その4
7
「--魔装……変身……!」
ゼー太に教えられたその言葉と共に、フランがバックルに右手をかざしたまさにその瞬間--!
《Ζドライバー》から、さきほどゼー太のコールドスリープが解除された時と同じ、高らかな女性の電子音が鳴り響いた!
--マソウヘンシン!!
そしてファンファンファンファンという何か起動音のようなものがだんだんと音量を上げていったかと思うと、再び女性の電子音が鳴り響く!
--チェンジ、エルガイザーΖ!!
ガカッ! その瞬間、バックル部分の「Ζ」の刻印から、目もくらむばかりの赤い光があふれ出し、まばゆく光輝いた!
「きゃ、きゃあああああ!?」
「フラン!?」
怪我の痛みも忘れ、その様子を見つめるエルフリードたちの前で、あふれ出した赤い閃光が少女の全身を包み込み、その髪を大きく浮き上がらせると同時に--
身につけていたベルト以外の全てのものを、一瞬で吹き飛ばした!
「--え”!? ……や、やだぁぁぁぁぁ!?」
その場にいる全員に見つめられている中で起こったあまりの事態に、フランは一瞬の凝固の後に光に負けないくらい真っ赤になって、むきだしになった身体を慌てて隠そうとする。
幸い赤い光が多少の目くらましにはなってくれているが、逆に言えば露わになった白い裸身が赤い光に照らされているのは、ふだんの大人しいフランからは想像もできぬほど、何とも言えない艶めかしい眺めでもある。
だが、それも一瞬のこと、次の瞬間には少女の裸身を包み込んだ赤い光が、まばゆい光球となりふわりと宙に浮き上がると、突如スピードを上げて急上昇し、轟音と共に天井を突き破った!
その一方で、エルフリード達はついフランに気をとられていて気付かなかったが、同時にゼー太の身にも激烈な変化が起こっていた。
フランが《魔装変身》のコマンドを口にするやいなや、すばやくフランから距離を置いたゼー太の全身が、ベルト--《Ζドライバー》の赤光と呼応するかのように、金色の光に包まれる!
まばゆい光の中、「全く世話が焼けるぜ」とゼー太が小さく独りごちた次の瞬間、その軽い安堵と同時に不敵な笑みを浮かべたその表情が、まるで光に飲み込まれながら細かく分解されていくかのように、たちまちにして崩れ去る。
そしてそれはあっという間に全身に及び、ついにはゼー太の姿そのものがその光の中に溶けるかのようにして消滅してしまった。
ギュン! 今や完全に金色の光球と化したゼー太が、フランを包んだまま上昇していく赤い光球を追いかけるようにして、同じく飛翔する!
そして赤と金の二つの光球は互いにらせん状になりながら、地中を貫きつつ上昇を続けたかと思うと、ついには神殿の床を突き破って、轟然と地上に飛び出した!
「--な、何だぁぁ!?」
それまで魔獣ギガ・ゾームが圧倒的な破壊力で城や神殿を破壊していくその後ろで、最後まで必死に防戦を続けるわずかなレルム兵達を、容赦なく掃討しようとしていたガルガンテスの兵達が、突如として出現した二つの光球にどよめきを見せる。
「あれは何だ!? 何が起こっている!?」
その背後でガルガンテス兵を指揮していたドラン、そしてギガ・ゾームを操る魔獣使いのゲルガもまた、思わずその突然の光景に目を奪われた--その瞬間!
彼らの視線の先で、そのまま上昇を続けていた二つの光球が、ついに激突! スパークを放ちながら一体となった!
カカカッ!! 一瞬、まるで別の太陽が出現したかと錯覚を起こすほどの凄まじい閃光を放って、今や一つとなった光球が燦然と光り、煌めく!
