アルク13
ひと月も空いてしまいました。自分でもこんなに更新できないと思わなかった。
少し忙しいので、ゆっくり更新を待っていただけると嬉しいです。
「うぁぁぁぁ!!!!!!」
頭を抱えて悶えていた。
昨日の自分の言動を思い返してみて、そのあとのアルクの
『わたしもパルくんのことが好きです』
「ひゃぁぁぁぁ!!!!」
一人暮らしで良かった、と初めて思った瞬間だった。
音が漏れる方向的に。
「夢、では、ない、はず」
昨日はその後、互いに赤面してしまい、帰り道の分岐点まで一緒だったものの、何も喋らなかった。
手もつなげなかった。でも、
「いぃぃぃっやっっっほおおおーーーーい!!!!」
……明日からこの家に何かがいるとでもご近所さんに噂されたらどうしよ。まあ、いっか。
いつもよりも大分早く来てしまった。30分は前だぞ。どれだけ気合い入ってるの僕は。
『ねぇ、なんでそんなに気合い入ってるのかしら』
「いえ、僕は普段通りだと思いますけど」
『おかしいわ。絶対におかしいわ。あなたがこんな時間にくるわけがない』
「僕はどう思われているんですか」
『いっつも遅刻寸前で、本当に学校に来る気もあるのか怪しい人』
「酷評をどうも」
『その通りでしょ』
うむ。的を得すぎている。
『で? 何かあったのかしら?』
「別に何もないですよ」
『ダウト』
「いや、そんなこと言われても」
『でも何かないとこんなことにならないわ』
「そういわれても……。前もこんなことありましたよね」
『あったけど……』
結構前の話ではあるが。
「それと同じようなことですよ」
『どうにもそれっぽく見えないのよねぇ。昨日何かあった?』
鋭い。しかし、彼女のそれではこっちの心は読めないし、多少挙動不審になっていても問題はないはず。
「何もなかったですよ」
『うーーん。どっこかおかしいのよねぇ』
「どこもおかしくありませんよ」
『その口振りって怪しい人が言うものよ』
「じゃあ、僕はどう弁解すればいいんですか」
『真実をありのままに告白しなさい』
「それじゃあ何もなかった、という回答になるのですが。あ、そろそろ校内に入るんで控えてください」
『そう。あなたのおかしいところを突き止めてみせるから』
そう言われても、素直に教えるというか、自分から言いたくはないんですけどね。自慢するみたいで。
まあ、少しだけ声を大にして言いたいって気持ちもあるんだけど。
「おはよう」
「お、おはよう」
多少、驚いたような顔をして僕に挨拶してきた委員長。そんなに僕が早く来たことはおかしいか。もしくは僕が委員長に挨拶するのがおかしいか。
「…………」
自分の席について、少しぼーっとする。
トランペットの音色。やっぱりあまり好きではないが、不快にまでは思わなかった。
結局のところ何もすることもなく無為な時間を15分ほど過ごした頃、アルクが教室に入ってきた。
と思ったら真っ先に僕の方に向かってきて、
「おはよう、パルくん!」
昨日までと全く変わらない笑顔。
「お、おはよう、アルク」
緊張してる自分がバカみたいだ。
「えとさ、今日からみんなとも作業するんだよね」
「ああ、うん」
「改めてみんなに呼びかけないとダメだよね」
「……あれ? もしかして言ってなかったっけ」
「うん」
抜けてたなぁ。もしくは浮かれてたなぁ。
「それじゃあ、私が言うね」
「お願いするよ」
彼女は他の子たちの話に混ざって行った。
……あれ? 何か間違ってない?
昨日、彼氏と彼女の関係になったっていうのは僕の妄想かな。
アルクの様子が普段と変わらないか、もしくは普段より淡白な感じだぞ。
そりゃあ、教室でイチャラブ(死語)したいわけじゃ……したいけど! どこでもしたいけど!
