その7
かなり間があいてしまったのですが、何とか3月中に続きをUP!(>_<)
フラン&ゼー太VSギガ・ゾーム、いよいよ決戦です!
PS その6を少し改変しています。読んでいないと、この7で少しだけ「?」となる展開があるかもしれませんので、前の話を思い出すためにもぜひそちらからどうぞ☆
10
絶対に--許さない! まるでそのフランの叫びに呼応するかのように、少女の全身を包む真紅の光が再び爆発的に輝き、まるで小さな太陽のようにまばゆく煌めく!
--やがてその光が収束した時、それまでほとんどが砕けて剥がれ落ち、乙女の柔肌を隠す機能を失っていた真紅のプロテクターが、全パーツとも傷一つ無い姿で、完全に甦っていた!。
とはいえ、相変わらずほとんど水着同然で露出度は高いのだけど、それでも再びそのルビーのような輝きを取り戻したプロテクターの勇姿に、ますます力がわいてくるような気がして、「よーし!」と満足げにうなづくフラン。
そんなフランに向かって、ゼー太の思念が告げてくる。
〈一応忠告しとくけど、《イグニッション・バースト》は《霊子エネルギー》の消耗が激しいから、本来はあくまでとどめ用の必殺形態だと思っといてくれ。まぁあんな魔獣の触手やドリル尾ごとき、使わなくても楽勝だけどな〉
「うん、わかった。とにかく--」
フランの瞳が、魔獣のドリル尾たちとの死闘に傷つき倒れ伏している、エルフリードをはじめとしたレルム騎士たちの姿を眺めやる。そして復活した自分を見つめるその人たちの、安堵と期待を込めた視線をしっかりと受け止めると、フランは決意を新たに魔獣ギガ・ゾームとドランたちガルガンテス帝国軍に向き直った!
「……私の大事な人たちを傷つけ……乙女の純情を弄んだあなた達だけは、絶対に--許さないんだからぁ!」
少女の瞳に怒りの炎が燃える。そう、彼女は今まさに生まれて初めて--本気で怒っていたのだ! それも--心の底から!!
〈そうだ、そうだ! オレの《マスター》をあんなエッチな目に会わせるなんて、許すわけにはいかないぜ!〉
そんなフランに同調するかのようにして叫ぶゼー太の思念体だったが、フランは不意にギロリと視線をそちらに向けると、ひくーい声でささやきかけた。
「……って、そのことについてはいくら理由があったとはいえ、あなただって人のこと言えた義理じゃないわよねぇ? ゼー太?」
ニッコリと、だが実に氷点下な笑みを浮かべるフランに、調子に乗っていたゼー太がピシッと固まる。
「そもそもさっきはついつい丸め込まれそうになったけど、『私のため』って言っといてあなた、ぜーーったい楽しんでたわよねぇ?」
〈あ……あははは……やだなぁ、そんな、誤解だってば……〉
それまでずっと気弱でおどおどしていた分、怒り心頭のフランが放つ強烈なオーラは、さしものゼー太をたじたじにさせるにふさわしい迫力であった。
〈ま、まぁ、それについてはあれだ……えーと、えーと……って、おい! よそ見してないで、来るぞ!〉
顔に汗をだらだらと流していたゼー太が、その瞬間、ある意味救われたかのように叫ぶ!
ハッと気が付いたフランの視界に、隙を突こうとした魔獣のドリル尾が、ギュルギュルとその目前まで迫っていた!
--だが、今のフランはすでに、それまでの彼女とは違っていた!
「そんな攻撃なんて……もう--」
フランはその攻撃を身体をひねって易々とかわしてのけると、すかさずその反動を利用したバックブローをドリル尾めがけて叩き込んだ!
「通用しないんだからぁ!」
バキャァァ! 鈍い音と共にドリル尾が粉々に砕け散る。《エルガイザー》の《攻撃補助プログラム》のおかげもあるとはいえ、さっきまでの腰の引けた打撃とは大違いなその流れるような動きに、おおおお! と、思わずレルムの騎士たちから感嘆の声が上がった。
「くっ……ひるむな! 行けぃ、ギガ・ゾーム!」
だが、間髪入れずに残った3本のドリル尾が、ゲルガの思念を受け、正面、右、左の三方向から一斉に襲いかかってくる!
「今度は3本!? でも、今の私だったら--!」
あっという間に至近距離まで迫るドリル尾に対し、落ち着いた表情でまずは回避行動を取ろうとしたフランだったが、しかし次の瞬間、その瞳が驚きに見開かれた。
グバァーン! 迫る3本のドリル尾の尖端が一斉に爆ぜたかと思うと、そこから大量の触手が出現する! そして生み出された触手たちはまるで投げ網のように四方八方へと拡がると、フランを再び捕捉せんと一気に覆い被さってきた!
「--なっ!?」
「よーし! いいぞ! がんじがらめにして身動きとれなくしてしまえ!」
もはやかわせるような状況ではない。憎たらしい小娘が為す術も無く魔獣の醜悪な触手にからめとられようとするその光景に、ドランたちが快哉を叫んだ--その刹那!
〈慌てるなっ! 《ハイパー・センサー》だ!〉
「ハ……《ハイパー・センサー》ぁぁ!!」
カッ! ゼー太の叫びに促され、すかさずフランが発したコマンドと同時に、腰に巻いた《Ζドライバー》のバックルから、まばゆい光がほとばしる!
