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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
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終了のお知らせ

「殺しあえって……」


 俺達はディアード・レイヴンの言葉を聞き、にわかに騒然とし始めた。


「そんなことできるわけない!」

「なんで私達がそんなことをしなきゃいけないのよ!」

「俺たちは絶対に殺しあったりなんてしないぞ!」


 クラスメイトから次々に声が上がる。


 それも当たり前のことだ。

 俺達はこれまで平和な国で育ってきたんだ。

 人殺しなんてするわけがない。


 だから仲間や友達といった存在であるクラスメイトを殺すなんてことは絶対にありえないし許容できない。


「今すぐにとは言わんさ。期限は100日。それだけあれば気が変わる事もあるだろう」


 100日……か。

 それだけの期間が過ぎても複数人いた場合はどうするのだろうか。


「もしも100日経過しても数が絞れなかった場合、私達の裁量でお主達の中から四人選別し、それ以外を処分させてもらう」


 ……ようは間引くってことか。

 つまり俺達の中から最大四人までしか生き残れないということになる。


 だがなんで四人なんだ?

 何人か余裕を持って残すのは保険という意味があるのかもしれないが、その数に何か意味があったりするのだろうか。


「てめえ……俺らがそんなこと聞いて、このまま黙って従うとでも思ってんのか?」

「そ、そうだ! 僕らは勇者なんだぞ! 強いんだぞ!」


 坂本と水谷がディアードに向かって尚も反抗している。


 勇者だから強いのかどうかよくわからないが、今の俺達は強くないわけではないんだろう。

 だとすると、俺達が徒党を組めばここの連中を倒す事もできるかもしれない。


「だからこその『隷属の首輪』だ。それがある限りお主達が我々に逆らう事は出来ない」

「う……」


 隷属の首輪……ねえ。


 これじゃあ勇者というより奴隷だな。

 奴隷勇者とでも言えばいいのか。


 逆らうことは許されない。

 つまりこいつらは俺達の恨みを買う事も織り込み済みでこんなことをしているのだろう。


「どうやら自分達の立場がやっとわかったようだな」

「…………」

「それでは次のステップだ。ひとまずお主達を管理しやすいよう数字を与える。誰でもいいから前へ出ろ」


 数字を与える、か。

 奴隷らしい扱いをする気マンマンだな。


「……それならまずは俺が。一応出席番号一番だしね」


 ディアードの話を聞いて最初に前へ出たのは相沢だった。

 相沢もあいつらに従う気なんてないだろうが、ここでごねても無理矢理させられるだけだという判断から先に動いたんだろう。


 それに数字で呼ばれることぐらい別にどうでもいいしな。

 出席番号だとでも思えば特に気にすることでもない。



 しかしその考えは甘かった。



「では右手を前へ」

「?」


 相沢は言われるがまま右手をディアードの前へ出す。

 すると突然、背後に控えていた甲冑兵士達が相沢の腕を掴み、その場で動かないように固定した。


 ……そしてディアードの杖が光りだしたかと思うと、相沢の右手も光り始めた。


「ぐっ!? あっが、ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「…………っ!?」


 相沢が苦痛を伴うような悲鳴を発し、俺達に同様が走る。

 その叫びは10秒ほど続き、眩い光が治まったかと思うと相沢はその場に膝を着いて呼吸を荒げていた。


「焼印のようなものか……」


 よく見ると相沢の右手の甲には『1』という数字が刻まれていた。


 ……異世界でもアラビア数字なのか。

 て、そんなこと今はどうでもいい。


「大丈夫か? 相沢」

「あ……ああ……」


 俺が手を差し伸べながら声をかけると、相沢は額に汗を浮かばせながらも気丈に振る舞い、俺の手を振り払って立ち上がった。

 だが右手を押さえている様子から察するに、まだ鈍い痛みが残っているのだろう。


「さあ、次は誰だ」

「「「…………」」」


 相沢のそんな姿を見せられた俺達はディアードのところへ行くのをしばらく躊躇した。


 数字で呼ばれる事くらいなら我慢できるが自分の体に数字を刻まれたくはないからな。

 それにその行為が激痛を伴うのであればなおさらだ。


 しかし結局俺達は甲冑兵士達が腰に下げた剣に手をかけたところで腹を決め、あるいは諦めて、出席番号順に次々と右手に番号を刻み付けられていった。






「む……? 何だこれは?」

「あ……」


 そして出席番号18番である俺の番がやってきた時、包帯で巻かれた俺の右手を見てディアードは疑問の声を出した。


 これは昨日、下駄箱でナイフが突き刺さった時にできた怪我だ。

 ここまで全員右手に数字を刻まれていたが、よく考えたらこれだと俺の右手だけ上手く刻めないんじゃないか?


