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オープニング‐3





 さて、これで理解してもらえただろうか。

 これが、僕の見ている世界だ。

 寝ている間に次の日の未来を見る。

 これがあの日……7年前の9月11日から続いている僕の世界、つまらない、なにも新しいことの起こらない世界だ。


 もしかしたら、未来を見るこの力は便利だと思う人もいるかもしれない。実際、便利であることはあると思う。これに助けられたことも、これを利用したこともあった。

 しかし、考えてみてほしい。次の日に起こることのすべてが分かってしまうということを。新しさも楽しみも潰えるのだ。そして、なによりも最悪なことは自分が見たそれらのことが全て現実として起こってしまうということ。良いこと、美しいことで世界が満たされているわけではない。むしろ汚いこと、どうしようもないことの方が世界には満ち溢れている。それを何度も見せつけられるのだ。


 でも、未来を見ることができるのならそれを変えることだってできるはずだ。僕もそう思い、何度も何度も変えようとしたことはあった。

 でも、無理だった。別の行動を自分がすることはできるし、それによって変わることは確かにあった。でも、結局僕が夢で見たことと同じことになってしまう。僕の両親もまた……。

 いつしか最初から決まっている事柄が存在することに気づいた。

 それに絶望し、それを嫌悪し、それに恐怖心を抱きながらも僕はそれと共に歩むしか道はなかった。

 自分の内に潜んでいるものを気持ち悪く思い、耐え切れなくなることもたまにある。それが昨日のあの事態だ。なんてことはない。ただ単にいろんなものが耐えられなくなった証だ。なさけない。


 とにもかくにも、僕は今までの出来事からどうあがいても変えられないもの。絶対的な何かがこの世には存在している、ということを信じて疑えなくなった。



 この日までは……。



 6010年7月13日


 洗面所で目が覚めた。

 悪臭は漂っているが何回か経験しているので、もう慣れてしまった。この臭いを嗅ぐたび、考えてしまうこと……。これもまた、慣れ過ぎてしまった。

 だから、それはいったん脇に置いておいて、手始めに水を使ってまとめて洗い流す。洗面台がきれいになった後は自分の番だ。着ていたものごとシャワーを浴び、着ていたものを洗濯機の中に突っ込むと、自分の体を洗った。洗面台の辺りを風が通るようにもした。

 リビングに当たる部分に行くと、時計が見えた。午前6時。いつもより早い時間に起きることとなった。これもまたいつものこと。そのままでいると余計なことを考えてしまうので、昨日終わらせることのできなかった課題を片づけにかかる。


 一連のことが終わった頃に洗濯機の音が鳴った。今日の間干しておけば、乾くだろう。

 他にすることもなくなったので今日もいつもよりも早く学校に行く。昨日と違うのは身の安全を図るため、屋上ではなく生徒会室に行くことだ。2階にある生徒会室にはまだ誰もいなかったが、レネさんは毎日ここに来て自分の教室に行く。朝一番に謝っておかないと今日一日、自分の身になにが起こるか分かったものではない。

 生徒会室にきたレネさんに謝ると、普通に許してもらったが、業務の手伝いを始業時間ぎりぎりまでさせられた。まあ、これぐらいなら甘んじて受け入れるべきだろう。


 この後はいつもと変わらない日常だった。いつものところでたまにじっと見られながら昼飯を食べ、授業が全て終わった後で生徒会室に行き、帰って家事をこなし、宿題を済ませ、寝た。

 朝以外は何の変わり映えもない日常だった。そう感じた。





 目が覚めた。




 6010年7月13日


 朝起きるとベッドの中、ではなく悪臭の漂う洗面台のある部屋の床だった。何度嗅いでもイヤになる臭い。でも、仕方のないことだ。自分のやってしまったことは自分で片づけなければならない。夢の中でみた行動をそのまま再現するかのように機械的に動き、何もかもをこなし、学校に行き、生徒会室から帰って教室に着いたときのことだった。


 教室がいつもよりもざわついていた。予鈴が鳴る。いつもは皆静かになるが、なぜか今日はまだ騒がしかった。隣のイザが僕に話しかけてきた。

「パルよ。今日うちのクラスに転校生が来るらしいぞ?」

「転校生?」

「あ、間違えた。正確に言うと編入生であった」

「え? それってどういう……」

 そんな存在は少なくとも夢の中では見なかった。

「おい。理由は分かるがとりあえず静かにしろ」

 唐突に担任が教室に入ってきた。おかげでイザからそれ以上の話を聞けなくなった。しかし、担任が教室に入ってくるのはとても珍しいことだ。それに、この一連の出来事は夢の中ではなかったことだ。教室の中がシンとなった。

「編入生を紹介するぞ。入ってこい」

 扉がもう一度開き、女の子が入ってくる。男連中から驚きの声が少し漏れる。女の子は緊張しているのか、右手と右足を同時に出して歩いてきた。

「はにゃ!」

 彼女は緊張のし過ぎなのだろうか、壇上にあがる段差のところでこけてしまった。

「うぅー」

 教室から笑いがこぼれる。女の子は耳まで真っ赤になってしまった。

「ほら、とりあえず壇上に立て。紹介ぐらいはしてやるから」

「い、いえ。じ、自分でやりますので」

 意外と意志の固そうな声で担任に物言いし、自力でどうにか立ち上がって、壇上に上がり、黒板に名前を書き始めた。

「こ、こほん。は、じめまちて!!」

 教室に失笑がこぼれた。再度赤くなった。

「わ、わ、わ、わ、」

 頑張れーと声がかかる。言いたくなる気持ちは若干理解できた。

「わた、私の、な、名前は」

 すでにみんな黒板に書かれた名前を見て分かっていることだろう。それでも、賢明に言おうとしていた。

「あ、アルカンシエル・ソレイユと言いまふ!よ、よろしくお願いしやがれなのです! ま、間違えた……よろしくお願いするのです!!」

 彼女の紹介らしきものが終わった。

「おい、質問があるやつはしておけ。授業が始まっては聞くことはできないからな」

 担任が何か言っていた。教室の中もまた騒がしくなった。

 そんな周りの様子も僕には目に入らなくなっていた。僕は彼女が入ってきてから呆然としていた。なぜなら彼女は





  僕にとって…………とてもまぶしいものに見えたからだ。




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