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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第二章 逃亡勇者編
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リア充

 俺の前に咲が立った。

 彼女は俺に背を向けて柳達の前に立っていた。


「葉山さんどけ!」

「どかないよ」

「俺達は本気だぞ! 怪我をしたくなければ邪魔をするな!」

「……私だって本気だよ。鋼君と戦いたければ私を殺してからにして」

「は、葉山さん……俺達は葉山さんのことを思って……」

「…………いい加減にして!!!!!」

「「「「!?」」」」


、柳達が咲をどかそうと言葉をかけていると、彼女は突然怒鳴り声を上げて俺や柳達を驚かせた。


 そして彼女は怒鳴り調子で更に言葉を続ける。


「どうしてみんな鋼くんにつらく当たるの!? なんでおかしいと思わないの!? こんな争いする意味無いって柳君達は思わないの!?」

「咲……」

「は、葉山さん……」


 咲が怒ったところなんて初めて見た。

 多分柳達もそうだろう。


 俺達は彼女の剣幕に押されていた。


「……多田野くん」

「は……はい!」

「さっき多田野くん、私を助けるって言ったよね?」

「え? あ、はい……まあ……」


 多田野はまたいつかのように敬語で咲の問いかけに返事をした。


「私は多田野くんに助けてもらいたくない」

「……え」

「むしろ迷惑なので助けないでください。お願いします」

「ちょ……おぉ……」


 ……辛辣な言葉だ。


 助けようとした相手からこんな拒絶の言葉を向けられるのはつらい。

 多田野が咲に好意のようなものを抱いていない事を祈ろう。


「曽我くん」

「……なんだよ」

「曽我くんはさっき、鋼くんを放っておいたら何をされるかわかったもんじゃないって言ったけど……それは自分達にやましい気持ちがあるからだよね?」

「う……」

「自分達の勝手な都合をあたかも大義名分であるかのように語って……恥ずかしいとは思わないの?」

「ぐぅ……」


 確かに曽我の発言は失言だ。


 俺が生きていることで報復を恐れているのは俺を殺そうとした柳達三人と相沢だけのはず。

 流石にそれをクラスメイト全員の総意と見なすには無理がある。


「柳くん」

「俺もかよ……なんだ?」

「鋼くんは柳くんが思っているほど悪意を持った人じゃないよ。むしろとっても優しい人」

「……信じられるかよそんなこと」


 咲の言葉を受けて柳は苦々しい顔をしながらそう呟く。


 前から思っていたことだが、どうしてか柳は俺の事を悪者として認識しているんだよな。

 その感情は一体どこから出てくるんだ。


「私は鋼くんに騙されていないし、白上さんだってそうだと思うよ。それに高杉くんを白瀬くんが囮に使ったってただの憶測でしょ?」

「それは……でもそうとしか思えないって……相沢も……」

「……何? 相沢が?」


 俺は柳の言葉に反応して相沢の方を向く。

 相沢は無表情を取り繕った顔をして俺達を見ていた。


「……俺は事実を言ったまでさ。二人で戦ったあの実戦訓練で唯一ペアの片割れが死んで一人無傷のまま帰ってきた。怪しいと思うのは当然だろう?」

「でもそれだけだよね? なんでそれだけの理由で決め付けられるの?」

「…………」


 咲の言う事は尤もなはずだ。

 俺が高杉を見殺したというには理由が弱い。

 けれど柳達はそれを事実であるかのように話していた。


「やけに葉山は白瀬の肩を持つね……もしかして君も白瀬に騙されているんじゃないのかい?」

「! 違う! 私は鋼くんに騙されてなんてない!」

「どうだか……」


 しかも相沢は尚も俺が咲をを騙しているなどと言って話を逸らしてくる。


 相沢にとって俺はそんなに嫌な人間か。

 恨まれるような事をした覚えなんて……多分無いのに。


「でも十分気をつけることだね。葉山が役に立たないと思ったら白瀬は平気で切るかもしれないよ?」


 そして相沢はそう言って咲に揺さぶりをかけてくる。


 今この場には俺の味方と断言できるクラスメイトは咲だけだ。

 ここで彼女にまで疑われたら俺は完全に孤立するだろう。


「鋼くんに限ってはないと思う」

「……何?」

「だって鋼くんは……私が熱を出して倒れても見捨てないで……ごはんを食べさせてくれたり……薬を飲ませてくれたり……暖かな寝床を用意してくれたり……色々な事をしてくれたよ」

