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アルク10

 月が変わった。ただそれだけだというのに、ほんの少し気温が下がったように思う。秋も深まってきたということかもしれない。

 木枯らしが赤い木の葉を巻き上げてどこかへ連れ去ろうとしている。

 万年赤い葉のある大陸なのだが、この季節は特に美しい赤色に染まる。

 が。

 そんなことを気にしていられるほど、今の僕には余裕がなかった。

「おっしゃぁ!」

「うわっ」

 どうにか玉を避ける。

「よくかわすな。しかし残りは貴様一人。もはや風前の火だ!」

「はぁ……よっと」

「おとなしくお縄につきやがれ!」

「いやだねっ」

 だって、痛いのイヤだし。もうちょっとしたら痛くない玉が飛んでくるはずだから、それに上手く当たれば

「パルくん頑張れー!!」

 これは、頑張らないといけないな。

「こんにゃろ!!」

「おっと」

 甘くなった球を受け止めた。

「パス!」

 場外にパスを出す。

「…………」

「うぉ! あぶなっ!」

 惜しいな。昴はいい球を投げるんだが。でも、体勢は崩せたみたいだ。

「もーらい」

「葛、あうとー」

 相手チームの当たった奴が場外に出ていく。そのかわりボールは向こう側にわたってしまった。

「クズの敵ーーー!!」

「俺は葛だ!!」

 発音変えるだけで最低なセリフに変えることのできるクラスメイトの叫びを聞きながらも、どうにか回避する。

「パル討ち取ったりーー!!」

 完全に僕の背後からの攻撃。

 でも、読んでいた。

 完全にしゃがむことにより、真上をボールが通過する。

「嘘だろ!」

「言いながら投げるから」

 まあ、実際はちょっと力が働いたのだけど。

 心の中でほんの少しため息。

「ええい、さっきみたいなスーパープレイは何度も出来やしねぇ!!」

「ちょ、まさか」

 突然、ボールが発火する。いや、ボールの周囲の空気が燃える。

「炎の魔球!!」

 能力使ってまでしとめにきた!

「僕一般人なんだけどなぁ……」

 嘘八百だけども。

「これでも、食らえやぁ!!」

「えぇ、それはちょっと」

 でも、これは後ろに直撃するかなぁ……。

「仕方ないね」

 ボールが来るであろう位置にしっかりと構えてボールをとるように動く。

「あちっ」

 ほんの少し、服が焦げて、ボールは僕の腕の中に収まった。

「なにっ!! 俺の燃える魔球を止めただと!!」

「まあ、ちょっと熱かったけど」

 多分手加減してると思ったし、後ろに――アルクがいるところに――被害を出すよりはずっと良い。

「へい、パース」

 山なりに昴へパス。

「ん」

 投げる動作をして、投げずに相手がひるんだところに向かって。

「てい」

 速球を投げた。

「級長、あうとー」

「なぜだぁぁぁぁ!!」

 後ろ向いたからじゃないかなぁ。

「あと3人か……」

 しかし、試合が終わる前に鐘が鳴った。

「ふっ。鐘に救われたな」

「級長はその前に沈んだけどな」

「うぐっ。言うな」

 ボールを片づけて、教室に向かう。

 僕は途中、水場によって教室に向かった。


 数学の授業(ほんの少しハイペースだった)が終わって。放課後に保健室に立ち寄った。

「誰もいないのか」

 何と鍵もかけないままここの教員はどこかに行ってしまったらしい。

確かに最近は治安も良くなった方ではあるけど、どこに誰がいるのか分からないんだからもうちょっと警戒すべきだよなぁ。

「ガーゼは……」

 無断で拝借するのは心苦しいが、結構痛くなってきた。

「包帯……いや、絆創膏でどうにかなるか」

 どうにかならなかったら医者に行くとして。

「これでよし」

 書置きも残して、保健室を去る。アルクが待っている教室まで行かないと。


「おや?」

 教室にはアルクの他にも何人か女子がいた。

「アルク、ここはどうすればいいんですの?」

「ええっと、多分パルくんは……」

 どうやら、普段一緒にいる子のようだ。

「ごめんね、手伝わせちゃって」

「いえいえー。今日はお休み貰ってしまったのでちょうど暇だったのですよー」

「それにそういうのならありがとうと言ってほしいですわね。せっかくこの私が手伝っているのですから」

「ええと、手伝ってくれてありがとう」

「礼には及びませんわ」

「しかし、パルミラくんが怪我してるなんてよく気づきましたねー」

「うん。数学の時にちょっと痛そうにしてたから、やっぱり手を怪我したんじゃないかなぁって」

 ばれないためにわざわざ放課後になってから保健室に行ったというのに。アルクに見られていたとは。

「そこで、彼の代わりに頑張ってあげるんですねー、ふふふー」

「こらシロエさん。野暮なことは言ってはダメですよ」

「分かってますよー、でもー、そうですかパルミラくんですかー」

 ……なんか、僕が聞いたらマズイ会話になってやしないかい。これ。

「シロエちゃん、どうして私の方見て笑ってるの?」

「私見を言わさせてもらえばー、パルミラくんもまんざらでもなさそうでしたしー」

 誰が誰に対してまんざらそうでもなかったって?

