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13話 青年で進展

「死体が俯せの状態で横たわっていた…。っと、ナレーションしてる場合じゃないか」



 やれやれと思うもここは仮宿、現在は辺りには窓ガラスが散りばめられ、フミアキのベットをデコレートしている。

 放置した日には、後で持ち主になんと言われるか堪ったモノではないだろう。

 取り敢えず物体を観察する事にする。

 夜更けに、言うなれば『厄介事』と断定出来る状況下である。

 静かに自分の仕事を進めていたフミアキにとっては、ごめん(こうむ)りたい現実にやる気なぞハナからない。



「仮に物体Xと命名しますか。性別男、身体的特徴から徒人族と推測。身長大凡170前後痩せ型、髪は短くグレイアッシュ。窓から家に侵入、おそらく不可抗力。てい!ふむ、原因は…右腹より(はす)に肩までの切り傷。“逆袈裟”とは渋い太刀筋だな、血は…止まってる。失血で意識レベルの低下、この話にも反応なし。この青年、イケメンか。よし放っておこう」



「う…ッグ……」



 物体Xから呻き声が漏れる。

 まるでフミアキに抗議する様な良いタイミングだった。



「意識レベルの上昇を確認。ふーむ、これなら何とかなりそうだな。治癒方陣で以て、後は暖かくしておけば良さげか」



 ――方陣って苦手なんだよな。ぼそりと呟く。

 床に人差し指を付け、たどたどしくも地陣を起こす。



「ひ、ふ、み、暗闇抜ける東尾根(あずまおね)、よ、い、む、天地無明に送る西雲、な、や、く、黎明以て円陣の、約束違(やくそくたが)えぬ糸踏みよ、離騒(りそう)断ち往け」



「――『オーオンの祝福』アレンジバージョン」



 建国王の名を冠した、始まりの治癒方陣。

 全ての円環陣の出発地点であり、治癒方陣の誰もが覚える紋言だが、フミアキは勝手に弄ってる様である。

 地陣から起こした円環陣の光を以て、物体Xの傷口が淡く光が走る。

 同時に、何故か物体Xの頭部にやたらと光が咲く。



「はて、頭にも傷があったのかね。もしかして、アレンジしたのがミスった…?」



 本来だったら有り得ない事だが、フミアキは正しく方陣を学んでいない。

 使えはしないが四方(しっぽう)陣の方が、グリゴス経由で詳しい位であった。

 故に光具にのめり込んだと言ってもいいのだが、フミアキの心配を余所に物体Xに光が乱舞する。



「ガガ……ぅグぁ」



「どうしよう…」



 フミアキにしては珍しく本気の篭った呟きだった。

 その時フミアキに良案が走る。



「そうだ、“今のなーしよ!”ふぅ、これでいい。次は、もうちょいしっかり思い出しながらオーオンすればいいのだよ」



「おま…」



「いっその事、『主よ人の望みの喜びよ』とかの方がいいのかな。いやいや、ここは日本人的に『南無阿弥陀仏』の方がいいかもしれん…失敗してもそっくりそのまま葬式に出来そうだし」



「まて…」



「えぇでは、こほん。なーむーあーみー…あー、よく考えたら知らないんだった。あれ、ぎゃーてーって何だったかな。んー…、ぎゃーてーぎゃーてー、はーらーぎゃーてー、はーらーそーぎゃーてー、ぼーじーそーわか、はんにゃーはーらーみったー、しんぎょー…『オーオンの祝福』般若心経バージョン!」