そしてそこから湧き出た金色の光がフランの全身を包み込んだかと思うと、その瞬間、彼女の感じる世界が一瞬にして--減速した!
「--えっ!? な、何これ!?」
初めて感じる世界の感覚に、フランが思わず驚きの声をあげる!
彼女の周りで何もかもが限りなくゆっくりと動いていた。空を飛ぶ鳥も、流れる雲も、頬に感じる風の感触も、地上から自分を見上げる人々の表情の変化も、まるで呪いの魔法でもかけられたかのように、少しずつ少しずつしか動かない。
そしてそれはもちろん、ついさっきまでこちらに向かってすごい勢いで拡がってきていた、無数の触手の動きについても同様であった!
〈--《ハイパー・センサー》は感覚を30倍にまで跳ね上げるって言っただろ? だけど強化されるのは単に感覚だけじゃあない。そこで得られる膨大な情報を処理するために、お前の脳の反応速度そのものも30倍に強化される--言うなればお前は今、『30倍速の世界』にいるのと同じってことなのさ〉
「『30倍速の世界』--!」
その言葉に息を飲むフラン。そしてその言葉を裏付けるように、完全に動きがスローモーションとなってしまった触手達は、フランを一呑みに捕獲するどころか、未だにその身体にさえ辿り着けていなかった。
〈そして更にオレ様の《攻撃補助プログラム》が、強化されたお前の運動&反射神経をナビゲートしてやれば--〉
ゼー太がニヤリと不敵に笑う。そしてその瞬間、フランは今度は自分の身体の動きが、急激に--加速するのを感じた!
〈《エルガイザー》は、『神速』の動きを可能とする!〉
「--!?」
そしてその声に突き動かされるように、フランがその身体に満ちる圧倒的な《速度》の感覚を、緩慢に迫る触手の群れに向かって、一気に解放した時!
--その空間に、電光が走った!!
「--な、何だとぉぉ!?」
少女が淫靡な触手の群れによって呑み込まれようとするその光景を、それまで高笑いしながら見上げていたドランの瞳が、驚愕に見開かれる!。
それはまさにほんの一瞬の出来事だった。急に少女の姿がブオン!とブレたように見えたかと思うと、続いて閃光がまるで乱反射するかのようにその周囲を飛び交う!
そして金色の光が止み、再び少女がその姿をはっきり現した時--周囲に拡がっていたすべての触手が、その根元から断ち切られ、一斉にボロボロと崩れ落ちたのだ!
「す、すごい……!」
電光の動きを止め、通常の時間感覚に復帰したフランがその光景に息を飲む。
とはいえ、ゼー太の思念に導かれながらの無我夢中の行動ではあったが、確かにフラン自身がのろのろ動く触手の群の間を高速でかいくぐり、その全てを手刀でなぎ払ったのだ。そのときの感覚は今でもフランの中に確かに残っている。
(私に……あんな動きができるなんて……!)
そう思うとフランは軽い戦慄と同時に、高揚感のようなものがわき上がってくるのを感じて、見つめていた手の平をぐっと握りしめた。
何せ単に相手の動きを遅く感じるだけでは無く、その一つ一つの軌道までもがすべて知覚できるのだ。それならいくら普段は鈍くさいフランといえども--まして《攻撃補助プログラム》により、いつもよりもはるかに機敏かつ正確に動ける今なら、たとえ相手の数がどれだけいようが、周囲を囲まれていようが、まるで問題ではない!
〈すげぇだろ? これぞ《ハイバー・センサー》モードの奥の手、《ライトニング・バースト》さ〉
「《ライトニング・バースト》……うん、これは確かにすごいわ!」
興奮気味にうなづくフランに、ゼー太の思念が大いばりで応じる。
〈だろー、まぁとは言え、いきなりってのは感覚的に難しいとこもあるから、事前に一度使っておいて良かったぜ!〉
「……あ、あれはやらしいことするのが目的だっただけでしょ!」」
ゼー太の言葉に忌まわしい記憶を呼び覚まされて、一転してかーっと赤面するフランに、ゼー太の思念がチッチッチッとうそぶく。
〈勘違いしてもらっちゃ困るな。あれはお前の体中に刺激を与え、超感覚に覚醒させるための『開発』、もとい訓練だったのさ。だからセクハラどころか、むしろ感謝して欲しいもんだよなー〉
「……それはちょっと信じられないけどさぁ」
ぬー、とジト目になるフランだったが、でも今ここでそんな追及をしていても始まらない。フランは気持ちを切り替えると、再び眼下の魔獣に向かってキッ!と視線を向けた。
相変わらずひっくり返されたまま身動きがとれないとはいえ、そこはやはり戦闘のために生み出された最強の魔獣兵器である。3つ首の竜頭はまだ健在であるし、尖端のドリル部分こそすべて破壊されたものの、6本の尾自体も動きを止めたわけではなく、まるで獲物を狙う蛇のように頭をもたげている。
〈チッ、迎撃してるだけじゃラチがあかねぇな。そろそろこっちからしかけて一気にぶちのめすべきだが……大丈夫かよ?〉
ゼー太の思念がチラリとフランの顔をのぞき込む。改めてそう問われて、フランは自分ののどがこくんと小さく音を鳴らすのを感じた。
それは正直、全く怖くないかと言えば嘘になる。何せあの恐ろしい魔獣に今から接近戦をしかけようというのだ。でも--
「う、うん! 大丈夫! 私は平気よ!」
そう言うと、迷いを振り払うように力強くうなづいてみせるフラン。
もう決めたんだ。私はみんなを、大好きな人たちを守るために戦う--あの魔獣と戦えるのは私だけなんだから、いつまでも怖いなんて言ってられないよ!