「話はするのだけど、大体が表層だけでしたわよね。親しい人はいらっしゃったみたいですけど」

「え? え? 二人とも何のこと?」

 ……マズイ。ひじょーーにマズイ。

 例えば、ここでこそこそ聞いていたみたいなのがばれたら、シロエさんには生暖かい目で見られるだろうし、カメルンさんにはひどい言葉でなじられそうだ。

 しかし、男には引いてはならぬ場所があるという。今こそその時よ!! (多分違います)

「パルミラさんとは同じ委員になりましたしー」

「……正直なところどうなんですの?」

「え? どうって何がどうなの?」

 うわー、うわー。アルクがあの性格なせいで僕まで焦らされるという結果に。

「さっき、野暮なことは訊いたらダメって言ってたのはどこの誰でしたかねー」

「野暮なことを言ってはダメとは言いましたわ。でも、気になりますもの」

「ですよねー。それでどうなのアルクちゃん」

「だから、何がどうなの?」

「ええい、まだるっこしいですわ。はっきりとお訊ねしますわね」

 踏み込むのか。そこで。

「パルミラさんとお付き合いなさっているのではありませんの?」

 良かった。そういう質問か。

 それなら答えはノーだし。

「付き合う? パルくんは委員で一緒だけど、そういうこと?」

 さすがだアルク。

「これはー、なかなかの返しですねー。素じゃなかったらとんだ人かとー」

「くっ、天然を見誤っていましたわ」

「え? 違うの? それじゃあ、あの時はたまたま一緒になって遊びに行ったけど、あれがそうなのかな」

 そういえば7月真ん中らへんになんだか大所帯になって遊んだな。

「あの時というのは少し気になりますけどー。たまたまって言っているからちょっと違うみたいですねー」

「仕方ありませんわ。より直接的に聞きますわね。パルミラさんと恋人の関係なのですか?」

「へ?」

「おおー、いったー」

 だから、答えはノーだから、そう言えばいいんだけど。

「パルくんと、恋人?」

「そういう関係にあるんですの?」

「わくわく、わくわく」

 シロエさんはこの類の話が特に好きみたいだな。普通は口に出して言わない。

「恋人ってあの、お父さんとお母さんみたいなこと?」

「恋人がより発展して夫婦になったらそうなりますけど。概ね間違ってはいませんわ」

「どうかなー、どうかなー」

 何やらアルクは考え込んでいる。と思ったら。

「わ、わ、わ、わ、わぁーーーーー!!!! わぁーーー!! うわぁーーー!!!」

 顔が赤くなって変な声を上げ始めた。

「ど、どうかされたんですの?」

「大丈夫ですかー?」

 シロエさん結構冷静だな。

「私が、パルくんと、恋人!? うあぁーーー!!」

「え、もしかして想像するのも嫌だったんですの?」

「ああー、だからこの声なのですねー」

 だとしたら、明日から学校来ないぞチクショウ。

「こ、恋人ってあのその一緒にどこかにお出かけしたり、て、手とか繋いじゃったり、あ、あ、あわよくば、ち、ちゅーとかしたりするあの恋人?」

「ええ。その恋人ですわよ。というか他に何の恋人があるというんですの」

「お仕事が恋人の方とかー」

それは意味が違う、というか使用方法みたいなのが違う。

「パ、パルくんと恋人……ほわぁ」

「どこかに旅立たれましたわね」

「私たちはどうすればいいのでしょうかー」

「まだ残っていますし、このまま作業続行で構わないのではございませんか?」

「それもそうですねー。ちゃちゃっと終わらせちゃいましょう」

 さてと。これ以上聞くのもやめよう。

 かといって、この状況で教室に入るのもマズイ訳で。

 仕方ないから、屋上にでも行くとしようか。


「うーーん、いい風……さむっ」

 木枯らしは冷たさを伴っていた。

「図書館の方がよかったかな」

『私としては屋上の方がよかったわね』

「うわっ!」

 びっくりした。まさか、僕の独り言に反応があると思わなかったから。最近はあまり話しかけてこなかったけど、レネさんだ。

『最近はパルが仕事あるからこっちには招集してないのだけど、どうしたの? 暇なの?』

「いえ、手に怪我したから保健室に行っていたら、教室には――」

『今屋上よねすぐ行くわ』

「は? レネさん?」

 突然、途切れたかと思うと、次の瞬間屋上の扉が開いた。

「パル、どこ?」

「なにしてんですか、レネさん。あなたにも仕事あるでしょう」

「優先順位。ちょっと手診せなさい」

「あ、はい」

 言われた通り、手を差し出す。

「何があったの?」

「体育の授業中に燃える魔球を取った時ですかね」

「そう。火傷はしてないみたいね」

「はい。一応直後に水で洗いましたけど、何ともありませんでしたし」

「良かった。手でも折ったのかと思ったわ」

 少しの間、僕の手を診ていた彼女は心底ほっとしたような顔をのぞかせた。

「そんなわけないでしょう。だったらここに居ませんって」

