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その2

      4

 


「なっ……!?」

「《エルガイザー》が……!!」

「起きたっ!!」


 どよめくエルフリード達。目を覚ました少年はそれを寝ぼけまなこで見渡していったが、やがてふああああ、と大きくあくびをして、また寝転がってしまった。


 どどっ! 思わずこける一同。


「寝るなー! このガキーッ!」

 相手が《伝説の魔神》(?)であることも忘れ、ベックがその肩をつかんで揺り動かす。ぶんぶんと力強く揺さぶられて、少年はめんどくさそうにまぶたを開けた。


「うるせーなぁ。人がせっかくいい気持ちで寝てたってーのに」

「こんな非常時にのん気に寝るなゴラァ!」

「あーわーった、わーった、うるせぇから耳元でわめくなよ。うっとーしい」

「こ、このガキ~~!!」


 ワナワナと拳を震わせるベックを完璧に無視して、少年はその瞳をエルフリードに向ける。


 ビクン、エルフリードの後ろで、フランはかすかに身を震わせた。なぜなら少年の瞳--その不敵な光をたたえた漆黒の瞳は、よく言えば神秘的、悪く言えば魔性の輝きを秘めているかのように、フランには思われたのである。


 事実、少年の印象も、寝ていた時のあどけない天使の素顔から、うってかわって大人び、そしてふてぶてしげに見える。


「久しぶりだな、確か……レオンハルトだったっけな」

 少年の問いかけに、怪訝な顔で答えるエルフリード。


「いや、私の名前はエルフリードだが……?」

「あっ、そっか、時代が変わってんだよな」

 いけねぇ、いけねぇ、少年はポリポリと頭をかいた。


「まぁ似てるっちゃ似てるが、よく見りゃ髪の色が違うな。顔の作りもどことなく違うし」

「ま、まさか君が言っているのはレオンハルト一世のことか!?」

 レオンハルト一世--今から千年前、旧世界滅亡に際して、この地を破滅から守り、レルム王国を打ち立てたという伝説の聖王である。


「では、やはり君……いやあなたが《エルガイザー》……!?」

「オレか? まぁ難しく言えば、《装着型万能最終決戦魔装兵器》って言うんだが、確かに通称は《エルガイザー》って呼ばれてたな」


 黒髪の少年がしれっとそう言ってのけると、エルフリードたちは思わず息を飲んだ。やはり、やはりこの少年こそが《伝説の魔神》--!


「まぁその中でもオレは《近接格闘特化型》として開発された《Ζタイプ》だから、何なら『ゼー太』でいいぜ? その方がオレの故郷の感覚に近いしな」

「ゼ、ゼー太って……」

 聞き慣れない語感ではあったが、何だか緊迫感の無い呼び名なことはわかって、今度は思わずよろめく一同。こ、これが《伝説の魔神》……?


(でも、今『故郷』って言ってたけど、てことはこの国で生まれたってわけじゃないんだ……)

 何だか興味を覚えて、もともと引っ込み思案ながらも好奇心は旺盛なとこがあるフランは、エルフリードの後ろに隠れたまましげしげと少年を観察した。


 この地では珍しい漆黒の髪に、同じく黒い瞳を有するアーモンド型の目。肌の色も自分たちとは違う。そう言えば子どもの頃に昔話として聞いたことがあるけど、はるか東の果てにあったという島国に住んでいた民にはそういった身体的特徴があったらしい。ただ、その島国は旧世界の滅亡に際し、海の底に沈んでしまったとか……


(もしかしてその東方の島国って言うのがこの子の故郷なのかな……)

 そう思うと、見た目がまた幼い少年なだけに何だか可哀相な気持ちになって、フランは胸の前でギュッと手を組んだ。こんな遙か遠い異境の地で、しかも千年の時を経て甦るというのはどれだけ寂しい思いがするものだろう……


 4年前の戦災によって身寄りを失い、その後は慣れぬ王宮での女官暮らしをしてきた身には、何だか他人事には思われなくて、いたわるようなまなざしで少年を見つめるフラン。


「……ん、どうした姉ちゃん」

 そんな視線に気が付いたのか、『ゼー太』と名乗る少年がフランの方に顔を向ける。目と目があってドキッとするフランに、ゼー太は不意ににんまりとタチの悪そうな笑いを浮かべると、からかうような口調で言った。


