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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
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勧誘

 本日の訓練を全て終えた俺達はそれぞれの牢屋へと戻っていく。

 そんな時、通路の隅にいた柳達の姿が俺の目に入ってきた。


「……? 竜崎さんもいるな」


 柳達の奥には竜崎さんがいて、何か言い争っているような声が聞こえてくる。


「だから、アタシが誰と話そうが勝手っしょ。アンタらに指図される覚えなんてねーし」

「まあそう言うなって。アイツよりも俺たちと組んだほうが絶対良いって」

「そうそう。俺らとしても治療の加護を持つ竜崎がいれば百人力だし」

「いつ仲間を見捨てるかもわからない白瀬より安全だぜ?」


 ……どうやら竜崎さんを仲間に引き込もうとしているようだな。


 というかあいつらまだ俺が高杉を見殺したとか考えてるのか。

 それにあいつらだって俺を殺そうとしたのに、そんなことを言えるとは良い根性してるな。


 まあ俺と柳達はただのクラスメイトであって友達というわけでもなかったわけだから、俺が仲間とカウントされていなくても別に気にする事ではないが。


「つかアンタらと組む気なんてさらさらねーし。いい加減しつこいんですけどぉ? つかアンタらだって白瀬殺そうとしてたじゃん。安全も何も無いし」

「俺らの場合はディアードに目をつけられちまったんだからしょうがなかったんだよ。あとお前、どの口でんなこと言えんだ?」

「そうそう。竜崎だって結局は雨宮と遠藤を殺しただろう」

「二人も殺すとか俺たちよりタチ悪いぜ」


 竜崎さんの言葉を受けて柳達は立て続けに反論の声を上げていた。


「そんなお前じゃ他の連中とつるむ事もできないから白瀬達のとこに行ってるんだろ?」

「だからこうしてわざわざこっちから仲間に入れてやるって言ってんのによ」

「俺たちの優しさがわかんねえかなあ?」

「ぐ…………」


 ……なんか聞いててやるせなくなってきたな。


 あいつらにとって俺は仲間を見殺す絶対悪と見なし、自分達のやったことはしょうがなかったとして肯定する。

 そして竜崎さんへは仲間を殺した件で脅して味方につけようとしている。


 一つ一つで見ればその理屈は通るのかもしれないが、それらを一辺にやられると途端に筋が通らなくなるだろう。


「転校生の綿貫といいお前といい、なんでそう強情なのかね。もしかして白瀬に惚れてんの?」

「! ちげーよ! アタシはそんなんじゃねーよ! テメエそれ以上ふざけた事言ってっとマジキレっぞ!」


 柳の問いかけに反応し、竜崎さんが明らかに怒った様子で柳達に詰め寄っていた。


 転校生にもこの話をしていたのかあいつらは。

 どれだけ俺達のグループから仲間を引き込みたいんだ。


「そろそろその辺にしておけよ。柳」

「! ……白瀬か。盗み聞きなんて良い趣味してんな」

「盗み聞き以前にお前達の声が大きすぎるんだよ」


 俺はそんな柳達に声をかけ、竜崎さんの前まで歩いていった。

 竜崎さんは俺の登場に目を丸くしているが、そんなことにお構いなく俺は柳達から彼女を背に隠す。


「あまり強引な勧誘は止せ」

「なんだよ。仲間が引き抜かれそうで焦ってんのか?」

「そうじゃない。誰とつるむかは竜崎さんの意思に任せろと言っているんだ」


 柳達の行為は脅しだ。

 クラスメイトを殺して立場が悪くなったのを利用し、竜崎さんや転校生に仲間になることを要求するのはあまり良い手段とは言えない。


 確かに俺達の集まりはクラスメイトから浮いた存在が多い。

 だが俺達は自然に生まれた集団であって、俺や奏が引き込んだわけではなくそれぞれがそれぞれの意思で集まったにすぎないんだからな。


「……だったら竜崎に今決めてもらおうか。俺らと白瀬、どっちの仲間になるのかをよ」 


 俺の言動に渋々ながらも正当性を見出したらしい柳は、苦い顔をしつつ竜崎さんの方へと顔を向けていた。


「ただしよく考えて判断するんだな、竜崎」

「……なに?」

「今、白瀬達のグループは周りからあまり良く思われていない。Aグループが三人もいて安心してるかもしれないが、数の暴力にあったらそんなの関係ないぜ?」

「…………」


 最近一緒に行動する事が多くなった俺、奏、転校生、水谷、竜崎さん、葉山さんの内、奏、水谷、葉山さんはAグループだ。

 六人中三人もAグループがいるというのは確かに強い集団と言えるが、それで残りのクラスメイト全員と渡り合えるかと言えば難しいだろう。


 そしてどうもクラスメイトの中では俺、転校生、竜崎さん、水谷の評判が悪い。

 俺は前に出た高杉に関する疑惑が何故か根強く残っており、転校生は積極的に二人のクラスメイトを殺したという噂話が出ている。

 水谷と竜崎さんはやられそうになったからやり返したのだろうが、それでも結局仲間殺しというマイナスイメージは拭いきれるものじゃなかった。


