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10話 帰還で首飾り

 漸く二桁目です。ファンタジーと銘打ってる割に

ファンタジーっぽくない様な気がしてならないですが、

読んで頂けたら幸いです。

「この時を何度夢見た事か、苦難の道だった。何処までも続く道の上に、幾度も挫け心折れそうになっただろう…、だが私は負けなかった。意識を消される様な激しい攻撃を食らっても、その都度黄泉帰った

それは全てこの日を迎える為であり…!」



「黙んなさい周りに迷惑、注目引いて恥ずかしいのよ」



 ドゴッ!コリーの一撃がフミアキの腹に鈍く刺さる。

 帰ってきた事で気分が昂揚しているのか、演出過剰に捲し立てるもコリーが制する。

 ここは王都に入るに一番大きい門の前、辺りを歩く人々は何事かと二人に目を向ける。



「ぐふぅ、ゆ、油断した…まさか着いたと思う瞬間を、狙い撃ちするとはっ」



「五月蝿い黙れもうすぐ私達の番なのよ」



 グリゴス一家に見送られ六日、二人は漸く王都まで帰って来た。

 大勢の騎士達が門を守り目を光らせるも、二人を見る騎士の目は生暖かった。



「そもそも、あんたが何度も気絶するのが悪いのよ。おかげですごい時間食っちゃったじゃないの」



「えー、まるで私が悪いみたいに言いますけど、気絶させてるのはコリーさんじゃないですか」



「あんたが!いつも!余計な事、するからでしょうがっ!」



「なんと言う理不尽…、でも手加減が随分上手くなりましたね。今の攻撃も気絶までいかないにしても、心に残る打撃…将来が恐ろしい」



「あんたねぇ……」



 フミアキの背中が後ろの誰かにつつかれた。「おぉい、前空いたから進んでくれんか」コリーと話ていたら、前の手続きが終わったようだった。



「あぁ、すいません。さ、私達の順番ですから行きましょうか」



 膨れ上がって行きそうな怒気を誤魔化す為に、フミアキはコリーの背中を押して受付に荷物を一旦預ける。

 しかしここで首を傾げる。王都を出立した時は、ここまで物々しい警備の騎士は居なかったハズである。



「何だか物々しいですね、何かあったんですか?」



「ん?お前さん知らんのか、明日は第二王女様の誕生祭があるだろうが」



 フミアキの手荷物を調べている中年の騎士が呆れながらも答える。「王族の記念祭くらい知っとけよ」と言って注意されてしまった。



「コリーさんコリーさん、知ってました?」



 隣で別の青年騎士に手荷物を見せているコリーにこっそり尋ねるも、何今更こいつ言ってんの?みたいな顔をされてしまった。一般常識だったらしい。



「はっはっは、お嬢ちゃんも大変だなこんな兄貴を持っちまって!よし、次は証明符を…」



 中年騎士が破顔するも、コリーの眉が吊り上がる。

 腹の底から声を絞り出す少女に、中年騎士の腰が若干引ける。



「あー…にー……?」



「ぷっ、い、妹は怒りっぽくてですね。私も苦労しているんで」



 調子に乗ってフミアキが中年騎士の言葉を繋げる。

 限界ギリギリのコリーを今このタイミングでつつけばどうなるか、言わずもがな。

 最後まで言い終わる前にフミアキの両足が崩れ落ちた。どうでもいいが、後ろに並んでる人達が可哀相だ。



「これが証明符よっ、で、こっちがこの馬鹿の分!」



 受け取った中年騎士が目を剥く。慌てて直立不動に構える。



「こ、これは!コーリネファン様とは露知らず、ご無礼を、い、致しました!」



「別にいいわよ、こっちも任務中だったし。“第二級特殊監視対象”のフミアキよ、照会はいいわね?」



「はっ!確かに確認しました、どうぞお通り下さい!」



 最敬礼する騎士に野次馬の見物人を無視して、コリーはフミアキを引き摺りながらごった返す門を後にした。











「あれ…ここは…」



「漸く気付いたわねったく、人に背負わせて楽して、いい身分よね」



「ですから、気絶させるのはコリーさんじゃ…はい、すいませんです」



 ギロリと睨まれカエル、これだと直ぐにグリゴスさんレベルまで成長しそうだ。と、零す事もなく心に思うフミアキだった。



「態々家まで送って頂きありがとうございます。あー、久しぶりの我が家だ」



「ふん、それじゃ確かに送り届けたし、巌窟族の依頼は果たしたわよ。もう会う事もないだろうけど、あんまり巫山戯てどっかで死なないでよね」



「え?上がってかないんですか?」



「はぁ?何でよ」



「いやだって、コリーさんまだ用事終わってないんじゃないです?」



「だから!何言ってんのよ」



「アイリさんに報告しなければいけないんですから、ここで一緒に済ませておくと二度手間踏まなくて楽でしょう?」



 その言葉を受けて、コリーが身構える。

 ここはフミアキの借家、中には当然メイドのアイリが主人の帰りを待っている、かもしれない。



