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勇者共のアポカリプス  作者: 有馬五十鈴
第一章 奴隷勇者編
13/43

セクハラ

「というわけで今回の脱出計画におけるキーパーソンとなる予定の周防渚すおうなぎささんと相沢良人君よ」

「よろっす」

「よろしく」


 俺達が脱出計画を練った翌日。

 奏は食堂にて数人のクラスメイトに声をかけ、俺の下へ連れてきた。


 一応ここにもディアード側の監視の目があるからあまり大人数で集まるような事はできないが、一人二人がいつもと違うグループにいる程度では怪しまれる事もないだろう。

 話をする際も勿論小声で、周囲に聞かれないよう注意を払っている。


「にしても、今日はやけにお二人とも眠そうな目をしてるっすよね~」

「ええ、昨夜は鋼がなかなか寝かせてくれなくって。彼ったら私が今日はこの辺にしましょうって言ったのに、もっともっとってせがむんだもの」

「誤解を生む言い方は止めてくれ」


 作戦会議の結果で寝不足になっただけなのに、その言い方じゃまるで俺がハッスルしたみたいじゃないか。

 一応恋人同士ということで通っているが、クラスメイトに「昨夜はお楽しみでしたね」とか言われたくはない。


「ふふふ、冗談なのはわかってるっす。奏さんから聞いてるっすよ~。中々面白そうな計画を考えてるじゃないっすかお二人さ~ん」


 俺はいくつか補足しただけだがな。


 脱出に関する大まかな計画は話し合う以前から奏がいくつかの案を考えていた。

 俺はその案を基にして実現可能と思えるものを絞っていき、最後に残った一つの方法をミスが無いか色々考えていっただけにすぎない。

 だからこれは厳密には俺達ではなく奏の立てた計画だ。


「それで、周防さんがキーパーソンというのは?」


 俺の隣にいた相沢がそんな問いかけをしてきた。

 相沢も奏の作戦で有用になってくるだろうと判断してこの場に呼んだクラスメイトの一人だ。


「……周防さん」

「あいあいさ~」


 奏が周防さんに耳打ちし、何らかの指示を与えた。

 すると周防さんが俺の手に触れて呟く。


「『転心の加護』」

「…………!」


 そして俺は周防さんになっていた。


「……なあ、なんで俺が周防さんと入れ替わっているんだ?」


 俺は隣にいる奏に訊ねた。

 その際の俺の声は女性の声……周防さんの声だった。


「言葉だけではなく実際に確認しておいたほうが良いでしょう?」

「まあそれはそうなんだが」


 周防さんの加護は『転心の加護』。

 その効果は自身と対象者の精神を入れ替えるというものだ。

 だから今の俺の体には周防さんの精神、周防さんの体には俺の精神が入った状態になっている。


 効果時間はおよそ10分。

 精神を入れ替える時は対象者に周防さんが直接触れないと失敗する。


 ……というのがディアード達の知っている情報だ。

 俺や柳程度の相手にならディアードもそこまで警戒しないようだが、周防さん相手に近づくという愚考はまず犯さない。


 けれどここからはあいつらも知らない、勇者の数が減って加護が強化された事により最近新たに可能となった周防さんの力だ。


「『転心の加護』」


 俺の体に入っている周防さんは奏の方を見ながら加護を発動させる。

 するとニマニマしていて何とも締まらない俺の顔が急にキリッとし始めた。


 加護の連続使用プラス対象者との接触無しで入れ替われる、という発動条件の緩和。

 それが未だ俺達しか知らないディアード対策の切り札だ。


 二日ほど前、奏がどうにかしてディアードを無効化できないかと考えていた際、周防さんに相談して二人で色々実験したらできるようになっていたらしい。


「どうやら成功のようね」

「そうっすね~。前までは一回使えばもうヘトヘトだったのに、今じゃ二回までならなんとか連続で使えるようになったっすよ~」


 奏の顔でニマニマする周防と俺の顔でキリッとする奏は互いに顔を見合わせてそんな会話を交わす。


 ……そして奏はおもむろに手を股間付近に当てた。


「おお」

「おおじゃねえよ。何やってんだよ」


 俺はそんな奏に若干キレ気味な口調でツッコミを入れた。

