アルク15
今日は学園祭の日。
みんなが浮き足立ち、構内には人がゴミのようにあふれかえり、実際ゴミも結構でる日。
祭りの日に何でこんなネガティブなことを考えてるんだろう。
でも、まあ
「ほら、3番テーブルにまだ飲み物がいってないよ!!」
「ケーキ準備できた!! 持っていって!!」
「ジュースがきれそう、誰か買ってきて!!」
こんな戦場じゃあね。ちょっと、考えたくなるんだ。
「パルくん、パルくん、大反響だよ!!」
「すごいな。ここまでになるとは思わなかった」
30分ぐらい待たないと、入れないんじゃないかな。
「交代だ!! どこに行けばいい!!」
「じゃあ、列整理のほうお願いできるか」
「よしきた!!」
「アルクちゃん、もうレモンケーキがなくなりそう」
「もうちょっと待って! 今作ってもらってるから!」
本当にすごい。こんなことになることを誰が予想していたことやら。
いや、自分はわかってたけどさ。
こうなることは視ていたものの本当に忙しかった。
「店内でケンカが――」
「店の外の人が怒ってるって――」
「材料が足りない――」
いや、ほんと。多分、視てたときよりすごいよこれは。
「うわーーん!! パルくーーん!!」
「はいはい、今対処するから落ち着いて」
目の前で泣きそうになってる子のおかげ、っていうかせいもあると思う。
休憩が食事をとるぐらいしか時間がなく、目まぐるしく働く。僕とアルクはほとんど休まずに働いた。
「終わったーーーー!!!!」
外の列を捌き、最後のお客が帰ったのは、学園祭終了20分前だった。
「お疲れさまです。みなさんありがとうございました!」
「みんな、お疲れさまー!!」
みんなの疲れを労う意味も含めて言った。
「いやいや、2人には敵いませんよ」
「そだよ。一番2人が頑張ってたでしょー」
「2人ともお疲れさまー」
「えへへー、ありがとー」
こう返されるっというのは分かってたけど、本当に疲れた人もいっぱいいると思うのでそう言いたかった。しかし、頑張ったし、疲れた。追加もかなりやったし多分一位も取れたんじゃないかな。
「それじゃあ、後かたづけから始めようか」
「えと、じゃあ今まで通り女子は私に――」
「ちょーっと待った」
クラスの学級委員長の男の方が僕らを止めた。
「2人が一番働いてたのに、学園祭を楽しめてないっちゅうのはおかしな話やろ」
女子のクラス委員長の方が言葉を繋げる。
「だから、後は私たちに任せて。片づけぐらいやるから、少しだけでもいいから学園を回ってきたらどうかしら」
なるほど。この提案はありがたい。学園祭は回れないとばっかり思っていたから好都合だ。
「で、でも――」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
アルクが申し訳なさそうな顔してたから遠慮すると思ったので、言葉を被せた。
「おうおう、行ってこい」
「片づけは私たちに任せてもらっていいから」
「ありがとう。行ってきます」
「あ、ありがと。ごめんね?」
アルクと一緒に教室を後にした。
「さて、どこか行きたいところある?」
まあ、もう15分もないけど。
「うーん。たいやきって見たことなかったから食べてみたかったな」
「それじゃ、行ってみようか」
屋台になるから、外にあるはずだ。
「待って」
「ん?」
服の裾を掴まれた。
「食べてみたかった、なの。外、見れば分かると思うけど」
「あ……」
もうほとんどの店がしまう準備をしていた。よほど人気のないところや、発注した数が多かったところ以外は概ね終わっていることだろう。
「しょうがないよ。もうちょっとでこの祭りも終わりだもん」
「…………」
本当に。欲を言えば。彼女と一緒に。ゆっくりと。店を回りたかった。射撃やったり。お化け屋敷に入ってみたり。いろいろなところを廻ってみたかった。
「パルくん」
「……なに?」
「手、繋ご」
「……うん」
それから僕たちは歩いた。一緒に歩いた。
祭りの喧噪の、残り香だけを楽しみとして。
手を繋いで。
ゆっくりと。
『これにてセラ学園学園祭を終了します。みなさんお疲れさまでした』
レネさんのアナウンスが聞こえた。
「パルくん、戻ろう」
「そうだね」
たった、15分でも彼女と一緒に互いに寄り添って歩いた時間は楽しかった。幸せだった。彼女の手の温もりが嬉しかった。
でも、僕はこの後どうなるかなんて分からなかったんだ。
だって、僕には彼女の未来が見えないのだから。
片づけ中の教室に戻り、その手伝いをする。大きいごみはある区画にまとめて置き、小さいゴミはゴミ袋にまとめ捨てるということになっている。
だいたいの作業が終わり、帰り際にそのゴミを捨てることになって解散した。今日ばかりはみんなも疲れて、この後打ち上げにいこうなんて提案はされなかったようだ。
僕はアルクと一緒に帰ろうと思っていた。彼女には言っていなかったけど、光の弱くなった教室で待っていればきっと彼女は来ると思っていた。
でも、来なかった。いくら待っても彼女は来なかった。まあ、言ってなかった僕も悪かったし、彼女も疲れていただろうから来ないのはしょうがないと思っていた。
その後で彼女の荷物がないことに気づいた。僕も気づくのが相当遅い。
未練で彼女のげた箱をのぞいてみた。当然のことだけど上履きしかなかった。
仕方ないので、一人寂しく家路についた。
このときは明日会えるからいいかな、と思っていた。
次の日、予定通り、いや予定よりもかなり前に校門に立っていた。
10時になった。アルクは来ない。
寝坊でもしたのかな、と想像を膨らます。
11時になった。アルクは来ない。
家族の人も寝坊しているのかもと考える。
12時になった。アルクは来ない。
おなかが空いた。それと、自分は日時や場所の指定を間違えたかと考えた。
13時になった。アルクは来ない。
怒りという感情はわいてこなかったが、風邪でも引いたのかと少し心配になってきた。14時になってもこなかったらアルクの家に行こう。そう決めた。
14時になった。アルクは来なかった。
アルクの家に行く道をたどりながら、彼女が別ルートを使っていてすれ違いになったら困るな、と思っていた。
アルクの家についた。
インターフォンをならす。焦ったような様子でアルクのお母さんが顔をのぞかせた。
「パルミラくん! お父さん、パルミラくんがきました!!」
焦ったような口調で、内側に声をかける。すぐにアルクのお父さんが出てきた。
「パルミラか!」
「ご無沙汰してます。アルクに会いに来たのですけど、彼女は――」
と言ったところでアルクの両親が落胆した顔を見せた。それだけで、彼女に何かがあったことは分かった。
「……何があったんですか」
「……君のところに行っていて、朝帰りとかいうほうがまだましだったかもしれんな」
「は?」
とんでもないことを聞いた気がして間抜けな声が出てしまった。
「あまり、驚かないで聞いてほしいの」
アルクのお母さんが震える声で言った。
「アルクが――私たちの娘が昨日から帰ってきてないの」
「え……」
それは。
世の中に散乱している『不幸』ってやつが、僕にのしかかってきた瞬間だった。
急展開です。
残り、5話で終わります。