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【旧版】魔装戦記エルガイザー   作者: 優パパ★
第三部&エピローグ 
9/10

その8

ホントにお待たせしてしまってすみません!m(_ _)m

何とか完結させることができましたので、ぜひ最後までお読みください。


      11


 --フランは夢を見ていた。


 夢の中で、フランの意識が彷徨っていたのは、見たことも無い別の世界だった。


(これは……何……私は……どこにいるの?)

 意識だけの存在になったフランは、まるで流されるように様々な場所、時間を浮遊していたが、やがてフランはハッとここがどこなのかを思い出した。


 これはゼー太の記憶の中--ギガ・ゾームに必殺技を放った時、《エルガイザー》と完全に同調シンクロしていたフランに流れ込んできた1000年前の世界。


 そしてフランの頭の中に、ゼー太の記憶を通じてこの時代についての様々な情報が流れ込んでくる。


 --旧世紀の暦における22××年、その時代も世界は戦火に覆われていた。


 だが、それはそれまでの人間と人間の戦いではなく、人類とそれを滅ぼさんとするものとの戦いだった。


 《ティターン》と呼ばれた異形の邪神群。その正体は、暴走する人工知能によって操られた、巨大な機械兵器たちだった。この時代において人命尊重の観念からすべての兵器は無人化されており、そのことが逆に人類にとって仇になったのだ。


 自我を持ち、人類に反旗を翻した彼らはその圧倒的な戦闘力で町を焼き払い、人々を殺戮し、国々を破壊していった。更には《バイオテクノロジー》によって生み出された様々な巨大な魔獣だちもが、人類の制御を離れ、邪神達のコントロールに従った。


 そしてそんな機械の邪神たちや遺伝子操作の生み出した魔獣たちに立ち向かうため、東方の科学者たちが中心となって開発したのが、人の意志を組み込んだ究極の有人戦闘兵器エルガイザーだった。


 だが、その究極の超兵器が開発された背景には--!


(……あれは、ゼー太?)

 意識だけの存在として漂うフランの前で、今よりもう少し幼いゼー太と、そして彼にそっくりな顔立ちをした愛らしい黒髪の少女が、集められた他の子ども達と共に様々なトレーニングを課され、また幾多の実験の対象となっていた。


 《エルガイザー》システムの核を担う《霊子力》とは生命のエネルギー。その実験対象としての《素材》となるのは、第二次性徴が始まったばかりの生命エネルギーに満ちあふれた子どもこそがふさわしい。


 しかし、本来、人間の生命力そのものを利用する《霊子力》の研究は、科学においても禁断の領域とされてきた。更に全ての研究には人体実験が不可欠であり、犠牲が出る可能性も極めて高い。そしてとどめにその対象となるのは年端も行かぬ子どもたち……このような非常時でなければ決して許されぬ、それはまさに悪魔の研究だった。


 トップシークレットとして行われたこの研究のために、実験施設に集められているのは、検査によって適性を認められた戦災孤児たちだった。《ティターン》によって身寄りを失った彼らは、その純真さもあってこの計画にも前向きであったし、そして何より、仮に実験の結果で『何か』が起こっても後腐れはない--


(ひどい……あんないたいけな子どもたちを、大人の都合で利用するなんて……!)

 その光景を見守るフランが、ギュッと握った拳に力を込める。


 しかし他にどこに行く当ても無い子どもたちは、「この世界を救うため」という美名のもと、お互いに励まし合ってその境遇に耐えていた。特にちょっとエッチだけど(どうやらそこは元々らしい)明るく活発なゼー太は彼らのムードメーカーであり、そして正反対に内気な性格の双子の妹のことを、いつも気遣いながら日々を過ごしていた。


 だが、そんな中で悲劇は起こった--


 実験中に起こった事故によって、ゼー太の妹が重傷を負い危険な状態に陥ったのだ。緊急治療室の窓にしがみついて、生死の境をさまよう妹の姿を喰い入るように見ていたゼー太は、訪れた科学者達に向かって必死に叫んだ。


--お願いだ! 妹を……妹を助けてくれよ! たった2人の兄妹なんだ。あんた達の力があればできるだろ?


