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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
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ラブレターの真相と今後の対応

 柳達との一件を終えた俺達はそれぞれの独房(二人で使用しているクラスメイトもまだ結構いるが)に戻っていった。

 そして部屋に鍵がかかる10分前といったところで、俺と奏がいる部屋へ唐突に竜崎さんがやってきた。


「白瀬、ちょっとツラ貸しな」

「…………」


 竜崎さんから突然そんなことを言われた。

 俺は疑問を頭に浮かべつつ奏の方に視線を向ける。


「……用が済んだら早く帰ってくるのよ」

「……わかった」


 奏ではなく俺に用があるというのはどういうことか。

 よくわからないと思いつつも俺は自分がいつも使っているベッドから腰をあげ、踵を返して歩き始めた竜崎さんの後ろについていく。


 すると竜崎さんはこのフロアの一番奥にある独房へと入り、二つあるベッドの内の一つに座った。


「まあ白瀬も座れよ」

「……ああ」


 俺は竜崎さんとは対面にあるベッドに座り、彼女の言葉を待った。


 今まで誰がどこを使っているのかあまり意識していなかったが、おそらくここは竜崎さんがいつも使っている部屋なのだろう。

 部屋の中には僅かばかりの化粧品や折りたたまれた学校の制服が置かれていた。


「それで、話というのは?」

「あー……それなんだけどさ」


 俺が竜崎さんに問うと、彼女は頬を掻いていかにも言いずらそうといった雰囲気を醸し出し始めた。

 そして十数秒ほど無言の時間が流れ、俺は席を立つそぶりを見せて彼女に言う。


「……話さないなら俺は自分の部屋に戻るぞ」

「いや待った、言う。今言うから」


 俺の様子を見て竜崎さんはやっと口を開いた。

 あまり急かすような真似はしたくなかったが、今は時間が無いんだからしょうがない。


「……ここにアンタを呼んだのは……咲についてなんだけどさ」

「咲?」


 咲って葉山さんのことだよな。

 なんで竜崎さんが葉山さんについてで俺に話があるんだ?


「白瀬は……その……咲から……手紙を貰ったよな?」

「……そのことか」


 ここ最近生き死にがかかっていたせいであまりそのことを考えることもなかったが、確かに俺はこのよくわからないこの世界へ来る前日に葉山さんからラブレターを貰った。

 そのラブレターは小さく折りたたんで今も俺のポケットの中に入っている。


 部屋に置いておくと奏に見られてしまうかもしれないからな。

 見られたからといって何か後ろめたいものがあるわけでも無いが、まあなんとなく。


 だがなんでラブレターのことを竜崎さんは知っているんだ?

 葉山さんから教えてもらったのか?


「……あれはアタシがけしかけたことだからね。知っていて当然さ」

「そうだったのか」


 俺が訝しんでいたのを察したのか、竜崎さんはそう答えを出してきた。


 つまり竜崎さんがあのラブレターを葉山さんが出すきっかけを作ったのか。

 なら彼女がその件について知っているのも当たり前の事と言えるな。


「というか前から気になっていたことだけど、竜崎さんと葉山さんって仲良いのか? 学校で竜崎さん達が話すとこなんて見たこと無いんだが」

「学校では人前で咲と話すこともあんまなかったからな……まあ仲はそこそこ」

「なるほど」


 そういうことか。

 竜崎さんと葉山さんが学校で接触することも少なかったのなら、俺が二人の仲を知る術などないな。


「ちなみに……ミサとアユミはアタシらが仲良いってこと、多分知らなかったよ」

「…………」


 その二人の名前を口にした途端、竜崎さんの表情が曇った。

 ミサとアユミって竜崎さんの取り巻きだった女子達の名前か。


 ……あんまり気にしないでおこう。

 死んでしまった彼女達について今考えても暗くなるだけだ。


「それで、竜崎さんは葉山さんの手紙の件で俺に何を話したいんだ?」


 俺は話題を戻すため竜崎さんに訊ねた。


 今俺がここに呼び出されたのは竜崎さんと葉山さんの関係についてを話すためでもなければ、雨宮さん達の話をするためでもないだろうからな。


「……まあ、言いたい事はただ一つさ」


 竜崎さんはそこで一つ息をつき、俺に向けて言葉を紡ぐ。


「彼女持ちのアンタに言うのはちょっとダメなことだってわかってんだけど……咲とも仲良くしてやってくんないかな」

「…………」


 竜崎さんは俺をここに呼んだ理由を語った。


 咲とも仲良くしてくれ。

 それを聞いた俺は一瞬体を硬直させ、竜崎さんを黙って見つめる。


「最近の咲はどうも精神的に参ってる様子でね、夜とかも全然寝付けないそうなんだよ」

「……へえ」


 そうだったのか。

 俺は葉山さんの様子を深く観察してはいなかったから知らなかったが、彼女と仲がいいという竜崎さんが言うのならそうなんだろう。


 しかし俺は葉山さんと仲良くしてもいいのか?

