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8話 旅で山

「本当にこっちでいいの?」



 しっかりと踏み固められた土の上を歩く二人。

 鉱山に続く幅広の道は、何十年も使い込まれカチカチになっている。



「えぇ、後は道なりの一本ですから迷う事はないです」



「何これ?こんなんで護衛なんて意味あったのかしら」



「そもそも鉱山の奥に行く訳ではないんですよ。グリゴスさんもアレで心配性だったりするんです」



 はぁ…と、コリーが呆れた溜息を着く。

 鉱山に続く道は穏やかであり、何の危険の予兆も感じ受けない。

 まだフミアキに追いついた時の森の方が、緊張感を持てたかもしれない。



 今向かっている鉱山は、坑道が伸びきっていて全盛期の面影が見受けられない。

 そんな若干寂れた鉱山だが、その分道は踏み固められ歩き易く、長年道に染み込んだ人の臭いから、獣も避けて通る為に安全と言えた。



「……あんたって、光具職人だったの?しかも準範士に認められる程の」



「いいえ、確かに趣味で少々光具を造りますが、私はぬちではありません」



 空には神が鎮座し、今日もその熱を降り注いでいる。



「すごい褒め様だったじゃない。あたしは“偏窟族”が自分の所以外の種族を褒めた事なんて初めて見たわよ」



「コリーさん、余りグレゴスさん達の事を“四角頭”だの“偏窟族”など呼ばないで下さい。彼らは不器用ですが、気持ちが真っ直ぐないい人達です」



 ピーチチッと野鳥が囀る。森は新緑の季節に伸ばした枝葉を方々に、光合成を勤しむ。



「はん!あいつらだって言ってるわよ“丸頭”とか“凡族(ぼんぞく)”ってねまったく舐めんじゃないわよ」



「はははっ、凡俗と掛けているんですね。いい得て妙とはこの事ですか」



 バサササと名も知らぬ野鳥が飛び立った。

 フミアキより背の低いコリーはフミアキを()め上げる形になる。

 その剣呑な空気は周囲を巻き込み、野鳥は避難を余儀なくされた。



「あんた……あたしに喧嘩売ってるの?」



「コリーさん、笑って受け流せばいいんですよ。“大人”はそうやって世を渡るんです」



 それはまるで“子供”だと言ってる様に聞こえ、瞬間コリーの殺気が膨れ上がる。

 何時の間にか二人の足は止まり、一方は睨み一方は見て視線を交差させる。



「巫山戯るな!巫山戯るな!巫山戯るなっ!あたしが女だからって舐めるのもいい加減にしなっ!」



「喧嘩も売っていませんし、舐めてもいませんよ。もう少し肩の力を抜いた方が、心持ちが楽になります」



 ――ですから、と続けた言葉は、彼女の左手に握られたモノに寄って遮られる。



「…」



「……はぁ」



 剣を突きつけられてるにも関わらず、顔色一つ変えずに溜息をつく。

 普段キツイ突っ込みをするグリゴス、アイリは振るう力を理解している。

 だがこの少女は、感情に振り回されている。

 年若い証拠でもありフミアキは頭を抱える。



(説教なんて柄じゃないんだけど、そもそも好き勝手生きてる自覚はあるし年だけくっている奴に諭されたくはないよなー)