「やめんかっーーーーーー!」



「おぉ、効いた。やはり般若心経最強説は間違いではなかったのか…」



「てめぇ、なんて事してくれやがる!」



 起き上がった青年が(わめ)き立てる。

 先程までぐったりしていた物体とは思えない程、元気である。



「なんだあの怪しげな治癒方陣はよ!危うくこの俺が死ぬ所だったじゃねーか!」



「生きてるじゃないですか。元気になって良かったです。それと、ここは感謝される場面では」



「された方の俺の身にもなれや!元々自前で何とかなったってのに、あんな痛い治癒方陣は初めて受けたぞ!治癒方陣が痛いってなんなんだよ!ざけんな!」



「それはすいません。何せ治癒方陣は苦手なモノで、でも問題なさそうで安心しました」



「てめぇ…、いいか後で俺にしっかり謝っておけよ!」



 憤懣やる方なしと言った風で文句を言った青年だが、次に奇妙な行動をする。

 その場で横になり、先程まで倒れていた格好に戻る。



「……何してるんですか?」



 思わず尋ねるたフミアキ、むしろ尋ねずにはいられない行動に困惑の色が濃い。



「何って、俺が起きるのを待って…ちょっと待てぇぇぇい!何で俺が動けるんだ!?」



 ああそうか、可哀想な人なのか。と、フミアキが一人合点して温かい気持ちになる。

 青年は青年で自分の置かれた状況を必死に分析している様だった。



「まさかアレか、アノ変な方陣のセイなのか…。それっくらいしか考えられんし、頭痛が無くなったと思ったら動かせる様になった…」



「……さて、寝るとするか」



 一人考えこんでいる青年を放置する事にした。

 が、むんずと肩を掴まれ青年が真剣な顔で詰め寄る。



「なぁ、あんた何者だ?」



「何者も何も、しがない物書きをしています、フミアキと申しますが」



「一般人だぁ?信じられるかそんなモン」



 こちらが名乗ったのに返さないとは何なんだ。と、恨めしい思いが湧くが、もう面倒事が雪達磨式に大きくなって行きそうな予感からか、フミアキがここで話をバッサリ切る。



「別に信じて頂く必要はありませんよ。身体も動くようになった事ですし、どうぞお引き取り下さい」



「はぁ?ちょ、ちょっと待てよ!俺はだな…」



「こちらは貴方の個人情報に一切興味ありませんので、今日、ここで見た事は全て忘れますし、その方が貴方にとって利があるんではないですか?傷は癒えた、どう言う理由か貴方は“追われている”。ならばこんな所に留まっている方が損ばかりだと思いますよ」



 青年は『追われている』の言葉に強く反応した。

 我の強そうな感情が引き潮の様に消え、無機質な、鋭利な顔付きに変わる。



 数分の沈黙が場を縛る。



 青年がフミアキの方を見つつ侵入してきた窓まで身体を移動させる。



「気に食わないがあんたの言う通りだ。今日はこれで引き下がる。…どんな経緯であろうとあんたは“俺”を“解放”してくれた。礼は言っておく、助かった。じゃぁな」



「別に介抱したのは成り行きですよ。私の治癒方陣は真面目なモノではないので、ちゃんとした人に観てもらう事をお薦めします」



「自覚してやがるじゃねーかよ…。ふーん、あんた真っ黒だな。明かりの無い場所だと“髪”も“瞳”も真っ黒過ぎて、肌が浮き上がって気持ち悪いのな」



 捨て台詞気味に、フミアキの“外見”を読み上げて飛ぶ動作に移ろうとする青年に、フミアキが狼狽する。



「へ…?私が“分かる”んですか?あぁ、ちょっと待ってく」



 青年からすれば単に嫌味が効いたと思い、フミアキからすれば、驚天動地の出来事であった。

 過去、正しくフミアキを捉えた者は二人、異世界出身なセイなのかフミアキ自身にも分からなかったが、見る者に依って“外見がずれる”らしい。

 らしい、と言うのは、グリゴス家の協力で判明した事だ。初対面の人間に『私が見えますか?』なんておかしな質問をする事も出来なかった為である。

 王都に来てからは、初対面の人間には注意深く、会話から探る事を繰り返して、今の結論に落ち着いた所であった。状況が分かった所で打破出来る事もなく、フミアキは所謂一つの『異世界補正』だろうと、変な所に決着を見せた。そもそもこの現象が、直ぐ様『死』に直結する事もないだろうと、呑気に構えている。