「私、がんばる! だからお願い--力を貸して! ゼー太!」
〈よし、その意気だぜ、《マスター》! じゃあ、オレからのご褒美だ。復唱しろよ、《Ζ-ウィング》!〉
「ゼ、《Ζ-ウイング》!!」
その瞬間、腰の《Ζドライバー》から『Ζ-ウイング! 展開します!』とのお馴染みの電子音が鳴り響くと同時に、胸部プロテクターのブラでいえば背中のホックにあたる場所から、シャキーン!という音と共に、金色の板を折り重ねたようなパーツが、斜め下方向に向け左右同時に展開された!
「こ、これ? もしかして、翼なの??」
〈ああ、前チラッと教えただろ? これがオレの空中機動用ユニット、《Ζ-ウイング》さ。さーて、これで空中でも高速移動が可能になったことだし……〉
フランの意識に浮かぶ思念体のゼー太の瞳が、その瞬間、不敵に煌めいた!
〈一気に突っ込むぜ! 最大戦速でブッ飛ばすから、覚悟しろよ、《マスター》!〉
「うん! 行こう、ゼー太!」
そうフランがきっぱりと返したその瞬間、その身にまとう《エルガイザー》に力が満ちる! 同時に背中の《Ζ・ウィング》がジャキン!と6枚の翼に展開したかと思うと、その身体は爆発的な加速と共に、魔獣に向かっての突進を開始した!
(--は、速いっ!)
ギュウウン!! 切り裂く風と共に全身に感じるその圧倒的なスピード感に、思わず息を飲むフラン。だが--
(で……でも……これって……!)
それまでのただ空中に浮いていたのとはわけが違う、超速で空を翔るその初めての感覚に、フランはいつしか自分が緊張も忘れ、それどころか逆に--ゾクゾクしているのを感じていた!
(この感覚--すっごく……気持ちいい!!)
「くっ……ゲ、ゲルガ! あの小娘を止めろぉぉ!」
こちらを目がけ大空を一直線に突進してくる少女の姿に、ドランが焦りに裏返った叫びを上げる。《魔獣使い》ゲルガもまた、本能的な恐怖を感じて、魔獣ギガ・ゾームへと指令をくだした!
「やれ、ギガ・ゾーム! 打ち落としてしまえぇぇ!!」
その命を受けて、まずはギガ・ゾームの6本の尻尾が鞭のようにしなり、突進するフランを叩き落とすべく襲いかかってくる!
だが、フランはその次々に襲いかかる尾の攻撃を、巧みな動きで全てかわしてのけると、減速することなく更に突進を続ける!
ガアアアアアアッ! 続いて、魔獣の3つの竜頭が牙をむいてフランに迫る! その凶暴極まりない姿に、さすがにビクンと身がすくむのを感じたものの、フランはそんな弱気を一瞬で振り払うと、迫り来る魔獣の頭部に向かって、挑むように叫んだ!
「もう……怖くなんてないんだからぁぁ!!」
キシェゥゥゥーン!! か弱い少女が叩きつけた挑戦状に、魔獣のプライドを傷つけられたのか、ギガ・ゾームは激昂したかのよう吠えると、その中央の魔竜の角から再び必殺の破壊光線が放たれる!
「そんなの--当たらないもん!」
だが、フランはそれをひらりとよけると、続いて右の頭が放った灼熱のブレスをかわし、更には左の頭の口から噴出された強酸性の毒液の雨さえも、《ライトニング・バースト》を限定発動させることによって、すべてかいくぐってみせた!
「お、おのれっ! お前らも撃て! 撃てぇぇぇ!!」
歯がみをしながらドランが命じると、それまで唖然と少女の動きを見つめていたガルガンテス兵達が、我に返って手にしたボウガンを上空に向け、次々と矢を撃ちまくった!
そして魔獣ギガ・ゾームもまた、背中にはやした無数のトゲを--残念ながらひっくり返されているので、全弾発射とはいかなかったが-まるでミサイルのように次々と発射し、フランを撃ち墜とさんとしてくる!
だが、今や《エルガイザー》の動きをほぼ自分のものとしたフランは、その迫り来る怒濤の攻撃をことごとくすり抜け、更に魔獣への距離を縮めていく!
「す……すごい……!」
それまで息を詰めて戦いの行方を見守っていたエルフリードが--そして同じく祈るような気持ちで少女を応援していたレルムの人々が、思わず一斉に感嘆のつぶやきを漏らす。
容赦無く襲いかかる矢の雨を、トゲのミサイルを、うなる尻尾のムチを、毒液を、炎を、破壊光線を、かすらせることさえなく、全てよけ、かわし、かいくぐる!
次々と襲いかかる敵の弾幕を、すべて紙一重の見切りで華麗にかわしながら、自在に空を飛び回るその姿は、まさに神話の中の《戦乙女》--大空を翔る戦場の舞姫だった!