「はっはーん、おとなしそうな顔して、そんなにオレの裸が見たいのか?」

 その一言に、フランの顔がボッと火を噴く。そうだった。ゼー太は腰に大きなバックル付きのベルトを一つ巻き付けただけの裸だったのだ。幸い、カプセルから身を起こした状態なので、あのーそのー腰から下の『まずい部分』は見えてなかったとはいえ……


「仕方ねぇなぁ。じゃあオレ様の自慢のピーをじっくり拝ませてやるとすっか……」

「あわわわわ、や、やめてくださーい!!」

 意地悪く立ち上がろうとする少年に、真っ赤になったフランは目を閉じたままぶんぶんと両手を顔の前で交差させる。その様子を見て、エルフリードが苦笑まじりに止めに入った。


「エルガイザー……いや、ゼー太殿。この娘のことをからかうのはそれぐらいにしてやって、我々の話を聞いてくれませんか?」

「……」

 ゼー太はしばらく値踏みをするかのようにエルフリードの顔を眺めていたが、その瞳が真剣な光を帯びていることを察してか、やがて面倒くさそうにため息をつくと、髪をかきむしりながらつぶやいた。


「ちぇっ、まぁしょうがねーなー」

 そう言うと、ゼー太はスッとベルトのバックルに手をかざした。するとその瞬間、バックルから淡い金色の光が放たれ、少年の全身を一瞬包み込んだかと思うと、次の瞬間、光が収まると同時に、いつの間にかゼー太は髪や目の色と同じ黒色の短衣を身につけていた。


「えっ……!?」

 目を丸くするフランの前で、服を着たゼー太はカプセルから「よっ、と」と身軽な動作で降り立ち、ふてぶてしく腕組みをしてエルフリードを見据えた。


「で、オレに何の話があるんだって?」

 漆黒の瞳に挑戦的に見つめられながらも、エルフリードは気押されすることなく口を開いた。


「力を貸して欲しい。あなたが持つというその伝説の力を、レルムの民を救うために……!」

「…………」

 そんなエルフリードに対し、ゼー太はすぐに返事をするでもなく、ただ黙ったままその瞳をじっと見据えていた--が、


 その瞬間--轟音と共に部屋が衝撃に大きく揺れ動いた! 


「きゃああああっ!?」

 悲鳴をあげてフランがその場にへたり込む。エルフリードたちも転ばないのがやっとという程の震動だった。


 そんな中、ただ一人、全く体勢を崩すことの無くその衝撃を受け流したゼー太が、興味深げに視線を上に向けた。

「この生体反応はギガ・ゾームだな。へーつ、まだそんなのが生き残ってたのか。今ちょうど城壁をたたき壊してる真っ最中だな」


「わ、わかるのか!?」

「まぁね」

 驚愕するベックに向かって涼しげにそう言ってのけると、ゼー太は上を見上げたまま何だか楽しそうに実況中継を始めた。


「まぁあんなチンケな城壁じゃすぐおシャカだろーな。おっ、さっそく穴が開いた! やる~♪」

「喜ぶなっ!!」

 思わず激昂するベックを制して、エルフリードはますます必死の面持ちで、ゼー太と向かい合った。


「そこまで分かっているのなら、今の我々の状況も理解してくれているはず--」

「……さてね」

 すっとぼけようとするゼー太だったが、エルフリードはそんなゼー太に対し深々と頭を下げると、胸の奥底から絞り出すような声で叫んだ。


「頼む……! 我々に力を貸してくれ! レルム王国百万の民のために! その旧世界が残したという魔道の力を……! お願いだ!」


(王子……)

 その悲痛な姿に、フランは胸が切なくなるのを感じた。一国の王子がプライドを捨て、外見的にはただの子どもにしか見えないゼー太に対し、助力を懇願している。それもすべてはレルムの民を想う故--そう、それこそがまさにフランが尊敬してやまない、エルフリードの崇高なまでの優しさであった。


「フッ……」

 だが、そんなエルフリードに対し、ゼー太は不意にニヤリと笑うと--


 あろうことか、べーっ、と舌を出してみせた!


