休日の一日‐1
6010年7月15日
目が覚めた。はっきりと動かない頭で時計を見る。午前8時。あわてて飛び起きた、が、次の瞬間ベッドに逆戻りした。今日は湖曜日。社会的に休日と見なされる曜日である。よって今日は学校はない。
……いや、学校そのものは存在しているよ。
まあ、学校の授業と言い換えようか。授業のある日は平日、すなわち土、火、風、水曜日で、その後、休日である湖曜日には授業はない。他の休日は特定の日にある祝日のみだ。
よって、なにが言いたいかというと、暇だ。この一言に尽きる。
ぶっちゃけると何もやることがない。あるといえばあるのだがすぐに終わるものだし、有意義に過ごすことが出来ない。
のろのろと起き上がり、とりあえずはと、朝食の準備に取りかかる。そして、着替えて洗濯機も回す。
それらをしながら考えた。結論はやはり先ほどと同じだった。
朝食を食べて、洗濯物を干す。後の家事と言えば掃除だ。とりあえず家全体をやることに決めた。
しかして、終わったのは午前10時。寝るのにもまだ当分早い時間だ。買い物に出るのはいいことなのだが、すでに冷蔵庫の中に今日の分の食料はある。つまりは出る用事はない。
とある機械のスイッチを押した。リビングの中に音楽が溢れる。ピアノの旋律。綺麗なのだが、どこかもの悲しく、しかし美しい。
その間に僕は小説を取り出して読んだ。
すごいね。端から見るととても優雅な人の休日に見えてくるよ。これで紅茶でもあったなら完璧だろうね。
しかし、現実には全く違う。紅茶がないよりも深刻な問題。
「暑い……」
夏は終わったばかりだ。まだ、気温は高い。風が通ってもぬるい風だ。暑い。暑すぎる。
「やってられない……」
疲れてきた。やる気もでない。
「う~~~あ~~~」
うなっても変化するものではないのは分かっているが、思わずうならずにはいられない、そんな正午だった。
とりあえず冷麺を作り、暑さもある程度落ち着いたな、と思っていたらいつの間にか寝ていた。気づくと時計の表示は午後5時を指していた。
「いつの間に」
と思ったが、まあ、仕方ないことだ。
ついでに言えば、見ていた夢について思い出せないのもまた、しょうがないと思う他ないのだろう。
そういえば、未だにリビングの中にピアノの音が溢れていた。ループにしていたのを忘れたままだった。機械のところまで行き、切った。おかげでセラを無駄に使ってしまった。
いろいろなものに流用できるセラはある施設から全ての家に供給され、冷蔵庫を使用すること、CDプレイヤーの再生、家の照明、洗濯機を使ったりなどに使用できる。その代わり、使用した分だけ国にお金を払わなければならない。仕方ないことではあるが、この出費は痛いことだ。
夕食を作った。結局今日は一日も外に出ていない。引きこもりとなってしまった。穏やかな一日を過ごせたのはいいことだが、何もない一日だった。次の日は有意義に過ごそうと考えて、
暗闇の中に
堕ちた。
6010年7月15日
目が覚めた。はっきりと動かない頭で時計を見る。午前8時。あわてて飛び起きた、が、次の瞬間ベッドに逆戻りした。今日は湖曜日。社会的に休日と見なされる曜日である。よって今日は学校はない。
……いや、学校そのものは存在しているのだけれども。
まあ、学校の授業と言い換えようか。授業のある日は平日、すなわち土、火、風、水曜日で、その後、休日である湖曜日には授業はない。他の休日は特定の日にある祝日のみだ。
よって、なにが言いたいかというと、暇だ。この一言に尽きる。
ぶっちゃけると何もやることがない。あるといえばあるのだがすぐに終わるものだし、有意義に過ごすことが出来ない。