〈ひゅー♪ なかなかやるじゃねぇか、《マスター》!〉
「……うん、やっと何て言うか、コツをつかめてきたって感じ!」
ゼー太のからかうような思念に、弾幕を避けるのに張り詰めていた気持ちを少しだけ緩めて、フランは多少照れながらも可愛くドヤ顔を作ってみせる。
〈でもよーそんなに緊張してたら疲れちまうだろ? 別にムリして全部かわさなくったっていいんだぜ? どうせ当たったってダメージ無いんだし〉
「ありがとう。でも--」
相変わらずの憎まれ口ながらも、その奥に自分への気遣いを感じて、フランは優しい微笑みを浮かべると言葉を続けた。
「私は平気でも、ゼー太は少しは痛いんでしょ? だったら甘えてないで、ちゃんとかわさなきゃ」
〈……!?〉
その言葉に、一瞬虚を突かれたかのようにゼー太が沈黙する。脳裏に浮かぶそのイメージに、ゼー太にしては珍しい少年らしい照れが浮かんでいるのを見て、なんだか可愛く感じたフランは思わずくすっ☆と口元をほころばせたが--
〈なーに生意気言ってんだ!? ひよっこのくせにっ!〉
「に”ゃあああああ!?」
いきなりふくよかな両胸の尖端をキュッとつままれ、悲鳴をあげるフラン。戦いの緊張で自然に堅くなっていたところを、不意打ちで刺激されたのだからたまらない。その瞬間、フランは思わずビクンと身をのけぞらせ、高速飛行に急ブレーキがかけられた。
「い、いきなり、何するのよぉぉぉぉ!?」
あまりにひどいセクハラ行為に真っ赤&涙目になって、フランが猛抗議をしようとした、その刹那!
「--え”っ!?」
そのすぐ目の前の空間を下方からの熱線が貫いていくのを見て、絶句するフラン。
寸前にのけぞっていなければ、その攻撃は間違いなく心臓の辺りを直撃していたハズだ。《エルガイザー》のバリアーによって直接のダメージは無くても、それなりの衝撃はあったに違いない。
〈この程度でいい気になってんじゃねぇよ。戦場で油断は禁物! 忘れんな!〉
「ご……ごめんなさぁい……」
ゼー太に叱責されてしゅんとするフラン。
〈謝るのは後だ! ほら、次、来るぞ!〉
そうしている間にも、間髪入れずに次々と下方からの熱線が迫る!
「もう……しつこいんだからぁ!」
フランは気を引き締め直すと、俊敏な動きでその攻撃をかいくぐる。同時に、調子に乗っていたことへの恥ずかしさもあって、何だか無性に腹がたってきたフランは、攻撃を続ける地上の敵に向かって、キッと怒りの視線を向けた--が!
「--!」
その視線の先にいたのは、不思議な形をした小さな武器らしきものを両手で握りしめ、忌々しげにこちらをにらむドランだった。どうやら乱射のしすぎで弾が切れたらしく、慌てながらエネルギーパックを装填し直している。
〈へぇ、レーザー銃じゃねぇか。この時代にまだそんなものが残ってるなんてなー〉
少しばかり懐かしげに、良く意味のわからない言葉をつぶやくゼー太だったが、その一方でフランは、憎しみを露わにしたドランの姿にまた反射的に身体がすくみそうになるのを感じ、思わずごくんと息を飲みこんだ。
--しかしそのとき、フランは気が付いた。憎しみに歪むドランの顔、しかしその顔には同時に、隠しきれない程の焦りの色が浮かんでいるのを。どんなに威圧的な態度をとろうとも、今、間違いなくドランは自分に対し怯え、恐怖しているのだ!
強化された知覚でその様子を見てとると、フランはこみ上げる弱気を押しとどめるようにぐっ! と拳を握りしめ、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「もう負けない……あんな卑劣な奴になんて……!」
そして心を鎮めるかのように、一瞬だけ目を閉じて小さく息を吸い込むと--目を開けた瞬間、フランは再び、突撃を開始した!
「絶対に--負けないんだからぁぁぁ!」
「お、おのれ、小娘めがっ! だがこの皇帝陛下より授かった魔道器ならば……!」
一気にスピードを増して急降下して来るフランに、もはや少女を嬲りつくしてやろうなどという余裕は消え失せ、醜く顔を歪めたドランは、再び標準を少女に定めると、魔道器の引き金を引き絞った!
ビシュッ! ビシュッ! 旧世代の遺物と伝えられるその光線銃の威力は、小型の携帯用とはいえギガ・ゾームの放つ破壊光線に負けるとも劣らない威力を誇る、司令官クラスにしか与えられないまさにガルガンテス軍の切り札であった!
「墜ちろ! 小娘っ!」
だが、連射されるレーザーガンの熱線も、覚悟を決めたフランには通用しない! 決してドランの射撃の腕が悪いわけではないのだが、そのすべてを余裕ですり抜け、更には周囲のガルガンテス兵が放つ矢もことごとくかわしながら、少しも減速することなくこちらに突っ込んでくる!
