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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
18/43

最狂の剣

「ぐぅっ!?」


 相沢から裏切りを受けた俺は昇降路を通じて最深部まで落下した。

 俺は落下中に混乱しながらもなんとか体勢を立て直し、足からの着地を成功させる。


 自由落下による衝撃は相当なものだったが、この数日で人間離れした俺の体はそれに耐えて足を痺れさせる程度で済んだ。

 けれどそんな体のダメージよりも心のダメージの方が大きく、俺はその場に膝をついてしまう。


「……く」


 裏切りられた。

 俺にとって今最も重要なのは、相沢に裏切られたという事実についてだった。


 相沢と俺の接点は多くない。

 イケメン特有のコミュ力で相沢の方から世間話をしてくることはあったが所詮その程度しかなく、俺達は友達とも呼べない間柄だ。


 しかし、こんなところで手痛い裏切りを受けるような関係では無い。

 俺には相沢に何か恨まれるような事をしたというような自覚は無い。


 だからこうなるのはおかしい。


 おかしい……はずだった。


「なんで……なんだよ……」


 俺は蹲るような姿勢から顔を上げる。

 薄暗い昇降路のはるか先に見える通路から漏れだす光の中にはもう相沢の姿はない。


 だがその代わり、俺達がいた地下四階の通路側からひょっこりと俺を見る敵兵の姿が確認できてしまった。


「くそっ!」


 今は感傷に浸っている場合じゃない。


 ここは敵地。

 立ち止まればまた戦いを強制される毎日に逆戻りだ。


 俺は現状を再確認して立ち上がる。

 すると俺の目の前には扉があった。


 どうやらここは地下六階かそれ以下の階層のようだ。

 ここからだと敵兵が覗き見している階まで50メートル以上はありそうだし、俺達の間には地下五階へ続く扉らしきものもある。


 しかも上に見えるその扉から俺のいるところまでだと40メートル以上といったところにあるので、俺の今いるところは相当深い位置にある。


 相沢のような空を飛ぶ加護があればここから真上に行く事もできただろうが、俺にはそんな芸当ができるはずも無い。

 とにかく今はこの昇降路から通路に出て階段を駆け上がるしかない。


 そう考えた俺は目の前にあった扉を全力で蹴り破った。

 幸い扉は俺の蹴り三発で人一人が通れるだけの穴が開けられたので、俺はその穴から通路側に入り込む。


「……なんだこれは」


 が、俺の出たところは通路ではなかった。

 そこはどこか洞窟の中といった様子で人の手が殆ど入っておらず、ごつごつした岩壁に光る結晶を埋め込んだだけというような広い空間だった。


 俺はそのよくわからない空間で目をキョロキョロさせ、上階へと進む階段がどこかにないかと探し始める。 



 が、そんな俺が最初に発見した物は階段ではなく……五本の剣だった。



「…………」


 むき出しの剣が五本、だだっ広い空間の中心でポツンと地面に突き刺さっていた。

 鞘に収められてもいなければ何かその場に敷居や装飾がされているわけでも無い。

 ただその辺に刺しときましたよ、とでも言うかのような剣が五本そこにはあった。


 明らかに不自然だった。


 不自然すぎて罠なのかもしれないと疑ってしまうほどに、それらの剣はおかしな扱いだった。


「……そういえば」


 地下六階には剣がある。

 そんな情報が確か高杉の手帳には記されていたということを俺は以前、奏から聞いた事がある。


 ということは今の状況的に考えて、やはりここが地下六階ということなんだろう。

 だがそのまんま過ぎて逆に怪しすぎるのも確かだ。


 良く見ると剣を奥の方には上へと向かえる階段があった。

 この場合、あのあからさまに怪しい剣はスルーして階段を上がるべきか?