しかし、休みの日は多少なりとも有意義に過ごそうと決めたはずだ。
特に予定はないが、家事を済ませた後で外に出るとしよう。ずっと家にこもるよりはましになるだろう。
家の家事を済ませた後、家を出た。
出た瞬間、熱気に包まれる。出る気が失せてしまうような暑さだったが、とりあえず商店の方に出た。
「聞いたか」
「ええ、ええ。昨日はちょっとした騒ぎになりましたもの」
「小火ですんだから良かったですわねえ」
「ホントだよ。もしもあれがもっとひどかったらどうなっていたことか」
ここにいる人たちの話からするに、どうやらどこかでちょっとした火事があったようだ。まだ暑いからなのかどうかは、聞き流しながら歩いている僕には判断がつかなかったけれども。
何も考えずにただぶらぶらと歩く。するとある地点に向かって歩いていることに気づいた。図書館だ。
学校にも図書館はあるのだが、国が運営しているのでその規模の桁が違う。蔵書も多い。気づいたところでたまには行ってもいいかという気分になった。
さて、問題が一つ。遠いのだ。この国で2番目に大きい通りを横切り、そこからまた少し歩かなければたどり着くことはできない。
「遠い……」
行く気が萎えてきた。とはいえそれなりに近くには来ているので、惰性で足を前に出す。
「…………」
大通りまで後もう少しだ。どうにか行き着くとしよう。
着いた。
「……疲れた」
外は暑く、ただ歩いただけなのにかなり疲れた。図書館の扉を開ける。すると、別世界が広がった。
「ふう。涼しい」
ここが図書館でなければ喜びの声の一つでも上げたかもしれない。外とは比べものにならないぐらい涼しかった。
汗が引いていくのを感じながら、書架の方へ向かう。借りるものは決めていたが、借りてすぐに出る気にはならない。少しここで休んでいくことにしよう。
ある推理小説を読んだ。少しだけ、と考えていたのについつい2時間も居座ってしまった。原因はトリックこそたいしたものではなかったのだが、複線の回収が見事すぎたことに驚いたことだろう。次巻を借りよう。なかったら買って帰ろう。
外に出た。冷膜のなくなった体に容赦なく熱線が突き刺さる。出たときよりもましにはなっているのかもしれないが、冷たいところから暑いところに出たため、気分的にはすごく暑い。止めてほしい。
少し歩いたところで自分の腹が鳴る音を聞いた。そういえば腹が減った。近くで何か食べよう。幸い、ここは大通りだ。飲食店はそれなりにそろっている。
近くにあった外に席がないタイプの飲食店に駆け込んだ。図書館と同じくこの飲食店の中もまた、冷気で包まれていた。涼しい。ガラス張りの向こう側とは大違いだ。
テーブルに案内されガラス張りの壁の近くに座ることになった。注文をする。店頭をみるとパスタに定評があるようなので、梅じそパスタを頼んでみた。
料理が来るまでにぼーっと外を見ながら待っていると、外ではなにやら不穏な声が聞こえてきた。
「………けん………」
「なん…………と!」
通りの反対側にいるにも関わらず、声が少し聞こえてきた。
「ケンカかな」
「あそこのおっさん喧嘩っ早いからな」
店の中でもウェイターの人と客がひそひそと話すのが聞こえた。この辺りではよくあることのようだ。
「おま…………」
「…………だろ……………って」
今は口げんかで終わっていたが、どうやら殴り合いに発展しそうな勢いだった。
窓ガラスに手が当たる。
次の瞬間、映像が流れ込んできて
僕は机の下に潜り込んだ。
ドン!!!バリバリバリガッシャーーン!!!!
