表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/46

番外3話 記憶の切れ端2

前回のあとがきで、次話にて説明回に入ると言ったが、あれは嘘ダァ。

 とある昼飯時に、フミアキは唐突に話題を出した。



「クーはアレ式ですね」



「アレ?いきなり何言ってるの先生」



「そのスープです。手前から奥に掬う形、イギリス式でしたっけ?」



「イギリス式?えぇーっと…、本式の事かな」



「あー、ごほんごはん。言い間違えました。いえね、何するにも動作が綺麗だなと思いまして」



「ごはん?……作法とかってサイリがすごくうるさいんだ。どうせ“あの人達”と食卓を一緒にする訳でもないし、意味なんてね……見てくれるハズなんてないのに」



「へー、そうですか」



「……それだけ?」



「えっ?」



「え?」



「……」



「……」



「……」



「……」



「さ……」



「さ?」



「さて、ここで問題です。ピポン!」



「ピポン」



「おやおや、まだ問題文を口述していないのに、自信たっぷりですね。では、クーエンフュルダさんお答えをどうぞ」



「先生の馬鹿」



「ぶっぶー。残念ながら外れです。いやー、実に惜しいところでしたね」



「今のが惜しいの?!」



「まぁ、それはいいんです。一先ず横に置いときましょう」



「こ、答えはッ?!」



「答えはCMの後くらいで発表するかもしれません。アイリさんのスープの掬い方って」



「しーえむって何なのさ。しかも発表するか、しないか、ちゃんとしておいてよ」



「クーとは逆ですよね。フランス式でしたっけ?奥から手前、何か身分の上と下とで、区別があるんですか?」



「言われてみれば……逆かもしれない。あのスプーンの使い方って、フランス式って言うんだ」



「あぁ、それは嘘なんで気にしないで下さい」



「何で嘘ッ!?」



「仮説を立てるならば、身分の差別化って事なんですかね。身近な、それでいて毎日の動作に、区分を付ける事で、明確化させているとかなんとかうんたらかんたらどーたらえーたらひーこらおーこらびっくらどっくらえっく」



「長いし流さないでよ!もう、そう言う事はサイリに聞いた方が詳しいんじゃない?」



「家庭教師役でしたね。サイリーンさんってザマス眼鏡が似合いそうですね」



「また話が飛ぶし、ザマスが分からないよ……前から思ってたけど、先生は食事の作法とか結構バラバラだけど、お皿を持つのだけは止めた方がいいと思うな」



「こればっかりは、故郷の作法でなんともかんとも。見てる人がいない時くらいは勘弁してほしいものですね」



「僕が見てるじゃない。いい?人が見てないからって、それでいいって事ないんだからね」



「……」



「ニヤニヤして、なに?」



慎独(しんどく)慎独(しんどく)



「しんどく?」



「他人の目がないからって、慎みや礼を忘れちゃいけません。って意味の言葉ですよ。人目がなくても、礼節が身に馴染んでいるってのは、大変立派な事だと思いますよ。」



「あー!」



「そうやって、自然と出てくる事に、サイリーンさんの薫陶ぶりが伺えますね。ちゃんと分かって理解して、でも、たまに何かの加減で悩んでしまう。いいじゃありませんか。私はそう言う立ち方って嫌いじゃないですよ。よく言えば好感が持てる方です。私も似たような事で迷うタチですが、あんまり“時間ありません”からね。ゆえに私は、私の道を行くのみです」



「恥ずかしくない……?か、かっこいい事言ってるつもりだけど、スープの豆を残してるのはかっこ悪い」



「いや、この緑の物体って何のために存在してるか、全然分からないでしょう。クー、豆は成長期の身体にとっても栄養あるんですって」



「ちょッ!僕のお皿に入れようとしないでよ!先生、それって作法としてすっごいみっともないからやめてよね」



「では、このスプーンに盛りに盛られた、緑の物体はどうすればいいんですか」



「一つしかないでしょ?それと、一度掬った食べ物を、食べもせずにお皿に戻すのも、ダメだからね」



「どうしろと」



「食べればいいじゃない」



「これ、どうしろと」



「そんなにイヤなの?」



「見た目の存在が、薄皮の食感が、ぼそぼそとした中身が、緑くさい臭いが、後味の何とも言えないえぐみも、私はね、いえ、人類は緑豆と出会わなければよかった……そう思うんです」