--確かに最高レベルの医療処置を施せば、生命を維持することはできるでしょう。しかしそれには非常に大きなコストがかかります。我々にそんな予算はありませんし、もちろん君では払えませんよ。

--頼む、頼むよ、妹を助けて! オレにできることなら、何でもするからさ!!


 その言葉を聞いた時、科学者達は密かに笑った。まるで、言葉巧みに契約を結んで人から魂を得ようとする、物語の中の悪魔のように--


--そこまで言うなら条件があります。幸い、あなたが実験で見せてきた数値はどれも極めて高い。いよいよ最終段階まで来ている《エルガイザー》計画。その最初の被験者になるというのなら……

--する! オレなんてどうなってもいいから、妹だけは!!


 ……そして契約は成立し、《霊子力》を引き出すための《器》となるべく、少年は危険な改造手術を受けた。結果、出術そのものは何とか成功したものの、だがその代償として彼は『人間』では無くなった--


 そして代わりに誕生したのが、《装着型万能最終決戦魔装兵器エルガイザー》であった。その前の5体の失敗を経て完成したその機体は、6番目のギリシア文字である『Ζ』の名を冠せられ(もちろん、少年が「ゼー太」と呼ばれ出すのはそれからであるが)、世界で最初に開発に成功した《エルガイザー》となった。


 その後、様々な苛酷な訓練の後、実戦に投入された《エルガイザーΖ》は驚異的な戦闘能力により、《ティターン》たち機械の邪神群と互角以上の攻防を繰り広げた。そしてそのデータは蓄積され、世界中の研究機関にフィードバックされることにより、次々と新たな《エルガイザー》が生み出されていった。


 戦闘機や戦車、戦艦や潜水艦、更には空中戦艦や移動要塞、巨大ロボットといった機械の邪神群と《エルガイザー》たちの激しい戦いは約1年に渡って繰り広げられ、そして最後の戦いで邪神群を制御していたマザーコンピューターが破壊され、反逆の機械兵器達が全ての動きを停止した時、生き残った人々は歓呼の声で、自らの身を犠牲にしてまで世界を救った少年少女たちを称えた。


 「英雄」そして「救世主」と--!


 ……しかし、そんな栄光の日々は長くは続かなかった。


 次にフランが見たのは、立派な服を着た軍人に向かって、必死な面持ちで食ってかかるゼー太の姿だった。そしておそらく将官クラスであろうその軍人は、そんなゼー太を冷徹な表情を浮かべ見下ろしている。


--お、おい、話が違うじゃねぇかよ!? オレ達は暴走する機械どもを止めるための存在だったはずだぜ? なのに何で人間同士戦わなきゃならないんだよ!


 《ティターン》との戦いが終わり1年、破壊から生き残った国々は自国の復興のため、残された資源や富を巡っての争いを始めた。そしてそのために主力として投入されたのが、各国が所有する《エルガイザー》であったのだ。


--我が国が生き残るためには仕方がないことだ。そして国家が決めたことに対し、お前のような子どもが反論する資格は無い。

--でも、でも、あいつらは一緒に《ティターン》と戦った仲間なんだぜ! なのに、なのに殺し合えっていうのかよ!?


 それでも食い下がるゼー太に、軍人は冷ややかに言い放った。

--どちらにせよ、お前に選択肢などはない。妹への治療が打ち切られてもいいのか?


--……!!

 ゼー太の脳裏に集中治療カプセルに入れられたまま、未だ目覚めぬ妹の姿が浮かぶ。そしてしばらくの苦悩の表情の後、ゼー太はその場にがっくりと崩れ落ちた--


 かくして、世界各国で全18体作られた《エルガイザー》同士の、壮絶な死闘が始まった。さしもの《エルガイザー》も、同じ《エルガイザー》が相手となった以上、無敵というわけにはいかなかった。最強の矛と最強の盾がぶつかれば、どちらかが、もしくはその双方が砕け散る。《エルガイザー》は一体、また一体と破壊され、ゼー太もまたかつては戦友として共に戦った何人もの仲間を、その手で葬りさった。


 本当は戦いたくなかった。誰も殺したくなどなかった。だが、そんな悲痛な戦いの中で傷ついた少年の心を更に深くえぐったのは、この戦争への疑問を口にした彼に対し、その時の装着者が言い放った一言であった。


--だまれ! お前はしょせん《兵器》、ただの《道具》だ! くだらないことなど考えず、ただ《マスター》である俺の指示に従って、敵と戦えばそれでいいんだ!


