表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

アルク14

「ぱ、ぱるくん」

 作業がすべて終わり、クラスのみんなも帰った後、少し緊張した面もちで彼女が話を切りだしてきた。

「なに?」

「で、でーとがしたいです!!」

「ブッ!!」

 お茶を飲んだタイミングでなんてことを言うんだ!! この子は!!

「わわっ。パルくん汚い」

「うん。ごめんなさい。……じゃなくて!!」

「ダメ?」

 上目遣いでこちらを伺うようにしなくても、いいに決まってるわぁ!! と大声で叫びたかったが、自分のキャラ的にも、アルクを驚かせるだろうから、自重する。

「そ、それはいいけど、正直僕たちにはあまり時間がないよね」

「うん。そろそろ帰らないといけないし」

「じゃあ、帰りながら話そうか」

 バッグを自分のものと彼女のものもひっつかんで外に出た。


 アルクが少し慌てたように僕を追ってきた。

「パルくん。バッグ返して」

「これくらい僕が持つけど。……もしかして僕に持たされたくない?」

「ううん。そうじゃないけど」

「けど?」

「パルくんの両手がふさがっちゃう」

 彼女の顔がほんのり赤くなった。

「あ、うん」

 僕も彼女の意図が分かったので、少し照れた。おかげで生返事である。

 彼女にバッグを返し、空いた左手で、彼女の右手を握る。

「……まだ、少し慣れないね」

「そうだな」

 でも、嬉しかった。人の温もりが。苦痛のないことが。手を握るということが、難なく出来るということが。

「…………」

「…………」

 互いに無言になってしまう。

「「あの」」

「「あ、どうぞどうぞ」」

 少し前のコントじゃないんだから。

「えっと、パルくんお先にどうぞ」

「……なんとなくだけど、僕はアルクと同じことを言いたいんじゃないかな」

 というか、今言うことって互いにこれしかないよね。

「私が言ってもいい?」

「どうぞどうぞ」

「それじゃあ、明日のことなんだけど」

 明日は火曜日。平日ではあるが、まあそれでも別に……。

「実は作業があまり進んでないところがあって」

 ずっこけそうになった。

「パルくん大丈夫?」

「うん、完全にはこけてないから」

 期待した僕が悪かったのか。そうか。むぅ。

「じゃあ、続きを話すけど、小物を作るところでちょっと手間取っちゃって」

「それじゃあ、明日は遅くなるかな」

「うん。多分。みんなに残ってもらうっていうのは、ごめんなさいなんだけど」

「そっか」

 あまり使いたくない手ではあるものの遅くしないでもどうにかなる方法があるにはあるけど……

「まあ、いっか」

「え? 何が?」

「アルク、明日先生に相談しようか」

「なんで?」

「先生の授業の一時間を作業に使用するために使わさせてもらおう」

「いいのかな」

「一番最初の頃にそんなこと言われたから問題ないんじゃないかな」

「そっかぁ。確かにそんなこと言われたかも」

「だから、明日頼み込みに行こう」

「明日が楽しみだよー」

「え? 頼みに行くのが?」

「だって、授業が一つ減るんだよー。パルくんは楽しみじゃないの?」

 そもそも、まだ減るかどうかも決まってないけど。

「どこかで一つ増やされるか、授業内容が早くなるよ?」

「うぅー。パルくん。せっかくいい気分だったんだから落とさないでー」

「ごめんごめん」

 少しむくれてるアルク。さっき僕が言いたかったことでも言うか。

「アルク」

「なに?」

「明日、多分早く終わるから、それからデートしよう」

「……え?」

「いや……かな」

 ここでいやと言われることはないと思うけど、言われるとショックだな。

「したい、したい!!」

「うん。それじゃしよう」

 まあ、向こうから振ってきた話だから、いやではないと思ってたけど。それでも、緊張するものだなぁ。

「それじゃあ、また明日!!」

「うん。また明日」

 アルクとは彼女の家より少し離れたところで別れる。彼女の家族と接触したら、面倒くさいことになることは目に見えているからだ。



 次の日。先生の授業時間も貸してもらい、ある程度作業が進んで放課後。

「できたー!!」

 教室の一角から歓声が上がる。アルクにまとめて貰っておいた方の作業が一段落ついたようだ。

「みんな、お疲れさまー」

「つっかれたー」

「ねー、これからアイス食べに行かない?」

「行こう行こう!!」

 教室がにぎやかになって、半分が帰ろうとする雰囲気になっている。こっちも、終わらせるか。

「じゃあ、こちらも今日はここまで。後もう少しだから明日やれば終わるだろう」

「よっしゃ、終わったー!!」

「これで、帰れるか」

「あともうちょっとだな」

 これで、不満とか文句とかがでることもあるまい。

「それじゃあ、お疲れ」

「おつかれー」

「乙」

「お疲れさまでしたー」

 1人2人と教室を出ていき。最後に2人だけ残った。

「パルくん。これからどうする?」

「時間が十分とは言えないかもしれないけど、デートしようか」

「うん!!」

 ということで、教室を出ようとしたときに、ガラッという音がした。

「忘れ物、忘れ物っと、実行委員おつかれー」

「お、お疲れさまです」

 突然の乱入者に少し驚く。……手をつないでただけだったけど。

「なに忘れてたのー?」

「財布忘れてたみたいで、っとあったあった」

 個人的な本音としては、早く出ていってくれといいたいが。さすがに口にするわけにはいかない。

「あ、そうだ。これからみんなで軽い打ち上げをしようってことになってるけど、2人とも来る?」

 これは、マズいな。

「え、ホント? それじゃあ――」

「すまないが、少し実行委員の仕事があるんだ。どれぐらいかかるか分からないから今日は行けない」

