その6
最終話といいながら続きます!
最初に掲載したVerから少し要素を足しています。
くわしくは活動報告にて!
9
「うはははは、やれやれーひんむいてしまえーっ!」
望遠鏡を目に押し当てたまま、ドランが高らかに哄笑する。そしてそれに呼応するように、生き残りのガルガンテス兵たちも、そうだそうだー! やっちまえー! 早く脱がせろー! と興奮した様子で口々に叫び声をあげた。
「いや、いやぁぁぁ!!」
空中--彼らの視線の先では、もう完全にベソをかきながら、フランが次々と襲ってくる魔獣のドリル尾から逃げ惑っている。そうしている内にも、また1本の尾の攻撃がプロテクターを右肩部分をかすったかと思うと、その部分がパリーンと破損して、少女の白い肌がまた一部むき出しになった!
うおおおおお!! 再びガルガンテス兵の大歓声がわき起こる!
何せこれまで散々自分たちをコケにしてくれた小娘が、羞恥に顔を染めながら悲鳴をあげて逃げ惑っているのだ。これほど楽しいショーが他にあるだろうか?
「やめて、やめて-! こないでよぉぉぉ!!」
フランはもはや完全に防戦一方だった。半ば近く露わにされた左胸を隠すために右手が使えない状態というのもあり、もはや魔獣の攻撃をはじき返すこともままならぬ彼女にできるのは、ただ《エルガイザー》に強化された感覚だけを頼りにして、必死にそれをかわすのみ!
だが、復讐と邪欲に燃えるゲルガの思念(+ガルガンテス兵の大応援団付き)によって、大幅にパワーUPされたギガ・ゾームのドリル尾の動きは今までよりもはるかに鋭く、そして速く、いくらかわそうとしても少しずつ少女のプロテクターをかすめて、確実にそれを破損させていく。
すでにフランを守る真紅のプロテクターは、両肩・両腕・両脚とその半分以上が破壊され、その下の地肌を露わにさせている。額のアンテナ付きサークレットと、腰に巻かれたΖドライバーを除けば、まだかろうじて無傷なのは右胸を覆うパーツと、下腹部を守るパーツのみといった有り様だった。
「……ああ!?」
だが、ついにドリル尾の攻撃が、下腹部を守るハイレグ状プロテクターの右腰部分にヒットする! おおおおおお!! パキーンと言う音と共にその部分が砕け散ると、一際大きなどよめきが、ガルガンテス側から漏れた!
さすがにそれだけでプロテクター全体が外れてしまうわけではないが、片側とはいえ前と後ろをつなぐ部分の破損に、もしかしたら……という期待が、わくわくとガルガンテス兵達の心を沸き立たせる。
「や、やだぁぁぁぁぁ!」
下手に動いたらプロテクターがずり落ちてしまいそうな気がして、フランが慌てて左手で破損部分を押さえる。左胸を隠す右手とあわせて、これでフランは両手の動きを封じられる形となってしまった!
〈おいおい、それじゃあ戦えないじゃんか? 守ってばっかじゃなくて反撃しようぜ、《マスター》!〉
そんなフランに向かって、ゼー太の思念がやれやれとばかりにつぶやく。だがその口調は呆れているというより、何だか実に楽しそうだった。
「そんなことできるわけないでしょ! いいから早くその《演習モード》とか言うのを解除して!!」
涙目で抗議するフランに対し、ゼー太は実にわざとらしくすまなそうに答えた。
〈いやー、一度このモードがスタートしちゃったら、演習戦の決着がつくか、10分たって《タイム・オーバー》にならないと止められないんだよね。今4分ぐらいだから、まぁあと6分ってとこかなー〉
「あ、あと6分も……」
くらぁ……っと絶望のあまりめまいがするフラン。だが、そんなフランにゼー太はニヤニヤと笑いながら、ごく簡単に言ってのけた。
〈でもよー、そもそもこれはあくまで演出で、実際のダメージは無いんだから、気にせず攻撃して魔獣ぶっとばしてやればいいじゃん。まぁその際、少しぐらいのポロリはサービス☆ってことで♪〉
「いくらダメージ無くても、精神的ダメージがでかすぎるわよぉぉぉ!!」
実に意地悪なゼー太の言葉に、思わず叫ぶフランだったが--
「--!?」
そのとき! 不意に自分が魔獣の5本のドリル尾に、いつの間にかすっかり包囲されていることに気が付いて、フランは恐怖にビクッと身を震わせる。
だ、だめっ、こんなの絶対よけられない--! 思わず冷たい汗がにじむのを感じたフランだったが、しかしその瞬間、その脳裏に電光のように閃くものがあった。
(そ、そうだ、確かさっきのあれ、《ハイパー・センサー》を使えば--!?)