(……そっか……だからあのときゼー太はあんな顔をしたんだ……)

 フランは自分から《相棒バディ》と呼ばれた時に、ほんの一瞬だけゼー太が浮かべた泣き笑いのような表情を思い浮かべ、胸が締め付けられるような思いがした。《兵器》と呼ばれ、《道具》と呼ばれた彼にとって、その言葉は一体、どれ程嬉しかったことだろう--そして少年はそれまでどれほど深く傷ついていたことだろう--


 そんな絶望にも似た日々の中で、最後の--そして最大の悲劇が、少年を襲った。


--そんな……ウソ……ウソだろ……?

 その光景を前にゼー太は呆然と立ち尽くした。追い詰められた隣国の《エルガイザー》たちによる都市の無差別破壊。民間人を巻き込んでの《エルガイザー》の攻撃は、それでもギリギリのモラルで封印されていたのだが、激化する戦闘の中でついにその歯止めが壊れたのだ。


 そしてその無差別破壊の標的となった都市の一つには、彼が改造手術を受けた研究施設があり、ゼー太が急行した時には、もはやそこには何も残されていなかった。


 未だ救命カプセルの中で治療を受けていたはずの、少年の最愛の妹の姿もまた……


(……ゼー太……!)

 胸の痛みに耐えられなくなって、フランは思わず目をつぶった。自分もまたガルガンテスの侵攻で故郷の村を、家族を、友人を失った。その時、ゼー太が感じたであろう哀しみの深さが、我がことのように感じられ、フランの閉じた目から涙があふれる。


 だが、たとえ目をつぶっても、記憶のイメージは容赦無くフランの意識に流れ込んでくる。


 「-----!!!」廃墟と化した研究施設を見たゼー太は、声にならない絶叫と共に天空へ舞い上がると、凄まじい加速と共に宙を駆けた。そして同じくこの無差別破壊によって自らの縁者を全て失った《マスター》との怒りと憎悪のシンクロは、まさに《エルガイザー》を--《魔神》と変えた!


(やめて……もう……やめてよぉぉ!!)


 それはあまりにも凄惨な光景だった。切って落とされた血みどろの戦い--復讐の魔神と化した《エルガイザーΖ》は、壮絶な死闘の末、次々と敵対する《エルガイザー》たちを屠り、そしてその超兵器同士の激突に巻き込まれた都市たちは、次々と破壊されていく。


 それはまさに神話で教えられた《終焉の戦い》そのもので、フランは恐怖と哀しみに押しつぶされながら、その光景をただ為す術も無く眺め続けた。


 --そして、約一週間の死闘の末、その最後の一体を粉々に粉砕した《エルガイザーΖ》が、ふらふらと地面へと降り立った。


 変身を解除した瞬間、力尽きた装着者がドサッと地面に崩れ落ちる。そのまま動かなくなった《マスター》の姿を、自らも極度の心身の疲労を感じながら、半ば魂が抜けたようになってぼんやりと見下ろしていたゼー太だったが--


--人殺し!


 不意に背中から浴びせられたその鋭い叫びに、虚ろな意識を向けたゼー太の前に立っていたのは、自分とさほど変わらぬ年齢の一人の少年だった。


 そして、廃墟と化した都市と同じくボロボロな姿のその少年の腕には、すでに息絶えたと思われる少女の姿があった。そして物言わぬ少女をかき抱いた少年は、憎しみに燃える瞳でゼー太をにらみつけると、血を吐くような声で叫んだ。


--よくも、よくも俺の妹を殺したな……! 俺のたった一人の兄妹だったのに!!

--!?