「うわぁぁぁ!?」
「まぶしっ!?」
「フ、フラン--!!」
瞬間、ガルガンテスの兵達も、生き残ったレルムの人々も、そして天井に開いた大穴から呆然と地上の空を見上げていたエルフリードたちも、みなその圧倒的な光から顔を背けた。そうしなければ間違いなく目をやられてしまっていたであろう。
--そしてそのまばゆい光が次第に収まり、遂に消え去った時、
空中には、まばゆいルビーのような赤い甲冑を身につけた少女が、呆然とした表情を浮かべたまま、一人、浮かんでいた。
髪留めもはじけ飛んだため、これまでは地味なお下げにまとめていた淡いピンク色の髪が、肩を越して緩やかな扇形に拡がっている分、少し雰囲気は変わっていたが、それはまぎれもなくフランだった。
そのとき、その頭部にはめられた、昆虫の触角のような二本のツノが特徴的な金色のサークレットの、中央に飾られた赤い宝玉が、淡い光を放って輝いた。
〈おい、いつまでボーッとしてんだよ〉
突然、少年の声がまるで脳に直接飛び込んでくるかのように響くのを感じて、フランはハッと我に返った。
「えっ、あっ、ここは……そ、空っ!?」
自分が宙に浮いている事実に気づき、思わず何かしがみつけるものはないかとバタバタ手足を動かすフランに、ゼー太の呆れたような声が響いてくる。
〈落ちたりしねーよ。安心しな。オレ様の《空中機体制御システム》で浮いてるんだから。あと一応、背中には高速移動用の《ウイング・ユニット》もあるんだぜ〉
「ホントだ……私、浮いてる……」
それでもやはりしばらくは怖かったが、慣れてみるとこれは結構気分が良い。
こんな高い所に昇ることも滅多に無いので、キョロキョロと珍しげに周囲の眺めを見渡していたフランだったが、やがてふと自分の姿を見下ろすと、きゃっ!? と思わず悲鳴を上げた。
「な、何よ、この格好~!?」
カーッと赤面するフラン。その身体の上を、両肩、両手、両足、胸部、腰と丸みを帯びた優美な防具のような物が覆っている。
しかしそれらはどれも必要最小限程度の大きさしかなく、スラリと伸びた四肢はほとんどがむき出しで、腰を覆うパーツと同化している《Ζドライバー》などは、わざわざバックル部分が少し位置を下げ、可愛いおへそを丸見えにしている始末だ。
要するにまるで過激なデザインの水着か何かかと思えるほどの露出度に加え、かすかに上気した白い肌と、金色のラインで縁取りされた目の覚めるような真紅のプロテクターの組み合わせは、奥手のフランには気が遠くなるほど刺激的だった!
「やだ、やだ、こんな恥ずかしい格好、いやだよぉぉぉ!!」
〈そうかなぁ? さっきの年増のねーちゃんが付けてた防具も、まぁ大体こんな感じだったぜ?〉
「素肌の上にこんな格好する人なんていません!」
〈まぁ落ち着けって。これはな、《仕様》なんだよ、《仕様》〉
「仕様ってどういうことよ!?」
〈このプロテクターは《Ζドライバー》に取り込まれたオレの《霊子エネルギー》が物質化したものなんだが、だから覆う面積が少なければ少ない程、燃費が良いんだよ。こう見えて結構エネルギー使うんだぜ、《魔装形態》は〉
ぐう……何だかもっともらしい説明に、口ごもるフランだったが、そんな真面目な少女をからかうように、ゼー太は続けた。
〈でもまぁ一番の理由はオレを造った《科学者》たちの趣味だな。女戦士はやっぱビキニアーマーだよな!って開発スタッフ一同盛り上がってたし〉
