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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第二章 逃亡勇者編
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修羅場

「奏さん。鋼くんはあなたのせいで酷い目にあったのに……そんな告白をしていいと思ってるの?」

「確かに私は鋼に迷惑をかけたわ。でも誰が誰を好きになるのか自体は人の勝手だと思うのだけれど?」


 俺の目の前で奏と咲は睨みあっている。


 これってどんな状況なんだ。


「それにこれからは私が鋼を全力で守るわ。だから彼に迷惑はかけないつもりよ」

「……なら順番は守って。私、鋼くんからまだ告白の答えを聞いてないから」

「「「告白!?」」」


 咲の口から漏れた告白という言葉に柳達が大きく反応した。

 それと同時にあいつらの俺を見る目が厳しいものへと変わっていく。


「あいつ……葉山さんにまで好かれてんの……?」

「マジかよ……どんだけだよ……」

「何このハーレム野郎……」

「…………」


 ……待ってくれ。

 俺は何も悪くないんだ。

 だからそんな目で見ないでくれ。


「あら、でもさっき聞いた話だと鋼は咲に手を出さなかったっていうじゃない。それが答えなんじゃないのかしら?」

「……それを言うなら奏さんだって鋼くんに迫られたことは無いんじゃないの?」

「……まあ、確かにそうね」


 柳達、というかここにいるクラスメイトのほとんどの目線が鋭く突き刺さってくる中、彼女達はお構いなしに口論を続けていく。


 今この場はいろんな意味で修羅場と化していた。

 頼むから少しは回りの様子にも気を配ってください。


「でもキスはしたわ。そして彼もそれを嫌がらなかった。ならどっちからしたという話は些事なのではないかしら?」

「……それなら私も同じだよ。私も鋼くんとキスはしたもん」

「「「!?」」」

「…………なんですって?」


 咲の発言を受けて奏の眉がピクッとつり上がった。


 怖いのでこっち見ないでください奏さん。

 というかみんなこっち見ないでください。


「……一応聞くわ。何回したのかしら?」

「え? えっと……数えきれないくらい」

「…………」

「「「…………」」」


 場の空気が2℃ほど下がった気がする。

 気のせいだろうか。


「鋼」

「はい」

「今の話は本当かしら?」

「……理由があるんです」

「私はしたかどうかを聞いているのよ?」

「……はい、しました」


 俺は奏の詰問に屈指、咲とキスした事を肯定した。


「何回くらいしたのかしら?」

「……わかりません」

「そう」

「…………」

「…………」

「……あの、かな――……んっ!?」


 奏の動きが数秒止まったので俺は声をかけてみようとしたら、彼女はいきなり俺にディープキスをしてきた。


 しかも今回のは今までのとは勢いが違う。

 奏はまるで貪るかのように俺の口内を暴れ回っていた。

  