まあ、少し中様子を見るしかないな。本当に僕の妄想でも困るだろうし。
少し中、と言いながら放課後になってしまった。
休憩時間とかに少し話したけど、態度も話していることも普段と変わらない(主に学園祭の話)
内容だったし。
「えっと、男子は大道具、女子は小物、といった感じで作り始めてくださーい」
部活などで相当忙しい人を除き、クラスの道具作成に参加してもらうことに。
「木の板外に運ぶぞー」
「糸と針が足りないわ、手芸部からもらってきましょう」
男子と女子とで大きく別けて、男子を僕が、女子をアルクが受け持つことに。
なんだか一切間違っていないはずなのに何かが間違っている気がする。
「おーい、パルミラー!! ここどうすりゃいいんだー!」
「ああ、そこは……」
しかし、そんなことを考える暇はなかった。まとめ役はそれなりに面倒くさい。
アルクも同じ役だが、思いのほか上手くこなしている。
負けていられない。自分のことを考えるのはこれが終わってからでも遅くはないだろう。
今日分の作業が終了した。
「お疲れ様でーす」
という言葉を残してクラスで残ってくれたみんなは帰って行った。今、教室の中にいるのは僕と、アルクだけだ。というのに
「…………」
「…………」
なぜか無言。何か話すことは……
「パルくん?」
「ひゃい!?」
とっさのことで驚いて、変な声が出てしまった。
「えっと、そのー。一緒に帰りましょう、か?」
「あ、うん。そうしましょう」
なぜか互いに変な口調。ぎこちなく手と足を前に出して、
「パルくん、手と足が同時に前に出てる」
「これはだね、ナンバ走りといって、体のひねりを出さないことによって速く走ることのできる走行法で」
「パルくんは早く帰りたいの?」
「い、いやっ。全然これっぽっちもそんなことは考えていませぬよ」
いかん。どうしてこんなに緊張してるのかな僕は。少し、落ち着こうか。
「すぅー、はぁー」
「こういう時はひっひっふーじゃないの?」
「それは別の時に使おう。僕はきっと使うときがないだろうし」
「?」
それなりに落ち着いた。彼女が途中から冷静に対処してたのは、僕の方があわてていたからかな。まあ、そうでなくともそうであろうとも、みっともないところを見せたわけだけど。
「ふう。ごめん。取り乱してた」
「私はパルくんが予想以上に取り乱したから、逆に冷静になれたけど」
「なんだろう。舞い上がった、のかな」
「でも、パルくんがそうやって舞い上がってくれているなら」
「うん?」
「私は嬉しい」
彼女の前なので叫ぶのは止めたが、今にも踊りだしたい気分だ。
「今日の作業を見る限り順調だったけど?」
「それじゃあ、私は上手く指示出せてるのかな」
「僕より上手だったと思うよ」
「そ、そうかな」
ちょっと照れた感じにはにかんだアルク。
可愛いと思わざるを得なかった。
「あ」
「…………」
いつの間にか、僕の家と彼女の家の分岐点までたどり着いていた。
「そ、それじゃ」
「待って、アルク」
別れなきゃいけないと思っているように体は彼女の家の方向に向けているのに、手だけは僕の手を握って離さなかった彼女に言いたいことがあった。
「家まで送る」
「え! そんな、パルくんにも悪――」
「僕がアルクと一緒にいたいだけだよ」
「あう」
真っ赤になって何も言えなくなったようだ。
「行こう」
「う、うん」
彼女の家は一回、なぜかは忘れたけれども行ったことがある。
「じゃあ、アルクこの辺で」
アルクの家のすぐ近くで、僕は引き返そうとしたのだけど。
「え? もう少しいいんじゃないの?」
と、アルクの言。でも、たぶんアルクのことだから自分の家の近くまで男を連れてくることの意味を分かっていないのではないだろうか。
「アルクは僕がアルクの彼氏だってばれても良いの?」
「うん」
即答だった。
「相当からかわれると思うけど」
「パルくんなら大丈夫だよ」
何が大丈夫かも分からないけど、アルクがいいというのなら僕も覚悟を決めなきゃいけない。
「それなら、もう少し――」
「あら、アルクお帰……り」
「ただいま、お母さん」
あまりお母さんと呼ばれるような年齢には、ましてやアルクぐらいの年齢の子供がいるとは思えないような見た目の女性がでてきた。
「あらあらあらあらまあまあまあまあ」
「お母さん?」
「ちなみにアルク、自分のお姉さんをお母さんと呼ぶなんて習慣はないよね」
「うん。正真正銘、私のお母さんだよ」
少し信じがたいことではあるけれど、納得するしかないようだ。
「えっと、初めまして、僕は――」
「パルミラ君よね?」
「ええ、はい」
驚いた。何で僕の名前が分かったんだ?