「きゃあああ!!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
直後、窓ガラスが割れた。
店内は騒然となった。店から出ていく人もいる。
ガラスの音がなくなった後、ぬるい風が入り込んできた。寒いぐらいだった店内の気温が上がっていく。
とりあえず、机の下から這い出た。
「人間ごときが俺に逆らうからだ」
窓の外から見下しているかのような声が聞こえた。
「ん?」
机の下から這い出てきた僕と男の目があった。いかつい顔でなかなか恐ろしい形相だ。
「お前どうして机の下にいたんだ?」
と訊ねてきた。
「机の下にスプーン落しちゃったので……」
「ほぉ」
とっさに嘘をついた。問題としては僕のところに料理が届いていなかったのだが、幸いなことに机の上はぐちゃぐちゃな上、改めて机の上を見るとそこで男がのびていたことで、机の上には何があったかなんて分からなくなっていたことだ。
「なかなか強者だな?」
「え?」
「何でもない。食事を邪魔して悪かった」
男は去っていった。
…………助かった。
ただの力バカではなく頭も切れる男のようだ。もしかしたら……いや、間違いなく僕の嘘ぐらい見抜かれていただろう。相手にしたくはない人だった。
「うぅ」
机の上で寝ていた人が気付いたようだ。
「動かない方がいいですよ。周りがガラスだらけですから」
「痛タタタ」
立とうとしたようだが腹を押さえていた。
「とりあえずもう少ししたら医師が来ると思うのでそれまで大人しくしておいてください」
「んなことができるか!」
大声を出したからまたおなかを押さえていた。
「暴れないでください。他の者が医師を呼びに行っています」
ガラスを踏む音がする。店の人もこちらに来たようだ。
「でもよぉ、あいつ魔力持ちだぜ! あのやろう俺が値引きなんぞ出来ねえって言ったら、波みたいなのぶつけてきやがった!!」
「そうだったんですか。それは腹立ちますね」
「…………」
僕は何も発言できなくなってしまった。
『魔力持ち』。一般的にセラというものは魔力と呼ばれ、主に持っていない人から魔力持ちとも言われ恐れられることが多い。ところによっては、迫害され殺されることすらあったと学んだ。
そして、一般教養のない人たちは今でも恐れの感情を抱き、人によっては極端に嫌っている人だっている。例えば、目の前の人のように。
「くそっ! あんなやつ次来たら……いてててて」
「あ、まだ動かないで。もう少ししたら医者が来ますので」
そんな声を聴きながら僕はそっと店から抜け出した。
「あ」
しまった。結局、昼食を食べ逃した。仕方ないから家で作ろう。
自分の家に戻ってきた。午後2時。今から作るしかないので少し遅い昼食になる。
先ほどの出来事に考えを馳せながら準備した。
先ほどの出来事、一方的な喧嘩のことだ。先ほどの人がただの力ではなく、セラを使ってあの男の人を吹き飛ばした。でないとその人が本当にセラを持っているかなんて分かるはずもない。あの人なら使わなくても力がありそうな上に、見た目と違い頭も回りそうな人間だというのに、どうしてセラを使ったのだろう。見かけ倒し、には少し見えなかったしなあ。
それに、吹き飛ばされたあの人。魔力持ちだなんて久しぶりに聞いた。学園はそういうことを考える人はいないだろうし、いないようにするために教育をしている。だからこそ最近は全く聞かなかったのだが……。
まあいい。ここで僕が考えていてもあの人の考えは変わらないだろうし、今後も変えていくことはできないだろうから。
しかし、どうにか致命傷こそ回避できたからよかった。全く、この力から外れたことをするとロクなことが起きたためしがない。これもまた僕が未来を変えようと思いづらい一端となっているので、厄介なことだ。
結局のところ、嫌っていながらもこれに頼らなければ、今の状態の僕では生きていくことすら難しいのだ。
だからこそ。
だからこそ、この力をなくすために、僕はあの学園に入ったのだから。
手がかりの一端は薄らとだが掴めた。
僕の夢の中で、アルクという存在はない。いや、正確に言うとあるのだろうが、少なくとも僕は彼女の存在そのものを認識することが出来ていない。
けれども、初日のことだ。
僕は彼女の編入の未来を見なかった。
その後の夢、昨日のことだが彼女という存在はいるけど認識できていないという状況のようだった。
『向こうには初めて行くよね。教えてあげよっか?』
何人かの女子が何もないところに話しかけていた。
おそらく彼女たちはアルクに話しかけていたはずだ。明日からも確かめることができる。夢の中でそうとは認識できないだろうけれども、起きて考えることはできるはずだ。
と、喧嘩からアルクのことにまで考えが発展した結果、みごとに黒こげになった物体が目の前にできてしまった。
「これは……買いに行かないと」
また熱い世界に出ないといけない事にうんざりしながらも、靴をひっかけて外に出て行った。