「お、おのれぇぇぇ!!」
怒りと焦りで気も狂わんばかりになったドランが、更にレーザーを乱射する。
〈しつこい奴だなぁ……〉
それをめんどくさそうに一瞥したゼー太の思念が、フラムにささやきかけてきた。
〈おい、ちょっと右腕に力を込めてみろ。別に、イメージだけでもいいからさ〉
「……え、こ、こう?」
迫る熱線を次々とかわしながら、フラムは言われた通り、右腕に力を込めてみる。
〈そしたら、ちょっと内から外にブンって振ってみな。ブンって〉
「う、うん?」
何をさせたいのかよくわからないまま、それでも素直に右腕を振るフランだったが、その瞬間、籠手状のプロテクターがカッと赤い光を帯びて輝いたかと思うと、《攻撃補助プログラム》によって軌道を修正された右腕が、そこに飛んできた熱線を真っ向から受け止め、そしてそのまま勢い良く弾き返した!
「ぐわぁぁぁぁあ!?」
どごおおんん! 弾き返された光弾はドランの足下に命中し、轟音と共に地面に大穴を開ける。周囲のガルガンテス兵たちは悲鳴をあげて逃げ惑い、ドランはといえば完全に度肝を抜かれた様子で、その場にへなへなとへたり込んでしまった。その股間からはじわじわと湯気が拡がっていく。
〈《イグニッション・バースト》はこうやって相手の攻撃を弾くのにも使えるのさ。《ブロッキング》っていうテクニックなんだが、こういう《限定発動》はさっきあのデカブツを持ち上げた時みたいに、オレかお前が強く想いさえすれば《コマンド》無しでも発動できるから、感覚を覚えときな〉
「うん、わかった!」
うなづくとフランは、再び地上のガルガンテス兵たちにキッ!と視線を向ける。すると、もはやそれだけでガルガンテス兵たちは「ひぃぃぃ!」と完全に浮き足立ち、呆けた表情の司令官を見捨ててあたふたと逃げ始めた。
「お……おのれ……小娘めがぁ……!」
だが、そんな中でもゲルガだけはまだ、かろうじて《魔獣使い》の誇りを失ってはいなかった。
「まだだ……まだ負けたわけでない……ギガ・ゾームは--最強なのだ!」
自分が手塩にかけて育てた最強の魔獣兵器が、よりにもよってあんな水着同然の格好をした小娘に負けるなど、絶対にあってはならない--それはもはや妄執というべき暗い炎となって、ゲルガを突き動かした!
「殺れっ! 殺るのだ! ギガ・ゾォォォム!!」
ゲルガがあげた狂気じみた叫びに応えて、宙に浮くフラン目がけてギガ・ゾームの三つの首が牙を剥いて襲いかかる!
「もう……ホントしつこいなぁ……」
うんざりしたようにそう言うと、魔獣の鋭い牙や角による左右からの突進攻撃を、易々とかわしてのけるフランだったが、その背後から最後の一本が少女を一呑みにすべく、大きく口を開いて迫り来る!
だが、巨大なあぎとが少女の小さな身体を捕らえたかにみえたその刹那、少女のまとう甲冑が金色の光に輝いたかと思うと、その姿は瞬時に消え失せ、魔竜の牙はむなしく宙をかみ砕いた!
「--《ライトニング・バースト》!」
次の瞬間、金色の光に包まれたフランの姿が、唖然とした様子で視線を走らせる魔竜の真上に出現する! そして金色の光が消えると同時に、今度は両脚のパーツが赤く光輝いたかと思うと、フランはそのまま急降下し、「えーい!」とばかりに魔竜の頭頂部を勢い良く踏みしめた!
グシャァァッ! 鈍い音と共に頭蓋が粉々に砕けたらしく、白目を剥いた魔竜の頭部がそのまま崩れ落ちるように落下する。大人5人分ぐらいはある巨大な頭部がドドーンと地面にめりこんだ衝撃に、その付近にいたガルガンテス兵達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
「お、おのれっ! 良くもドラガを--!」
どうやら《魔獣使い》的にはそれぞれ名前を付けているらしく、左側の首ドラガの無惨な姿に、ゲルガが憎しみの叫びをあげる。
「アイガ! ツヴァイガ! ひるむな! 兄弟の仇を討つのだ!」
その復讐の念波を受けて、より凶暴性を増した二本の竜頭が、交互にフランへと襲いかかる!
だが、その怒りに満ちた連続攻撃も、かすることすらなく全てかわされ、やがて右側の首ツヴァイガもまた、フランが突進をよけると同時にカウンターで叩き込んだ強烈なバックブローを頬にくらって、勢い良く吹き飛ばされていった!
「ツ、ツヴァイガ!?」
だが、そんなゲルガの悲痛な叫びにも応えることなく、地面へと叩きつけられたツヴァイガは白目をむいたまま、ただぴくぴくと痙攣しているだけだった。
(バカな……ギガ・ゾームの皮膚は鋼よりも硬いというのに……それがあんな小娘の蹴りや拳ごときで……!)
悪夢を見るような思いで粉砕された二つの竜頭を眺めるゲルガ。最後に残された首アイガも、すっかり気押された様子でその動きを止めている。
「す、すごい……!」
そしてその上空では、フランもまた自分の攻撃が見せたあまりの破壊力に息を飲むと、赤い光を放つ右拳をそのつぶらな瞳でまじまじと見つめていた。確かに自分なりには気迫を込めて攻撃したつもりではあるものの、まさかあれほどまでの威力があるなんて--!
