俺と柳が睨みあっている時にくるべきだった。

 それは俺個人の心情としてもそうしてほしかったところだが、あまり期待し過ぎても良くないか。


 こんな時でも止めにきてくれただけ、他のクラスメイト達より相沢は俺達の事を気遣ってくれている。

 流石イケメンだ。


「一体なんの騒ぎだ貴様達!」


 けれどそんな相沢の行動も無駄に終わり、もはや隠しきれないこの騒ぎを発見した監視役の覆面男が俺達のところへ駆け寄ってきた。


 しかもそれを見た坂本は怯む事なく怒鳴りつける。


「これは俺たちの問題だ! てめえらはすっこんでろ!」

「ぐ……おい! レイヴン卿をお呼びしろ! 大至急だ!」

「ハッ!」


 騒動を起こしているのが坂本であることを理解した監視役は部下らしき奴に命令を下していた。


 この監査役では坂本を抑えつける事は出来ないということか。

 一体何のための監視役なんだ。


「……いきなり殴るとか、酷いマネしてくれるじゃねえか! 坂本!」

「てめえがアホなことしてんのがワリぃんだろが!」

「なんだよ! お前だって本当は疑ってんだろ!」


 ……疑ってる?

 一体何の話だ?


 俺が柳の言葉に首をかしげていると、坂本が静かにその答えを言った。


「……白瀬が高杉を囮にしたっていうあれか」

「そうさ! お前だって高杉が死んだのに白瀬は無傷で戻ってきたことを変だと思ってるんだろ! ここにいる全員が思ってることなんだからよ!」

「な……」


 俺が……高杉を囮に使っただと……?

 いつの間にそんな噂が流れていたんだ……?


 ……ふざけるな。


「……俺は……そんなことしていない」

「だったらなんでお前は無傷だったんだ! どう考えてもおかしいだろ!」

「…………」


 俺が無傷……か。


 確かにあの時、俺はあのオオカミ四匹を相手にして負傷しなかった。

 それは運が良かっただけともいえるが、一番の理由はオオカミ共が高杉を優先的に攻撃したからだ。


 そしてオオカミ共が高杉に群がっているところを俺は一匹ずつ仕留めていった。

 だがそんな戦闘になったのは、高杉を囮に使う気があって起こったわけではない。


「…………」


 ……しかし、結果的に見れば俺は高杉を囮にしたとも言えるのではないだろうか。


「だんまりか。つまりお前もやましい気持ちがあるってことだな? 高杉を見殺しにしたっていうやましい気持ちがよぉ!」

「! 違う! 俺は見殺してなんていない!」

「嘘をつけ! お前の言うことなんか聞くもんか!」


 俺は否定するが柳はそれを信じてくれない。

 状況的に俺が高杉を見殺したと疑われても不思議ではないが、こいつにとって俺が高杉を囮に使った、見殺したというのは確定事項らしい。


 しかも周囲を見回すと、俺を疑うような目をしたクラスメイトが大多数を占めていた。




 ……なんだ、これは。


 確かにあの時の俺がもっと上手く戦えていたら高杉は死なずに済んだかもしれない。


 けれどあの時の俺はあれが全力だった。


 必死だった。


 高杉を助けたかった。


 俺は高杉を助けようと、必死に足掻いた。



 ……なのに高杉は死んでしまった。



 高杉は俺を残し、一人で死んでしまった。


 それが……悪かったのか?



 俺は……高杉と一緒に……死んでいればよかったのか……?



「お前は人殺しだ! 仲間を見捨てたクソヤロウだ!」

「な……」

「そうだ! お前は高杉を見捨てたんだ!」

「ちが――」

「最近高杉と仲良かったと思ってたのによ! いざとなったら平気で裏切る奴だったんだな!」


 俺が弁解しようとするも、柳達は聞く耳を持たない。

 柳達は厳しい口調で俺を責めたて続ける。


 これじゃあ完全に俺は悪者だ。

 俺を見るクラスメイトの視線も痛い。

 中立な立場らしき相沢も、さっきまで俺の味方寄りな行動をしていた坂本も、口を開かずにじっと俺を見ている。


 そんな中、針のむしろに座らせられたかのような思いを受けた俺は何も言えずに柳たちの罵詈雑言を聞き続けていた。


「……がぁ!?」


 しかしそんな時、突如呼吸ができなくなった。

 それに加え体の自由も効かなくなり、俺はその場に倒れる。


「ぐぅ!?」

「か……は……!」


 これはどうやら坂本や相沢、それに柳たちも同様だったらしく、あいつらも苦しみながら倒れていく姿が目に映った。


「一体何の騒ぎだ?」

 

 そしてディアードの声が俺の頭上から聞こえてくる。

 すると首元を締め上げるような苦しみが消え、正常な呼吸ができるようになった。


 この状況から察するに、ディアードは仲間からの報告を受け、俺達を止めにやってきたのか。

 息は出来るようになったものの、体は動かないままということからも、この男が俺達を鎮圧するために来たのだという事を物語っている。


 だが俺達を止めるのにわざわざこの男が出向かなくてはいけないのか?

 他の誰かが俺達の首輪を操作すればそれで終わりだろうに。


「ゲホッゲホッ……おい、おっさん……てめえまでしゃしゃり出てくんじゃねえよ……」


 坂本が若干むせながらも、ディアードに向かってそんなことを言う。

 この程度のことをされたくらいでは坂本も屈服しないようだ。


「仕方なかろう。こんな騒動を起こされても困るのだよ」

「……んだよ。てめえは俺たちが殺し合えばいいとか思ってんだろ?」

「ああ、思っているとも。しかし食事時や就寝時は勘弁願いたいものだ。私も人の子なのでね」


 つまりこの男も食事はするし眠りもするからその邪魔をするなということか。

 今も食事中だったのを中断してここに着たんだろう。若干不機嫌そうだ。


「……だがお主達もこのままでは治まりがつかぬのだろう。今回の騒動を引き起こした張本人は誰と誰だ?」


 ディアードがそう言うと、クラスメイトの全員は俺と柳に視線を向けた。

 まあ発端は確かに俺達だが。


「ほう、18番と31番か」


 俺達の方を向くとディアードは口元を歪ませつつ言葉を続ける。


「ならば18番と31番で決闘を行え。生死は問わん。どちらかが先に根を上げるか、もしくは死ぬまで存分に戦うがいい」

「決闘……だと……」

「……上等だ。俺の強さを存分に見せてやるよ、無能」


 ディアードのそんな提案、もとい命令に俺は驚きの声、柳は戦う意思の篭もった声を上げた。


 こうして俺はクラスメイトとの決闘を余儀なくされた。

白瀬鋼しらせこう

体力B-、筋力B-、頑丈D、敏捷C、精神D+、総合評価C 加護判定無し


柳賢やなぎけん

体力C+、筋力C-、頑丈B-、敏捷C-、精神C、総合評価C、加護判定B『幻影の加護』


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