「イ・ヤ・だ・ね」


       5


 ピシ……! 確かにその瞬間、空間が凍り付く音がした。エルフリードを始めその場にいる全員が呆然と表情を固まらせ、その耳に今し方ゼー太が言い放った4文字の言葉が反響する。みんな何だかんだと言っても、この展開でまさか断られるとは思っていなかったのだ。


 ゼー太は自分の発言の与えた衝撃を十二分に味わうかのように全員を見渡すと、さらにニヤニヤと意地悪く続けた。


「大体、別にオレはこの国の生まれじゃないし、そもそもこの時代の人間ですらない。なのにせっかく安らかな眠りについてたところを無理矢理叩き起こされて、目覚めるやいなや敵と戦えなんて、いくら何でも虫がよすぎんだろ? しかもオレは見ての通り、こんな『いたいけな』子どもなんだぜ?」


「うっ……ぐっ……」

 それはそれとしてあくまで「ド」が付くほどの正論だったので、誰も反論することができず、口ごもってしまう。


「--まぁとは言え」

 ゼー太はそんなエルフリード達の様子を満足そうに眺めると、少し間を置いてからもったいぶった口調で続けた。

「あんたの先祖レオンハルトには、この寝床を用意してもらった借りもあるしな。『たかが魔獣一匹』ぐらいなら、眠気覚ましにぶっ倒してやってもいいぜ?」


「き、貴様、いい加減にしろ~~~っ!!」

 とうとうブチ切れて、ベックが猛牛のようにゼー太に向かって突っ込む。そして短衣の襟をぐいとつかむと、小柄な少年の身体を宙づりにして叫んだ。


「さっきから黙って聞いておればこのくそガキがぁぁ!! 人をなめるのもたいがいにせんかぁぁぁ!!」


 ひっ! その怒声に思わずフランがエルフリードの背中にしがみつく。だが、心臓の悪い人なら命にかかわるようなド迫力にも、ゼー太は平然としていた。


「何だよ、おっさん? オレ何か悪いこと言ったか?」

「何が『たかが魔獣一匹』だ! あの魔獣にはワシが鍛えに鍛えたレルムの騎士団が束になってかかったのに、まるで歯がたたなかったのだぞ!」

 空しく倒れていった部下達の姿が脳裏に甦り、ベックの目に悔し涙がにじむ。


「それを貴様みたいなガキが、偉そうにほざくなーっ! そんなひ弱なガタイであの魔獣に歯が立つわけなど……!!」

「ああ、それは--」

 だがゼー太は、まだあどけないとも言えるその顔で--とんでもない事を言い放った!


「あんたの部下が弱かったんだ」


「あ……」

 絶句したベックの口元がまるで酸欠の金魚のように、パクパクと開いては閉じる。その顔色が青ざめたかと思えば、怒りで赤くなり、また青ざめと目まぐるしく点滅し--


 やがて、赤で止まると、凄まじいまでの殺気を込めて、ベックは拳を振り上げた!


「このクサレガキャアァァァァ!!!」

「きゃあああああ!」

 その拳が少年の顔に吸い込まれていくのを正視しかねて、悲鳴と共に目を覆うフラン。だが--!


 ガキィィィィン!!


 何か硬質な音が響いたかと思うと、ベックの拳が少年の顔面を撃ち抜くこと無く、その直前で静止した! それと同時に凄まじく固いものにぶつかった衝撃が拳の先から全身に伝わり、ベックが愕然と目を見開く!

「な……何だとぉ!?」


「!?」

 そのうめくような声を聞いて、恐る恐る手をどかしてみたフランの目に飛び込んできたのは、異様な光景だった!


 少年は不敵な笑みを浮かべたまま、左手を顔の前にかざしてベックの拳を受け止めていた。--いや、正確に言えば、それは左手などではない。少年のあるべき左手は手首の先からは赤い円形の盾へとその姿を変え、顔全体をすっぽり覆い隠している。 


 そして次の瞬間、フランは見た。少年が何事かをボソッと唱えると、それと同時にベルトのバックルが一瞬まばゆく光り、今度はその右手の人差し指だけがまるでバットのような棒状のものに姿を変える!?