また《東方の科学者》とやらの趣味なのか……もう千年も昔の人たちだとはいえ、ますますフランは呪いたい気持ちで一杯になった。
「……男の人だとどうなるのよ?」
〈男の場合は野郎の身体なんか誰も見たくないから、胸のパーツが浮いた分、かわりに全身をタイツみたいな薄い生地で覆うことになるなぁ。まぁそれはそれで結構、当時の同盟国にはウケが良かったんだケドな〉
(ぜ、全身タイツ……)
フランはエルフリードがそんな姿になっているのを思わずイメージしてしまい、慌ててぶんぶんと頭をふってそれをかき消す。やっぱりエルフリード様をそんな格好にさせるぐらいなら、恥ずかしくても私が《戦士》になって良かったかも……
〈まぁ、何だったら男戦士Verに《フォームチェンジ》〉してやってもいいぜ? そのかわり身体のラインとか丸わかりになるケドな〉
「絶対イヤです!!」
意地悪く笑うゼー太にかみつくように叫んだフランだったが、そのときふと大事な事に気が付いて、フランはあわただしく辺りを見回した。
「ね、ねぇあなた、さっきから声だけするとけど、一体どこにいるのよ!?」
〈さぁ、どこだろうねぇ〉
クスクスと笑うゼー太の声に、何だかイヤな予感が膨らんでいくフラン。
〈言っただろ? オレの本当の姿は《魔装兵器》だって。要するに《エルガイザーの戦士》が装着して戦う超兵器ってことさ〉
「……って言うことは……ま……まさか……」
フランの胸が恐るべき予感で一杯になる。そしてフランは自分の全身を恐る恐る見回しながら、震える声で言葉を紡ぎ出した。
「じゃ、じゃあ、まさか今私が身につけてるこの防具が……」
〈ピンポーン♪〉
さーっとフランの顔が青ざめる。ってことは、ひょっとして、その……
〈ムフ、ムフフフフ☆〉
狙いすましたように、ゼー太の含み笑いが脳裏に響く。そして次の一言が聞こえてきた時、フランの蒼白だった顔色は、一転して真っ赤になった!
〈おまえってさぁ。おとなしそうな顔してるけど、けっこーいい身体してんのな☆〉
「☆●▽□〒#*§▲!!!」
〈いやぁ、地味な格好してた時は目立たなかったケドさ、オレ様の目はごまかせないっていうか。やっぱ思ってた通りの《隠れ巨乳》っぷりだしね♪〉
ぐさぁぁぁ! 一番気にしていることを言われて、フランは素早く胸元を両手で覆い隠す。この一年ぐらいでぐんぐん成長して、今では形良く膨らんだその胸は、思春期かつ奥手な少女にとってみては、まるで自分が別の何かに変わっていくかのような気がして、ひどく気恥ずかしいものだったのだ。
だが、今やその胸は、《エルガイザー》の胸部プロテクターによって隠されるどころか、逆にその寄せて上げる下着のごとき形状によって、さらにその豊かさを見せつけるように強調されていた。そしてそもそも、このプロテクターとやらの正体こそが……あの……
「--いやぁぁぁぁぁ!! 離れてよ、この変態ぃぃぃぃ!!!」
思考がそこに至り付いたとき、フランはほとんど半狂乱になって、身にまとうプロテクターをひっぺがそうともがいた。しかし懸命にがんばるも、プロテクターはまるでへばりつくように肌にフィットしていて、ビクともしない。
〈ムリだよーだ! 一度装着したら、オレの同意がないと外せないんだもんねー♪〉
……ゼー太が男はイヤだと言い切ったワケがやっとわかった。ニヤニヤとイヤらしく笑う表情までもが伝わってくるその思念に、フランは死にたくなるほどの後悔を味わっていた。
こんな……こんなドスケベの言うことを……ほんの一瞬でも信じただなんて!