 ドクン、その言葉にゼー太の心臓の鼓動が跳ね上がる。同時に全身から血の気がスッと引いていき、ガクガクと震え出すのを感じる。


 ゼー太は知った。我を忘れるほどの怒りに駆られる中で、自分が一体何をしてしまったのか、そして今や自分がどれほど忌むべき呪われた存在に成り下がってしまったのか--


 そして気が付けば少年だけではない、かろうじて生き残っていた周辺の人々全てが、自分に対し暗い鬼火のような憎悪の視線を向けている。


--絶対に……許さない。許すものか……

 人々の呪詛の声が幾重にも重なってゼー太を襲う。それはまさに自分が殺してしまった無数の人々が地獄から呼ぶ声のように感じられ、恐怖にかられたゼー太は後ずさりしながら耳を塞いだ。


 だが、そんなゼー太を人々はぐるりと取り囲み、怒りの表情のまま次第にその輪を狭めてくる。その視線だけで心臓を止められてしまいそうな、凄まじいまでの殺気と共に! 


(だめっ……! お願い! ゼー太に酷いことしないで!)

 そんなゼー太を守ろうと、無我夢中でフランはその間に立ちはだかった。だがこの記憶の世界において実体を持たない彼女の叫びなど、群衆の耳に届くはずもなく、やがてはその身体をすり抜けて人々はゼー太に迫っていく。


 そして今や恐怖と絶望に顔を涙でくしゃくしゃにしたゼー太に向かって、人々はあふれる憎悪と共に--容赦なくその言葉を叩きつけた。


--この……『悪魔』めぇぇぇぇ!!


※      ※


「--ゼー太!!!」


 思わず悲鳴をあげたフランが、その瞬間勢い良く跳ね起きる。一瞬にして切り替わった世界に混乱しながら、はぁはぁと荒く呼吸を整えるフラン。身体中がぐっしょりとイヤな汗に濡れて、薄い肌着が素肌に不快に張り付いてくる。


「こ……ここはどこ?」

 ようやく少し落ち着いて、まだぼんやりとする頭で周囲を見渡すフラン。少なくも王宮で与えられていた自分の部屋では無い。どこかの家の寝室だろうか。室内はさほど広くはないが清潔に整えられている。フランはその部屋の中央に置かれたベッドの上で、外で鳴く小鳥の声を聴きながら、窓からの木洩れ日に目を細めた。


「フラン! 良かった! 目が覚めたのか!」

 そのとき、勢い良く入り口のドアが開くと、エルフリードが姿を現した。その顔には心労の跡が色濃く残っていたが、しかし今その表情には心からの安堵が浮かび、あふれる喜びに眼を輝かせていた。


 意識を失っていたフランには知るよしも無かったが、昏々と眠り続ける彼女をかろうじて破壊をまぬがれていたこの民家に収容した後、エルフリードはずっと隣室で自らが寝ずの番をつとめていたのだ。


 もちろんその間にも、戦禍で破壊された国内の復興に向け、彼がやらねばならないことは山の様にあったのだが、幸い深手こそ負ったものの父王は無事であり、また彼の気持ちを察したベックやセシリア、神官長たちも彼の代わりに奔走してくれていた。


 そして何より、フランの活躍によって命を助けられた全てのレルムの人々が願ったのだ--エルフリードに彼女の側にいてあげて欲しいと。


「……王子」

 そんなエルフリードの姿を見て、思わずフランが涙ぐむ。そしてフランは同時に、《戦士》になることを決意して以来、ずっと張り詰めていた気持ちがみるみる溶けていくのを感じていた。


「君にはずいぶん辛い思いをさせてしまった。本来なら王子である私がするべきことだったのに--フラン、こんな私を許してくれ……」

「いえ、いいんです、王子……というか私なんかに謝らないでください」

 深々とうなだれるエルフリードに、フランは慌てて首を振る。


「フラン……」

「そりゃあ確かに怖かったですし……その……あの……色々と、は、恥ずかしかったりもしましたけど……」

 そう言うと色んなことを思い出してしまいカァァァと赤くなるフランだったが、しかし次の瞬間には迷いの無い瞳で、まっすぐにエルフリードを見つめていた。


「でも私……何だか少しだけ、強くなれたような気がするんです。それに、初めて王子の……エルフリード様のお役に立つことができました!」


「……ありがとう、フラン……」

 ようやく顔を上げたエルフリードの右手が、そっとフランの頭をなでる。しばらく幸せそうにされるがままになっていたフランだったが、やがて少しだけ勇気を出すとその手を取って自分の頬へと導いた。そしてそのまままるで子猫のように、愛しい王子の手に頬ずりをする。