「……いや、待て」


 現状、今の俺は丸腰だ。

 地下四階で奪い取った武器はロープで上階へより早く登るために置いてきてしまっている。

 だからこの状態で上へ行ってもまともな反撃ができない。


 徒手空拳でできる事には限界がある。

 相手が銃火器、剣、槍、それに魔法で攻撃してくるなら尚更だ。

 このまま進んで俺が地上まで逃げられる可能性は限りなく低いだろう。


「……無いよりはマシか」


 目の前にある剣は敵の罠かもしれないが、違和感がありすぎて罠として機能しているのか疑わしい。

 そう思わせるのも罠の内なのかもしれないが、だったらこんなところに何故罠を張るのかという疑問も出てきてしまう。


 しかし罠にしろ罠でないにしろ、どっちみち俺がこの施設から出るには武器が必要なのは変わらない。

 多少胡散臭いものを感じてもここで武器を調達できるチャンスを見過ごすわけにもいかないだろう。


 それにこんなことで悩んでいたらそれこそ敵が来てアウトになってしまいかねない。

 結局俺はその五つの剣の前まで走り、その内の二本を抜こうと決めた。


「……なんでこんなものが?」


 だが剣のすぐ近くへ来た時、俺は更に疑問を深めていく。


 そこにある五本の剣はそれぞれ白、赤、紺、緑、黄金を基調とした片手剣で、非常に凝った装飾が施されていた。

 素人目でも明らかに場違いであると判断できる武器がそこにはあった。


 ここにある剣は普通じゃない。

 俺達がいつも使っているような鉄剣とはまるで違う雰囲気を持っている。



 その雰囲気はあまりに神々しく、まるで本当に神が宿っているのではないかと思わせるような――



「……考えている場合じゃないか」


 階段方面から誰かが駆け下りてくるような足音が聞こえてきた。

 おそらく上にいた兵が俺を捕まえるために降りてきているんだろう。


 迷っている暇なんて無い。


 それを理解した俺は、五本ある剣の中で一番惹きつけられた、曲線美を意識した揺らめく炎というデザインをした赤い剣の柄に手を触れた。







「 !」










































 クケヶヶケケケケケケケケケケケケケヶケケケケケケヶヶケケケケケケケケケケケケケヶケケケケケケヶヶケケケケケケケケケケケケヶケケケケケケヶヶケケケケケケケケケケケケケヶケケケケケケヶヶケケケケケケケケケケケケケヶケケケケケケヶヶケケケケケケケケケケケケケヶケケケケケ
















































「……………………?」


 今少し意識が飛んでいたような気がする。

 けれどまだ俺の前方にある階段から敵が降りてきていないところを見るに、それはやはり気のせいだったのかもしれない。


「ううぅ……ぐ……」


 だがなんだこの吐き気は。

 それに頭がクラクラしていて、意識も朦朧としている。


 また、耳鳴りも酷くて音が碌に拾えない。

 息は荒いし汗も掻いている。


 なんで俺はこんなところで突然体調を崩しているんだ。

 早く逃げないといけない時だというのに。


「……あれ?」


 しかも俺はいつの間にか右手で赤い剣を引き抜いていたようだ。

 それに加えて、五本の剣の中では一番簡素な装飾で無骨ささえ匂わせる紺色の剣も俺は左手で持っていた。


 なんだかよくわからない。

 よくわからないが、あまり気にする事でもないだろう。


 今は逃げる事だけを考えるべきだ。


「いたぞ! 18番だ!」

「!」


 そんなイマイチ意識があやふやで気分も最悪な俺のところに、銃で武装した兵士が階段から三人降りてきた。

 その兵士達は俺へ銃を構えてすぐにでも発砲してきそうな様子だ。


「!? 剣を持っているぞ! 殺せ!」

「くっ!」


 こんなところで蜂の巣にされてはたまらない。

 俺は咄嗟にその兵士達へ向かって走り出そうとした。


「って重!?」


 しかし紺色の剣は持ち上げて見ると予想外に重く、俺は驚きの声を上げた。

 あまりの重さに剣を落っことしそうになり、ついその場に足を止めてしまう。


 するとそんな俺目掛けて三人の兵士が一斉に銃弾を打ち込んできた。

 動きを止めてしまった俺はその銃撃を大量に浴びる。


「うあっ……………………?」


 けれどそれは痛くなかった。


 と言うより、銃弾は俺の服を貫通すれども俺の肌を貫通してはいなかった。


 銃の威力が弱い?