 今、奏の体は俺の体なわけで、その奏が股間に触れるということはつまり俺が公衆の面前で股間を触っていると見られてしまいかねないわけで。


 しかもそれを周囲に説明するわけにもいかず、俺は泣き寝入りをするしかない。

 一応俺達は食堂の隅っこを使っているから意識してこちらを注視しなければ彼女の行動も見えないだろうが。


「私、男の子の体になったら立ちションをするのが夢だったのよね。ちょっとその辺でしてきてもいいかしら」

「おいやめろ。やめてくださいお願いします」


 俺の顔をした奏が急に席を立とうとしたので、俺は彼女の腕(まあ俺の体の腕だが)をがっしり掴む。


 なんで彼女はちょくちょく俺にセクハラめいたことをするんだ。

 いくら周りから恋人と思われているからといって羽目を外しすぎだろう。

 それとちんこ揉むのそろそろ止めろ。それはガチでセクハラだ。


「……ねえ、鋼。今の状況とは全く関係の無いことなのだけれど、男の子って人前で勃起したらどう対処すればいいのかしら?」

「奏さん勃起してません?」


 触りすぎて勃起してません?


 何やっちゃってんのこの人は。

 何勃起してちょっと焦った顔してんだよ。


「あ……鋼のって、やっぱり凄いおっき――」

「訴えますよ奏さん」


 もうこれセクハラというより恥辱だろ。

 なんで恍惚とした表情をしているんだ。

 俺はそんな顔しない。


 なんか今日の奏はいつにも増してフリーダム過ぎる。どうしちゃったんだ。

 そう思いつつも俺は日常生活で稀に起こる突然の勃起をいかに誤魔化すかについて奏に耳打ちした。


 何が悲しくて女の子相手にこんな話をしなきゃいけないんだ。


「とまあこれが私の切り札なわけなんっすよ~」


 奏の顔をした周防さんがクスクス笑いながら言う。

 周防さんも笑ってないで奏の暴走を止めてくれよ。


「……なるほど、これでディアードの隙を突くわけだね」

「その通りよ」


 と、そこで相沢が真剣な顔のまま納得と言った声を上げ(相沢のスルー力がハンパないな)、何かを隠すように席へと座り直した奏が頷いた。


 俺もこの加護が有用である事は十分理解している。

 この加護を連続で使用できるという事はつまり、周防さんがどうにかして警備兵の誰かに移り変わり、そしてその警備兵の姿でディアードに近づけばあいつを無力化できる可能性が高い。

 俺達を首輪で縛る事ができるのはディアードだけであるのなら、ディアードがただの警備兵になった時に俺達の暴走を一瞬で鎮圧できるとは思えないからな。


 ……だが本当にこの首輪がディアードのみにしか操れないのか、という疑問が俺の中にはある。

 もしかしたら俺達はあいつらに泳がされているんじゃないかと思わずにはいられない。


 けれどここで手をこまねいていられないという事だけは事実だ。

 なんとしても俺達は、これ以上の被害者を出すことなく外へ脱出しなければならないんだからな。


「私、男の子の体になったら射精もしてみたいと思っていたのよね、ちょっとその辺で抜いてきてもいいかしら」

「マジ止めてください奏さん。そろそろ俺の体返してください」

「あはは……二人とも仲良いね……」

「仲が良いのは良い事っすよ~」


 そして俺が真面目な事を考えている横では奏が酷く残念な事を口走っている。

 これに対しては流石の相沢も苦笑いをし、周防さんの方はのほほんとした様子で、奇行に走る彼女と全力で止める俺を二人はただ見ているだけだった。



 その後、俺はやっと奏から自分の体を返してもらったものの、なんだか体が滅茶苦茶火照っていた。

 ここにきて以来禁欲生活だったということもあってか暴発寸前だった。


 また、人前で悶々とし始めてしまった俺を見て流石に悪いと思ったのか奏は素直に謝ってくれた。

 ……が、「もし我慢できないようならお詫び代わりに手を貸すから言って頂戴」などという素なのかわざとなのかよくわからない余計な言葉も付け加えてきた。


 手を貸すってなんだよ。

 俺が悶々とする時間はその一言で確実に長くなった。


 こうして俺は冷静になるまでしばらく席を立つ事ができず、ムラムラした気分のまま作戦会議を聞き続けた。

 本当に何してくれちゃってんだよ奏は。

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