(それどころか、私は今とっても幸せです……だって私なんかのことをエルフリード様にこんなにも想っていただけるなんて……)


 そんなフランをエルフリードが優しげに見つめている。その温かなまなざしに包まれながら、この優しさを守るために自分は頑張ったんだと思うと、なんだか胸がいっぱいになって、フランはまた涙があふれそうになるのを慌てて指でぬぐった。


 --そんな風にしばらくの間、幸福な時間をかみしめていたフランだったが、そのとき不意に大事なことに気が付いて、慌てて部屋の隅々に視線を向けた。


 しかし彼女が探した黒髪の少年の姿は、どこにもいない。


「どうした、フラン?」

「そう言えばゼー太は!? ゼー太はどこにいるんですか??」

 何だか無性に胸騒ぎがして、エルフリードに詰め寄るフラン。


 そんなフランに対し、エルフリードはしばらくためらうそぶりを見せたあと、意を決したようにして答えた。

「--ゼー太は行ってしまったよ」


「--えっ!?」

「自分がここにいたらまた君を闘いに巻き込んでしまうから--と言っていた」

 そう言うとエルフリードは、ギガ・ゾームを倒した大爆発の後に交わしたゼー太とのやりとりを、動揺を隠せないフランに、ゆっくりと言い聞かせるようにして語り始めた--


 --大爆発が収まった後、フランの身を案じてクレーター状にえぐれた爆心地へと駆け寄ったエルフリードたちを迎えたのは、ぐったりとした全裸のフランを両手に抱きかかえたゼー太の姿だった。再び少年の姿に戻ったその腰には、それまでフランに巻かれていた《Ζドライバー》が再び装着されている。


「大丈夫。疲れて寝てるだけだ。ほら、約束通り傷一つ付けちゃいないだろ?」

 そう言うとゼー太はフランの身体をよいしょと地面に横たえる。


「しっかし、ホントこんな手間のかかる《マスター》も初めてだぜ。びびりだわ、へたれだわ、泣き虫だわ、そのくせ言うことは聞かねぇし……」

 そう苦笑いしながらも、ゼー太はその一糸まとわぬ裸身を隠すように、自分の短衣を脱いで上から被せた。そして疲れて眠るフランの寝顔をしばらく優しい目で見つめた後、ゼー太はぼそっとつぶやいた。


「……まぁでも、ド素人の小娘のワリには上出来ってことにしとくかな。それに何よりこいつはオレの力を『正しく』使ってくれた。後でオレの代わりに褒めといてやってくれ」

 『後で代わりに』という言葉に引っかかりを感じながらも、律儀にうなづいてみせるエルフリードに、ゼー太はフッと口元を緩めると続けた。


「後、王子様よ、お前にはもう一つだけ頼みがある」

「--?」

 ゼー太の様子にそれまでの常に人を食ったような態度とは違う何かを感じて、思わず姿勢を正すエルフリード。そんな彼に向かって、ゼー太はおもむろに口を開いた。


「--この娘を守ってやってくれ」


「えっ……?」

「そもそもふつーの連中はオレの存在を知らないから、敵も味方もこいつこそが《エルガイザー》だって思い込んでるはずだ。そして、それはこいつにとっては、あんまり幸せなことじゃない」

 まだあどけないとも言える無垢な表情を浮かべてすやすやと眠るフランを一瞥し、ゼー太は少し苦みを含んだ口調で続けた。


「まぁあれだけの力を見せつければ、さすがに命を狙おうとする奴はいないだろうが、でもその力を恐れ、敬遠する者はたくさん出るだろうし、逆に利用してやろうとすり寄る者もいる。騙されたり、裏切られたりもするかもしれない。そんな時、こいつのことを支えてやれるのはお前しかいない--頼めるよな?」