 それでも行き成り本来の姿を、気付かれる事の無い自分の外見を言い当てられると、やはり驚きが強い。

 青年は破った窓から姿を消し、フミアキはただ見送るだけであった。後に残るはガラスの散乱した自分のベットのみ、色々と溜息に乗せつつガラスを拾うのであった。











「なんで居るんですか」



「おう、邪魔してるぜ」



 朝の散歩から戻ってくると、窓を壊した青年が書斎の長椅子に座ってフミアキに手を振っていた。

 げんなりした声になったのも、本を片手にくつろいでいる青年の姿は、もはや我が家の感覚であった。



「随分朝早くから動いてんのな。アレか、ソール様でも拝みに行ってきたのか?」



「私にそんな趣味はありませんよ。ただ、適度な運動と人に会いに出かけただけです。まぁ、今日は会えませんでしたがね」



「ふーん、“そんな趣味”ねぇ。教導院に楯突いてるって噂は本当だったのかよ」



「別に楯突いてる訳じゃないですよ。結果的にそう言う立ち位置になってしまった…、あのですね、何故貴方がここに居て、しかも勝手に私の本を開いてるんですか」



 自身の生活空間に、未だ名前すら名乗らぬ青年が我が物顔で居る事に、不機嫌を隠さずに問いかける。

 しかも、相手の目的が分からない。呑気なフミアキとて、好き好んで虎の尾を踏みたい訳ではない。



「堅いこと言うなって、あの後、いろいろと事後処理してて忙しかったんだぜ?俺の元依頼主をぶっ殺して、俺が死んだ様に偽装して、んで報酬ちょろまかしたりしてな」



 ――これは世話になった礼だ。青年が皮の袋を取り出す。

 パンパンに膨れた袋は幼児の頭程で、ジャラジャラと音を立ててテーブルの上にその中身を零す。



「……」



「なっ!すげぇだろ!あんたには本当に世話になったからな。こうして自由を満喫出来るのもあんたの御陰だ。これは、その礼だと思って受け取ってくれよ。遠慮はいらないぜ、俺くらいの腕ならいくらでも、どうとでもなるってモンだ」



 得意気に話す青年の顔は喜々としていた。フミアキの顔は比例してどんどん曇っていく。

 袋の中から零れた物は日の光が反射し、眩く輝く金色の硬貨だった。

 俗に金貨と呼ばれ5枚もあれば、4人家族なら1年は何もしなくてもいい程の価値の代物である。

 最も、一般庶民はお目にかかる事は滅多にない。

 青年はまるで子供の様にハシャイでいる。青年は自分の出した物に、硬直しているフミアキを見て気を更に良くさせた。それはそうだ、これだけの金額そうそう一般人が目にする事はない、驚いているであろうフミアキを見て、より一層の満面の笑みを浮かべた。

 金と言う物の価値を知らぬ人間なんて居ない。金と言う力を知らぬ人間なんて居ない。

 青年はその事をよく知っていた、知りたかった訳でもないが。



「それで、あんたに頼みたい事もあるんだ」



「これを持って帰りなさい」



 青年の言葉を遮る様にして、短く言い放つ。

 短い言葉の中に、ハッキリと苛立ちが現れていた。

 足を翻し、青年に背を向け書斎を出ようとする。



「ま、待ってくれよ!こんだけの金だぜ?!少ないか?まだもっといるのか?」



 全く以て予想外と言わんばかりの顔で、必死にフミアキを引き止める。

 フミアキはしかめっ面で青年に向き直る。



「そのお金は要りません。お金で礼になると思っているんですか?」



「当たり前だろ?あんたは俺の命以上に、俺を救ってくれたんだ。だからこの金で…」



 なんで?と言う顔で、青年の言葉が尻すぼみになっていく。

 それは、親を引き止める子供の様で、フミアキに冷静さを戻す切欠となる。

 吐き出したい溜息を堪えて、表情を柔らかにしてフミアキが青年に向き合う。



「まずはお互いに自己紹介からしましょう。話はそれからです、いいですか?私は物書きを生業としています、フミアキを申します。はいどうぞ」



「え?あ、俺は、30…番…」



「はい、良く出来ました。そうですね、30番ですか。私の事は呼び捨てで構いませんので、貴方の事をサンと呼んでいいですか?」



「は?」



「あぁ、ダメならいいんですけどね」



「いや、ダメじゃ…ない。サンか…、なんか、適当な呼び名だよな」



「あだ名なんてそんなモノじゃないですか?私はいいと思いますよ、サン」



「あんた、すっげー変わってるって言われないか?」



「たまにそう言われますね。それとサン、あんた、ではなくフミアキです」



「分かったよ、フミアキ」



 そう言って30番、サンは苦笑(にがわら)う。今まで感じた事のない、胸がぽかぽかする様な気持ちが湧き上り、なんだか笑ってしまう。何時の間にか『苦』が取れた自然な笑いへと変わる。