わずか3分とはいえ超感覚を覚醒させるあの力を使えば、相手の動きが読めて、もしかしたらこの絶体絶命のピンチを切り抜けられるかもしれない! よ、よーし!
「ハ……ハイパー・セン……!」
だが、フランが意を決して発動コマンドを叫ぼうとしたとき、それを遮るようにしてゼー太が言った。
〈あ、《ハイパー・センサー》は《実戦演習モード》じゃ使えないぜ? だってあんなの使えたらチートすぎて訓練にならねぇし》
「--え”!?」
一縷の望みをあっさりとうち砕かれて絶句するフランに、追い打ちをかけるようにしてゼー太が続ける。
〈まぁどっちにせよ、さっき3分フルで使っちまったから、《必殺技ゲージ》が回復するまで当分使えないんだケドな。まーったく、後先考えずに無駄遣いするんだからよー〉
「あ、あなたがどうでもいいことに使ったんでしょーが!!!」
そんな貴重な能力を、まさかあんなエッチな悪戯のためだけに使っただなんて--! あふれる羞恥とこみ上げる怒りにわなわな震えるフランに、ゼー太はいたって平然と、だがあくまで意地悪く付け加えた。
〈とにかくこのモード中はオレはちょっと休憩な。ゲージも溜め直さなきゃだし。ということで、あと5分ちょい。それぐらい自分で何とかしてみせろよ。まぁちょうどいい実戦訓練、ってとこで。じゃあな~〉
「そ、そんな!? こんな状況で無責任なこと……!」
ゼー太の意地悪な宣告に、フランが思わず悲鳴をあげた--まさにそのとき!
バルバルバルルル!! 空を引き裂く怪音と共に、ギガ・ゾームのドリル尾が全方位から一斉にフランめがけて襲いかかった!
「--しまっ……きゃあああああ!!」
一撃目は左肩を、二撃目は右足のパーツを完全に吹き飛ばし、三撃目こそはそれでも何とかかわしたものの、四撃目が胸を守る右手の籠手パーツに命中、そして背後からの五撃目が腰部プロテクターの後ろ側に直撃して--それを粉々に粉砕した!
おおおおおおお!! これまでで最大のどよめきがガルガンテス兵からわき起こる。それもそのはず、特に最後の一撃で腰部の後ろ側パーツはほとんどが砕け散り、その結果フランのむきたてのゆで卵のようなかわいいお尻が、ぷるんとほぼ露わな状態になってしまっていたのだ!
「え、や、いやぁぁぁぁ!?」
あわててお尻を両手で隠そうとすると、今度はボロボロのプロテクターから左胸がこぼれる!
やったぁぁぁぁ! 再びお祭り騒ぎとなるガルガンテス兵に、フランはもう羞恥と焦りで半ばパニックになりながら、とにかく欲望に満ちた男達の視線から少しでも身体を隠そうと、あたふたと身をよじらせた--その瞬間!
「--!? きゃあああああああ!!!」
バリバリバリバリバリバリ!! 突然、がら空きになっていた胸元に強烈なエネルギー波の直撃を受けると同時に、全身がまるで雷に打たれたかのような衝撃に包まれるのを感じて、フランは思わず絶叫した。
「うはははははは! どうだ! 城壁をも一瞬で砕く、ギガ・ゾームの破壊光線の味は!」
それは魔獣の3つの頭部の内、中央に位置するリーダー格の頭に生えた、長い一本角の尖端から放たれた必殺の破壊光線だった。衝撃に悲鳴をあげるフランを見て、してやったりとばかりにゲルガが叫び、その思念を受けて更にパワーUPした魔獣が光線の出力を上げる!