「か、奏さん!?」


 近くでは咲が驚いたような声を上げている。


「奏さん! 何してるの!?」

「…………はぁ……ん…………」

「か、奏さん! や、やめてってば!」

「ん……ちゅ……ぅ……」

「いつまでやってる気なの!?!?!?」


 俺達のキスのあまりの長さに咲がツッコミを入れてきた。


 確かに長い。

 既に30秒以上はキスをし続けている。

 息が苦しくて俺達の鼻息は荒くなっているが、それでもまだ奏はキスを止める気配を見せない。


「ちょ、いい加減……は、な、れ、て!」


 そしてそんな様子の奏を咲は背後から強引に引っ張った。

 俺の口から奏の感触が消えていく。


「……邪魔しないで頂戴」

「邪魔って……突然変な事するのが悪いんじゃない!」

「変な事とは失敬ね」


 俺とのキスを邪魔されたのが気に触ったのか、奏はムッとした声で咲に答える。


「私はただ鋼の口にある他の女の味を私の味に変えていただけよ」

「そ、そんな事しなくてもいいでしょう!?」

「いいから黙って見ていなさい」


 奏はそう言うと再び俺にキスをしようとしてきた。

 しかしそれは咲が俺達の間に入って妨害する。


 こんな時俺はどうすればいいのだろうか……


「何だこれ……」

「リア充死ねよ……」

「爆発しろ……」


 柳達が俺達を見ながらそんな呟き声を漏らしていた。


 とりあえず爆発はもうしたから許してくれ。


「はいはい、いちゃつくのは構いませんがそれはここから無事に逃げてからにしましょう」

「……確かに」


 なんだかよくわからない流れとなった俺達の中、比較的冷静な様子である転校生の口から正論が出た。


 確かに今はこんなことをしている場合じゃない。

 ディアードを退いたとはいえ、俺達を追う連中がこの近くにまだ潜んでいるかもしれないんだからな。


 ……というか転校生はさっきまで俺達に味方してくれなかったな。

 あの状況で味方しろだなんて言えるわけじゃないが、少し裏切られた気分だ。


「仕方ないわね。続きはまた後でにしましょうか」

「あ……ああ……」


 俺が転校生に対してそんな思いを抱いていると、奏は微笑を浮かべつつそう言ってきた。


 また後で今のをするつもりなのか奏は。

 俺は普通にこの状況を受け入れていいのか。


 奏とのキスが嫌なわけではない。

 だがこういう事は俺達の関係がちゃんとした恋人同士になってからするべきではないのか。


「それと添い寝もしっかりやりましょうね、鋼」

「ああ……………………あ?」


 そして奏のトンデモ発言をしてきたのに対し俺は何も考えず軽く頷いてしまっていた。

 けれどそれは聞き捨てならない。

 俺は奏に問いかける。


「……何でそんなこともしなくちゃならないんだ?」

「何でって、鋼と咲は添い寝をしたのでしょう? それなら私もしなくちゃ不公平じゃない」


 そういうものなのか?

 ……いや、そういうものじゃないだろう。


「これは決定事項よ。覚悟しなさい」

「いやそんなこと言われてもだな……」

「添い寝するだけだから、本当、何もしないから安心して頂戴」


 まあ、何もしないというのならなんとかなる……のだろうか。

 よくわからない。


 しかも奏は続けて「ちょっとだけだから安心して。本当、ちょっとだけだから」とか言って俺に迫ってきているし。

 それって何かやりますよっていう前フリじゃないか?


「奏さん……鋼くんから離れてくれないかな? 今はそんな事してる場合じゃないでしょ?」

「……しょうがないわね」


 咲が少し怒った様子で奏の肩を掴む。

 すると奏は「ふぅ」とため息をついて俺から離れていった。


 やっとこれで落ち着ける。

 俺はそう思いつつ気を緩ませていく。


「鋼くん」

「何だ……?」

「……ちゅ」



 そんな時、咲は俺に声をかけてくると……不意打ちのキスをしてきた。



「…………」

「……私の味、覚えておいてね?」


 そしてキスをした後、俺から離れた咲は上目遣いをしながらそんな事を言い放った。


 ……なんでそういう事言うんだよ。

 これじゃあ咲も意識せざるを得ないじゃないか。


「泥棒猫」

「…………」


 俺達を見て冷たい目をした奏がそう呟いた。


 泥棒猫って言葉使うの好きなのか奏は。

 前もそんな事言ってたぞ。


「私から見れば奏さんの方が泥棒猫だよ」

「……確かにそうかもしれないわね」


 しかもその言葉は奏自身に返ってきた。


 まあもしも奏が恋人ごっこの依頼をしなかったら俺は咲の思いに答えていたかもしれないからな。

 彼女は俺と咲の間に割り込んできた泥棒猫と言えなくもない。


 ただ、奏はいつから俺の事を好きになったのだろう。

 俺と一緒に過ごしていたらいつの間にか好きになってくれた……のか?


「さ、早く逃げましょう、鋼」

「加護で先導するからちゃんとついてきてね、鋼くん」

「あ、ああ……わかった」


 ……今は逃げる事だけに専念しよう。


 目の前で牽制しあう奏と咲を見て、忌々しいといった感情を隠すことなく顔に出している柳達を見て、何か色々納得がいかないといった様子の相沢を見て、うんざりというようなため息を吐くクラスメイト達を見て、俺はそれ以上の思考を止めた。


 こうしてディアード達の魔の手から抜け出した俺達12人はその後、クラスメイト全員の首輪を奏の時と同様の方法で壊し、追っ手を警戒して再び走り始めた。

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