「咲……」


 けれど咲は俺を信じてくれた。

 彼女は両手を胸に当て、俺がした事をゆっくりと語った。


「……それは白瀬にとって都合が良かったからじゃないかい? 君の加護は強力だ……手駒にしておけば何かと便利だとでも思ったんだろう」

「そんなことない……だって鋼くんは無理に加護を使わなくていいって言ってくれたもん。私を気遣ってくれたんだよ」


 確かに俺は前に咲へそんなことを言った。

 彼女はそれを聞いて俺が損得勘定で動いているわけじゃないと判断してくれたのか。


「く……なら葉山自身というのはどうだい? 知らないかもしれないけど、君は近くで見るとなかなか可愛いってクラスの男子から密かに噂されているんだよ?」


 だが相沢は更にそんなことを言い始めた。


「相沢……」


 要するに、俺は咲の体が目当てで助けたと言いたいのか。

 そんなことを口走る相沢のイメージはもうガタ落ちだ。


 はっきり言ってそれは下衆の考えだ。

 相沢の口からそんな発想を聞きたくはなかった。


 俺は相沢の言葉を聞いてふつふつと嫌な感情を滾らせていく。


「相沢くん、それも違うよ」

「……どうしてそう言いきれるんだい?」


 けれど咲はその疑惑にはっきりと否定の声を上げて否定した。

 また、やけに確信を持った彼女の様子に相沢は眉根を寄せて訊ね直す。


 すると咲はクラスメイトの前で一つの爆弾を投下した。



「だって……鋼くんは……私と一緒に一つの毛布にくるまって寝ても……手を出してこなかったもん……」

「「「…………」」」



 ……周囲が静寂に飲み込まれた。



「……おい、白瀬」


 そんな中、柳が俺に声をかけてきた。


「……はい」

「お前、白上さんと付き合ってるんだよな?」

「……はい」

「なのに葉山さんと添い寝をしたと? 二人っきりで?」

「…………はい」

「「「…………」」」


 なんだろう。

 さっきまでとは少し違った意味でクラスメイト達からの視線が痛い気がする。


 だがまあ……こんな視線になるのも頷ける。

 俺は奏と付き合っているということで通っていたんだからな。


「! ま、待って待って! 確かに私は鋼くんと添い寝したけど、それは私のためを思ってでやましい気持ちは全然無いの!」


 するとそこで咲が慌てて補足説明をし始めた。


 本当は俺が奏と付き合っていないことは咲しか知らないことだ。

 今の発言がまずいものであったと気づいたのだろう。


 でももうそんなこと言っても駄目だろ。

 なんかヒソヒソ話始めちゃってるよ。


「白上さんというものがありながら……」

「ふざけんなよ……ふざけんなよ……」

「羨ましい……」


 おい。

 今羨ましいって言った奴誰だ。


 何気に我慢するの結構大変だったんだぞ。

 常に自制心との勝負だったんだぞ。

 羨ましいとか軽々しく言うな。


「白瀬……お前今までずっと葉山さんと一緒だったんだよな?」

「……ああ、何か悪いか」

「それで葉山さんにご飯食べさせて……添い寝して……この二週間を生き延びてきたと……?」

「………………まあ……そうなる」


 柳がしてくる確認に俺は表情を硬くしながらも答えた。


「俺達は必死になって逃げ続けてたっていうのに……」

「なんだこのリア充……」

「爆発しろよ……」


 どうやらこの二週間柳達はずっと逃げ続けていたようだ。

 もしかしたらこいつらと比べると俺達は温い日々を送っていたのかもしれないな。


 そうだったとしたら少し申し訳ない。

 だがリア充ってなんだよ。

 爆発ってなんだよ。


「でも……そうだとすると……白瀬は何のために……」


 また、柳達が恨みがましい目で俺を見てくるのに対し、相沢は眉を歪ませてぶつぶつと呟き声を上げていた。


 ちょっと咲の発言には問題があったが、どうやら今ので相沢のネタも尽きたようだな。


「いや……たとえそうであったしても……葉山に恩を売っておけば何かと得だと思えば……」

「…………」


 だがまだ何かを言いたいらしい。

 もううんざりだ。


 俺は相沢へ向けてそろそろ諦めてくれと言おうと口を開いた。



「いい加減見苦しい真似はよしたらどうかしら、相沢君」

「「「!?」」」



 ……と、そんなところに一人の女性の声が響き渡った。


「鋼を貶めるために色々としていたようだけれど、そろそろそれも限界のようね」


 それはここにいなかったはずの彼女の声。


「ふむ、後もう少しで勇者同士の殺しあいが始まると思ったのだが、25番の横槍には残念だ」


 そして既に死んだはずのあの男の声。


 俺達はそれらの声がする方に振り返った。


「二週間ぶりだな勇者達よ。迎えに来てやったぞ」


 俺達が振り返った先には、死んだはずのディアード・レイヴンと黄金色に輝く剣を持った奏の二人がいた。

白瀬鋼しらせこう

体力A-、筋力A-、頑丈C+、敏捷B+、精神C-、総合評価B、加護判定無し、装備品[戦剣アレス]


白上奏しらかみかなで

体力A-、筋力B+、頑丈B-、敏捷A-(A+→S-)、精神B+、総合評価B+、加護判定A【神速の加護】、装備品[勇剣ハルトムート]

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