6話 旅で遭遇
……等々「表現の幅が狭いより広い方が良い」と付け加えた
R15の実行される話を書いてしまいました。この話を上げるのに
相当悩みましたがupする事に。賛否両論あると思います。
現代では法に抵触する行為ですので、不快に思うかもしれません。
それでも見ていただけるなら幸いです。
ジリジリと太陽が照りつける。『教導院』に楯突き太陽信仰を、一度敵に回した男には容赦なく、その力の限りの熱射が注がれていた。
慈悲は無く、夏と言う名の暴君が頭上に鎮座するこの世界。
目深に被ったフードは、まるでソール神から隠れ逃れる様にも見え、口は真一文字に閉じられ、良く見れば歯を食いしばっていた。
男は突然駆け出し、街道の側の林に駆け込む。
30過ぎの草臥れた男の顔には、焦燥がありありと浮かんでおり、唐突な行動に不審が見え隠れする。
辺りを見回し警戒の色を強めたその顔色に汗がびっしりと浮かぶ、気温に寄る発汗作用だけでは有り得ない量である。
林の木々が、男の緊張に引っ張られる様にさざめく。
暫しの沈黙、そして何かを確認するかの様に時を計る。
遂に、男は手を動かし行動を開始する。
「…………はぁーーーーー。生き返るーー…、…うぅ、ぶるぶる、とっとっと。歳かねぇ、切れが悪いわ」
ドゴォオォォッ!と、何処かで何かが地面に突っ込む音が聞こえた。
が、大開放中の為に気づかない。
「ふぃー。やっぱり最初に水分補給し過ぎたか、……ぶわっくっしょい!んー、何時もならそろそろ家に来る頃合だな。クーが噂でもしてそうだ」
かちゃかちゃとベルトを引き上げ鼻を啜る。
フミアキは木々に若干の栄養素を振り撒いて、晴れ晴れした表情を浮かべる。
水筒を取り出し、旅に置いては貴重な水で手を洗うと、腰に付けた布で手を拭き汗を拭った。
「いやー、青空の下でのこの開放感。これそ旅の醍醐味だ」
――うんうん。と、一人で納得する。また何処かで、ゴスゥゥ!と、何かが木にぶつかる音が聞こえる。
「はて、何やら音が…。まっ、気のせいか。木の中だけに…」
ドヤ顔でお世話になった木に呟く。もしこの木に腕の一本でもあったのなら、気絶するまでぶん殴られる事間違いないだろう。
ガスガスガス!と、木を連打する音がまたまた聞こえるも、荷物を背負い直して街道に戻る。
「あー、久々の一人の時間はいい。アイリさんが来てから快適に過ごせる様にはなったけど、元々独り身が長かったからな」
歩く。
「やっぱり部屋に籠ってるセイか身体が鈍ってる。王都から三日目。明日辺りには、筋肉痛が来てくれるといいけど…こなかったら怖いな」
ブーツを鳴らし歩く。
「そろそろ、クキの実の木が見えるか。アレって梅みたいに酸っぱいから、疲労回復の効果が期待出来そうなんだよな。街道に生えてるのは自由に取っていいらしいけど、そこはモラルに気を付けんと、お天道様が見てるってね。そう言やあっちの昔でも、街道を利用する旅人の為に果樹を植えたって聞くし。確か、戦時中は果樹を切り倒して、進行の邪魔をしたとかもあったような」
歩く。
「昔の人の効率に対する思いには執念を感じるね。一の事柄に二も三も含ませる、こう言うのを『一を似て十全と為す』だったか。いや、そもそも現代社会の専門性が細分化し過ぎているな、過去の効率とは方向が違う。言うならば『百細を似て一と為す』か」
汗を拭い歩く。
「そうだな、例えば料理に使う出汁つゆ。煮物専用とか、鍋つゆ専用とか、まぁ色々ある。こう言うのを買い慣れてしまうと、みりんと醤油と砂糖、これらで元を作ると言う発想が薄くなってしまう。一本で簡単に作れて便利なんだけれど、要は応用が効かなくなるんだよな。酷い例だと、冷食でお弁当専用焼鮭なんてのもあったな。鮭の切り身買って、お弁当枠で切ればいいって話なんだけど、時間短縮にはなるんだろうけど…主婦の朝は戦争だって言うし、うん、全国のお母さんは偉大です。感謝してお弁当は食べよう」
何かに向かって言い訳しつつ歩く。
