自由
俺達は今、魔力で動いているという貨物列車の中に潜り込んで外の世界へと向かっている。
「……やっと太陽を拝めるな」
「ええ、そうね」
右隣から奏が俺の言葉に頷いてきた。
「結さん……また……会えるよね……」
そして左隣では咲が呟き声を上げていた。
結……か。
竜崎さんは今どうしているのだろうか。
結局、俺達が戦ったあの日から三日経過したが、他のクラスメイトが見つかる事は無かった。
今ここには俺、奏、咲、転校生、相沢、柳、曽我、多田野、黒川、越智、美羽さん、遊佐さんの12人がいる。
生き残っているクラスメイトの数はおそらく20人。
なのでまだどこかに八人いるはずなんだが。
しかしその八人のうち、坂本と山寺、それに竜崎さんがどこにいるのかはわかっている。
奏から聞いた話によると、どうやらあの三人は孤立したところをディアード達に捕縛されてしまったのだそうだ。
ディアード達は首輪で俺達の現在地を把握していた。
多分他のクラスメイトもあいつらに捕まってしまったか……もしくは死んでしまったと見るべきなんだろう。
だから俺達は一度この都市を離れる。
あまり長居し過ぎても自分達の身が危険になるという判断からだ。
でも俺達はまた戻ってくるだろう。
まだ生きている仲間達を救いに、ディアードとの決着をつけるために。
「……君はまだ諦めていないって顔だね」
「相沢……?」
そんな事を考えているところへ相沢がやってきた。
すると近くにいた奏と咲が俺の前に出て露骨に警戒をし始める。
「……奏と咲はちょっとあっちへ行っていてくれないか?」
「鋼?」
「相沢と二人で話がしたい。お前もそうだろ? 相沢」
「……まあね」
俺と相沢が戦ってから三日が経ったが、その間俺達は二人でまともに話すことも無くここまできてしまった。
それならこの貨物列車のコンテナ内でゆっくりとした時間が得られている今、こいつと一度話をしてみるのもいいだろう。
「……何かあったらすぐ呼んでね」
「クラスメイトだからといって容赦はしないから、そのつもりで相沢君も鋼と話して頂戴」
「ああ……わかっているさ……」
そうして咲と奏はコンテナ内に積まれた木箱の間をすいすい進んでいき、俺と相沢だけがその場に残る状況となった。
だけどいざ二人っきりの状況になってもどんな風に話かければいいのかよくわからない。
俺は相沢を見ながら頬を掻きつつ第一声をどうするか考えていた。
「……君は怒らないんだね」
と、そこで相沢はボソリと俺に呟いた。
俺とのいざこざで色々な事がバレて他のクラスメイトからも避けられるようになってしまったのが原因か、相沢は最近ずっと調子が低い。
せっかくのイケメンが台無しだ。
「怒るって何についてをだ?」
「……全部さ。俺が君にした事全部……白上や柳は俺を責めるのに……君は責めないんだね……」
「ああ……」
別に責めることじゃない。
確かに俺は相沢のせいで酷い目にあったが、それで相沢を責めても何か良い事があるわけでもないからな。
それに相沢自身がこんな暗い様子じゃ責めるのも可哀想だ。
「わざわざ責める意味も無いってだけさ。それに相沢は俺に悪い事をしたって自分でも思っているんだろ?」
「それは……そうだが……」
「ならもういいさ」
反省しているなら尚の事責める必要はない。
俺は相沢を憎まないし、敵対もしない。
それでいいじゃないか。
「でもまだ気持ちの整理がついていないんじゃないか? 奏の事、好きだったんだろう?」
「まあね……」
相沢は奏の事が好きだった。
しかし奏は相沢の事が好きじゃなかった。
そんな中、奏は俺に恋人のフリをするよう頼んできて、俺は軽く承諾した。
この結果、相沢は俺が奏と恋人同士なのだと見るようになって俺に憎悪を向けてきた。
ここまでなら俺は相沢と奏のトラブルに巻き込まれただけの被害者と言える。
だが三日前、奏は俺に告白をした。
これによって相沢の憎悪は本当の意味で俺に向けられるかもしれないと思った。
けれど相沢はその後も大人しく、俺と奏が話しているのをただ遠くから見ていることしかしていない。