「離れて離れて離れて離れて離れて離れてーー!!」
いくらひっぺがそうとしても外せないことが分かると、今度はぽかぽかと籠手状のパーツに覆われた拳で胸部プロテクターを叩きまくるフラン。
〈おい、ばか、やめろ、いたたたた……!〉
さすがに多少は痛いらしく、ゼー太が小さく悲鳴を上げる。
「やめて欲しかったら今すぐ私から離れなさいよ!! あなたが同意したらできるんでしょ!?」
〈馬鹿! そんなことできるわけないだろ! 《魔装》を解除したらどうやって戦うんだよ!? って、いでででででで!!〉
「いいからとにかく離れてぇぇぇ!!!」
〈畜生! この《馬鹿マスター》だけはホント……!〉
ますます激しくなる乱打っぷりに辟易とした様子のゼー太の思念だったが、やがてそのイメージとしての口元に、ニヤリと何か意味ありげな笑みが浮かぶ。
〈よーし、いつまでもダダをこねるっていうのなら……!〉
そして次の瞬間、サークレットの赤い宝玉が、キラリーン♪と怪しい光に輝いた!
〈やっぱ、少し『おしおき』が必要だよなぁ!!〉
ビクン! 突然、胸の尖端から電流のような刺激が体中を貫いて、思わずフランは動きを止めた。
「ひゃ、ひゃうぅ!?」
〈へへ、どうだ。そーれ、そーれ☆〉
ビク、ビク、ビクン、立て続けに三度、敏感な部分を刺激されて、その度にフランの身体が跳ね上がる。
「な、何するのよ、や、やめてったら……ひゃうぅ!」
〈やめないよーだ♪〉
頭の中に浮かぶゼー太のイメージがニヤニヤと笑うと、今度は何と突然胸のパーツがまるで生きた手のように動き、その形良く膨らんだ胸をゆっくりともんでくるではないか!
「ひゃ、ひゃぅぅぅぅ!!」
思わずフランは身体を大きくのけぞらせる。だが、そんなフランに対し、自在に動くプロテクターはさらに動きを強め、容赦無く胸の膨らみをもみしだく!
「お、お願い……もう……やめて……」
だんだんと自分の息が荒くなっていくのを感じて、フランは動揺していた。好きなようにもまれている二つの胸からまるで水の波紋のように、全身にこれまで感じたことの無い快感が拡がっていく。こんなことをされるなんて初めてだけど、でも、どうして? イヤでたまらないのに……なのに、こんなに気持ちがいいものなの……?
〈なんでそんなに気持ちがいいか知りたいかい?〉
何を考えてるかはお見通しとばかりに、ゼー太がニヤニヤと続ける。
〈《エルガイザー》は《マスター》の能力を引き出すために、その知覚に働きかけて感度を約3倍にする。まぁ逆に戦闘続行にマイナスな痛覚とかはシャットダウンするんだが、『快感』はむしろ増幅されちゃうってワケさ。だから、すっごく感じるだろ?〉
「や……やぁ……そんな……ダメ……ダメぇ……」
フランのまだあどけないとも言える横顔には、初めて経験する甘美なまでの心地よさに、このまま身も心もとろかされてしまうことへの、本能的なおののきが浮かんでいた。
そんなフランの様子を楽しそうに観察している風のゼー太の思念だったが、急に優しい口調にかわると、息も絶え絶えなフランに甘くささやきかけてきた。
〈ねぁ、ためしに《ハイパー・センサー》って言ってごらんよ〉
「え……どうして……あ…イヤ……」
だんだんと意識が朦朧としてきたフランだったが、何だかとてもイヤな予感がして首を横に振る。だが、そんなフランに対して、ゼー太は打って変わって意地悪な口調になると、容赦無く続けた。
〈いいから言って見ろよ、ほれ!〉
「-----!!」
その瞬間、再び胸の尖端を刺激されて、フランは声にならない悲鳴をあげてのけぞると、ゼー太に言われるがままぐったりとした声でつぶやいた。
「……は……はいぱぁ……せんさぁ……」
--モードチェンジ! 《ハイパー・センサー》!