〈よーし、どうやら、《限定発動》の感じもつかんできたみたいだな〉
そんなフランに、ゼー太が上出来とばかりに声をかけてくる。
〈さぁて、そろそろ頃合いだろう。フィニッシュといこうぜ〉
「う、うん。でも、どうすればいいの?」
『フィニッシュ』と聞いて、多少緊張ぎみに聞き返すフランに、ゼー太が答える。
〈まぁそう身構えることはないさ。ただ、今から使う技は《マスター》であるお前の《霊子力》も多少借りなきゃいけないんで、そこだけは許してくれ〉
珍しくバツが悪そうな言い方になるゼー太に、フランはちょっと驚いて目をぱちくりとさせた。『あの』生意気で意地悪で超強引なゼー太が、『許してくれ』なんて言葉を口にするなんて!
(……そっか、ゼー太は私に負担をかけるのがイヤなんだ)
そう思うと、何だか胸に温かいものが拡がってきて、自然にフランの緊張がほぐれていく。
〈--と言っても、まぁ使用後に『ぐったり疲れる』ぐらいで、別に命がどうとか、後遺症がどうとかは全然無いからな。お前は安心して、ただオレの言う通りにすればいい〉
「……うん、わかった。あなたの指示に従うわ」
これまで何だかんだ恐い目には合わされたけど、でもゼー太は約束通り自分の身体にかすり傷一つ負わせてはいない。プロテクターである自分自身には痛みがあったり、エネルギーの消耗もあったりしてたはずなのに。
だから、多少疲れてしまう程度のことなら、自分だって頑張りたい! フランはそう決意を固めると、ゼー太に向けてパチリとウインクしてみせた。
「だから一緒に戦おうよ。だって私たちは《相棒》だもんね♪」
〈バ、《バディ》だとぉ!?〉
一瞬、目をむくゼー太だったが、やがてその顔にかーっと照れの色が浮かんで、慌ててそっぽをむいてしまう。
〈……へっ、また調子にのりやがって! ひょっこの小娘のくせに!〉
そして何とかそれをごまかそうと、再び憎まれ口を叩きだすゼー太を見て、そのあまりのバレバレさにくすくす笑うフラン。
〈う”~~~~!!〉
それを実に悔しそうに見ていたゼー太だったが、やがて何やら思いついたのか、にやーりと意地悪く笑うと、フランに向かってうひひと語りかけた。
〈よーし、じゃあ、今から《必殺モード形態》に移行するけどよ、ただし、全《霊子力》を額の宝玉に集中するから、とりあえずその間は基本他のパーツは消滅で『全裸』に……って、痛ぇ!?〉
「……そっちこそ調子にのんな、このエロ防具」
ジト目のフランに宝玉を中指で弾かれて、ゼー太が大げさに悲鳴を上げる。どうやらそうされるのはデコピン直撃なみに痛いらしい。
〈いでででで、でもオレの国では、『女戦士は必殺技発動時には全裸になるべし』っていう、お約束もあったんだよぉ……〉
「ほんと、どんだけろくでもない国だったのよ。あなたの故郷だっていう東方の国は!」
呆れたようにつぶやくと、フランはもう一度じろりと痛がるゼー太の思念体を一瞥した。
「とにかく、もうエロスは禁止! 真面目にやること! いいわね!?」
〈わかったよぉ……ちぇっ、何だか気まで強くなりやがったよなぁ……〉
ぶつぶつ言いながらも、どこか嬉しそうにフッと笑うと、ゼー太は勢い良く叫んだ。
〈じゃあ行くぜ! 《マスター》! まずは上昇すんぞ!〉
「うん!」
フランも力強くうなづくと、背中の《Ζ・ウイング》を展開し、一気に高度を上げる!
そして100m程の上空で急停止すると、すでに小さく見える魔獣を見下ろしながら、フランとゼー太は同時に、解放コマンドを発動した!
〈〈《フル…………バースト》ォォォッッ!!」〉
2人が声を合わせて叫んだその瞬間、《エルガイザー》の全パーツから赤い光が一気にあふれ出し、そして--爆発した!
「------!?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ゴオオオオオン!! 爆音と共にほとばしったその凄まじい閃光に、地上にいた人々は敵も味方もみな圧倒され、顔を背ける。
そしてその爆光が収まった時--天空に出現していたのは、まるでギラギラと輝く、もう一つの小さな太陽だった!