「それもそうね。でも、パルは無茶をする時があるから」

 自分の過去を振り返ってみた。

「したことありましたっけ?」

「そう返してくるから不安になるのよ」

 呆れたようにため息を吐かれた。

「それで、今この状態では作業とかできないので――」

「それなら家に帰って、お医者様に診てもらった方がいいのではないかしら?」

「それが、今の教室には少し入りにくい状況で」

「ふーーーん」

 ジト目で見られた。

「なんです、その目は」

「ま、いいわ。……そうね。パルのクラスは提出が多少遅れても目をつぶってあげるわ」

「助かります」

 今の調子ならアルクがどうにかしてくれそうではあるけど。

「まず、あなたはその手をさっさと完治させなさい。それじゃあノートも取れそうにないのでしょう?」

「いや、それはさすがに……。多少は痛いですけど、それぐらいはできますよ」

「な・お・し・な・さ・い」

「はい」

 強制だった。なんという。

「それじゃあ、今日は帰りましょう。医者の所まで一緒に来てもらうわよ」

「いや、レネさん仕事あるでしょ? 学園祭まで20日切りましたよね?」

「ちょっと待って…………よし。いいわ」

「今、能力使いましたよね?」

「双子に今日の分終わらせておくように指示したわ」

 漆原……スマン。僕もレネさんを止めれそうにない。

「それじゃ行くわよ」

「バッグ教室に置いたままですけど」

「校門の前で待っていて。あなたの分も持ってくるから」

 と言う間にレネさんは屋上を去っていた。

「早いな」

 心配してくれるのは有り難いことだけど、過剰すぎる気がしなくもない。

「まあ、行くしかない……よな」

『そこから直接校門に行って。もうあなたのバッグと私のバッグは回収したから』

「早いですね。分かりました」

 アルクに一言断る暇もなさそうだ。

 このまま校門に向かうとしよう。



 結論から言えば、僕の手は擦った感じの怪我で、全治1週間と診断された。

「良かったわね、パル」

「ええ。まあ」

 若干の居心地の悪さを感じながら病院を出る。

 ……だって、周りの人は明らかに金持ちっぽいんだもの。

「今日はパルの家に夕食作りに行きましょうか?」

「いえ、簡単に作れるものか、ありあわせの物でも買って食べますから」

 もしかしたら何も食べないかもしれないが。

「そう。それじゃあ、パルの体でも洗ってあげましょうか」

「健全な少年をからかうのは良くないですよ。本気になって狼にでもなったらどうするんです」

「…………」

 彼女がなにか呟いたけど。

「っと、バッグありがとうございました」

「あら、パルの家ね」

 彼女から自分のバッグを受け取る。

「何か困ったことでもあったら、私の家に連絡ちょうだい」

「大丈夫ですって。こんな怪我程度じゃあ何も困りませんよ」

「……そう。それじゃあまた明日」

「ええ。また明日。今日はありがとうございました」

「礼を言われるほどのことじゃないわ。当然のことよ」

 私にとって。そう言って彼女は帰っていった。


 僕は家の中に入って、ため息を一つ吐いた。

 バッグをほおり投げ、玄関にうずくまる。

 そしてまた一つ、ため息を吐いた。



 僕は彼女が僕に向けている気持ちを理解しているつもりではある。

 はっきりと言われたことはないし、自意識過剰であるのも理解している。

 でも、さっきのつぶやきも本当は聞こえていた。


 でも、僕は彼女の気持ちには応えれない体質だ。今の自分の気持ちが別の子に向いているというのもあるけれど。



 でも、考えたことはある。彼女が僕とそういう関係になったら、きっと楽しいだろうなって。



 でも、僕は彼女との関係を壊したくなかったし、このままでいたいと思っていた。

 だから、僕は彼女に一歩も踏み込んでいない。



 でも、だからこそ。

 今このタイミングで清算しておかなければならないことだったのかもしれない。

 例えそれで彼女との関係が崩れようとも。

 今日、この日ぐらいにしかチャンスはなかったのだから。



 でも、後悔というのは後で悔いるから後悔なわけで。

 もしも、僕が明日だけでなくもっと先の未来も視れるなら話は違うかもしれないけれど。

 そんなことはないから。


 きっと、僕は彼女に一歩だけでも踏み込んでおけばよかった。と後悔するのだ。


あと10話ぐらいでなろうの方での連載を終了します。

何故そういった風にするのかというのは終わり方を見てもらえばわかると思います。


自分のサイトの方では、連載を続ける予定ですのでそちらを見ていただけると嬉しいです。

http://www.geocities.jp/leonhardt0724/

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