 他にも坂本と黒川が仲間殺しとして村八分的な扱いを受けているが、あいつらは元々一人で行動することが多かったからあまり気にしていないようだ。


「さあどうする? 仲間殺しでやむを得ず集まった白瀬達を信じるか、それとも俺たちを信じるか」

「……アタシは」


 竜崎さんが歯をギリっとさせて柳を睨みつけていた。

 だが彼女は柳に答えを言おうとしてか、歯を食いしばるのを緩めてゆっくりと口を開く。



「一体何をしているのかしら?」

「「「…………」」」



 しかし、竜崎さんが答えを出そうというその瞬間、奏が俺達のところへやってきた。

 奏は俺と竜崎さん、それに柳達へ順々に目をやりながら俺の隣まで歩いてくる。


「……白上さんには関係のないことだ」

「あらそう? それじゃあお邪魔だったかしら」


 微笑を浮かべたまま表情を崩さない奏の様子に柳はたじろぐ。


 無理も無い。

 今の奏が言外に放つ圧力は俺も目を逸らしたくなるくらいだからな。


「でもね、柳君」

「な、なんだよ……?」

「私達のことをとやかく言えるほど、君達の立場は良くないんじゃないかしら?」

「ぐ……!」


 奏の言葉を聞いた柳が呻くような声を上げ、表情が歪んでいく。


「結果的に未遂ということになってはいるけれど、鋼を殺そうとしたことで君達もクラスメイトから相当引かれていたと思うわよ?」

「…………チッ」


 そういえばそうだ。

 柳達の場合は未遂だから俺達ほどではないが、それでも近寄りがたい存在としてクラスメイトから認知されているらしい。

 それじゃあ竜崎さんがわざわざ柳達につくメリットは少ないか。


 ……というか何気に奏は俺が死にかけたことをちゃんと知っていたんだな。

 全く話題に出してこないからもしかしたら知らないのかもと思ってそのまま黙っていたが。


 俺に気を使ってその話題は出さないでおいてくれたということなのか?


「というわけだから、結も私達を裏切る意味なんてないわよ」

「う、裏切るとかそんなこと別に考えてねーし」

「そうよね、私達は別に仲間でもなんでもないんだから、裏切るという表現は正しく無かったわよね」

「う……」


 奏はからかい口調でそんな事を言い、それに対する竜崎さんは若干悔しそうな顔をしている。


 というかさっきまでの俺達の会話を奏はちゃんと聞いていたようだな。

 じゃないと何の説明も無くここまで的確なことは言えない。


「……そもそもアタシは柳達と組み気なんてねーし」

「あら、それじゃあやっぱり私はただお邪魔しただけだったわね」

「そうだよ。アンタはただのお邪魔虫だ」

「ふふっ、そうね」


 そして奏と竜崎さんはニヤリと笑い合う。

 あまり仲が良い会話とは思えないが、これがこの二人流のやりとりなのだろう。


「……はぁ、いくぞお前ら」


 そんな二人を見て勧誘を諦めたのか、柳達は重い足取りで俺達の下から去っていった。


 あまり変ないざこざを起こさないでほしいな。

 少なくとも明日までは。


「白瀬」

「ん?」


 と、そこで竜崎さんが俺に声をかけてきた。

 俺が竜崎さんの方へ振り返ると、彼女は指で髪をクルクルといじりつつ、そっぽを向きながら口を開く。


「その……さっきはサンキューな。一応アタシの事を助けようとしてくれたんだろ?」

「あ、ああ、別に感謝される事でもないさ」


 なんだか竜崎さんに感謝されるのはやっぱり少し違和感があるな。


 なんというかもにょる。

 多分あんまり素直に感謝の言える人だとは思っていなかったからだろう(クソ失礼な話だが)。


「でも奏には感謝なんてしねーかんな」

「はいはい。私はそれでも良いわよ」


 ……でも奏に対しては素直じゃなかった。

 よくわからない人だな彼女も。


 そうして竜崎さんも俺達の下を去っていった。

 また、奏は竜崎さんの後姿を見ながら俺に向けてそっと呟く。


「……柳君達の動きは目に余るものがあるけれど、こうしていがみ合うのも後少しの辛抱だからあまり気にしないでおきましょう」

「……だな」


 そうだ。

 奏の言う通りだ。


 俺達はもう対立する必要なんてない。

 俺達はもう殺し合う必要なんてない。

 なぜなら明日の今頃には、俺達はここから脱出しているんだから。


 しかしそれを今知る人間は少ない。

 明日脱出作戦を決行することを全員に知らせるとディアード達に情報が漏れるかもしれないからな。


 話自体が漏れなくとも、俺達の様子から何かがあると感づかれる可能性もある。

 だから作戦を開始するまで大多数のクラスメイトには何が起こるかは説明しない。


 チャンスは一度っきり。

 俺達はその一度っきりのチャンスで自由を勝ち取らなければならない。



 そんな事を俺は思いつつ、今日という日も無事終える……はずだった。


 けれど柳達との一悶着があったそのすぐ後、俺の今後を左右する重要な出来事が起こった。



 俺達が部屋に戻ると、そこへ俺に話があると言って竜崎さんが訪ねてきた。

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