「ほらよっと」

 それはまるでピンと軽く指で弾くような、そんな何気ないしぐさであったが、バットの一閃は過たずベックの腹部を直撃し、その巨体を軽々と吹き飛ばした!


「のぐわぁっ!?」

 機器の一つに背中を勢い良く叩きつけられて、たまらず目を白黒させるベック。そして一瞬にして元の姿に戻ったゼー太--《エルガイザー》はそんなベックを挑発的に見下ろすと、その少年の外見には似合わぬ、凄みすら感じさせるような口調で言い放った。


「おっさんよ、一つ、はっきり教えておいてやるぜ」

 よろめきつつ立ち上がろうとするベックを見据え、その漆黒の瞳が妖しく光る。


「オレは《神》を殺すために造られた究極の魔道兵器だ……」

 少年の全身から、金色の淡い光が陽炎のように立ち昇る。見ているだけで魂を吸い取られてしまいそうなほど、それはまさに圧倒的なまでに神々しく--そして同時に禍々しかった!


「たかが魔獣なんぞに負けるわけはねぇんだよ。分かったか!」


 ゾクッ、さすがに冷たいものを背中に感じて、ベックがその場にへたり込む。


(怖い……あの子……怖いよ)

 ただ見ているだけなのに、震えが止まらない。フランはエルフリードの背中にギュッとしがみついたまま、魔神の本性を露わにした少年から必死に顔を背けた。


「で……?」

 だが、やがてその全身を包んでいた金色の光がフッと消滅したかと思うと、ゼー太はまたあどけなさの残る少年の表情に戻って、エルフリードに顔を向けた。


「えっ……?」

 そのあまりの急激な変化にさすがについて行けず、問い返すエルフリードに、ゼー太はめんどくさそうに答えた。


「だから魔獣は倒してやるさ。でもな、《秘伝承》にもあっただろ? オレはあくまで《装着型万能最終決戦魔装兵器》。要するにオレを使って実際に戦う《マスター》が必要なんだ。通称、《エルガイザーの戦士》が、な」


「装着……武器って……でもあなたは……?」

 戸惑いを隠せぬエルフリードに、ゼー太はこともなげに続けた。


「ああ、この姿か? これはまぁ《通常モード》みたいなものさ。《エルガイザー》はもともとふつーの人間を改造することで生み出された《生体兵器》だからな。やはりこの姿の方が普段はしっくりくるのさ。だが……」


 そう言って、ゼー太が視線を自分の右手に移すと、再び淡い金色の光がわき出ると同時に、次の瞬間にはその手の先が巨大なハサミのような形状に変わっていた!


「!?」

 息を飲む一同の前で、ゼー太はすぐにそれを元の手の形に戻してみせる。


「分かっただろ? オレは自分の意志で自在に《形態変化メタモルフォーゼ》を行うことができる。まぁ本当はもうオレは《人間》というよりは、《霊子力エネルギー》の集合体みたいなものなのさ。要は身体の一部を《霊子分解》し、瞬時に別の形に《再構築》することで……って、おい、話についてきてるか??」 


 と言われても、正直何が何だかわからない。困惑する一同の様子に苦笑いを浮かべると、ゼー太は物わかりの悪い子どもに言い聞かせるような口調で告げた。


「つまり簡単に言えば、オレは『好きな姿に変身できる』の。でもって、究極的にはこの人間の形じゃなく、《魔装兵器》の名にふさわしい兵器の姿そのものに変わることが出来る。そしてそんなオレを装着すれば、その力を手に入れた最強の戦士ができあがるってわけさ」


「それが……《エルガイザーの戦士》、か……」

 ようやく話の内容を理解して、ゴクリと息を飲むエルフリードだったが、やがて決意を固めた瞳でゼー太を見つめると、自分の胸に右の拳を当てた。


「それはもちろん、私がなる。王家の者として、当然の勤めだ!」


「いや、それはなりませぬ! ここは拙者に任せてくだされ!」

 だがそこにベックが割って入る。ベックはいまいましげにゼー太を一瞥しつつも、熱心にエルフリードに対し言いつのった。

「もともと戦いは拙者の役目! あやつとは気が合いませぬが、拙者も武人! 戦いに私情は挟みませぬ!」


「いや、しかしここは……!」

「いえ、ここは是非拙者に……!