「す……すごい、これが《フル・バースト》……!」
宙に浮く少女の身体は、まるで燃え上がるように立ち上る真紅の光に覆われ、まばゆく輝いている。そしてフランは今まで感じたことのない程の圧倒的な力が全身にみなぎるのを感じ、驚きと興奮にごくりと息を飲んだ。
〈まぁ《霊子力》の消耗も凄まじいから、あんまし長続きはしねぇんだけどな〉
軽く苦笑しつつも、やはり得意げなゼー太だったが、やがてお馴染みの何か含みがある悪戯顔になると、軽く口元を歪めながら言った。
〈でも、あの魔獣にとどめを刺す前に、ちょーっとオレに考えがあるんだ。いいか、今からオレがお前に言うべき台詞を伝えるから、一字一句復唱してあいつらに聞かせてやれ〉
「……どうせエッチなこととか言わせるつもりでしょ」
〈ちげーよ!! どうしてそんなに信用ないんだよ!?〉
再びジト目になるフランに、心外だとばかりにわめくゼー太だったが、「……自分の胸に聞いてみればぁ?」という冷たいリアクションに、あっさり撃沈されてしまう。
〈と、とにかく!〉
ゴホン! と咳払いをすると、ゼー太は足下のガルガンテス兵達をニヤリと見やって、続けた。
〈ただ倒すんじゃくて、これで二度とあいつらにこの国を攻めようなんて思わせなくさせてやるんだよ〉
「……?」
けげんな顔をするフランだったが、そんな彼女にゼー太が何やらひそひそと念波でささやきかけて--
「……な、何だ?」
そのとき、上空で轟々と燃えるような赤い霊光に包まれた少女が、自分たちに向けて何事かを呼びかけ始めたのに気付いて、それまで呆然としていたガルガンテス兵達は、みなハッと我に返ると、一斉にその耳を傾けた。
「えーと、こほん……生き残ったガルガンテス兵達に告ぐ!」
《エルガイザー》がまるでスピーカー越しのように音量を増幅したその演説は、出だしだけは何だか可愛らしかったが、続けて聴く内に全員の顔を青ざめさせるのに充分なものだった!
「我こそは伝説の魔神! 旧世界を滅ぼせし最強の魔神なり! 長き眠りより甦りし我が守護せしこのレルム王国を侵すというなら、汝らガルガンテスには破滅の鉄槌を下さん!」
冷静になって聞けば、あまりに芝居がかったその大仰な台詞に、フランが恥ずかしさのあまり噛みまくっているのが分かったはずなのだが、何せ《エルガイザー》という名乗りが、その真紅の光に染まった禍々しいとも言えるビジュアルと相まって、絶大な効果を生み出し、ガルガンテス兵の動揺はあっという間に歯止めのきかないレベルに達した!
「エ、《エルガイザー》だってぇぇ!?」
「俺、俺、ばあちゃんから昔話で聞いたことある!」
「全てを破壊し、殺し尽くすという伝説の悪魔!」
「そ、そんなとんでもない奴が相手だったなんてぇぇぇぇ!」
恐慌状態に陥り、一斉にその場から少しでも早く逃げ去ろうとするガルガンテス兵たちに、精一杯凄みがある声を作ってフランが続ける。
「無知蒙昧な汝らのために、今から教えてやろう。我の力のほんの片鱗を。そして母国に戻り伝えるが良い。究極無敵の魔神たる我に逆らうことがどれ程愚かしい行為かを! そしてそれを思い知ったならば、二度とこの国を侵そうなどとは考えぬことだ! --って、こ、これでいいの? ゼー太?」
〈おう、上出来、上出来。じゃあ、これでお膳立ては整ったし--〉
羞恥に頬を染めて確認してくるフランに、ゼー太はにんまりと笑って答えると、次の瞬間、その漆黒の瞳をギラリと不敵に光らせた!
〈じゃあ、必殺技を発動するぜ! いいか、とにかく限界まで気合いを入れろ!〉
「う……うん!」
その言葉に弾かれたようにして、ギュッと目をつぶり気持ちを集中するフラン。すると全身に急速に《気》が満ちていくのを感じると共に、真紅のプロテクターから放たれる赤い《霊子》の光が更に勢いを増して、燃え盛る劫火のように立ち上った!
そしてぐんぐんと勢いを増すその真紅の霊光が、まるで天をも焦がさんとする炎の柱となった--まさにその時!
〈いくぜっ! 《クリムゾン・Ζ・ストライク》!!〉
ゼー太が裂帛の気迫を込めて叫ぶと同時に、今や燃え上がる火球と化したフランの身体が、眼下の魔獣めがけて一直線に降下を開始した!!
(------!?)
その瞬間、装着した《エルガイザー-》から凄まじいまでのエネルギーが自分の中に流れ込んでくるのをフランは感じた。そして流れ込んできたエネルギーは彼女の中でたちまちにして満ちあふれ、奔流となって荒れ狂う!
(す、すごい、力が--力が私の中で暴れてる!?)
身体の隅から隅までもが、怒濤の様に押し寄せるエネルギーの波によってかき回される、その激しすぎる感覚に、なすすべもなく翻弄されながら、だがフランはその中で自分の中で何かが目覚めていくのを感じていた。
(な、何?? 何なの……この感覚……!?)
身体中が燃える様に熱い。まるで高熱に浮かされるような、苦しいけれど同時に何だかぼおっと心地良い、そんな高揚した感覚の中で、次第に意識が朦朧としてくる。そしてそう思っている間にも、こんな小さな身体では収まりきれぬとばかりに、その圧倒的なエネルギーは出口を求めて彼女の中を滅茶滅茶に暴れ回り、フランは知らず知らず切なげな吐息を漏らしていた。
(激しくて……熱くて……だめ……このままじゃ……)
身体はますます燃え盛るように熱く、その熱の中に意識がとろかされていく。その感覚は、前に悪ノリしたゼー太によっていろいろと「開発」された時の感覚に近いものではあったが、だが今感じるそれは更に何倍も--気持ちいい!
(わたし……わたし……溶けちゃうよぉ……!)