その言葉に反応して、《Ζドライバー》から女性の電子音が響くと同時に、バックル部分が金色の光を放つ。するとその光がフランの全身を淡く包み込んだかと思うと--いきなりゼー太にもまれ放題にされていた胸から感じる快感が、爆発的に膨れあがった!
「ひゃ、ひゃううぅぅぅう!!」
その凄まじいまでの快感に、意識が一瞬飛ぶのを感じながら、フランは再び大きくのけぞった。
〈そして、《ハイパー・センサー》モードは更にその感度を30倍にまで高める! まぁ本来の機能としてはこれによって360度全方位に渡る索敵を可能にし、更には近接戦闘においても反応速度を限界までに高めることができるんだけど……って、聞こえてねぇか?〉
ゼー太の意地悪極まりない問いかけにも、すでに宙に浮いたままぐったりと脱力しているフランはとても答えられる状態ではなかった。
〈まぁ《ハイパー・センサー》は《イグニッション・バースト》と並んで霊子力エネルギーの消耗が激しいから、3分しか持続しないのが難点なんだけどな。まぁでもこの場合はあと3分も持てば十分すぎるか〉
「あ……あふ……ひゃん……ああ……許して……」
もはやたとえ突っついたり撫でる程度のソフトタッチであっても、《ハイパー・センサー》によって感度が30倍になっているフランにとっては、とんでもないぐらいの刺激であった。
そして再び最も敏感な胸の先をちょん☆と刺激された時--その口からは、本人も意識せぬまま甘い嬌声にも似た叫びが漏れていた!
「あっ……ああああああああん☆」
「……な、何なんだ一体……」
--突然、場面は一転して、むさくるしいおっさんのドアップである。
ガルガンテス帝国レルム王国制圧軍司令官ドランは、それまで呆然と空を見上げていたが、ようやく我に返ると困惑のうめき声を上げた。
その横では、ゲルガがまだ呆けたようにして、空の一点を凝視している。《魔獣使い》である彼がその有り様だから、魔獣ギガ・ゾームさえもが心なしかぽかーんとした表情でその動きをとめていた。
そしてもちろん他のガルガンテス兵達も同様で、ただみな食い入るようにして、上空を見上げている。
それはそうだろう。いきなり地面を突き破って二つの光球が飛び出してくるやいなや、上空でもの凄い閃光と共に爆発し、その後には扇情的な格好の半裸の美少女が残されていて、しかもそれが浮いてること自体がとんでもないのに、いきなり一人で何だか感じ始めたかと思ったら、更には急に金色に光り出して、とどめには甘い吐息とともに身もだえを始められた日には--そんなのを立て続けに見せられて、平常心を保っていられる方が、むしろまともな神経ではないだろう。
「このバカモンが! いつまでボーッとしている!」
だがそこはさすがに歴戦の指揮官というべきか、もしくはこの中で一番神経が図太いというべきか、真っ先に正気を取り戻したドランが、怒声と共にゲルガの頭をどついて現実に引き戻す。
「な……なんでございましょう」
ハッと我に返るゲルガであったが、しかしその目はまだ未練がましく上空の謎の少女の方を向こうとしている。そんなゲルガをもう一度どつくと、ドランは上空で身をよじる謎の少女を指さして命じた。
「なんだ、ではない! ギガ・ゾームであのわけのわからん小娘を叩き落としてしまえ!」
「そんな……いいとこなのにもったいない……」
「馬鹿者! あれは奴らの罠だ! どんな妖しげな術かは知らんが、ああやってワシらを色仕掛けで油断させ、時間を稼ごうとしているに違いない! かまわぬから叩き落とせ!」
別にそんな意図は無いのだが、確かにガルガンテスの全軍がある意味で戦闘不能状態になっていた。ほとんどの兵が腰を引いた状態でうずくまり、そうでない者もみな魅入られたように上空での美少女が乱れる様を見つめている。