 一応それが彼女のためになると思って竜崎さんは俺にこんなことを頼んでいるんだろうが。


「頼む。この前アタシを慰めた時みたいな感じでいいから咲に優しくしてやってくれ」

「そうは言ってもな……」


 一応俺は奏の彼氏として通っている。

 その状態で無闇に他の女子と仲良くするのは気が引ける。


 葉山さんのラブレターについても俺はその理由があったから今までスルーしていたわけで。

 最近はよく顔を合わせるようになったものの、彼女と何かを話したりする事もしていない。


 クラス中に俺と奏の関係が広まった時点で葉山さんも諦めただろうし。

 俺の方も奏の問題が解決するまでは葉山さんと話す機会は無いと思っていた。



 ……いや、待て。

 今クラスメイトは三分の一程が死んでしまったが、奏の言うしつこい男はその中に含まれていないのだろうか。

 死んだ人間に対して薄情な言い方だが、もしもその死んだクラスメイトの中にその男がいた場合、奏が抱える悩みは消えたのでは?


 後で奏に聞いてみるか?


「まあ、善処する」


 もしも俺の考えている事が当たっていれば奏との関係も解消できる。

 とは言っても今はゴタゴタしているから、それはここを脱出してしばらく経ってからの話になるだろうが。


 ……にしてもだ。


「なんだか意外だな」

「? 何が」

「竜崎さんってもっと怖い人だと思ってたけど案外優しいんだな」

「そ、そんなことねーよ! あんまアタシに舐めたクチ聞いてんじゃねーよ!」


 俺が軽く微笑み混じりで声をかけると竜崎さんは若干頬を赤く染めながら怒り始めた。

 竜崎さんは見た目だけで判断すると、教師に反抗してまで髪を金髪に染めてるしいつも睨むような目つきで人を見てるしで怖いイメージだったんだが、こうして話してみると案外可愛いところもあるんだな。


「照れる竜崎さんは可愛いな」

「ば、バカヤロウ! テメエアタシをおちょくってやがんな! んなこと言ってっと後でチクるぞ!」


 悪戯心満載で竜崎さんをからかうと更に彼女は顔を高潮させて怒鳴りつけてくる。


 まあ実際のところ、竜崎さんは可愛いというよりも美人というニュアンスの方がしっくりくるんだけどな。

 ちなみに奏がキリリと締まった顔つきで常に余裕の篭った微笑を浮かべる女王様というイメージなのに対し、竜崎さんは周りと迎合せず鋭い目つきで威圧する荒々しい女戦士というイメージだ。


 女戦士といってもそんな悪い意味で思っているわけではないが、多分俺のイメージを聞いたら竜崎さん怒るだろうな。


「今なんか失礼なこと考えなかったか?」

「気のせいだろ」

「にしては顔がにやけてるぞ」

「本当か。うまく隠しきれていたと思ったのにな」

「やっぱなんか変なこと考えてたんじゃねーか! 何考えてたんだよ! おら吐け!」

「はははっ」


 珍しく興が乗った俺はつい竜崎さんとそんなやり取りをして、思わず笑い声を出していた。

 するとさっきまで怒っていた竜崎さんが突然キョトンとし始め、口元をにやけさせる。


「へえ……白瀬も笑う時があったんだな。普段は何考えてんのかよくわかんないボーっとした顔してんのによ」

「……俺だってたまには笑うさ」


 だが確かに俺が笑うのは珍しい。

 そしてさっきつい笑ってしまったことを思い出すと恥ずかしくなり、少し顔が熱くなってきた。


「……あれ? もしかして照れてんのか? 白瀬も人の事言えねーなー。照れる白瀬は可愛いな、ってかあ?」

「うるさい。ここぞとばかりに仕返しをするな。そういうところは可愛くないな」

「アタシは可愛いだなんて言われても嬉しくも何とも無いからそれでいいんだよ」

「くぅ……」


 中々いい性格しているな竜崎さんも。

 それにこの会話の発端は俺の方だから、結局自分の行いが自分に帰ってきただけというマヌケな状況だ。


 しょうがない。

 今回は俺の負けということにしておこう。

 次は俺が勝つからな。


「これで勝ったと思うなよ」

「負け犬の遠吠えじゃんかそれ」

「うるさいうるさい。それじゃあ俺はそろそろ自分の部屋に――」


 俺が話を切り上げてベッドから立ち上がり、部屋の出入り口に足を向けたその時、この部屋唯一の扉が突然「ガチャリ」という鍵の締まるような音を立てた。


「あ」

「あ」


 その瞬間、俺達は間抜けな声を出した。

 俺達がそんな声を出したのは、今までの経験でこの状況がどういうことかきちんと理解できてしまったからに他ならない。


 消灯時間になると俺達のいる独房は自動的に扉が締まって鍵がかかる。

 また、一度鍵がかかったら余程の事でないと朝まで開けてもらえない。



 俺と竜崎さんは今、一つの独房内に二人っきりで閉じ込められてしまっていた。

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