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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
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実戦訓練

「実戦訓練だと?」

「そうだ」


 昼飯を食べ終わった俺達は一つの大部屋へと移動させられ、そこにいたディアード(宮廷法術師とか名乗ってたが毎日俺達と顔を会わせる。暇なんだろうか)から実戦訓練を始めると告げられた。


 だが突然実戦訓練などと言われても困る。

 案の定坂本が睨みを利かせながら詰め寄った。


「おっさん。前も言っただろうが俺たちは殺し合いなんてまっぴら御免だからな。あんま俺たちを舐めんなよ」

「今はそれでもいいだろう。それと勘違いをするな。今回の実戦訓練で戦う相手は人ではなく魔物だ」


 魔物だって?

 そんなものもこの世界にはいるのか。


「魔物ってなんだよオッサン」

「ふむ、魔物とは魔素を多く取り込み異形化した生物の成れの果てだ。そして魔物は善良な人々を襲い喰らう。お主達が勇者として活躍する際にも度々目につくだろう」


 つまり人間にとっては害虫のようなものか。


 人を襲うという事は獰猛な肉食動物なのだろう。

 危険極まりない存在だな。


「それを俺たちと戦わせようってか?」

「その通りだ。今のお主達なら問題なく戦う事が出来るだろうからな」


 ……まあ確かに今の俺達は全員、元の世界のトップアスリートを優に超える身体能力を秘めている。

 魔物がどれだけの強さなのかはわからないが、ここで俺達を監視している連中の手に負えるレベルであるのならなんとかなるだろう。


「さあ、それではお主達が相手をする魔物のお披露目といこうか」


 そしてディアードは傍に控えていた男に手で合図を送り、背後の扉を開けさせた。

 するとその扉の奥から、二足歩行であるものの身長が俺達よりだいぶ低く、肌が茶色で鬼のような形相をした生き物が鎖に繋がれた状態で現れた。


「ゴブリンと呼ばれている魔物だ。お主達にはこのゴブリンと一対一で戦ってもらう」


 ゴブリン、か。

 見たところそこまで強そうには見えないが――


「ギャギャギャギャギャ!!!」

「「「!?」」」


 ……前言撤回、やっぱ怖いわ。


 あんな生き物は創作物の中くらいでしか知らないし、俺達を見て笑う姿はとても不気味だ。


「それでは1番から始める。他の者は呼ばれるまで退室せよ。それと公平を期すために訓練を終えた者は今回の戦闘情報を後続者に流さぬよう留意せよ」


 ディアードが俺達に命令を下し、出席番号1番にして奴隷番号1番の相沢だけがその場に残り、俺達は一旦外に出ることとなった。


「チッ……バケモン相手だってのはまだマシか」


 部屋の外に締め出された坂本が悪態をついている。

 まあ俺も人相手じゃなくてホッとしてはいるんだが。


 だがあの魔物は人型だ。元の世界でも行われているような狩りとは別物といっていいだろう。

 こういうところからジワジワと俺達の感覚を麻痺させていく腹積もりかもしれない。


 それに俺は必要であれば動物を殺せる(勿論人間を殺すのは却下)と思うが、他のクラスメイトもそうであるとは限らない。

 生きた動物を殺すのに抵抗があると言う奴もいれば、血を見るだけでも嫌だという奴もいるかもしれない。

 そういった奴はもしかしたらこの戦闘訓練は厳しいかもしれない。


 と、俺がそんな事を考えていると、さっきまで俺達がいた大部屋のドアが開いて相沢が出てきた。


「「「!?」」」


 相沢は全身血だらけだった。

 それを見た俺達は驚きの声を上げる。


「いや、大丈夫……これは返り血だから」


 返り血……つまり相沢はあのゴブリンをもう殺したのか。部屋から出てきたということは戦闘が終了したって事だし。

 まだ俺達が退室して数分しか経っていなかったが、流石はAグループということか。


「次、2番は部屋の中へ」

「よ、よし、それじゃあいってくる」


 部屋の中からディアードの声が聞こえる。

 それに答えた奴隷番号2番の雨宮さんが気合を入れて中へと入っていく。


 そしてその後も順々にクラスメイトが戦闘を終えていき、二時間程が経過したところでついに俺の番が回ってきた。


「鋼、気をつけて」


 勇者番号17番として今戦闘を終えてきた奏が俺に声をかけてきた。