(あ、ダメ……意識が……)
痛みやダメージこそガードされているものの、全身に叩き込まれる衝撃まではどうにもならず、エネルギー波が収まった瞬間、フランはスッと意識が遠のくのを感じると、そのままふらふらと墜落していった。
どーん! そして鈍い音と共にその小さな身体が、地面を覆うガレキの山の中に大きく沈むこむ。
「フ……フランー!?」
そのとき、ちょうど地上に帰り着いたばかりだったエルフリードが、そのあまりに無惨な光景を前にして絶叫する。
自分たちの代わりに戦うことになったフランの身を案ずるがあまり、傷の痛みさえ気にせず必死に急いで地上まで帰り着いたというのに、その少女が自分の目の前で魔獣の怪光線の直撃を受け、撃墜されてしまったのだ。エルフリードは顔面蒼白になると、セシリアやベックたちが制止する間もなく、少女が墜落した場所に向かって駆けだしていた。
「どこだフラン!? 大丈夫か!? しっかりするんだ!」
(……王子--!??)
その叫びを耳にして、それまで頭がぼーっとするままガレキに埋もれていたフランが、とたんにパチリと目を開く。そして同時にそのつぶらな瞳にじんわりと涙がにじんだ。
それも仕方無いだろう。何せ彼女はほんのついさっきまでは、戦うことなどとは最も遠い所にいた、あくまでか弱い少女なのだ。
それがわけもわからず《戦士》に選ばれ、これまで散々怖い思いをしながら(しかも恥ずかしい目にも散々あわされながら!)あの巨大な魔獣と戦わされてきたのだ。これまでずっと甘え、慕ってきたエルフリードの声に、緊張の糸がぷつりと切れてしまったとしても、それをどうして責められよう?
そしてそんな彼女が、自分に必死で呼びかけるエルフリードの声に応えて、ガレキの山から身を起こすや否や、「ふわーん、王子ぃぃ、怖かったですぅぅぅ!」と無我夢中で飛び出していったからといって、繰り返すがどうして責められるだろうか?
--ただ一つ不幸だったのは、彼女が今、自分がどんな格好になっているかを、まったく忘れてしまっていたことだけだった!
「--!!!!!」
最愛の王子の胸にしがみつこうと、ベソをかきながら両手を広げて駆け寄ってくるフランの姿を見て、エルフリードの目が大きく見開かれたかと思うと、続いて一瞬の内にその顔が耳まで真っ赤になり--そしてそのままエルフリードは、勢い良く後方にぶっ倒れてしまった!
「え”!? お、王子!?」
何が起こったのかわからず、あわてふためきながらしゃがみ込んでエルフリードを抱き起こすフラン。そんなフランに揺さぶられて、うっすらと目を開けたエルフリードだったが、至近距離からの『その眺め』に再び目を見開くと、シリアスな美形に似合わぬ鼻血を噴きだして、ガックリと頭を後ろに倒してしまう。
「きゃあああ、王子!? 王子!? しっかりしてください!」
相変わらず自分の格好には全然気付かずに、泣きべそをかいてエルフリードを揺さぶるフランだったが、揺さぶられる王子の頬がその豊かな胸にふにょん☆と当たった時、ふと我に返って、自分の格好を見直すと--
「きゃ……きゃあああああああああ!!!」
フランの顔が瞬時に沸騰し、この世の終わりとでも言うべき悲鳴を上げる!
それもそのはず、ギガ・ゾーム必殺の破壊光線の直撃をくらった胸プロテクターはほぼ完全に破損し、尖端こそはギリギリで隠されているものの、少女の幼い外見に似合わぬふくよかな胸の膨らみはどちらももうすっかりむき出しの状態だった!