「おっと、三叉路に着いたって事は…、ふむ、ここから真っ直ぐ北だったな。それでは、そろそろショートカットするかね。……誰も居ないよな」
足を止める。
「あー、本日は晴天也、本日は晴天也。……ん、んっ、んぁあー、此方より、彼方へ、続くぞ連なれ重なり往く、阿、吽、走者の蝉の聲、外天、正天、運龍昇らば快天の、魂に聞こえし奥山彦」
ブーツの踵を鳴らすと地面に方陣が現れる。地陣より微量の光が立つ。
「――――『韋駄天ブーツ』発動」
一歩力強く踏み出すと、瞬間に身体が加速する。頭を低くして抵抗力を抑える。
もう周りの景色は凄まじい速さで過ぎ去って行く。
「こ…の、加速、には、やはり、慣れ、ない。誰だ、こん、なの、作った、のは」
歯を食いしばり足を動かし空気を切る。言う為れば、急な下り坂を走り抜く感覚。
後半は意味もない愚痴である。
「はぁ…、帰った、ら、改良、せねば」
『光具』と言われる物がある、方陣の効果を限定的ながらも物の中に篭める技法。
方陣の短所は、その発動までに掛かる手順の煩雑さが一番に挙げられる。
仮に戦闘中などは、一々陣を書き、紋言を唱えてる暇はない。
故に、予め出来上がった方陣を物に篭めた光具は『形ある紋言』のみを持って発動されるので、年若い者に好まれる。
大した力も持たないフミアキに取って、補助具である『光具』は、実にお誂え向きだった。
作成するにしても、篭める際に力の強弱は関係なく、如何に正確に方陣図を刻めるか、如何に丁寧にのべつ幕なしに力を篭められるか、如何に方陣図を多く盛り込めるか、如何に自身の想いを乗せられるか、が効果に強く影響を及ぼす。
そうフミアキは思っている。
このブーツ、『韋駄天ブーツ』はフミアキの自作の光具で、旅の共には必ず履いて行く。
効果は、歩いた歩数を靴に貯める事で、発動後爆発的な速さを得る物である。
体力が貧弱で足の遅いフミアキにとって、『韋駄天ブーツ』を使って漸くこの世界の一般人の旅程と並べる。一般人は一般人でも女性の方で、と言う事実にフミアキの心は深く抉られたそうな。
目紛るしい景色の変化は、やがて木々の緑を映すだけになっていた。
目的地が近づいてる事に、安堵の溜息を付きそうになるも、その口は加速に抵抗する様に固く閉じられている。
早く目的地に到着して身体を休ませたい、と安堵に緩む意識を立て直す。
この高速走行中は、挙動がその速度に寄って著しい制限を受ける。
そう…。
「ん?な、黒い……」
車は……。
「え?!ちょ、とま……」
急には………。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
『止まれない』と、言う事。
ゴッチン、と言う音と共にフミアキは意識を飛ばす。
そしてフミアキに突撃された黒い塊が、ドォォォンと音と共に倒れる。
三つの息遣いが暫し森に溶けるも、直ぐ様黒い塊から唸り声が漏れる。
「グルゥゥウッ」
「…………っ!?」
「……」
唸る声、息を飲む声、フミアキは今だ気絶を続ける。
そして、その場面におかわりが入る。
「ふっざけんなぁぁぁぁ!!あんのぉ、う”ぁかがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「もう許さない、もう許さない、もう許さない!あんた!邪魔よ!!」
言い終わるよりも先に女の剣が一閃すると、黒い塊が無常にも切り刻まれる。
「熊如きが!あたしの邪魔すんなっ!!いい?!あたしはひっじょーに苛立っている!あの馬鹿が、突然馬鹿みたいな速さで走り始めて……!このあたしが追いつけない、これ以上離されないようにするのに手一杯になるなんて!!」
燃える様なカーマインのショートを震わせ、アンティックゴールドの瞳は怒りを隠す事なく露にしている。
「……あの」
「ったっく!熊如きのセイで、あの馬鹿見失っちゃったでしょ!腹立たしい、苛立たしい。もう、この辺って四角頭の懐よね。ならいいわ。行き先は絞られる」
「あの……!」
「あん?!うっさいな!あたしは忙しいのよ!」