「ああ--約束する。フランは私にとっても大切な娘だ。我が名にかけて、私はフランを生涯守り抜いてみせる」

 そう言うと、まっすぐにゼー太の瞳を見つめ返してくるエルフリード。


 そんなエルフリードとしばし無言で視線を交わした後、ゼー太は再びフッと口元を緩めた。

「……いい目だな。そういやぁ1000年前のあいつもそんな目をしてたっけな……」


 そうつぶやくと、ゼー太がくるりとエルフリードに背を向ける。そしてゼー太はそのまますたすたと歩き出した。


「……!? ど、どこへ?」

「ん、まぁせっかく目覚めたんだし、この1000年後の世界を一人気ままに旅してみるさ。何だか科学技術全盛の時代に比べ、だいぶレトロな感じになってて面白そうだしなー」

 慌てるエルフリードたちに対し、振り向きもせずに答えるゼー太。


「そんな! ここにいてレルムを守ってはくださらぬのか!?」

「今の状態でまたガルガンテスに攻め込まれたらひとたまりもないぞ!」

 そんな無責任な!? とばかりにわめく神官長とベックに、ゼー太は一旦立ち止まると呆れたように声で返した。


「ばぁーか! 何でオレがそこまでしてやんなきゃいけねぇんだ? もともとオレには関係ねぇよ」

 そしてゼー太は少しだけ振り返ると、神官長とベックをギロリと一瞥した。


「いいか? 自分の国ぐらい自分で守りやがれ。そうやってすぐオレの力に頼ろうとするから、ここにいたくねぇんだよ!」

「し、しかし……!」


「--わかった。あなたの言うとおりだ。甘えたことを言って申し訳ない」

 まだ何か言いたげな二人を制して前に出たエルフリードが、ゼー太に向かって深々と頭を下げた。それに倣うようにしてセシリアが、そして神官長やベックも慌てて頭を下げる。


「レルムの国は我らレルムの人間の手で守る。今回力を貸してくれたことを、レルムの王子として心から感謝する。ありがとう《エルガイザー》……いや、ゼー太殿」


 その言葉にゼー太はニヤリと笑みを浮かべると、またくるりとエルフリードたちに背中を向ける。そしてゼー太は「じゃあ、あばよ」とだけ言って右手をあげると、そのまま再び歩き出した。


「--あぁ、そうだ」

 最後に思い出したようにもう一度歩みを止めると、ゼー太は振り返らないまま、見送るエルフリードに向かって言った。


「ずっと先、お前が天国とやらでレオンハルトの奴に会ったら伝えといてくれ。あの時の借りは1000年越しで確かに返したぜ、ってな」


 そしてゼー太は、そのままいずこへともなく去っていった。ま、オレは天国には行けっこないからなぁー、と、そんな軽口をつぶやきながら--


「--そんな……ゼー太……」

 エルフリードの話を聞き終わったフランは、思わず呆然とつぶやいた。


 長い眠りの中で見ていた夢の内容が、頭の中に浮かんで離れない。そして「オレは天国には行けっこない」というその何気ない軽口の中に、どれほど深い哀しみが込められているか--そのことを思うと、フランは思わずぎゅっとシーツを握りしめた。


「……ゼー太のバカ……そんな風にいっつも悪ぶって……強がって……」

 やがて悲しみが胸に満ちると共に、口からそれが言葉となってあふれ出す。目には涙がじわりとたまり、今にも決壊寸前だった。


「何が気ままな一人旅よ……ムリして気取っちゃって、バカ……そんなの……そんなの寂しいじゃない……」


 一人ぼっちで辺境の地をあてどなくさすらう、そんなゼー太の横顔がフランの脳裏をよぎる。戦争で両親を失い、続いてたった一人の妹を、仲間たちを、最後には祖国までも失った。そして今、1000年も後の時代に目覚め、周りには自分を見知っている存在などもはやどこにもいない。これほどまでの『孤独』が他にあるだろうか?