 いや、そんなわけはないはずだ。

 この世界の銃は俺達のいた世界の物より遥かに強い。


 地下四階で戦闘したついさっきも、クラスメイトの何人かが銃弾を受けて血を流していたのを俺は見た。

 その怪我は竜崎さんの加護であっという間に完治したが、銃でダメージを負った事実は変わらない。

 だから俺も銃で撃たれればキツイだろうという想像は働いていた。


 なのに今の銃撃で俺は無傷という結果に終わった。

 一体どういうことなんだ。


 そんな事を考えながら、俺は前方にいる三人の兵士へ向かって走り、敵との距離を一瞬で詰めたところで赤い剣を振るう。


「ぐっ!?」

「え?」


 この攻撃は致命の一撃。

 目の前にいる兵士を真っ二つにするだけ威力を持つ横薙ぎだった――はずだった。


 しかし剣の刀身に触れた兵士は岩壁に叩きつけられるだけで、剣で切られたというよりも棍棒で殴られたというような結果に終わっていた。


「…………?」


 どうして斬れなかったのか疑問に思った俺は剣に目を向ける。

 するとその銀色に輝く刀身には何故か赤い血が付着しているのが見えた。


 今の攻撃では敵を斬れなかったのにどうして血が?


 ……そういえば……剣を持った時、誰かの声が聞こえなかったか?


「……まあいい!」


 今は考えている場合じゃない。


 予想外に切れ味の悪い剣ではあったが、今の俺は何故か体が機敏に動いてくれる。

 左手に持つ剣が重いのは相変わらずなものの、そんなことは問題にならないかのような動きで鮮やかに残り二人の兵士を倒していく。


「がはっ!?」

「ぐうっ!?」

「…………」


 ここにある剣はナマクラばかりだったようだ。


 右手に持った赤色の剣同様、左手に持った紺色の剣も切れ味はなかった。

 結果、俺の目の前には呻き声を上げて横たわる三人の兵士ができあがった。


 骨の二、三本は折れているだろうが、この分なら死にはしないだろう。


「ふぅ…………っ…………」


 誰も死んでいないことに俺は安堵の息をつき、それと同時に心の底から嫌悪感が湧き出てきた。


 今、俺は敵を殺さなかったという事実に安心感を覚えてしまった。

 勿論積極的に人殺しをする趣味など持ち合わせてはいないのだから、無闇に人を殺すような真似はしない。


 だが今この状況において、敵に情けをかけることがどれだけ自分の首を絞めるかわかったものではないのも事実。

 クラスメイトの何人かは坂本や転校生のように人殺しをも厭わない戦いを見せているというのに、今の俺は甘すぎるにも程がある。


「くっ……」


 俺は歯をギリッとかみ締めた後、地面に横たわる三人の兵士に止めを刺すこともなく上階へと続く階段を登り始めた。


「……無理に殺す必要は無い」


 今回は剣の切れ味が悪かったから死ななかっただけで、もし切れ味の良い剣を持っていたなら確実に殺していた。

 だからあの兵士達が生きているのは偶然。

 そういうことなら問題ない。


 それに加えてあの場でわざわざ止めを刺すのも時間の無駄。

 つまりやらなくて正解だ。


「何も問題は無い」


 よく状況が掴めないが、今の俺は銃弾を受けても素で弾くだけの頑丈性を持ち、動きのキレも段違いだ。

 それなら多少敵の攻撃を受けても問題ないし、無理に必殺を狙う必要も無い。


 敵が現れたら正面突破で突き抜ける。

 今の目的は敵の殲滅ではなくこの施設からの脱出にある。



 俺は自らの行動指針を再確認し、長い階段を駆け上がっていった。

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