「いいから叩き落とせと言っとるんだ!」
「……わかりましたよ……」
これ以上ないくらいしぶしぶと返事を返すと、ゲルガは額にはめたサークレットに念を込め、魔獣と意識を《同調》させた。
(殺れ、ギガ・ゾーム。惜しいけど……)
「ああ……もう……お願いよぉ……これ以上……虐めないでぇ……」
--そんな地上から再び一転して、今度は上空のフランである。
《ハイパー・センサー》が発動してすでに1分半が経過し、その間休むことなく悪戯され続けたフランは、もはや朦朧とする意識の中で、何とか声を振り絞ってゼー太に哀願したが……
〈やだなぁ。別に虐めてるわけじゃないぜ? 《霊子力》ってのは要は精神的な面も含めた人間の生命エネルギーそのもののことだからな。だからオレが元気だったり、気合いが入っていればいるほど《エルガイザー》は強くなる。つまり『必要』なことなので、オレはこうやって戦闘の前に《マスター》から念入りにエネルギーをチャージさせてもらってるってわけさ☆〉
「そ……そんなぁ……」
その意地悪な返事に完全に涙目になるフランだったが、ゼー太の狼藉は止まる様子をみせない。ついには胸パーツだけではなく、他のパーツ部分までが最高潮に敏感にさせられている少女の性感を刺激し始めた。
「ひ……く、くふう……! や……やめてぇぇぇ……」
セクハラの嵐に息も絶え絶えになるフランだったが、さらにそのとき彼女は気が付いてしまった。
《ハイパー・センサー》の持つ本来の機能、その驚異的な索敵能力によって周囲の光景がクリアな形でフランの視覚に感知される。その結果、彼女は自分が無数の地上からの瞳によって、今まさに『見られている』という事実を認識したのだ!
興奮に目を血走らせる三千を超えるガルガンテス兵だけではなく、レルム王国の生き残りの男たちもみな唖然としつつも目を離せずにおり、一方女性たちはみな気まずげに目をそらしている。
そして地下神殿のエルフリードたちまでもが、天井の大穴から上空の自分を呆然と見つめていることを知覚した瞬間--フランは羞恥心に頭が沸騰しそうになるのを感じた。
(エ……エルフリード様に……見られてる……見られちゃってる……こんな恥ずかしい姿を……い、いや……)
そうでなくてもゼー太の執拗なお触り&《ハイパー・センサー》の効果で、身体中が高熱にうかされたようになっていたのだが、さらに加えてその場にいるみんなから--それも最愛のエルフリードに見られているという事実が、とどめとなってフランの被虐心に火をつけ、残っていた理性を崩壊させていった。
(ああ……もう……らめぇ……身体が熱くって……何も考えらんないよぉ……)
〈さぁて、あと時間も30秒ぐらいしかないし、このまま終わったんじゃ満足できないだろうから、最後に……〉
快楽にすっかり心蕩かされて虚ろな目になるフランを、実に楽しそうに眺めていた意識内ビジョンのゼー太が、軽く舌なめずりをしながら視線を下の方に向ける。
もちろん『その部分』を守るパーツも《エルガイザー》の一部なのだから、その下が今どういう大変な状況になっているかは、もう十分すぎるほど承知している。ゼー太はさすがにゴクリと息を飲むと、その部分にとどめの刺激を与えるべく意識を集中させた!
「え……まさか……そこは……そこだけは……」
朦朧とする意識の中で、そこは《ハイパー・センサー》の効果なのか、乙女に迫る最大のピンチを察して、フランは身をよじってはかない抵抗の意志を示す。だがしかし。相手はそもそも自分の身を覆うプロテクターそのものなのだから、いくら嫌がろうがどうにも逃れようがない!
〈--じゃあ、いくぜぇぇぇ!!〉
「ら……らめぇぇぇぇ!!!」
調子に乗りまくったゼー太の叫びと、フランの悲鳴が交錯した--まさにそのとき!