「……何が《伝説の魔神》よ……何が《悪魔》よ……ホントは……ホントは……!」

 フランの瞳から涙がぽろぽろとこぼれ出す。こみ上げる激情を何とか抑えようと、しばらくうつむいたまま肩を震わせるフランだったが、ついに耐えきれなくなると、あふれる涙と共に声を振り絞るようにして叫んだ。


「すっごく優しくって……ずっと……ずっと、傷ついてばっかりだったくせにぃ……!」


 後は言葉にならず、フランはそのまま布団に顔を埋めると、ただひたすらに泣きじゃくった。エルフリードもしばらくはそっとして置くべきと考えたのか、無言のままそんなフランの姿を痛ましげに見つめている。


(バカバカバカ……ゼー太のバカぁ……)

 次から次へとあふれる涙の中で、フランが嗚咽する。悲しみが止まらない。胸がたまらなく切なく、そして苦しい。そうか、こういう気持ちを「胸が締め付けられる」って言うんだ。そう思えば余計に何だかギュッとしめつけられるような気が……って、


 あれ? 何だろう? 本当に胸がしめつけられているような--え”? 胸??


 突然、両胸に感じた猛烈な違和感に、一瞬で泣くのも忘れて表情を固まらせたフランが、恐る恐るそーっと視線を自分の胸元に下ろす……と、


 自分の両胸が、後ろから伸びた二本の手によって、しっかりと、むぎゅっと、わしづかみにされていた。


 いや、あろうことかそれどころか--!


 揉まれていた。揉みほぐされていた。揉みしだかれていた。揉み回されていた。たぷたぷと、むにゅむにゅと、ぷるぷると、こねこねと。あどけなさの残る顔に似合わぬ重量感たっぷりの双乳を、両手にむんずとつかんで、思う存分、実に気持ち良さそうに、遠慮会釈もなく、もういっそ清々しいくらいに--


 揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み揉み……!!!!


「なっ……なっなあぁぁぁぁ???」

 あまりといえばあまりの事態に、フランがフリーズしているのを良いことに、やがて調子にのったその両手は肌着の下にまですべりこみ、邪魔とばかりにぺろんと下からめくりあげる。


「きゃ、きゃああああああ!?」

 真っ赤になって悲鳴を上げるフランの目の前で、ぶるんとばかりにまろび出た豊かな胸の膨らみをモロに見てしまったエルフリードが、次の瞬間盛大に鼻血を噴いて後方に卒倒する。どうやら生真面目に加えて徹夜続きの身には、いくら何でも刺激が強すぎたらしい。


「さーて、それじゃあいよいよ直で……」


 そのとき後ろから、かすかなつぶやきと共にゴクリと息を飲む音が聞こえてくる。その小さいとはいえ聞き覚えのありすぎる声に、まさか……と振り返ったフランの目に飛び込んできたのは、大きくふかふかな枕の両端から、にょきっとばかりに少年の手が生えているという、実にシュールな光景だった! 


 そして枕から伸びる手は、むき出しになったフランの胸の弾力を楽しまんと、指をわきわきさせながらにじり寄り、真っ白なはずの枕カバーはと言えば、はぁはぁとまるで上気するかのように赤らんでいるではないか!


「ゼ……ゼー太っっっっ!!!」

 瞬間、ぶちっ! と頭の中で何かが切れる音がしたかと思うと、フランはその『手生え枕』をむんずとつかみ、続けて渾身の力で壁に叩きつけた!


「何してんのよこのドスケベェェェ!!!」


「うわ、ひでぇ!?」

 ものすごい勢いで壁に激突した枕=ゼー太が、《変身》を解いて少年の姿に戻る。さすがに痛かったらしく、頭を抑えて涙目だ。


「それはこっちの台詞よ! 何シレッと枕に化けてんのよ!!」

 それまでの悲しみが台無しになった分、怒り心頭で叫ぶフランに、ゼー太がたじたじになりながらつぶやく。


「な、なんかお前すっかりキャラ変わってないか??」

「ええ、ホントおかげさまでね! ていうかそんなことより、あなたどうしてここにいるのよ!? 旅立ったんじゃなかったの??」


「いやーよく考えてみたら、そもそもオレの正体がばれてるわけじゃないないんだから別にここにいても問題ないし、旅に出るのはもう少しこの時代を知ってからでも悪くないかなぁと。それに……」


 そう言うと目をキラーン☆と輝かせ、いきなりフランめがけダイブするゼー太。そして怒りのあまりすっかり隠すのを忘れていたむき出しの胸に飛び込むと、谷間に顔を埋め実に気持ち良さそうにぱふぱふしてのけた!