「ちょっと怪我をしてまして」

「ふむ……まあよい。ならば左手を出せ」


 どうあっても数字は刻む気か。

 まあ怪我をしているからといって俺だけ免除ということにはならないだろうなとは思っていたが。


 俺は渋々左手を突き出して、予想していたとおりの激痛が走る焼印を受けいれた。


「くう……」


 けれどこの焼印のようなものも魔法の一種なのか、数字が刻まれてから数分ほど経過するとスッと痛みも引いていった。

 まあ手の甲に刻まれた18という数字はそのままだが。


 その後、俺の後に続くクラスメイト達も滞りなく数字が刻まれていった。


 ……だが最後のほうになって、昨日から風邪を引いて欠席していた森田さんがここにいなかったという事が判明した時、既に数字を刻まれた15番の坂本が声を上げた。


「? 見ない顔だな。てめえ俺らのクラスにいたか?」

「「「……?」」」


 坂本がそんなことを言うので俺達は全員その一人のクラスメイトに視線を集中させる。


 確かに知らない顔だった。

 ただ単に俺や坂本がクラスメイトの顔を覚えきれていなかっただけかもしれないが、そこにいたのはショートヘアで活発そうな雰囲気を纏った、俺の記憶には無い女子だった。


「誰?」

「別のクラスの女子?」

「私も知らない……」


 どうやら俺や坂本と同じよう誰もこの女子のことを知らない様子だ。

 学校の制服を着ているから俺達の関係者である事は間違いないんだろうが。


「あ、皆さん初めまして。自己紹介が遅れましたが、私は本日より西条中学に転校してきました綿貫棗わたぬきなつめと申します。よろしくお願いします」


 するとその女子、綿貫さんは俺達に自己紹介をした後ペコリと頭を下げてきた。


「転校生? こんな中途半端な時期に?」

「あ、はい。お父さんが転勤族なもので、私も連れられてよく転校しちゃうんですよ」

「なんで転校生が俺らに混じってこんなとこにいんだよ?」

「あー……それはですね……転校生として紹介される前にクラスの雰囲気を廊下からちょっと見ておこうかと思いまして……」

「「「…………」」」


 ……なんて運の悪い女子だ。

 たまたま今日転校してきたクラスの様子を見に来たら俺達と一緒に召喚されたとか、稀にあるという確率に天文学的な確率が重なるような出来事だろ。


「無駄口を吐くんじゃない。次は誰だ。今ので最後か?」


 俺達が突然の転校生と話しているとディアードが僅かに苛立ったような声を上げてきた。

 今の会話はさっきまでの殺伐とした空気とは違っていて俺達にとっては悪くなかったんだが、こいつらにとってはどうでもいいことか。


「白瀬さん白瀬さん。えっと、今出席番号順で進んでたんですよね?」

「……そうだけど?」


 転校生が俺にヒソヒソ声で話しかけてきた。

 内容からしてたまたま近くにいたからっていう理由から声をかけたんだろうが。


 だが今さっき無駄口を叩くなと言われたんだからあんまり話しかけないでほしかったな。


「綿貫さんっていったわよね。今竜崎さんの番が終わったみたいだから次は綿貫さんの番になるんじゃないかしら?」


 そんな俺達の会話に白上さんも入ってきた。


 そういえば、名前順で出席番号が割り振られているから出席番号36番である竜崎さんの次は綿貫さんという事になるな。

 いや、転校生の場合は出席番号は最後になるか? よくわからない。


 というか、竜崎さんが出席番号の最後だったんだから綿貫さんの出席番号は37番で決まりだったか。

 森田さんがいないから36の番号を刻まれることになるだろうけど。なんだかややこしいな。


「あ、はいわかりました。それじゃあちゃちゃっと行ってきますね」


 こんな状況だというのに、転校生は明るい調子でディアードのところへと進む。

 そして彼女も『36』という番号を手の甲に刻まれ、俺達のところへと戻ってきた。


「わりと痛いですね……」

「3分もすれば徐々に痛みも引いていくわ。それまで我慢よ」


 転校生が軽く弱音を吐くと、白上さんが自身の体験談を基にした症状の変化を語っていた。


「……あ、ホントですね。痛みが薄くなってきました。ええっと……」

「私は白上奏よ。よろしく、綿貫さん」