「ご、ごめんなさい」
カーマインの少女は、か細い声を一喝する。ん?と首を傾げ、漸くその場に居た小さな少年に気付く。
「あんた誰?なんでそこの馬鹿は寝てんのよ?」
時刻は夜、少女は石造りの家を前に立っていた。
傍らにフミアキを背負っている小さな少年がいる。
フミアキを背負おうとした先に「運ぶよ、兄ちゃんを持ってくのは俺の仕事だし!」などと言われたのだ。
どうやら、この少年とフミアキは顔見知りの様で、随分慣れた手つきで背負っている。
手が塞がっている為、少女が扉を開けようとする前に乱暴な音と共に扉が開かれる。
150にも満たない小柄な身体、けれど立派な髭と腹が壮年の貫禄を出している。
髭の男は、大きな斧を背中に負いその覇気を溢れさせていた。
「お、お前!?何処に行ってやがった!心配したぞ!!」
「父ちゃん、ただいま!」
覇気が霧散する。親子は二人で抱き合い、無事の再開を喜ぶ。
フミアキは投げ出され地面に転がされる。
「お前が戻らねぇって言うんで、今から出る所だったんだが…よかった、本当によかったぞ」
「ごめんよ父ちゃん、森で熊に見つかっちゃって…でも、この人が助けてくれたんだ!」
放って置かれた少女に父親が漸く気付く。
少女を見ると何とも複雑な表情を出し、息子を横に置き向き直る。
「ふん…、息子が世話になったようだの。一応感謝するぞ、丸頭」
「別に?子供の世話くらい出来ないもんかしらね。槌を振るうばっかしてんじゃないわよ、四角頭」
横から、父ちゃん!と、諌める声が聞こえたが二人は睨み合う。
「……まぁいい。随分懐かしい顔も居る事だ、息子の礼もある。中に入れ」
質素な室内に通され、少女は勧められたテーブルの椅子に腰掛ける。
フミアキは何時の間にか長椅子に寝かされていた。
「母ちゃん、グリスが戻った!客もいるから茶ぁ出してくれ!ほれ、お前も母ちゃんに顔見せて来い、ったく」
「うん、お姉ちゃん、またね!」
「あー、改めて礼を言うぞ。グリスを助けてくれて感謝する。儂の名はグリゴス、巌窟族でぁ光具鍛冶を主にやっとる」
「見れば分かるけど徒人族。で、あたしはコリー。あの子を助けたのは成り行きだったけどね」
――言っても危ない所を防いだのは、そっちの男らしいけど。と、続けその時の説明をする。
「ぐっはっはっは!フミアキらしい、全くこいつは変わらんな!」
大きな髭を揺らし破顔する。
コリーは目を剥く、気難しいと言う言葉の代名詞が笑うのだ。
「……こいつ、何なの?知り合いみたいだけど」
「なんだ、嬢ちゃんはフミアキの連れ合いじゃねぇのかい」
「誰が、偶々、偶然、気紛れで助けただけなんだから」
「こいつぁな、2年程前までここに置いてやった縁がある。言ってしまやー、ただ、それだけだ…。しっかし、見ねぇ間に随分と痩せやがったな」
――飯くってんか。と、フミアキを見ながら話すグリゴスの顔は穏やかだった。
それだけで、グリゴスとフミアキの関係が透けて見えてきそうだった。
「こいつの用は大体予想がつく。だが嬢ちゃんよ、お前ぇなんだって森に居た?見た所、仕入れの商人って風には思えねぇな」
「…」
「…」
あれ程豪気に笑っていた顔も鳴りを潜める。厳い髭の男と紅い髪の少女が睨み合う。
グリゴスが少々感心する。年若い少女が、鋭い眼光に気負いもせずに向き合ってる。
何時まで経っても埒が明かない、もう仕舞だ。と言わんかの様に、この場を流す事にした。
それにこの少女、一応息子の恩人である事を思い出したようだ。
「まぁ、いい。何の目的があるか知らんが、兎や角言うめぇよ。だがな、家族に手を出すな、それだけは言っておくぞ、丸頭」
「……誰もそんな事しやしないわよ、この四角頭」
こうして、フミアキは気絶したまま夜が更けていった。
ご意見、ご指摘ありましたらお願いします。
漸くファンタジーっぽい種族が出てきました。
どう見てもドワーフっぽいです、本当にありがとうございました。
※11/19矛盾点を加筆修正。
※12/18改稿
※7/28改稿