そしてその他のパーツの破損状況もそれと同様というか、もう後はどこも申し訳程度の残りっぷりで--正直、ほぼ……丸見えに近かった!!
「あ……ああ……あああ……」
ぷしゅー、赤面のあまりフランの耳から蒸気が吹き出る。あまりといえばあまりの事態にすっかり頭が真っ白になって、フランは身体を隠すのさえ忘れ、ただ呆然とその場にへたり込んだ。
(お、王子に、こ、こんな近くから、それも--こんなに恥ずかしい姿を見られちゃうなんて……)
これから一体どういう顔でエルフリードに会えば良いのか--錯乱のあまり目をぐるぐるさせながら、こみ上げる羞恥にわなわなと身を震わせるフラン。
だがその一方で、ガルガンテス側では兵達の大ブーイングが起こっていた。
「ごらぁ! ちゃんと見せろー!」
「何だあの男は! 邪魔だぞー!」
何せフランが空中から地上に落ちて以来、その色っぽい姿が見えにくくなっただけでなく、突然乱入してきた男が何だかとても羨ましいことになっているのだ。ガルガンテス兵達の不満が膨れあがるのもまぁムリは無いと言えよう。
(くくく……実にそそる姿になりおったわい。さーて、丸裸にむいた後は捕虜にして、たーっぷりとワシ直々に、ガルガンテスの怖さを思い知らせてやるとするか……)
そんな中、司令官特権とばかりに、一人だけ望遠鏡を使ってなめ回すようにフランのあられもない姿を楽しんでいたドランだったが、不意にその動きがぴたりと止まった。
羞恥に耳まで赤く染めながら、かといって手を放すこともできず困り果てた様子の少女の胸元で、ぐったりと抱きかかえられている、あの金髪の若者は--!
「あの男……まさか--エルフリードか!?」
そしてその瞬間、ドランは同時にハッと気が付いた。望遠鏡でアップになっている少女の白い双丘の右側、かろうじて残ったプロテクターのかけらによって、どうにか隠されている尖端のすぐ横に、小さなほくろが2つ並んでいる。それに何だか妙に見覚えがある気がして、さっきからずっと心にひっかかっていたのだが--
「そうか……道理で見覚えがあると思ったら、あのときの小娘だったかぁぁ!」
思わぬ運命の悪戯に、思わずニイ……と牙をむくように笑うドラン。
4年前のレルム侵攻作戦の時、滅ぼした辺境の村で自分が戯れに襲った少女。泣きじゃくるだけで抵抗することもできぬその幼い身体を押さえつけ服を剥いだ時、まだその時はささやかだった右の膨らみに、確かに同じほくろがあったのを覚えている。そしてそう意識して見れば、身体こそずいぶん立派に成長したものの、幼い顔立ちはあの頃とさほど変わってはいない。
しかし、その事実は同時に苦い記憶をドランに呼び覚ます。少女をいよいよ手籠めにしようとしたその矢先に、あの忌々しいエルフリードが現れ、自分は初の敗北を味わわされた。あの日以来、片時も忘れたことのない屈辱の記憶。ドランはギリギリと歯がみをしながら、右頬に走る醜い刀傷をさすった。
--だがまさに今、そんなエルフリードとあのときの少女が、そろって自分の目が届く所にいる。しかも、見たところ、どちらもすでにまともに戦えるような様子ではない。これはまさに、4年越しの復讐を遂げるための--千載一遇の好機!
「……よし」
そのとき、何か邪なことを思いついたドランの瞳が暗い光を帯びる。そしてドランは魔獣を操るゲルガに向き直ると、ニタリと笑いながら何事かを命じた--
「え~ん、王子ー目を覚ましてくださいよぉ~。あ、で、でもそうしたら見られちゃうし……あ~ん、もうどうしたらいいの~!?」
一方、そんなことは露知らぬフランは、自分の腕の中でぐったりと意識を失ったままのエルフリードを前に、ぐるぐる目のままおろおろと途方に暮れていたが、そのとき、不意にその強化された感覚に危険を感じて、ハッと我に返った!
