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5話 旅で留守

「あー…、はぁ」



 その日は、珍しくクーエンフュルダがアンニュイな様子になっていた。

 いつも間隔を空けて遊びに来る彼は、感情表現が豊かで小動物的に愛くるしいのだが、今日に限っては哀愁を体現するかの様な姿が、その容姿端麗さから見る者を危うげにする耽美さがあった。



「全く、さっきから何ですか。溜息を付くのは私の専売ですよ、君は元気いっぱいが売りじゃないですか」



「売りってなんなのさ!?もー、溜息が売れるなら品切れになるまで買って欲しいよ」



「君の溜息が切れたら、今度は私の溜息を横流ししますね」



「先生のがきた?!そんなの押し付けないでよ!!」



「出資者の貴方と受領する私、二人は常に一心同体だったんです」



「何時の間に!?一つだったら僕の比重高いのはおかしいよね!」



「はははは、一心同体と言ったでしょう。ですから、クーの溜息を私に押し付けて下さい。何、溜息は私の専売ですから楽勝ですよ?」



「あぅ…、先生が恥ずかしい事言ってる」



「女性に言うなら口説き文句ですが、君相手に何言ってるんですか。思春期特有の悩みなら同性の方が打ち明け易いでしょう。相談に乗りますよ」



「そんな深刻な悩みでもないし、思春期って…」



 ――実は。と、何故か顔を赤らめて説明を始めた。

 どうやらそっちの話題よりも、溜息の理由を喋った方が楽だった様である。



「へぇ、君の誕生会ですか」



「そうなんだ、毎年開いてくれるお父様には申し訳ないんだけど、いろいろあって苦手って言うか気が重いんだよね」



「まぁ、分かる気もしますよ年が経つに連れて、そう言った催し物は気恥しいですからね」



「お父様が盛大にしちゃうもんだから、余計に恥ずかしいよ」



「何、家族に愛されてる証拠じゃないですか。いい親御さんを持ちましたね」



「…先生、にやにやしながら言ったって説得力ないよ!!」



 二人の遣り取りは平常運転に戻った様である。

 もちろん、この後参上したアイリにお仕置きされたのは言うまでもない。











「これでよっしと」



 寝室にて荷造りをするフミアキ、その服装は旅装を思わせる。

 いつくもの持ち物を点検し、滅多に履かないブーツの踵を少し蹴る。



「どちらにお出掛けでしょうか」



「オオゥ!?何度体験しても慣れない慣れにくい」



「慣れて下さい」



「自分が譲歩するつもりが微塵もない…とは…まぁいいです。私は暫く旅に出ます、家の事はよろしくお願いします。後、ラミアさんが来たら追い返してあげて下さい」



 最後のセリフはいい笑顔で決めて、何故か窓から出て行くフミアキ。

 何時もと変わらず表情を変えないアイリは、ただ窓に向かって小さくお辞儀するのだった。











「えぇーー!先生居ないの?!」



 何時もの様に遊びに来たクーエンフュルダが驚きを露にする。

 それもそうだ、彼が引っ張り出さなければ食料の買出しすらもせずに仕事をする。

 訪ねてきて留守だった記憶が、彼にはなかった。



「連絡は出したのですが、何処かで行き違ったようですね。申し訳ありません」



「ううん、アイリが悪い訳じゃないし。でも珍しいね、何処に行ったか知ってる?」



「行き先は仰らなかったので、コリーを出しています。もう少ししたら連絡が来るかと思われます」



「アイリにも言ってかなかったんだ。むぅ、なんだろ、すっごい気になる!あ、旅行記なんか出す為の取材かな…でも、そんな事言ってなかったしな」



 一人唸って考え出す。フミアキに対する情報のカードが少ない事に、改めて思い知らされる。



「そっか…、僕、先生の事何にも知らないんだ」



 クーエンフュルダがフミアキを知ったのは、『不良勇者1巻』からであった。

 偶々メイドの一人が置き忘れていった本を手に取り、何気なく捲ってから大きな驚きと感動を覚えた。物語の書き方、登場人物の斬新さにも目を見張ったものである。



 それまで本と言うモノは、王国史か、帝王学だったり、ソール信仰書など所謂、お堅い本であり、それより易しい本となると、童子向けの御伽噺まで来てしまう。

 大衆向けの娯楽書物は、ゴシップ等低俗なモノで占領されていた。

(年齢制限がかかる物が大半を占めているのだが、クーエンフュルダは存在すら知らない)