「そこまで話を大きくする必要はないと思う」



「ぐぬぬぬ。この危機的状況をどうやって乗り越えたら……」



「そんなに唸る程、まずいかな?」



「食べられる人には分からんのです。お、お」



「突然閃いた。みたいになって、どうしたの?」



「他人の皿に移してはダメ、一度掬ったら元の皿に戻してもダメ、ならば」



「ならば?」



「はい、クー……口開けて、ほら『あーん』」



「……」



「……」



「……」



「……」



「……」



「軽いはずのスプーンがこんなにも重いだなんて、私は知らなかったよ。そして、窒素、酸素、二酸化炭素とあと何か混ざってる空気が、かつて、これほど、まで、に、その重量を主張して……」



「……」



「ごめんなさい。なにか言って下さいクーエンフュルダさん。何気に腕がぷるぷるしてきたんですけど、もう少し続けてると腕、つるんじゃないんですかね」



「……本気でやってるの?これ」



「よーやく喋ってくれた。冗談な訳ないじゃないですか、本当に頼みますから食べてください。キミ好き嫌いなかったですよね?男ならガツンといってみよう」



「時々、先生そのものが分からなくなる」



「ヘルプミー。ここで残したら、次回の食事がどうなる事やら。私はそれが恐ろしいのです」



「……はぁ。もうしょうがないんだから。分かったから、先生少し目を閉じててよ」



「おぉ、ありがたやありがたや。でも何故に目をつぶれと?」



「恥ずかしいからッ!」



「大声で言わなくて聞こえる距離ですよ。まったく、同性同士なんですから、そんな女の子みたいに赤くならなくてもいいのに……」



「いいから閉じて!」



「はいは、閉じましたよっと。(ここで誤ってスプーンを鼻に突っ込むのが王道だが……)」



「閉じたら、“余計な事”考えないでよね?」



「はっはっはーー、何を仰るうさぎさん。やましい事なんて全然考えていませんよ?本当に」



「“やましい事”考えてたんだ。うさぎが関係してるの?」



「ハーレーラビットソン……いや特に意味はないんですけど」



「そうやって訳の分からない事がスラスラ出る時ってさ、煙に撒こうとしてる時に多いよね。でも、先生の話の反らし方って、明後日の方向すぎるんだけど」



「……まぁ、故郷の話ですからね。地元じゃこれで、ドッカンドッカン言わしてブイブイなんですよ」



「ふーん、先生の生まれって何処になるの?」



「そうですね……そうですね」



「あ……無理、しないで」



「……」



「……」



「はは、クーに気を使わせてしまいましたね」



「ううん、誰にだってあるよね。僕の方こそごめんなさい」



「その内くらいには話ますよ。何、クーには感謝しています。こうやって目を閉じていると、牢屋に入ってた時の暗闇を思い出しますよ。暗い所にいる時に手をくれますよね。そうして、緑の軍団も綺麗に消えて……なくなってない……だと」



「うん、よく考えたら、やっぱりね。ちゃんと自分で食べた方がいいと思うよ。苦手でも克服出来たら、次の時に困らなくていいでしょ?」



「……」



「ほらほら!先生、覚悟決めちゃって食べようよ!」



「応援するだけですか…」



「往生際悪いよ。それとも、アイリを呼んだ方がいい?」



「それには及びません……一つお願いしてもいいですか」



「代わりに食べるのはなしだけど、それは食べてくれるって事?」



「えぇ、えぇ。いつも『先生』と呼んでくれるのは嬉しいのですが、今回は名前で応援してくれれば有難いですね」



「な、名前で?それでいいの?」



「はい、出来れば口を大きくはっきりと応援してくれると、こちらも頑張れる気がするんですよ」



「んー……わかった。先生が緑豆食べてくれるなら、うん、それくらい何でもないよ」



「おぉ、有難う御座います。ささ、お願いします。口は大きくですよ。よく聞こえるように」



「なんだか、意識して人の名前を言うのって、恥ずかしいね」



「“こちらの準備”は万端ですので、気軽に気負わずに気持ちを落ち着かせて」



「じゃ、じゃぁ……(あ、先生年上だし、なんて敬称付ければいいんだろ。様?さん?呼び捨ては、ちょっと照れるし)フ、フ、フミア――――」



「今!ここで!隙あり!」



「んぐッ!んーーーー!『ガチン!』いひゃッ!ぐぅんッ、ぐぐぐ……ごくん」



「ふぅ、我ながら完璧でしたね。いい仕事した」



「……フゥー、フゥー」



「クーの犠牲は生涯忘れませ――――アーッ」



 フミアキが、クーの機嫌をなおすのに、丸三日かけた事だけは書き記しておこう。




 ここまで読んで頂き、有難う御座います。


 ほのぼのしたイチャコラを書きたかったが、前提が揃っていない事に愕然とした。

 私には無理だったのです。


 ちなみに私は、車が来てなくても赤信号で止まってしまいます。

 こう言うのは日本人的と言えるのではないでしょうか。


 ご指摘、罵倒お待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