「……それでももう君に何かをしようだなんて思えないさ。俺はあの時……本当は白上と付き合っていなかった白瀬を裏切ったんだから……」
「…………」
あの時、とは相沢が俺を昇降路から落としたときの事を言っているのだろう。
確かにあれは完全なとばっちりだ。
俺には特に非があったわけではないのに、奏が余計な事をして相沢はそれを疑うことなく俺を恨んで、結果あんな事になってしまったんだから。
しかもあれは誰に強制されたわけでもなく、相沢本人の悪意によってなされたものだ。
ディアード達から殺しあうよう命令されたわけでもなく、相沢は自分の意思で俺を殺しにかかったんだ。
たとえそこまでいきつく間に色々とあったのだとしても、その事実は変わらない、か。
「だから君は俺を恨む権利がある……なのに君は何もしてこない……それじゃ……俺はどうすればいいんだ……」
「……そうか」
相沢は自分の罪を俺に認めてほしいのか。
奏でもなく柳でもなく、この俺に。
こいつは変なところで潔癖だな。
「なら一生悩んでいろ。俺がお前に言える事はそれだけだ」
俺は何もしない。
悩みたければ勝手に悩めばいい。
相沢相手にできる俺が言える事なんてその程度のものだ。
「……はは、随分と厳しい事を言ってくれるね」
「厳しいか?」
「うん……とても厳しい罰だよ……それは……」
そうなのか。
なんだかよくわからないが、とりあえず相沢は今の言葉で満足したようだな。
まあ満足と言うのが正しい表現なのかはわからないが。
「……外に出たようだね」
「ああ、どうやらそうらしいな」
そして俺達を揺らす列車が、トンネル内を走るような篭った音から線路を走る爽快な音に変化した。
「少し外の様子を見てみるか」
俺は近くにあった扉を僅かに開ける。
するとそこから黄色くて眩しい光がコンテナの中に降り注いできた。
「……やっぱりこの世界にも太陽はあったんだな」
「そうだね……」
外に目を向けると、あまりに強い光に目が一瞬眩む。
が、しばらくしてから見えるようになったその先にあるどこまでも澄んだ青い空の中には俺達の世界と変わらない太陽の姿があった。
そこから視線を下に向けると、そこには荒野が見渡す限りに広がっており、遠くでデッドウルフのような狼が群れをなして走っている。
魔物がいるという点を除けばこの景色は俺達の世界でも探せば目にする事ができそうなありふれたものだった。
「外だ……」
「本当に……外……なんだな……」
「俺たち……本当に自由になれたんだな!」
しかしそれを見た俺達は喜びの声を上げる。
この光景がありふれたものであっても、俺達にとってはかけがえのないものであったがゆえに。
「私達が本当に自由になるのはこれからよ、ねえ、鋼?」
「結さんや水谷くん達も見つけて絶対地球に帰ろうね、鋼くん」
「……ああ、そうだな」
奏と咲がそう言って俺の傍に寄り添ってきた。
そうだ。
ここからが俺達の本当の戦いだ。
俺達はここにいない仲間を探して救い出す。
そして俺達の世界に帰る手段を見つけだすんだ。
その道のりは長く険しいものになるだろう。
だが俺達は一人じゃない。
「街に着いたら早速作戦会議だ」
ここには同じ境遇を共にする仲間達がいる。
それならその道のりも決して苦しいものにはならないだろう。
「それまではゆっくり休もう」
でも今はこの束の間の休息を、外へと出られたこの喜びをかみ締めよう。
俺は二人にそう呟いて、再び外の風景を眺め始めた。
俺達の戦いはこれからだ!
……すみません。
一旦ここで打ち切らせてくださいorz
理由につきましては3月26日の活動報告にも書かせていただくかと思いますが、一言で言いますと色々自信がなくなってしまったからです。
とはいえまだ投稿し始めてから三週間も経過しておりませんので、もしかしたら気が変わって投稿を再開するということもあるかもしれません。
しかし今はどうしても投稿する気になれないのでしばらくは読み手側に回ろうかと思います。
なので投稿再開は未定です。まだ物語としては序章もいいところでアポカリプスのアの字も出ていない段階なのですが……申し訳ありません。
ここまでお付き合いくださりまして誠にありがとうございました。