瞬時にそちらに視線をやれば、少女の姿を捕捉したギガ・ゾームの1本のドリル尾が、ガリガリと回転しながら突き進んでくる!
(だめっ……このままじゃ王子が巻き添えに--!)
とっさにそう判断したフランは、急いで、でもできるだけ痛くないようにエルフリードの身体を地面に置くと、迫るドリル尾を自分に引きつけるべく、再び空中に飛び上がろうとした--が、そのとき!
「--えっ!?」
突然、ドリル尾の尖端が勢い良く爆ぜた! そしてその尖端から幾本もの触手のようなものが飛び出すと、エルフリードの安全に気をとられていた分反応が遅れたフランの両手両脚に絡みつき、まるで空中で磔にするかのごとくその身体を拘束する!
「なっ……う、動け、ない……」
ギリギリギリギリギリ--相変わらず痛みこそは無いが、ギガ・ゾームの尾から生まれた触手によって、もの凄い勢いで四方に引っ張られ、身体の自由が効かなくなるフラン。
--そしてそうなると当然、もうほとんどプロテクターが身を隠す機能を失っている今のその姿が周囲から丸見えになるわけで、それまでの展開にフラストレーションが溜まっていた分、うおおおおおお!! というどよめきがガルガンテス軍から鯨波となってわき上がった。
「いやぁぁぁ、離してよぉぉぉ!!」
押し寄せる視線に耐えかねて、フランは懸命に身をよじるものの、四肢を拘束する触手はまるでゴムのような伸びを見せて引きちぎることができない!
「わはははは! よーし、よくやったぞギガ・ゾーム! さぁ後は存分に可愛がってやるがいい!」
まんまと罠にはまったフランの姿を見て、快哉をあげるドラン。そして、その残忍に高笑う姿をフランの強化された『知覚』がとらえ、必死でもがく彼女の脳裏へと送り込んできた、そのとき--!
(え……!?)
その瞬間、不意に心臓がギュッと鷲づかみにされらような気持ちになり フランのつぶらな瞳が大きく見開かれる。
(うそ……まさか……あのときの!!)
そう、忘れるはずもない。頬に深い傷のあるいかにも残虐そうなその顔は、かつて平和だった自分の村を襲い、家族や友人を殺し、そして自分に狼藉を働こうとした--まさにその男に間違いなかった!
そう認識すると同時に、過去の忌まわしい記憶がフラッシュ・バックして、少女は声にならぬ悲鳴を上げる。押し倒され、抵抗すれば叩かれ、力尽くで押さえつけられ、そして泣きじゃくる中で服をはがれ、身体を弄ばれそうになった--そのまだ幼なかった身体と心に刻まれた恐怖の記憶が、フランの心を冷やし、全身から力を奪っていく。
(いや……いやだ……怖い……あの男が……あの男がいるなんて……)
四肢を縛る触手に抵抗するのも忘れ、フランの身体が小刻みに震え出す。今や完全にフランは恐怖の虜となり、ただその場で棒立ちになっているのみだった。
そしてそんなフランに対して、うごめく他の触手たちが新たな動きをみせ始めた!
「--ひっ!?」
にゅるん! しゅるしゅると伸びてきた触手のうちの一本が少女の身体を下から上へと撫であげる。そのぬめるような感触にたまらない嫌悪を感じると共に、ゾクッとするような甘美な刺激を受けて、思わず小さな叫びを漏らし、ビクンと反応してしまうフラン。
だがそれだけでは終わらない。そんなフランに次から次へと他の触手がまとわりつき、身体のあちこちを這い回る。それは、《エルガイザー》によって感覚を強化されているフランにとって、ほとんど拷問に近いほどの刺激であった!
「あ……あ……い、いやぁぁ……」
ぬめぬめとした触手に体中を撫で回されながら、フランが弱々しく悲鳴を上げる。何とか逃れなければとは思うものの、ドランへの恐怖にすくんだ身体は相変わらず動かぬままで、更にまるでうごめく触手たちに吸い取られていくかのようにどんどんと力が抜けていき、ついには思考までもぼんやりと靄がかかったようになっていく。
「--フ、フラン!? な、何てことを……!」
少女が漏らす悲痛なうめきに、ハッと意識を取り戻したエルフリードが、目の前で行われている陵辱劇に絶句する。そのスカイブルーの瞳が怒りが燃え、エルフリードは腰のレイピアを引き抜くと、大量の触手を出して少女をいたぶる魔獣の尾に向かって突進した!