「あ、ありがとう、奏」

「……一度深呼吸してからの入室をお勧めするわ」


 ……どうやら知らず知らずのうちに体がガチガチになっていたらしい。

 俺は奏に言われた通りその場で深呼吸し、緊張を和らげてから入室した。


「ギャギャギャギャギャ!!!」

「…………」


 部屋へ入ると目に付いたのは、床に散乱した赤い血の痕とゴブリンの死体を撤去しつつ武器を複数置く覆面連中、それに部屋の奥から新たに運び込まれたゴブリンの姿だった。


 というかこの部屋物凄く血の臭いが充満していてつらい。

 できることなら早めに外へ出たいな。


「それではこれより勇者番号18番の戦闘訓練を開始する」


 部屋の隅にいたディアードがそう言うと、ゴブリンの動きを拘束していた鎖から光が溢れてジャラジャラと床に落ちていった。

 拘束具も魔法の一種だったという事か。


 そんな事を考えていると、自由を取り戻したゴブリンは床に置かれている短剣を手にとって俺の方へと走ってきた。


「武器使うのかよ!」


 思ったより利口なゴブリンを目にして舌打ちしそうになるのを我慢し、俺も近くにあった短剣を左手で取る。

 そしてゴブリンが剣を俺に向かって振り下ろすのを見て一歩下がった。


「ギャギャギャギャギャ!!!」

「くっ!」


 このゴブリンというのは利口なだけではなく案外素早いようで、下がる俺に追従しながら剣を振るい続けてきた。


 だが俺もこんなところで負けるわけにはいかない。

 ゴブリンが腕を大降りしたところを見計らい、俺は短剣を持つ奴の腕を切りつけた。


「グギャッ!」


 その攻撃でゴブリンの手から短剣がすっぽ抜けて武器がなくなった。

 ならば今が攻め時と思い、俺はゴブリンに向けて再度短剣を振ろうとする。


「!」


 けれど俺はゴブリンの爪が目の前に出てくるのを見て、思わず飛び引いた。


 なるほど。

 ゴブリンの攻撃手段は武器だけじゃなかったという事か。

 今見た奴の爪はそれなりの鋭さを持っていたように感じた。

 しかも結構でかい。ひっかかられたら爪痕が残るを通り越して抉られる。


「はあっ!」


 だが短剣の有無は大きい。

 俺の持つ短剣はゴブリンの爪よりもリーチがある。


 ゴブリンのひっかく手を短剣で切りつけ、ひるんだところを狙ってあっさりと胴体へ刃を突き刺した。


「ギャギャ!?」

「うらっ!」


 そして俺は柄を強く握り、そのまま腹を掻っ捌いた。

 ゴブリンから血が噴き出し、俺の顔にまで付着する。


「ぐぅ……!」


 俺は咄嗟にゴブリンから距離をとって顔を袖で拭う。


 目に入らなかったのは運が良かった。

 しかしこうして一瞬ゴブリンから目を離してしまったことに、俺は生きた心地がしなかった。


 けれど俺が再び前へと目をやると、ゴブリンはその場で倒れていた。


「そこまで」

「…………」


 ディアードの声が部屋に響き渡る。

 それは俺がゴブリンを殺したということを告げる終了の合図だった。


「……はぁ、はぁ」


 それを理解した時、俺は荒く呼吸をしながらも今の戦いを振り返る。


 多分傍から見たら俺はゴブリン相手に余裕で戦えていたように見えていただろう。

 結果的に俺は無傷だし、最後の血飛沫を貰う以外で危なげなところは一切なかったように思う。


 だが恐ろしかった。

 本気で殺そうとしてくるゴブリンに、俺は恐怖心を抱いていた。

 だから必死だった。自分が生き残るために、俺は必死で戦った。


 その結果俺は生き、ゴブリンは死んだ。

 無用な殺生をしたことに罪悪感を抱いているわけではないが、既に動かなくなった死骸を見ると思わず顔を歪めてしまう。


「『勇神の加護』無しでこれほど鮮やかに斃すとはな。見事だ、18番」

「……そりゃどうも」


 こんなことで褒められたくはない。

 俺はこの場から一刻も早く離れるべく、早足でクラスメイトの下へと戻っていった。


「どうやらあなたも無事だったみたいね、鋼」

「……待っていたのか」


 髪とかここで支給された服は血だらけだが、俺の様子から何の怪我も負っていないのを察したらしい奏はホッと胸をなでおろしていた。


 さっきも俺の事を気遣ってくれていたし、彼女は俺を大分心配しているんだろうな。

 『勇神の加護』で弱い加護しか得られなかったDグループの中でも俺は加護そのものが無いという地雷男だし、クラスメイトで誰が一番死にやすいかと問われたら俺が筆頭で上がってくる。