「アルクの母のシンク・ソレイユといいます。アルクが大変お世話になっているようで」
「いえいえ、僕の方こそ」
「正直に言っちゃうと?」
「いえ、彼女の明るさには救われていますよ」
「取り柄がそれぐらいしかない娘でねぇ」
「それいったら僕には取り柄も何もないので」
「うふふふふ」
「あはははは」
「な、なんかお母さんとパルくんがちょっといい感じになっちゃってる!!」
よく見るとアルクに似ている部分があって、親子だなあと思う。
「時にパルミラ君、うちで夕飯をお呼ばれする気はないかしら」
「さすがにそこまでは。迷惑になりますから」
「いーえ。是非ともアルクとの馴れ初めとか、2人がどうやって恋人になったのだとか訊きたいですから」
「おかーーさーーん!! パルくんにめーわくでしょー!」
っていうか僕たちがそういう関係になったってことはバレたのか。もしかして、アルクがもう言ったのかな。
「それじゃあ、お邪魔に――」
「貴様、何者だぁぁぁ!!!!!」
無駄に暑苦しい声のする方を見ると、そこにはバッグをその場に置いて、呆然としている男性の姿が。
「おおおおお俺の娘にぃぃぃぃ何をしたぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ」
ダッシュしてくる男はなかなかに恐ろしかった。
「おとーさん、やめて!!」
「なん……だと……」
アルクの一言で、その巨体が止まる。
「なぜだ! なぜ止める!」
「だって、パルくんは私の大切な人だもん!」
「俺よりもかぁ!!」
「うん!!」
「ゲバァ!!」
あ、血を吐いて倒れた。
「あらあら。アルクちゃんはいつからパルくんが一番大切な人になったのかしら」
「え、えっと、少し前、からかな」
「うふふふ」
「クボォ!!」
あ、また血を吐いた。
「パルミラ君、不出来な娘ですけど、末永くよろしくお願いしますね」
「あ、はい。こちらこそ、出来た人間ではありませんけどよろしくお願いします」
結婚の挨拶に来たみたいだ。……まあ、それぐらいまでも考えてはいるけどさ。
「ちょっと、おかあさん!! 私たちまだ学生だよ!!」
「あら。それだったら私たちは学生結婚だったわよ」
「そうなの!?」
「ええ。言ったことなかったかしら」
「初めて聞いたよ……」
こんなこと僕が聞いてもよかったのだろうか。
「いいや、まだだ!! アルクはこんな小僧にはやらん!!」
お、アルクのお父さんが立ち上がった。
「そんなこと言って。私たちもこのぐらいでしたよ」
「いや、ダメだ!! こんなのに付いていったら苦労するに決まっている!!」
「お父さん!! パルくんをこんなの呼ばわりしないで!!」
「ええい、こんないい加減そうな奴こんなので問題ないわ!!」
「パルくんはいい加減じゃないよ!! お父さんの方がよっぽどいい加減じゃない!!」
何この親子喧嘩。
「パルミラ君」
「はい」
「もう少ししたら決着がつくでしょうけど、関係者だと思われたくないでしょうからうちにあがりましょう」
「……あなたがそれを言っていいんですか?」
「あの人はいつもあんな感じだから」
「そうですか。では、失礼してあがらさせていただきます」
「この敷居はまたがせん!!」
「お父さん、じゃま」
「うっ」
あ、また倒れた。
「……母さん、わしはもうダメじゃ。……後は母さんに託すよ」
「はい、分かりました。それじゃあ、パルミラ君にはまずアルクとの馴れ初めから話して貰おうかしらね~」
「ちょ、そのためですか」
「お母さん、恥ずかしいから訊かないでよ~」
「母さんや、わしの代わりにその小僧を入れない、グハッ!!」
あ、シンクさんの持ってたナベがクリティカルヒットした。って、どこから持ってきたんだ!