「あー、それじゃあしょうがないかー」

「え? パルくん? 私そんなの聞いてな――」

「また、今度行かさせてもらうよ」

「りょーかい。それじゃあ、またねー」

「う、うん。また明日ー」

 ふう。どうにかアルクが言おうとするのを止めれた。危ない危ない。

「パルくん、これから仕事あるなんて聞いてないよー」

「ああ。嘘だからな」

「え!?」

「だって、さ」

 凄く照れくさかったけど。

「2人になれないじゃん」

「あ……うん」

 多分2人とも真っ赤。

「…………」

「…………」

 少しの沈黙。

「こ、これからどうする?」

「パ、パルくんのしたいことなら、なんでも」

「う、うん」

 なんでもとか言われて、変なこと思い浮かべてしまった。自重自重。

「そ、そうだな。とりあえず、外出て遊ぼうか」

「……多分、それダメだよ」

「え?」

 行く前からダメ出し、とは。グハッ!

「なんで、パルくん口から血が出てるの!!」

「き、気にしないで」

「無理だよ!!」

 ですよねー。

「ふう。治った」

「……パルくん、病院に今すぐ行くべきだと思うよ」

 そうだね。このままアルクに断られ続けたら行くことになると思うよ。

「それで、アルクさんや。なんで外出て遊ぶのがダメなんだい?」

「なんだかパルくんが急におじいさんっぽくなっちゃったよ。ええっとね、パルくん。さっきみんなが打ち上げするって言ったでしょ」

「うん」

 言ってましたね。……僕は気にしないんだけどな。

「もしも、はち合わせたらって思うと……」

「アルクはみんなに僕の彼女ってばれるのがいやなの?」

「イヤって訳じゃ……ないんだけど……」

 真っ赤になって尻すぼみになっていくアルクがかわいかったので、アルクの精神衛生のためにも、今日は外では諦めますかね。

「それじゃあ、構内にするとして、どこがいい?」

「ええっと、教室でパルくんとのんびりお話とか」

「まあ、僕はそれでもいいけどね。だれかが忘れ物を取りにきたらどうするの?」

「パルくんとお仕事してたって言う」

「今は端から見たら、お仕事してたって言うよりは喋ってたになるだろうね」

「うぅ」

 ちょっと落ち込むアルク。うん、これも可愛い。

「とはいえ、僕は構内で2人っきりになれて、その上誰も来そうにない場所とか知らないし、ここでいいのならいいと思うけど」

「どっちなんだよぉ」

「見つかったときの言い訳を考えれるなら、ここでいいんじゃないかな」

「う~~ん」

 悩むアルク。うん、以下略。

「やっぱり、ここでいいかなって」

「言い訳は考えるの?」

「紙とか机の上に置いておけば……なんとか」

「まあ、アルクがいいならいいけどね」

 ガラッと音がした。 

「ん?」

「わ!!」

 でも、うちのクラスには入って来た人がいなかったから隣のクラスっぽい。

「び、びっくりした」

「そうだね」

「心臓に悪いかも」

「そこまで!?」

 驚きすぎだし、そんなにばれたくないものなのか?

「でも、どうしよう。これじゃあ、パルくんと楽しくお話もできないよぉ」

「…………」

 気にしなければいいだけとも思うけど。そんなに気にしてるなら

「しょーがないか」

「え? なにがしょうがないの?」

「今日は帰ろっか」

「え? あ、うん」

 少し呆気にとられていたけど、すぐに机の上を整理し始めた。

「はい、バッグ」

「あ、ありがと」

 荷物を詰めるときに慌てていたのか、消しゴムが落ちた。

「アルク、消しゴムが――」

「パルくん、帰ろっ」

 少し怒っている感じだった。

「ああ、うん」

 後でいいか、と思ったのでポケットに入れた。


 帰り道、先ほどとは一転してアルクは落ちこんでいるみたいだった。矛盾することだとは思うけど嬉しい。落ち込んでくれている理由が僕のことだから。

「あのさ、アルク」

「うん? なに、パルくん」

 この態度で普段通りにしているつもりなのだろうか。まあ、ここからフォローするつもりですけど。

「学園祭の次の日がどうなっているか、知ってる?」

「ううん。知らない」

 ま、元気付けるという意味も含めて。

「学園祭は本当なら休みの日にやるから、次の日が休日になるんだよ」

「ふーん、初めて知ったよぉ」

「だからさ、その日にデートしよう」

「うん。……え?」

 え? って。

「イヤ?」

「ううん! すごく嬉しい!!」

 よかった。機嫌も治ったみたいだ。

「じゃあ、その日はパルくんとデートだね!!」

「ああ。デートしよう」

 学園祭の間はお互いに忙しくて、デートなんてできないだろうし。

「パルくんっとデート♪ パルくんっとデート♪」

 楽しそうでよかった。

 時間は10時から、集合場所は学校の前に決まった。


「それじゃあね、パルくん!!」

「うん、また明日!!」

「また明日!!」

 アルクとは家より少し離れた場所で分かれた。毎回お世話になるわけにもいかないから。

 それにしてもアルクとデートかぁ……。


 ………………はっ!!


 別になにも想像なんてしてない。してないぞ。アルクとキスができればいいとか全く考えて……。


 僕は誰に言い訳してるんだろう。


「浮かれてるのは僕もか」

 多分、これが初めてのデートになるだろうし。

 うん。僕としても非常に楽しみだ。



 ただ、その日を迎えるに当たって、先に学園祭という山を乗り越えないと行けないんだけどね!

ようやく次から本編です。っていうか、ちょっと超展開の部分もありますがそこは目をつぶってください。

作者的にはなるべくしてなった結果ですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