「あんた…どうして」



「簡単な事です。アイリさんが教えてくれたんですよ」



「うそっ、本人には知らせないって…」



 ニヤニヤするフミアキを見て、はっとコリーが口を手で塞ぐ。

 柳眉を逆立て、やられたと言う言葉が脳裏を過ぎる。



「あー、やっぱりそうだったんですね。いや、そうじゃないかなーと思ってましたよ」



 得意気に引っ掛けた事をバラすフミアキに堪忍袋の緒がどうにかなる。

 自然な動作で剣を抜く。冗談では無く、頭に血が登り上がる。



「コロス」



「殺してどうする、この馬鹿者めが」



 突如現れたアイリにコリーの剣が受け止められる。

 凛々しい声と共にグラッシュブルーの髪が靡く。



「アイリー…!痛っ」



「簡単に暴走しおってからに、少しは成長するかと思ったらコレか、腹が立ったら服に隠れている場所か後の残らぬ方陣を使えと言っただろう」



 頭頂部を抑えてうずくまるコリーに説教をするアイリ。

 やはりその顔は出立時と変わらず無表情だった。

 先ほどまでの教官然とした喋りではなく、普段の丁寧な口調に戻しフミアキに綺麗なお辞儀をする。



「フミアキ様に至っては、健勝の様で安心致しました」



「ただいま戻りました。でも、前の言葉が無ければもっと嬉しかったんですけどね…あははは」



「そうですか、もう暫くすれば我が主が参られます。旅の埃を落として身を清潔にして下さい」



 つまりは、薄汚れた姿でクーの前に立つな。と言う事でそのままフミアキは風呂場に直行した。

 背中が若干哀愁を誘う。



「何時までそうしているつもりだ。とっとと報告をしろ」



「うぅ…アイリーン様、すごく痛みが残るんですけど…」



「ここではアイリだと言っただろうが。お前も主が参られる前に身支度をしておけ、そのままの姿で拝謁なぞ私が許さん」



 口調が変わろうとも、至上主義に掲げている主への扱いは変わりはしない。

 出来の悪い部下を躾る様に振舞うその姿は、この館のヒエラルキーの頂点に君臨する冷酷な女帝そのものだった。ただしクーは除く。



「…もう遅いか。流石は我が主」



「…は?」



「いい、どうやらもうすぐ到着する様だ。お前の報告は主と共に聞こう」



 どうやってか、クーの到着を予感しコリーの仕事を下げる。

 ここからは、アイリのメイドとしての仕事が始まる。彼女の主を持て成す事はあらゆる仕事の上、最優先に位置付けられる為である。











「先生帰って来たんだってーーー!?」



 バッターンと扉にダメージを与えつつ、クーが参上した。



「もー!先生何処にりょこ…」



 言葉が続く意味を口が飲み込む。そしてフリーズ。



「おや、クーですか。こんにちわ、ん?どうかしましたか」



 わわわわわわ…、などと不明瞭な羅列がクーの口から出てくる。

 わ、が連続する度にクーの顔に朱が差す。



「何ですか、言いたい事があるならしっかり言って下さいよ」



「わーーーーー!!先生の変態ーーーーッ!!」



 アイリに言われた通りに汚れを洗い流して、着替えてる最中だった。

 それでも下は履いていたのは、せめてもの救いだっただろう。



「んあで、しょ斎で着替えてるのぉ!?」



「アイリさんに言われて風呂に入ってたからであり、上着がこっちにあったものですからね。実に完璧な説明」



 ――別にいいじゃないですか。と、布で頭をごしごししながら書斎を歩く。

 乱雑に拭き終わり、いつもの上着に袖を通し話を続ける。



「君と私の仲ですから」



「え?え?!そ、そんな…仲だなんて…先生何言ってるの」



 クーが茹でリンゴの様な顔にまで紅くして俯いた。

 フミアキはもう一度布で髪をふきふきしている為に気が付かない。



「同性に見られるくらい何とも無いですからね。ふぅ、さっぱりした。って、随分と面白い顔になってますけど大丈夫ですか?」



「あー…、うん、ソウダネ。ナンデモナイヨ?」



 呼吸困難に陥る前に、なんとか復活したクーが硬く首を振る。

 どうやらまだ動作不良が起こっている様で、見かねたアイリが助け舟を出す。



「それでフミアキ様、旅ではどちら迄足を運ばれたのですか?」



「おぉぅ、久々の感覚。そして何時の間にか注がれてる。紅茶言わずもがな、サイレント・ティーである」



「変な固有名詞はお止めください」



「前のパターンと全く一緒ですね。…それで旅ですか、別に私が言わなくても、コリーさんから聞いないんですか?」



「旅の話と言うモノは本人の口から聞くのが醍醐味です。あの子の話は“報告”ですから」



「それは、味気ない話ですね。よろしい、私がこの旅で体験した話を語りましょう。あれは…」



 フミアキが旅を語り、夏の日晴れた午後、クーは嬉しそうに話に聞き入り、アイリは変わらず無表情で紅茶を継ぎ足していた。