「加護が無くったって俺は簡単に死んだりしないさ」

「それならいいのだけれど」


 まあ恋人役があっさり死なれても困るだろう。

 俺が死んだら傷心中だと勘違いされた奏に言い寄り男がアタックを仕掛けるかもしれないし。


 そんなことを思いつつ、俺は勇者番号19番の周防さんが部屋に入っていくのを見送りながら、髪や服にかかった血をなんとかするべく奏と一緒に訓練修了者の部屋へと移動していった。


 その後、体を水と布で綺麗にして新しい服に着替え終えた俺達(風呂とかは無いが男女別々の着替えスペースがあるのはありがたい)はゴブリンとの一戦を終えたクラスメイトが部屋に増えていくのを見守りつつ、それからさらに2時間程が経過した。 

 今この部屋にいるクラスメイトは34人。そして最後の奴隷番号37番である転校生が明るい調子で俺達のいる部屋に入ってきた。


「いや~怖かったですね~。あのゴブリン普通に武器使ってきてビックリしちゃいましたよ~」

「「「…………」」」

「……あれ? どうしちゃったんですかね皆さん?」


 明るい転校生とは対照的に、俺達の部屋は沈鬱な空気が支配していた。


「……綿貫さん。八木さんを見なかったかい?」

「へ? 八木さん?」

「勇者番号30番の八木春香(やぎはるか)さんだよ」


 相沢が転校生に八木さんのことを訊ねている。

 これは勇者番号31番の柳が八木さんより早くこの部屋に戻ってきたために疑問となったことだ。


 柳はゴブリンのいる部屋から八木さんが出た様子はなかったと主張し、その後に続く山寺、遊佐さん、芳野、竜崎さんも八木さんを見なかったらしい。

 つまり八木さんが消えた。彼女だけこの部屋に来ていないという事態になっていった。


「う~ん……多分見てないですね。八木さんとはまだあんまり話したこともなくて顔もうろ覚えなので、確証をもって言えるわけではないのですが」

「そう……」


 基本的にさっきまでの俺達は、自分の番号に前後するクラスメイトくらいしかゴブリンの部屋に入るところを注視していなかった。

 中には友達やら恋人(?)を待っていたりして部屋の前で待機していた人もいたけれど、そうじゃなければいつまでも部屋の前に突っ立っていたわけじゃない。


 俺だって相沢以降、自分の番がくる少し前までは筋トレして時間を潰していたからその間のクラスメイトをあまり見ていなかった。


「……ということはやっぱり八木さんはゴブリンに……?」

「おい水谷。滅多なことを言うな」


 俺達があまり考えたくなかった事を水谷が言い、それを高杉が制止させた。

 八木さんがゴブリンのいる部屋から出てこなかったと柳が言っている以上、その可能性が最も高いというのは承知している。


 けれど俺達は認めたくなかった。

 八木さんが……死んだかもしれないだなんてことは。


「初めての実戦訓練はどうだったかね? 勇者候補諸君」


 そして俺達のいる部屋にディアードが現れた。

 奴は俺達が重苦しげな表情となっていることで察したのか、そのまま言葉を続けてきた。


「諸君もわかっていることだろうが、今回の訓練で初の死者が出た。死者は勇者番号30番だ」

「「「!!!」」」


 勇者番号30番……つまり八木さんが死んだ。

 ディアードは業務報告かのように、俺達に淡々とその事実を伝えてきた。


「30番はゴブリン相手に恐怖を抱いたのか、その場から禄に動けず死んでいった」

「「「…………」」」


 ……この野郎。

 人が死んだってのに、まるでどうでもいいって面をしてやがる。

 俺達が一人二人死んだからといって、こいつらはそこまで気にする事態ではないということか。


 だが俺にしてみても歯を強く噛み締める程度で、泣くほどの驚きや悲みを抱いているわけじゃないからあまり人の事は言えないのかもしれない。

 俺にとって八木さんはただのクラスメイト。何かを話したという記憶もほとんどない。


 けれど、それでも俺達の中から死者が出たのは事実だった。

 クラスメイト達も八木さんが死んだ事に対して、泣き崩れる者、床を蹴って怒りを紛らわす者、何も言わずに拳を握り締める者、ただただ呆然とする者と様々な反応をしている。


「お主達も『練達の加護』があるからといって油断や容赦などすることのないよう訓練に励みたまえ」

「「「…………」」」


 ディアードは最後にそう言って、静かに部屋から去っていった。


 その後、俺達は八木さんの死に悲しむ暇もなく命令されたいつも通りの訓練をこなしていった。

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