 互いにどうしても譲らぬ二人。だが、ゼー太は特に関心も無い様子で、つまらなそうに言った。


「あんたらじゃダメだ」


「えっ!?」

「な、何か条件でもあるというのか??」

 思わぬ言葉に唖然とする二人に向かって、ゼー太はシレッと言い放った。


「オレは『男』は大嫌いだ」


「バカにしとんのかこのガキゃぁぁぁぁ!!!」 

 さすがに脱力したエルフリードの横で、激昂したベックがゼー太につかみかかるも、今度は巨大なハンマーに姿を変えた右手でどつかれぶっ倒れる。


「進歩のねぇ野郎だなぁ。だから『男』はイヤなんだ。暑っ苦しい」

 やれやれと左手で頭をかくゼー太に向かって、それまでじっと沈黙を保ったまま事の推移を見守っていた赤毛の女騎士--セシリアが、ゆっくりと歩み寄った。

「なら私がなるわ。『女』なら問題ないんでしょ?」


「セシリア、しかし危険だ……!」

「いいんです、王子。私もレルムの騎士。覚悟はできていますわ」

 心配げなエルフリードに対し、フッと微笑んでみせると、セシリアは凛としてゼー太に向き直る。


「さぁ、文句ないわよね、エルガイザー!」

「残念だが……」

 ゼー太はまるで品定めをするかのようにセシリアの姿を上から下まで見回していたが、プイとそっぽを向いてしまう。


「『年増』は趣味じゃないんだ」


「だ、誰が年増よ~!?」

 ぐっさ~っと深々と胸を貫かれて、女騎士の表情が一変した!


「わ、私はまだ23歳よ!」

「えーボクみたいな子どもにとったら、20歳すぎたらおばさんだしー。あとそれに……」

 意地悪く笑うと、さらにゼー太はセシリアの鎧に包まれた胸元にチラリと目をやって続けた。


「スレンダーって言えば聞こえはいいケド、個人的にはもっと胸が大きい方が好みなんだよなぁ」

「こ、殺してやるわ! このエロガキィィィィィ!!」

 いつものクールビューティーさなどもはや微塵もなく 夜叉の形相でゼー太に斬りかかろうとするセシリアを必死で羽交い締めにしながら、エルフリードは叫んだ。


「し、しかしここには我ら三人しか戦士はいないんだ! だから、そんなわがままを言わずに--!」

 だがそのとき、不意にゼー太の頬にニヤーッと悪童めいた微笑みが浮かんだ。


「そーかな? オレは一人適任がいると思うぜ」


 そして相変わらずニヤニヤと笑いながら、ゼー太がゆっくりと視線を向けるその先には--!


(--え”!?)

 突然、こちらに視線を向けられてフランは、ぞくっ!と何だか寒気のようなものが背中を走るのを感じた。最初はたまたま目があっただけかと思った。そう、視線を移している途中に偶然目があっただけ--


 でも違った。確かにゼー太は--ニヤニヤ笑いながら、『自分』を見つめていた!


「ま、まさか!?」

 その視線の意味に気付いたエルフリードが、驚愕の叫びを上げる!


 そして同時にフランもまたパニックに陥っていた。え、ウソよね!? まさか私だなんて……!? そんな……冗談だよね?? ね??


 頭の中をぐるぐると「?」が回る。緊張と恐怖のあまり倒れそうになって、フランは強くエルフリードにしがみついた。ウソだ……絶対ウソだ……そんな--私が《エルガイザーの戦士》になるだなんて!


 だが、そんなフランの思いも空しく、ゼー太の口から続いたその言葉は--


「--あんたの背中にしがみついてるその可愛いお下げの女の子。その娘なんか適任だと思うけどなー、オレは」


 そのとき、フランには、ゼー太の浮かべる悪戯っぽい微笑みが、まるで悪魔の薄笑いのように思われた--

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