 ましてや、フミアキが題材としたのは、『教導院』が検閲に最も力を入れる『勇者』を扱う読み物であった。

 『勇者』と言う名は、『教導院』の看板にも等しく、イメージを崩す様な本は直ぐ様焚書された。




「……っぷ、くくくッ」



「如何なさいましたか」



「うん、先生を知った時の事を思い出してたんだけど、『教導院』に真っ向から喧嘩売る様な本を出した人は、どんな人だろうって思ってたなー」



「あの本の様な勇者像を『教導院』が認めるハズも御座いません。自殺志願者でなければ、頭の緩い人間だろうと噂はありました」



「勇者ボルドーはカッコイイと思うのにな。人間味に溢れててさ、ふてぶてしくて、信念を絶対曲げない!『俺の剣戟がぶれないのは、ぶっ太い信念が通ってるからよ!』ってね!痺れるーーー!もー、そうだよ!全然『教導院』の言う『勇者』像を壊すモノでもなんでもないのにな」



「人間味、と言うのが問題ではないでしょうか。『教導院』は『勇者』を、神聖性を持って祭り上げておりましたから。畢竟(ひっきょう)する所、拘束されたのも当然でしょう」



「今思い出しても腹立たしいね。頭堅すぎだよ、先生の書く新たな『勇者』像だったら、あんな凝り固まった『教導院』の布教する、『勇者伝説』よりも信者増えるよ!それなのに、『教導院』ったら先生を処刑するとか言い出してたし」



「あの時は、助け出すのがもう少し遅ければ執行されていたでしょう。……残念です」



「アイリーン?」



「も、……申し訳ありません」



「全く、アイリは先生に厳しいんだから!でも、初めて牢獄に入った時、先生遺書みたいなの(したた)めてたよね」



「辞世の句などと仰っていました。何処の国の文字か分かりませんでしたが」



「諦めが良過ぎるのも、その頃から変わってないよね。その点だけは、改めて欲しいのにちっとも聞いてくれないし」



「アレは病気の類です。心配するだけ、周りを巻き込み傷付けましょう。私としましては、深入りして頂きたく無く…」



「そう…だね。でも僕は……いや、私はアレが放って置けない。折れない信念を持ち、何者にも引かぬ『勇者ボルドー』の様なアノ男が。あの後の出来事でもそうだが、お前には苦労辛苦を掛けるな」



「勿体無きお言葉に染み至ります。全ては我が身の錆、どうかお心を痛めませぬよう」



「その後の経過は…、あまり芳しくない様だな。私こそ未熟の身を思い知らされた。確かに、方陣に頼り過ぎると言われても返し様がない」



「いえ、日常生活には何ら支障は御座いません。御側を離れる事になりましたが、私は常に御身の剣で在りましょう」



「ふふッ、この姿見では『連環の契』になってしまうぞ?アイリーンは大胆だな、くっくっく」



「御戯れを…」



 途中から引き締まった空気を吹き飛ばすように、クーエンフュルダは背伸びして長椅子から飛び上がる。



「よーし、この話はここで終わりっと!アイリ、折角先生が留守なんだから懲らしめる様な発見を見つけに、地下室の謎の魔窟を探検しに行こう!先生が泣いて、もう死ぬのは諦めますから許して下さい。って言うくらいのをさ!」



「良い案で御座ます。お供仕ります、我が主」



 思い出したかの様に登場人物の身長の並び。

ラミア>フミアキ>アイリ>クー と、こんな感じです。


 説明が足りない足らない至らない。

それでも読んで頂き有難う御座います。


※12/17改稿

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