「初対面の人間に対しては、まずは自己紹介からです。それだけで、ほら、こんなに簡単に話が進むんですよ。まして礼を、と思うのなら礼儀を覚えなさい。そして、私への礼と言うのなら、感謝の言葉だけで十分です。見返りが欲しくて助けた訳ではありませんからね。私は私と言うモノに従ってサンを助けたのですから」



 無垢な目でフミアキの言葉に聞き入る。

 大きく息を吸い、はぁ。と吐き出す。



「本当に変な奴だなフミアキは、こんなの初めてだ。気になんないのかよ、30番なんて変な名前をよ。あの夜何してたとか、この金の出どころとか」



「変わってると思いますが、私の知っている世界なんて狭いモノですからね。そう言う風習のある土地だって、この世の中にはあるんでしょう。決めつけるなんて愚考ですよ。それと昨晩の事でしたら言いたい事が山程ありますよ。行き成り窓ガラスを割って謝罪の言葉も無ければ、名乗りもしない、礼は『助かった』とそれだけ。そこは『有難う御座います』でしょうが、全くあの後ガラスを片付けたのは私なんですよ?ここの家を傷付けたら怒られるのは私なんですから、もしアイリさんに見付かったらただじゃすまない…」



 例え居なくなった人間とて、何かの拍子にこちらに来ないとも限らない。

 一度面識が繋がると、今後も会う事もあるだろう。人間、見られたくない時に見つかってしまうと言う事は往々にしてある。警戒するに越した事はないのであった。



「う…、すま…、ごめんなさい」



 これが説教と言うモノなのかと、サンは顔を引き攣らせる。

 すまないと言い切る前に、フミアキに睨まれたので言葉を変える。

 気が付いたら長椅子の上で正座している自分に新たな感動を覚えるも、目の前のフミアキはさながら魔王に見えなくもなかった。



「いいですか、何もへりくだれと言ってる訳ではないんです。会話の潤滑油宜しく、相手に対して礼を見せるのは人として対等である、と言う事なんです。これが社会を構築して僅か数年の場所なら、礼の概念すらないでしょうが、それでも感謝の気持ちが大きく膨れれば、実った稲穂の様に自然と(こうべ)が垂れるでしょう。認め、認められ、お互いに尊重し合う事で、社会は形成されていくのだと思います…あくまで私の考えなんですがね」



 ――実際は社会なんて縦、キレイではありませんがね。と、ずぅーんと重くなるフミアキだった。



「そうか…、自然と、ね」



 区切り、確かめる様にして呟く。



「俺を助けてくれてありがとう…」



 フミアキをじっと見つめて答えた。

 だが直ぐに「って、これじゃ最初のと変わんねぇか」と頭をかく。



「いいんですよそれで。自分の言葉でちゃんと心を込めたのが伝わりました。…うん、素直ですね、若い人がこれだけ素直に人の話を聞いて実行出来るなんて、なかなか出来る事じゃないですよ」



「そ、そうか?そっか、これでいいのか」



 顔を赤くして照れているサンを眩しそうに見ながら、フミアキが話を戻す。



「ですので、私へのお礼のお金は要りません。その言葉で十分ですからね、そうそう、先程言ってた「頼みたい事」ってなんですか?」



「あ、いや、その…、まずは俺の話でも聞いてくれないか?頼み事の前に言っておかないといけないと思って」



 『頼み事』が余程大事なモノらしく、フミアキをじっと見てサンは真剣な顔付きになった。

 フミアキは厄介事だろうと、もう断る事は考えてはいなかったので、朝飯をどのタイミングで取ろうか、そんな事を頭の隅で思いながらサンの言葉を待ったのだった。


 読んで頂き有難う御座います。


 キャラを上手く動かせない…。

何か決定的に欠けてる気がするんですよね、数をこなせば多少良くなるのか…。

31日まで仕事で更新は今年最後となります。こんな作品にお付き合いくださり誠に有難う御座いました。皆様の新年が良い年でありますように。


※1/2改稿


※8/1改稿

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