そう、それはまるで、自分という存在そのものが溶け、巨大なエネルギーそのものと一つになっていくような--そんな圧倒的な高揚感と陶酔感だった!
ギュウウウウウン!! そしてそんな中、空を切り裂くフランの右足に、徐々に身体中の《霊光》が集中していく。
やがてその光はまるで槍の穂先のような真紅の円錐となると、魔獣の仰向けになった腹部--心臓部分めがけて突き進んだ!
「と、止めろ! あの小娘を止めるのだぁぁ!」
「ギ、ギガ・ゾォォォォム!!」
ドランの上げた悲鳴のような命令に、ゲルガが必死の念波を魔獣に送り込み、残った唯一の首であるアイガと6本の尾がフランの突進を止めるべく一斉に襲いかかる!
だが--!!
「「げぇぇぇぇぇぇ!?」」
ゲルガとドランが声をそろえて驚愕の叫びをあげる!
少女を打ち墜とさんと次々にしなり来る魔獣の尾が、その小さな身体を一呑みにせんと牙をむく魔竜のあぎとが、フランの右足に発生した真紅に輝く円錐に触れた瞬間、まるで脆いガラス細工が何かのようにことごとく破壊され、一瞬で原子のチリへと還っていく!
それはまさに、『木っ端微塵』という言葉がぴったりの粉砕っぷりだった!
「「そ、そんなバカなぁぁぁぁぁ!?」」
そして最強の魔獣兵器が見るも無惨に砕け散っていく姿に、悪夢を見るような気持ちでゲルガとドランが絶叫する。そして--!
バキィィィィ!! 流星のように飛来した真紅の光弾が、魔獣の無防備にさらけ出された腹部へと吸い込まれていき、その頑強な外骨格を易々と貫くと、轟音と共に突き刺ささる! そしてその瞬間--ゼー太が力強く叫んだ!
〈--今だ! 力を解放しろ!〉
「………………ッ!!!!」
その叫びを受け、ほとんど忘我の境地にいたフランが夢見心地のまま、自分の右足に凝縮された全《霊子力》エネルギーを一気に解き放つ!
--そして数瞬の静寂の後、大きく穿たれた魔獣の傷穴から、まるで夕焼けの光にも似た赤い光が、堰を切ったかのようにあふれ出した!
カカッ! 神々しいばかりの真紅の光が、まるで天に突き起つかのごとくに立ち上る。そして次の瞬間、魔獣の身体がビクンと大きく引きつったかと思うと、その傷穴を中心にしてピキピキと四方八方に亀裂が走り、やがて同じような紅の閃光がそこからも次々とあふれ出して--!!
ドッグワーーーーーーン!!
天地をゆるがす轟音と共に、巨大な魔獣の身体が爆発し、たちまちにして四散した。 そして粉々になった破片はまるでその光の中に溶け込むようにして消滅していく。
「ガ、ガルガンテスに栄光あれぇぇぇぇ!」
「私のギガ・ゾームがぁぁぁぁ!」
レルム方面軍司令官ドラン、そして魔獣使いゲルガもまた、驚愕と絶望に顔を歪めたまま爆光に包まれ、消えていった。同じく逃げ損ねたガルガンテス兵もまた、押し寄せる光の中へと次々に飲みこまれていく。
(すごい……光が……あふれてる……)
そして拡がる爆発の中心にいたフランは、内側に蓄えていたエネルギーの全てを放出した余韻に身も心もゆだねながら、周囲の空間を満たしていく煌めくルビーのような真紅の光をぼうっと眺めていた。深いため息と共にけだるい虚脱感が全身を満たし、頭の中を真っ白に染めていく。だがそのとき--
(……? 何なの、これ……?)
夢とうつつの間を彷徨うかのようなフランの意識に、不意にいくつものビジョンが流れ込み、そして浮かんでは消えていく。
それは今や身も心も完全に《エルガイザー》と同調していたからこそ見えたゼー太の過去の記憶なのだろうか、だがそこで見せられた意外な光景の数々に、フランは思わず息を飲んだ。
(そんな……まさか……こんなことがあったなんて……)
フランの目に思わず涙があふれる。これではあまりにもゼー太が可哀相だった。少年が見せていたひねくれた態度や意地悪さが、全てはその裏返しだったとしたのなら、それは何て哀しいことなのだろう--
(ゼー太、ごめんね……私、あなたのこと……誤解してたよ……)
だが、フランが意識を保てていたのはそこまでだった。疲労のピークに達し、そして緊張の糸がぷつりと切れたフランはスッと目を閉じると、その場にゆっくりと倒れ伏す。
--やがて膨大な量の閃光がようやく収まった時、そこには魔獣の巨体もガルガンテスの兵達もすでに無く、まさにチリ一つ残さずに消え失せていた。
そしてその代わりに直径200mほどの巨大なクレーターが、爆発の凄まじさを物語るかのように深々と大地をえぐりとって存在し、そしてその中央には、すべての力を使い果たしてぐったりと横たわる少女が、ただ一人残されていた--
かくして魔獣ギガ・ゾームとガルガンテス軍は《エルガイザー》の前に敗れ去り、レルム王国は滅亡の淵から救われたのであった。
これで本編はほぼ終わりなのですが、あとは少しだけエピローグがあります。
これはそんなにお待たせしないと思うので、どうかもう少しだけおつきあいくださいませm(_ _)m