「待っていろ、フラン! 今すぐ助けに--ぐはっ!?」
だが、その身体は他のドリル尾の一本によってあっさりと払いのけられ、ガレキの山に叩きつけられてしまう。
「きゃああ、お、王子ーっ!?」
悲鳴を上げるフランだったが、まるでうるさいと言わんばかりに、その開いた口へと触手が容赦無く侵入してこようとする。
「ひっ……!?」
フランは何とか顔をそむけてかわしたものの、触手達はさらに動きを活性化させてその身体の上をなぶるように這い回る。申し訳程度に残っていたプロテクターの破片も次々とはぎ取られ、ついに左胸が完全に露出したかと思うと、続いて下半身を守っていたパーツも後ろ側の部分が引きちぎられた。
「いや、いやぁぁぁ!!」
身体を這い回る触手への嫌悪感と、丸裸にされていくことへの激しい羞恥に、泣きじゃくりながら身もだえするフランだったが、しかし四肢を拘束する触手は相変わらずゴムのような弾力を見せるのみでビクともしない。
「ゼー太! お願いよぉ! 何とかしてぇ!」
だが、フランがいくら泣いて叫んでも、ゼー太は答えない。あくまで《実戦演習モード》中なんだから自分で何とかしろということなのか、それとも相変わらずのドSっぷりでこの事態をニヤニヤしながら見学しているのか--とにかく「休憩」と宣言して以来、ゼー太からの交信は一切途絶えたままの状態であった。
「くっ……フランを--離せっ!」
衝撃から何とか立ち直ったたエルフリードが、再び剣を手に助けに走るも、またもや他のドリル尾に阻まれ、払いのけられる。そしてまるでそんなエルフリードを挑発するかのごとく、フランを宙づりに絡め取った触手たちはその高度を下げると、ほらほらとばかりに近距離からその狼藉を見せつけた。
「うわははははは、どうだ、エルフリード! 今度はどうすることもできまい? ただ見ているしかできない気分はどうだ!? ぐははははは!」
そんな光景を見て、ドランが心の底から楽しげに哄笑する。
あの忌々しいエルフリードの前で、成長したあのときの少女を蹂躙する--これ以上の復讐があるだろうか? 暗く残忍な喜びに頬を歪めて、ドランは望遠鏡をのぞきこんだ。
「あ……ああ……王子……エルフリードさまぁ……」
ドリル尾になぎ払われ、無様に地面に転がされ、それでも何とか自分を助けようとして立ち上がるエルフリードの姿に、フランの目から涙があふれる。
--そして、それはエルフリードだけでは無かった。
「こ、これ以上見てられるかぁぁ!!」
「女の敵--許せないわ!」
エルフリードに続いて、ベックやセシリアもフランの救出に駆け寄る。そしてそれまで悲痛な表情で見守っていた生き残りのレルム騎士たちも、「そうだ、《戦士》殿をお助けするのだー!」と叫びながら、負傷をものともせず一斉に駆け寄ってきた。
「だ……だめ……来ちゃ--だめぇぇぇぇ!!!」
触手による執拗な責め苦にうめきながらも、それに気付いたフランは思わず必死に叫んでいた。しかし、そんな悲痛な叫びにますます決意を新たにしたレルム騎士たちが、少女を弄ぶ触手たちを何とか断ち切ろうと剣をふりかざす!
--だが!