「…先生、気を失いすぎじゃない?」



 話終わりも、もちろんコリーに気絶させられ気が付けば館だった。

 その事でクーには呆れられた。呆れられながらも心配してこちらを、覗くのでフミアキは何でもない、と言う様に返す。



「それだけ周りの突っ込みがきついだけですよ。まぁ、体力がないのは自覚してますがね。少し運動でもするか」



「なら散歩などは如何ですか。少しづつ歩いて体力を付けるのも宜しいかと存じます」



「なんだかさ、病人の予後生活みたいだね。うふふッ」



「言ってなさい、君も30過ぎたらこんなになるんですよ」



「えー、そんな訳ないよ。これでも身体はよく動かしてるし先生よりも強いんだよ!」



「そんなひょろい腕で言われても…、普段私がご飯を食べてないみたいに言いますけど、君も大概じゃないですか」



「ひゃぁ!いきなりへ、変なとこ触らないでよ!」



「うーむ、ぺたぺたすべすべ、これが15才の肌か…羨ましいですね。こちとら二の腕の弛みが…肌のクオリティ下がりまくりですよ」



「あ、あんまり触らないでよ…それともう16だからね」



 プンスカと言う音が聞こえそうな感じで、クーがちょっと怒った様にフミアキに掴まれた腕を振り払う。



「そう言えば、誕生会は何時でしたかね?」



「言ってなかった?明日だよ」



「へぇ、確か第二王女様も明日でしたね。ん?あれ第二王女様もクーと同い年で16でしたか?」



「あ、あれー。偶然一緒だね。うん、偶然に一緒だったよ。そうそう、明日の準備もあるし帰らないと…」



 何故か慌てた様に両手をバタバタ振って居るクーに、フミアキが思い出したように「ちょっと待って下さい」と言って、旅で使ったずた袋を漁り始めた。「あったあった」とフミアキが小さな白い袋をクーに手渡す。



「これを渡しておきますよ」



「何これ?」



「えぇっと、普段からお世話になっていますからね。感謝の気持ちと、お祝いのちょっとしたモノです」



「なるほど、ソレを作りに態々岩窟族の村に行っていたのですね」



「そうだったんだ…、ねぇ先生開けてもいいかな?」



「君の為に造ったんですから、どうぞ開けて見てください。あぁ、でも、素人の造ったモノですからね。気に入らなかったらすいませんです」



「先生が自分の手で作ってくれたんでしょ?それだけで嬉しいよ。何があるんだろう…」



 ――うわぁ!うわぁ!と、クーが歓声を上げる。クーの手に乗っているのは小さなアミュレットにチェーンを足してネックレスにした格好で、銀細工のクロスが二重の輪還を背負った構図になっている。

 中央にはカットされた紅い宝石に、フミアキが方陣を刻み篭んだ例の石が鎮座していた。



「すッごいよコレー!見た事ない銀細工だね、え?あれ…これって」



「なんだ、もうバレてしまいましたか」



 ――もう少し気が付かないかと思いましたよ。と、苦笑しながらフミアキがニヤける。

 クーのエーバーグリーの瞳がより一層の歓喜の色を濃くする。



「わ、分かるよー!だってコレ、勇者ボルドーの守護宝石でしょ?!」



「当たりです。挿絵で一枚だけしか登場しなかったのによく覚えてますね」



「先生の本は隅々までしっかり見てるんだからね!やったー!これ、勇者ボルドーとお揃いだよ!」



「絵は白黒で分からないと思いますが、真ん中の石の色だけは違うんですけど、後は大体同じになる様に造れたと思いますよ」



「そうなんだ。でも何で色を変えたの?」



「うーん、クーですから白とか透明色でもよかったんですが、何故か紅色が一番しっくりする。そう感じたんですよ、でもやっぱり、色が気に入りませんでしたか?あんまりこう言うのは詳しくなくて、流行と言うのもよく分からないですし…」



「そぅなんだぁ…ううん!全然そんな事ないよ!ありがとうね、先生!大事にします!」



 本当に嬉しいと言う事を身体一杯に表現してくれるクーに、フミアキもまんざらでも無い様に微笑む。



「フミアキ様、折角ですからクーエンフュルダ様に、首飾りを直接付けて差し上げては如何でしょうか?」



「ふぇ?!いいよ、態々悪いよ…」



「クーだって自分で付けられるでしょう?何でしたらアイリさんが付けてあげればいいんじゃないんですか?」



 ――はぁ…。とはアイリ、クーは「うぅ…」などと呻いている。「あれ?私何かしましたか?」フミアキは首を傾げるだけだった。



 そんな和やかな空気の中、コリーだけは扉の外で入るタイミングを完全に失って頭を抱えていたのは、アイリだけが知っていた。


 読んで頂き有難う御座います。

ご意見ご感想ありましたら宜しくお願いします。


 実は話が収まり切らなかったので

残りは次話に回します。いろいろ悩みますね。


※12/18改稿


※8/1改稿

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