 未だにこちらを睨みつける古色の瞳が、少し不安げに揺れた。

 恐らく出した手を漸く理解し、その収めどころに困っているのだろう。



「……頭は冷えましたか?では行きましょう、まだ目的地にも着いてないので」



 フミアキは面倒事を、後回しにしたようだった。











 空気が重い、空は晴れ渡り周りは山々に囲まれ王都の様な騒がしさは微塵もない。

 実に牧歌的で心がゆったりとしてくるハズ、にも関わらず二人は無言のまま歩く。



 鉱山の入口を通り過ぎ、山に沿って歩き始めるフミアキに声がかかった。



「…鉱山に用があったんじゃないの」



「あぁ、ここは坑道が伸びきっていて、余程奥に行かないとめぼしい物は採れないんですよ。これから向かうのは剥き出しになってる崖ですね」



 暫く歩くと、切り立った山肌が見えてきた。



「ここは意外といい物が見つかるんですよ。私の秘密の場所なんです」



「…」



 コリーが見上げる崖には、とても彼が言う様な「いい物」があるとも思えない、普通の岩が剥き出しになっているだけであった。



「さて、ちょっと上まで行ってきますね」



 ――『韋駄天ブーツ』発動。怪訝な顔をしてるコリーを余所に『形ある紋言』を唱えると“崖を垂直に駆け上がって”行った。



「は?はぁぁぁぁぁ?!」



 下から素っ頓狂な声が上がるも、凄まじい速さで駆けるフミアキには聞こえなかった。

 中腹に出っ張りがあり、手を掛けて乗り上げる。



「ふぅ、よかった。まだ誰にも触られてないな、確かこの辺に……あったあった、よっと、む、こっちに繋がってるか」



 2年前までこう言う穴場を狙って採掘していたフミアキは、目的の物をコツコツ掘り始める。

 鉱山に潜るより、外回りでちまちま採掘しはじめると意外に鉱物が見付かるのだ。

 もちろん量は多くないのだけれど、趣味に使うだけなので十分だった。



 小一時間程採掘に励み手の平大の塊二つに、それよりもずっと小さな塊を懐に仕舞い、昔設置したロープを手に取り帰る支度をする。



「これでこの場所はほぼ採り尽くしたし、残りは三箇所くらいしか残ってないな。まぁ、そんなに来ないし別にいいか……怖くない怖くない怖くない」



「ヒィィィ、高い、怖い、揺れるぅぅぅぅぅ!登るのは一瞬だけど降りるのは本当に怖いぃぃぃ!!」



 ロープに体重を預けるもたった一本しかない。

 翼のない生き物にとって高所は恐怖以外の何者でもないし、気を紛らわす為に意味の無い事でも口にする。



「うぉぉぉ、風が風が!この悪戯好きの風さんめ!あ、ごめんなさい謝りますから揺らさないでぇぇぇ!などと男は訳の分からない事を供述しており、警察では余罪も含めて調査していくとの事です。以上、現場の崖より中継でした。えー、それではスタジオに戻ります――現場のフミアキさんありがとう。では次週の週間天気予報に移ります」



 本当に全く意味がない、意外に大丈夫なのかもしれない。



「なんてぷぷぷっ、あぁこんにちわ。散歩ですか?天気がいいし君達は自由に飛べて羨ましいですね。私も若い頃は空に憧れたものですよ、主に仕事に疲れた時なんかは……。えっ、あの、ちょっと、何を。あ、ダメです!ロープつついちゃダメェェェ!」



 騒がしくしたからだろうか、何時の間にか大きな鳥がフミアキの周りを飛びしまいにはロープをつつき始めた。

 仲間の鳥だろうか、つついてる鳥と一緒になりロープを啄みフミアキの顔が青くなる。



「え?え?更におかわりですか……。この旅が終わったら、私は可愛いお嫁さんを探すんです。それまで私はっ死ねない!」



 鳥が寄って来た時点で降りる速度を早める。も、無情に鳥達が喝采を上げて最後のひと付きをする。



「オワタ」











 頭上で人生を諦めたフミアキに対して、焦ったのはコリーであった。

 大きな鳥が集まって来た時点で、コリーも嫌な予感をヒシヒシと感じていた。



「何やってんのよあの馬鹿は。……まさか落ちてくるって事はないわよね」



 自分で口にしながら予感を否定するも、フミアキが落下する様を見て手が動く。



「ああもう!えーっと…、紋言無理。陣だけでなんとか……?!」



 高速で方陣を形成し、空陣を三つ四つと縦に重ねていく。

 五つ目を創り始めたその時に、ドーン!とフミアキが背中から方陣を突き抜けて落下してきた。

 辺りに土煙が立ち上る。



「い、生きてる…の…?」



 急いで近寄って生存を確認する。

 奇跡的にひどい怪我がないようでほっと息を吐き出すコリー。



「あいつが言った事がしみじみと分かるわ。森の件もそうだったけど一人で出すと本当にどうなるか分からないわね、これは」



 しょうがないと言いたげに溜息をついてフミアキを抱える。



「なんだか馬鹿らしくなっちゃた。あーもーこいつ相手に緊張してたなんて…あたしの恥だわ。……って、何よこれ!なんでこんなに軽いのよこいつ!?」



 若干女性としてのプライドを傷付けられながら、フミアキを背負いなおし来た道を引き返すコリーだった。


 うーん、キャラの性格が安定しませんね。

書き直すかもしれません、漸く書けたので取り敢えず投下。


 ご意見、ご指摘ありましたお願いします。


※12/18改稿


※8/1改稿

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