「ぐはぁっ!」「うぎゃぁぁ!」「ひいぃぃっ!」
そんなレルム兵達をギガ・ゾームのドリル尾たちが、情け容赦なく叩き伏せ、なぎ払っていく! ベックやセシリアもなすすべなく吹き飛ばされ、エルフリードと同じく地面に倒れ伏してしまった。
「ぐははははは、馬鹿どもめが! のこのこあぶり出されおって! 一網打尽にしてくれるわ!」
可笑しくてたまらないとばかりに叫ぶドラン。さすがに生き残ったガルガンテス兵だけでの王国全土制圧はムリでも、ここでエルフリードをはじめ騎士団の主力を皆殺しにしてしまえば、レルム王国は終わったも同然。司令官たる自分の面目も立つというものだった。
(確かに多くの兵は失ったが、これなら皇帝陛下もお許し下さるだろうよ)
それでも勇敢に魔獣に立ち向かおうとするレルムの騎士たちが、次々とむなしく倒されていくのを見て、ドランは満足げに笑う。背後のガルガンテス兵たちも、そんなレルム騎士たちをあざ笑い、嘲弄の声を浴びせた。
「みんな……みんな……もうやめてぇぇぇぇ!」
そのあまりに凄惨な光景に、耐えきれなくなったフランが目を閉じて嗚咽する。
だが、たとえ目をふさいでも、《エルガイザー》の力によって強化された聴覚には、騎士たちの苦痛のうめきや叫びが、容赦無く飛び込んできた。
(やめて……やめて……お願いよぉ……)
泣きじゃくるフランの耳に、それでも諦めずに立ち上がろうとするエルフリードやベック、セシリア、そして騎士たちの声が聴こえてくる。だが、続いてそれが再びドリル尾に阻まれ、むなしくなぎ払われていく音が耳に響き、フランの目からとめどなく涙をあふれさせた。
(私のせいだ……私が……私が臆病で……弱いから……)
自分を助けるために、多くの人たちが傷つき、死んでいく--自分が《戦士》になったのは、この人たちを守るためだったはずなのに。それなのに一体、自分は何をやっているの? 何のための《エルガイザー》の力なの?
確かにゼー太はドSでドスケベで超意地悪だけど、でも考えてみれば自分はその圧倒的な《力》に頼り切っていた。最初から甘えていた。
でも違うんだ--《エルガイザー》の力をもらった以上、私さえしっかりしていたらこんなことにはならなかったんだ--戦わなきゃいけないのはゼー太じゃない、この国のために、愛する人たちのために戦うべきなのは--あくまでこの私自身なのに!
そう思いが至った時、それまでとは別種の涙がフランの瞳からあふれた。
「イヤだ……このままじゃイヤだ……」
それはフランが初めて感じた『悔しい』という感情であり、そしてそれは少女の心の中で、やがて『怒り』へと姿を変えていく。
それは弱き者を蹂躙してやまない邪悪への『怒り』であり、そして『力』があるにも関わらずそれを使いこなせていない、自分のふがいなさに対する、痛みにも似た『怒り』だった!
「私……私……負けたくない……負けたくないよぉぉぉ!」
目の前で倒されていくレルム騎士達の姿と、哄笑するドランたちガルガンテス帝国軍を前に、悔し涙と共に歯がみをするような想いでフランがそう叫んだ--まさにそのときだった!
〈--やっとわかったかい? ホント、とろくさい《マスター》だよなぁ〉
不意に脳裏にゼー太の声が響いて、フランはハッと目を開いた。その視界に、イメージとしてのゼー太の姿が浮かぶ。今となっては懐かしい気さえするその顔は相変わらず意地悪く笑っていたが、だが心なしかちょっと満足そうでもあった。
「ゼ……ゼー太!?」
〈あのまま大したピンチにもならず楽に勝っちまったら、絶対お前は誤解してたハズだぜ。誰かの力を借りれば、こんな自分でも強くなれるってな。でもそれは違う。大事なのはあくまでお前自身が『強くありたい』って願うことなんだ〉
「まさか……あなた、私にそれを教えるために……?」
意外な言葉に唖然とするフランには直接答えず、ゼー太は眼下で彼女を救うべく必死な戦いを繰り広げるレルム騎士たちに視線を向けた。
〈まぁレルムの連中もようやく気が付いたみたいだしな。オレ様が圧倒的な《力》で勝っちまうことはあいつらのためにもならねぇんだよ。自分の国は自分たちの力で守るべきだ。強すぎる力に頼るのは、諸刃の剣なんだから、な〉
ホント、手間がかかる連中だぜ、そうつぶやくとゼー太は、まるでテレ隠しをするかのようにしばし黒髪をかきむしると、唖然としたままのフランに向けてニヤリと笑いかけた。
〈さーて、そろそろ《実戦演習モード》もタイムオーバーだしな。さぁ一丁、派手に暴れてやるとするか?〉
「--う、うん!」
その言葉にフランが力強くうなづく。そしてそれまでの涙をぶるぶると顔を揺さぶって振り払うと、涙が消えたその瞳には確かな強い光が宿っていた!