「どうぞどうぞ~」
「お、おじゃまします」
「ただいま~」
「お帰りなさ~い。もう少しで出来るから、リビングで待っててね~」
あ、アルク鍵かけちゃった。確か外には……
まあ、僕が鍵を開けるわけにもいかないしなぁ。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
アルクのお父さんも家の中に入り、僕も含めて4人で食事をとることに。
少し、空気が重い。
「母さんや、そこの醤油をとってくれ」
「自分の方が近いじゃないですか。自分でとってください」
「むう」
アルクはしゃべりずらいのか、食事を始めてからは一言も喋っていない。かといって、僕も喋ることは出来ないから、あまり会話のない空気が漂っている。
そんな中、アルクの父親が箸を置いた。
「さて。先ほどはすまなかったね、パルミラ君」
「いえ、僕は気にしていないですから」
「後で、2人で話がしたいがいいかね?」
「……はい。分かりました」
この食事中に覚悟ぐらいは決めないとねぇ。
「こっちだ」
「失礼します」
この人の書斎だろうか。入り口と窓以外の壁は全て本で埋め尽くされていた。
「そういえば、名乗ってもなかったかな。コルネリウス・ソレイユだ」
「パルミラ・アガスティアです」
「……君の親は何を考えて君にその名前を与えたんだろうかな」
「分かりません。……尋ねることも出来ませんから」
「む。それは、すまないことを訊いた」
「いえ。それも、気にしていませんから」
よく言われることだ。
「まあ、それはいい。本題に入ろうか」
「はい」
「……改めて問うが、君はアルクが好きかね?」
「……はい」
「それで、アルクも君のことが好きだと」
「言ってくれましたね。凄く嬉しいです」
「将来、結婚するということまで?」
「出来れば、そうなれたらいいな、と思っています」
「……そうか」
沈黙。そして、ため息。
「アルクの昔のことについて聞いたか?」
「いえ。それは、まだ」
現在のアルクは知っているが、セラ学園に編入してくるまでのアルクのことについては全然知らない。
「まあ、私たちにも言おうとしないから、それは仕方ないか……」
「え、今、何を――」
「下世話な大人の事情だ。訊いてくれるな」
「はぁ」
しかし、今とんでもないことを聞いた気がする。今の発言が正しいということはアルクは――
「おっと、本題からそれていたな。正直に言おう。私は反対だ」
「……親としては仕方がないかと思いますけど」
「ふぅむ。じゃあ、アルクと交際を止め――」
「嫌です」
「最後まで言ってない」
言われるまでもない。
「本気かね?」
「目の前に立ちふさがるのがあなただとしたら、アルクと共に乗り越えるなり破壊しようと思うぐらいには」
「…………」
ただ、僕はアルクがどう思っているのかは知らない。
でも、僕にとってはそれぐらい、たとえ虚勢であったとしても、すんなりと言えるほどにはアルクが好きだ。
「私はね、君に強く言えないんだよ」
コルネリウスさんは少しだけ、笑みを見せて続ける。
「先ほど少し言っていた気もするが、私たちは学生結婚をしたんだ」
「…………」
「だから、アルクの交際にとやかくは言えない」
「…………」
「まあ、でも君がアルクとの結婚とまで考えているなら障害として立ちはだかるとしようか。そういう父親になりたいしな」
「乗り越えますよ」
「ああ。楽しみにしてるよ」
話は終わりだ。僕は扉に手をかけて開いた。
「ああ、そうそう。一つ言い忘れた」
「何ですか?」
「アルクをよろしく頼む」
「言われなくても」
扉を閉めた。
「では、お邪魔しました。夕食、美味しかったです」
「ならよかったわ~。また来てね~」
「それじゃあ、パルくん、また明日」
「うん。また明日」
アルクの家を出て、自分の家に向かう。
「結婚云々の話まででるとは……」
そりゃあ、付き合い始めたばかりではあるけれど、アルクとはこのまま一緒になりたいし。
「ま、これで両親公認なのかな」
これからもいろいろとあるだろうけれど。
どうにか乗り越えていきたいと思った、夜だった。
後、8話ぐらいの予定です。
時間はかかっても必ず書ききります。