バキィィィィィ!! 魔獣の痛烈なヘッドバッドがモロに叩き込まれ、少女の華奢な身体が軽々とふき飛ばされる! そしてそのまま勢い衰えず、かろうじて破壊を免れていた神殿の一角に、フランは轟音と共に叩きつけられた!
「フラン----ッ!!」
それまでただ呆然とフランの乱れる様を眺めていたエルフリードだったが、その突然の惨劇に瞬時に我に返って絶叫した。あ、あれではとても助からない--!
「ぐわっはっはっ! ざまーみろ! そんなくだらん小細工などが通用するかーっ!」
配下の兵達から思わず巻き起こるブーイングの嵐の中、傲然とバカ笑いを続けるドランだったが、そのアゴが次の瞬間、カクンと外れた。
もうもうと立ちこめる土煙の中、まるで平気な様子で少女が身を起こしたからである!
「あ……あれ?」
自分でも生きているのが不思議な面持ちで、フランはキョトンとして自分の身体を見回した。どうやら《ハイパー・センサー》は終了したらしく、その身を包む金色の光は失われていたが、乙女の柔肌にはすり傷一つできていない。
(……あの時、ハッと気が付いたら『ゆっくり』と近づいてくる怪物の頭が見えたから、慌てて避けようとはしたつもりなんだケド……でも当たっちゃったハズ……だよね??)
ホッとはしたものの、戸惑いを隠せずにいるフランだったが、そのとき頭の中にゼー太のうめき声が響いた。
〈いででででででで……〉
「痛いって、私は全然平気だよ?」
〈《マスター》は《霊子フィールド》で守られてるから無事でも、オレは痛かったんだよ! ……さすがにあのタイミングじゃ《バリアー》を展開するヒマは無かったもんなぁ……いでででで……〉
「だ、大丈夫?」
さすがに心配になって自分を覆うプロテクターを見回すフラン。
〈まぁ《ハイパー・センサー》発動中だったから、何とか寸前で回避行動がとれたから助かったぜ……さすがのオレも直撃を喰らってたら、ヒビの一本ぐらいは入ってたかもなぁ……ホント、頼むからちゃんと敵の動きぐらい見ててくれよなー、痛いのはオレなんだから!〉
「な、何よー! 元はと言えばあなたが調子にのって変なコトばっかするからでしょ!?」
かぁ~~っ! ついさっきまで自分が受けていた悪戯の数々を思い出し、フランの顔が紅潮する。
〈へん、何言ってだか。自分だってしーっかり喜んでたくせに!〉
相変わらず減らず口をたたくゼー太に、フランの肩がわなわなと震える。
「あ、あなたって言う人は~~~!!」
そのとき、不意に日が陰ったかのように辺りが暗くなった。
「--えっ?」
フランはゾクッとイヤな予感がして、おそるおそる後ろを振り返った--が、
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
予想通りというか、何というか、こうして見上げると小山の様な大きさのある魔獣の、その巨大な足の裏が、上から自分めがけてぐんぐん迫ってきているのである!
〈叫んでないで避けろっ! 《馬鹿マスター》!〉
ぐいっ! 棒立ちになって固まってしまった少女の手を、籠手パーツ自体が勢い良く引っ張ると、次の瞬間にはさっきまでフランがいた所に、魔獣のばかでかい足跡が、深々と刻まれていた。
ドドーン! 至近距離での衝撃波に、フランの身体が軽々と跳ね上がる!
「よーし、いいぞ! やれっ! 踏みつぶしてしまえ!」
ドランが哄笑する。巨大な魔獣の前に、きゃぁきゃぁと叫びつつ逃げ惑う少女の姿は、ゾクゾクするほど嗜虐的な見物だった!