「わはは、よーし、それではそろそろ……いただかせてもらうとするかー!」
一方地上ではそんなこととは露知らぬドランが、ニタリと邪悪な笑みを浮かべながらそう叫んでいた。
うおおおおお! ガルガンテス兵達の歓喜のどよめきの中、《魔獣使い》ゲルガがギガ・ゾームへと命令を伝えると、うねうねとくねる魔獣の触手の内の三本が急に、ギン! とばかりにその硬度を凶悪に増した!
「うわははは! エルフリードたちの見ている前で、全部同時に串刺しにしてやるわ!!」
これから起こるであろう嗜虐の光景を思い浮かべながら、ドランが待ちきれぬとばかりに舌なめずりをし、腹の底から哄笑する!
その高笑いに送られるように、その内の一本がフランの口元へ、そしてもう一本がむき出しになった可愛いお尻へ、そして最後の一本が破片一枚でわずかに覆われた少女の下腹部めがけて突き進む!
そしてよこしまな意志のもとで突き進むその三本の禍々しい凶器が、少女の無垢な身体についに到達しようとした--まさにそのとき!
--ターイム・オーバー♪
フランの腰に巻かれた《Ζドライバー》から、場違いな程明るい女性の電子音が高らかに鳴り響く。
そして、それと同時にそれまで勢い良く突進していた魔獣の触手が、フランの肌に触れるその寸前となって--不意にピタッと制止した!
「--!? どうしたのだ!? 肝心なところで!!」
予想外な触手の動きに、息を飲んでその軌跡を見つめていたドランが思わず目をむき、ガルガンテス兵達のブーイングが響く。
「いや、それがギガ・ゾームが言うことを……!?」
これまでに無かった事態にうろたえながら、必死で思念を送り続けるゲルガ。だが、魔獣はまるで何かに飲まれているかのようにすべての動きを止めたままだった。良く見ればその三つの顔からはだらだらと汗のようなものが流れ落ちている。
「ええい、私の命令が聞けぬと言うのか! 犯れ、犯るのだギガ・ゾーム!!」
焦りにいらだつゲルガが、再度強硬な思念をギガ・ゾームに送る。そうなるとそこは《魔獣使い》の命に使役するよう、幼獣の頃から仕込まれてきた習性で、瞬間、魔獣が弾かれたように攻撃行動を再開する!
--だが、その攻撃がフランに命中する、まさにその寸前!
「《イグニッション……バースト--!!》
瞬間、少女の全身が真紅の光に包まれたかと思うと、その光が爆発的に拡がり、彼女を拘束していた触手たちとともに、迫り来る魔獣の触手を粉々に吹き飛ばす!
それはまさに、跡形も残らないというレベルの粉砕っぷりだった!
「な、なにぃぃぃぃぃ!?」
驚愕するドランたちの前で、燃えるような真紅の光に包まれたフランが、更に力を溜めるかのようにようやく自由になった両拳を握りしめる。
「よくも……よくも嫌がる女の子相手に、好き放題やってくれたわね……!」
そしてフランはキッとドランたちを見下ろすと--みなぎる怒りを込めて、力強く、宣言した!
「あなた達は、絶対に--許さないんだから!!」
最終回もできるだけ早くUPできるようがんばります!
……3月中には何とか(;´_`;)(苦笑)