「あ、はい。よろしくお願いします、白上さん」


 転校生は白上さんと挨拶を交わし、次に俺の方を向いてきた。

 つまり俺も自己紹介をしたほうがいいってことか。


「俺の名前は白瀬鋼。よろしく」

「よろしくお願いします、白瀬さん」

「…………」


 ……あれ?


「そういえばさっきなんで俺の苗字知ってたんだ?」


 この転校生は俺に最初話しかけるとき『白瀬さん』と言っていた。

 今日転校してきたならなんで俺の苗字を知っているんだ?


「なんでもなにも、さっき教室で騒動になってたじゃありませんか」

「あ、そっか」


 確かにここへくる前まで、俺はクラスメイトから白上さんと付き合ってるのかという質問攻めにあっていたんだった。


 その時高杉とかが結構大声で俺の苗字も口に出してたな。

 彼女はその時俺の名前を知ったのか。


「私が覚えたクラスメイトさん第一号です。おめでとうございます」


 だから俺に話しかけてきたのか。


 別に嬉しくないな。

 おめでたくもないし。


「それじゃああなたも私が彼と付き合ってるって事は知っているわね?」

「あ、はい。そういえばあなたが白上さんでしたか」

「ええ。そうよ」

「…………」


 ……俺は白上さんを引き寄せて小声で訊ねた。


「……なあ白上さん。その設定まだ続けるのか?」


 こんなところにまで来てやる必要が果たしてあるのだろうか。

 こんな時に俺達の恋人ごっこなんか続ける意味はないだろう。


「当たり前よ。私に言い寄ってる男子はこのクラスの中にいるんだから」

「え……」


 ……それは初耳だ。


 だとしたら俺は確実にそのクラスメイトから恨まれるじゃないか。

 これは本当に安請け合いするべきではなかったのかもしれない。


「それと私のことは奏と呼びなさい、鋼」

「……わかった、奏」


 俺は白――奏に苦虫を噛み潰したような顔で了承し、その場で深いため息をついた。


「それで、その言い寄ってる男子って誰の事なんだ?」

「誰なのかは聞かないほうがいいんじゃないかしら? それを知って鋼はその男子とこれまで通りに接せる?」


 ……できないだろうな。

 俺は軽く首を横に振った。


「でしょう? だからその名前は私の胸の内に閉まっておくわ。その男子もそんなことを言いふらされたくは無いでしょうし」

「まあ……確かにそうだな」


 好きな子にアタックして振られたら、数日後にはクラスメイトがそのことを知っていたという展開はちょっとキツイ。

 そういう失恋話は自分以外の口から漏れてほしくないと思うものだろう。


「お二人ともなんの話をしてるんです?」


 俺達の内緒話が気になったのか、転校生が声をかけてきた。


「なんでもないわ。ちょっといちゃついてただけよ」

「そうなんですか?」

「ええ」


 いちゃついてたて。

 今の会話にそんな甘い成分なんかこれっぽっちも含まれてはいなかったぞ。


「どうやらこれで全員のようだな。それでは次のステップだ」


 そしてそんなぬるい話をしていると、ディアードが俺達全員に声をかけてきた。


 ……今は奏の事情よりもこの状況についてを真面目に考えるべきだったな。


「召喚の儀を行ってからそれなりの時間が経過し、そろそろお主達には何かしらの加護が勇神より与えられたはずだ。それを確認したまえ」

「確認……とは……?」

「おっさん。いきなりそんな事言われてもわかんねえよ」


 ディアードの言葉に相沢と坂本が疑問の声を上げた。

 俺も加護とか突然言われてもなんのことだか全然わからない。


「先刻、君達には三つの加護が備わったと言ったな? その中の一つである『勇神の加護』とは勇神の持つ加護を一つ得るというものであり、それが何の加護なのかは受け取ってからでなければわからない。つまりお主達がどのような加護を得たのかを確認をする必要があるのだよ」


 なるほど。

 つまり俺達は『勇神の加護』というものでランダムに加護を手に入れたということか。

 それでその加護は直接見て確認しないとこいつらにもわからないと。


 そういえばその勇神の加護以外にも二つ加護がデフォルトでついてきているんだよな。

 『語の加護』と『練達の加護』だったか?