「え~ん、もうやだ~!!」
ドゴーン! 背中に何度目かの衝撃を喰らい、もうすっかりフランは半泣き状態だった。
「もうダメよぉ~! このまま下敷きにされちゃうんだ~~!!」
〈--逃げてばっかもつまんねーなぁ〉
そんなフランとは対照的に、いたって平然としたゼー太だったが、続けてとんでもない事を口走った。
〈ちょっとぐらい反撃してみっかな〉
「じょ、冗談言わないで--!」
またまたもの凄くイヤな予感がして、フランが悲鳴をあげかけたその瞬間、少女の身体は意志に反してピタリと立ち止まると、そのままクルリと180度回転、後方に向き直った。
「きゃ、きゃあああああああああ!?」
ぐおおおおおお!! 恐怖に目一杯見開かれたフランの瞳の中で、ド迫力で迫る魔獣ギガ・ゾームの『腹部』が、そのままぐんぐん大きくなっていって--!
ズドドドドドドドーーーーン!!!
「よっしゃ! これで完璧にぺしゃんこだ! そうだな、ゲルガ!?」
「それはもう……ギガ・ゾームの重さは1,000トン。そのボディ・プレスを喰らったのでございますから……って、え”え”え”え”!?」
思わず陰気なキャラに似合わないリアクションをとったゲルガの目の前で--その1,000トンがジリジリと持ち上げられていく!?
「な、何だとぉぉぉぉぉ!?」
驚愕するドランたちを尻目に、ギガ・ゾームの小山のような巨体が、更にはゆっくりと宙に浮き上がっていくではないか!!
「きゃーっ! 怖い、怖い、怖いよぉぉぉ!!」
魔獣の身体をその両の細腕で持ち上げつつも、フランのまぶたはしっかりと閉じられたままである。どうやら恐怖のあまりパニックになっているらしく、今自分が『何をしでかしているか』はわかっていないらしい。
だからこのことにもフラン自身は気が付いていなかった。魔獣を支えている《エルガイザー》の両手パーツが、その瞬間にも燃えるような真紅の光を放って激しく輝いていることを--!
「な……何だ、何なのだあの小娘は……!?」
あまりな光景に、さしものドランも冷たい汗を流しながら後ずさる。その横では、ゲルガがまるで呆けたように「1,000トンが……一1,000トンが……」とブツブツと繰り返していた。
キシェウーン! もちろん地面から足が離れたことなど初めてのギガ・ゾームは、大いに暴れたが、フランは相変わらずベソをかくばかりで、その両手はビクともしない。
そうして見ると、短い足をジタバタさせて必死にもがく魔獣の姿は、何だか可哀相になるくらい、情けなかった。
「もう……いい加減に……」
ぐわっ、とフランが身体を後ろにそらし、魔獣を大きくふりかぶる!
「ま。まさかぁ!?」
その瞬間、それまで指揮官同様、ただあんぐりと口を開けてその光景を眺めていたガルガンテス兵達が、少女が何をしようとしているかに気が付いて、一挙に恐慌状態に陥った!
そして我先に逃げ出そうとするガルガンテス兵だったが、まぁそこは自業自得と言うべきか、つい先刻まで繰り広げられていた少女の艶姿を少しでも近くで見ようと、自然に密集してしまっていたことが彼らの命取りとなった。
「……してくださぁぁぁぁぁぁい!!!」
ぶうん!! 絶叫と共に少女の手から投げ放たれたギガ・ゾームの巨体が、綺麗な放物線を描いて宙を舞う。
そしてレルム王国の無辜の民たちを蹂躙してきたガルガンテスの兵達は、急速に拡がってくるその巨大な影を、白昼に見た悪夢のような目で見上げて--
ズッ……ドドドドドーン! バキバキバキバキ、ドドーーーン!!
巻き起こる大量の砂塵と衝撃の中、精強をうたわれたガルガンテス帝国西征部隊レルム王国制圧軍は、まさに一瞬にして--壊滅した。
続きは1週間後ぐらいに!(>_<)