「やっぱしこのおっぱい最高だもんなぁ☆ 《マスター》としての技量はともかく、さすがのオレもこれほどの逸材を持った装着者には、これまで巡り会えなかったというか♪」


「あ……あ……あんたって人は~!!」

 あまりにもの狼藉に、わなわなと怒りに震えるフラン。その身体からあふれだす殺気にさすがに身の危険を感じたのか、すかさず飛び退くゼー太だったが、しかし次の瞬間には「にこっ☆」とあざといぐらいにあどけなく笑うと、フランに向けて実に楽しそうに言ってのけた。


「と、いうわけで、もうちょっとだけ一緒にいてあげるから、感謝してよね☆ 《マスター》♪」

 その言葉に、ついにフランの怒りメータが振り切れ--どかーん! と爆発した!


「ふ、ふ……ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 うがーーーーっ!! ブチ切れて絶叫するフランに、やべぇ! とばかりにゼー太が部屋から逃げ出していく。


「こら、待ちなさい! ゼー太っ!!」

 怒りに燃えるフランが、逃がしてなるかとばかりに後を追う。


「王子、フランが目覚めたというのは本当--きゃあっ!?」

 ちょうどその時、知らせを聞いてやって来たセシリアたちが、ドアを開けた瞬間、目の前を猛スピードで通過していくゼー太とフランに振り回されて、目を白黒させる。


「な、なんだぁ!? なぜにあやつがおるんだ!?」

「フ、フラン、妙齢の娘がなんという格好を!」

 ゼー太の姿を観て驚愕するベックの横で、神官長が胸こそさすがに隠したものの、発育のいい身体に肌着のみといったはしたない格好のフランに目を剥く。


 しかしそんなベックたちは気にもとめず、ゼー太とフランは外に飛び出すと、そのまま追いつ追われつのデッドヒートを繰り広げた。


「待ちなさい! このドスケベエロ防具!」

「へへっ、怒った顔もチャーミングだねっ☆」

「うっさい! あんたなんか、あんたなんか、大ッ嫌いよ!!」


「えー? 身体はそんなこと言ってなかったよぉ♪」

「な、何てこと言うのよ、あんたはぁぁぁっっ!!!」

 ゼー太の軽口にますますヒートUPしたフランが、顔を真っ赤にしてつかみかかる。


「……いささか前途多難のようだな」

 ぎゃいぎゃい言いながら追いかけっこを続ける二人の姿を、ようやく復活して窓から眺めていたエルフリードが、小さくため息をつく。


「あら、そうでもないですわ」

 そんなエルフリードの横で、セシリアがなだめるように口を開いた。

「こうして見ると、まるで仲の良い姉弟のようですし、それに……」


「それに?」

「フランがあんなに元気なのを見るのは初めてですわ。違いますか?」

 優しく尋ねかけるセシリアに、エルフリードは軽く肩をすくめると、フッと口元をほころばせて言った。


「その通りだ。かなわないな、セシリアには」

 そう言うと二人はお互いに微笑みを交わし合い、再び視線をゼー太とフランに向けた。


「まぁ、何はともあれ……」

 視線の先で、蹴つまづいたゼー太が、広場の中央にある噴水へと倒れ込む。水浸しになったゼー太を見て、ざまぁーみろとばかりにケラケラと楽しげにはやし立てるフラン。 


「我がレルム王国に、頼もしい守護神コンビが誕生してくれたということは確かみたいだね」


 暖かい初夏の日差しの中、フランのほがらかな笑い声につられて、ずぶ濡れのゼー太もまた照れたように笑い出す。


 そんな二人の笑い声は、戦禍を経て再び美しく咲き誇ろうとする、色とりどりの花々に彩られたレルム王国の町並みを、まるで夏の風のように心地よく、そして軽やかに、駆け抜けていった--



あとちょっとだけエピローグがつきます(>_<)

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