 語の加護はその名前だけでなんとなくどんなものか察することができるが、練達の加護ってなんだ。

 色々とわからないことが多いな。


「……それで、その加護というものはどうすればわかるんですか?」

「心の中に問いかけるだけでよい。それで己の持つ加護は理解できるだろう」


 なんだその説明は。

 随分ふわっふわな理解の仕方だな。


 そんな曖昧な方法で本当にわかるとは思えな――


「おわ!? で、できた!」

「!?」


 突然水谷の手から炎が舞い上がった。

 まるで手品のようなその光景を見て、俺達は目を丸くする。


「つか『水』谷なのに炎出すのかよ」

「そこは別に関係ないでしょ!」


 近くにいた高杉がそんなツッコミを入れて水谷が若干怒っている。

 まあ苗字と真逆かよとは俺も思ったが。


「それで水谷は今どうやって炎を出したんだ?」

「え、えっと……だからさっき言ってたように念じると……『龍炎の加護』!」


 すると水谷は手の平から炎の柱を出現させた。


 なんていうか本当に魔法みたいだ。

 加護というのが魔法なのかどうかは知らないが。


 というか、さっきの異世界云々の時もそうだったが水谷の順応性ハンパナイな。

 あんな説明だけでこんな事もサクサクやってのけるとは。


「うお! すげえ!」


 今度は出席番号33番、勇者番号(奴隷番号といったほうが正しいか)32番の山寺から電流のようなものがバリバリと迸った。


 更に他のクラスメイトも次々超常現象を引き起こしていく。

 どうやら本当に念じるだけで使えるようになるみたいだな。


「おお! 白上さん凄いですね! 今何をしたんです?」

「え? 何ってこう……心の中で念じたらみんなの動きが遅くなって――『神速の加護』?」


 転校生が何か驚いたような声を出していたので俺も奏の方を見た。

 すると突然奏の姿がブレた、と思ったら彼女は一瞬で俺の隣まで来ていた。


 それを見て他のクラスメイトも俺達の方を向く。


「どうやら私の加護は自分を加速させることみたいね」


 奏の説明を聞いて俺達は全員「おお」と感歎の声を上げた。


 確かにこれは凄い。

 漫画やゲームならまず間違いなく強能力扱いされるぞ。


 というか加護の名称も念じたらわかるのか。

 さっき水谷も『炎龍の加護』とか言っていたし。


「それで? 鋼はどんな加護を手に入れたのかしら?」

「俺?」


 俺の加護か。

 念じればわかるんだったよな。

 ちょっとやってみるか。


 俺はその場で深呼吸し、自身に問いかけるように精神を集中させる。





 …………





「……なあ、本当にこれで加護ってなんなのかわかるものなのか?」

「? ええ、そうよ。みんなできているみたいだからそこまで難しいものでもないと思うわよ」

「…………」

「?」


 俺は眉をひそめつつ、もう一度念じ始めた。





 ……だが、それで浮かんできたのは語の加護と練達の加護だけだった。





「……語と練達しか浮かばないんだが」

「「「…………」」」



 俺達の間に静寂が訪れる。



「し、しらせ君終了のおしらせ……?」


 そして水谷からくだらないダジャレが炸裂した。

簡易人物紹介


勇者番号1  相沢良人あいざわりょうと、イケメン

勇者番号15 坂本和輝さかもとかずき、不良

勇者番号17 白上奏しらかみかなで、主人公の恋人(嘘)、【神速の加護】

勇者番号18 白瀬鋼しらせこう、主人公

勇者番号21 高杉陸たかすぎりく、草食系男子

勇者番号25 葉山咲はやまさき、主人公にラブレターを渡した

勇者番号28 水谷正太郎みずたにしょうたろう、若干オタク、【龍炎の加護】

勇者番号35 竜崎結りゅうざきゆい、ギャル系

勇者番号36 綿貫楓わたぬきかえで、転校生

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