アルク8
ずいぶんと遅くなってしまいました。申し訳ありません。
最近、忙しくこれからも忙しくなりそうなのでペースダウンすると思いますが、絶対に最後まで書きますので、おつきあいのほどよろしくお願いします。
「これで今日の会議を終わります。お疲れさまでした」
イスのがたがたいう音が響き、扉が開く。外の少し冷たくなってきた空気が入り込んできた。もう半袖では外を歩きたくないだろう。この西の大陸は秋が深まるのが早い。
「アルク、終わったよ」
「え? あ、うん」
「片づけてから行くから、先に教室に行っておいて」
「…………」
「アルク?」
「う、うん。分かった」
週が変わっても彼女の様子は変わることがなかった。
未だに覇気がないような雰囲気のままだった。
僕が話しかけても応答もほとんどない。
どうしたものかと思っていた次の日にそれは起こった。
「お金がない?」
「うん。生徒会の人からもらったはずのお金がないの!!」
今週、いろいろな資材を買うためのお金を生徒会から支給される予定だった。それがないという。
「どんな袋に入っていたとか、落としたところの心当たりはある?」
「えっと袋は茶色の封筒なんだけど、どこで落としたかの心当たりがないの……」
「了解。それじゃあアルクは今日自分が通ってきた道をたどってみて。僕は職員室とかに掛け合ってみるから」
「ごめんね、パルくん」
「たまにはこんなことだってあるでしょ」
まずは職員室に行って落とし物がなかったか確認するとしようか。
「ハズレか」
今後届けられることがあるなら校内放送で呼び出してもらえるように言っておいたけど。期待しない方がいいだろう。
「次はレネさんのところかな」
『はい? 私がどうかした?』
「うわっ!!」
何の前触れもなく『声』が聞こえた。
『私の名前が聞こえた気がしたのだけど、呼んだかしら?』
「どんだけ地獄耳なんですか」
『校内にいる人の声は全部聞こえるぐらいには』
今度から発言には気をつけよう。
『それでなにの用事かしら』
「今から生徒会室によろうと思っているのですが、今いらっしゃいますか?」
『ええ。いるわよ』
「では、今からそちらに行きます」
『はーい、待ってるわよ』
生徒会室にいるみたいだからさっさと会いに行くとしよう。
「失礼します」
「開いてるからどうぞ」
「はい」
扉を開く。奥の席にレネさんが座っていた。
「他には誰もいないんですか?」
「分かってるでしょ。私の他にこの生徒会に委員って言えば」
「僕は入ってないですよ」
「そんなことはないわよ。あなたは副会長になってるのだから」
「またそんなことを」
「ふふふ。それでなにの用事かしら」
「ああ。えっと落とし物についてなんですが、うちのクラスのアルクがお金の入っている茶封筒を落としたのですけどここに届けられていませんか?」
「届けられてないわよ。そもそも落とし物は職員室に届けられるでしょう」
「そうですけど。職員室で訊いてみてもそんなものはないと」
「……ちょっと気になったんだけどお金の入った茶封筒って生徒会が渡すはずの封筒?」
「ああ、そうです」
「おかしいわね。私はアルカンシエルに渡した覚えはないわよ」
「え?」
「だってほら、あなたのクラスの分はここにあるし」
「はい?」
2-Cと書かれた茶色の封筒をレネさんが持っている。
封筒を揺らすと硬貨の音がした。
「はい、どうぞ」
「あ、どうも」
あっさりと手に入った。
「それで、何でアルカンシエルはお金を落としたとか言い始めたのかしら」
「分かりません」
「最近ちょっと様子がおかしいわよね。何か知ってるの?」
「いえ、というかレネさん気づいていたんですね」
「あれだけ様子がおかしければ誰でも分かるわよ」
「そうでしたか」
ちょっとしか会ってないはずなのによく気づいてたな。
「まあ、先週から様子がおかしかったんですけど」
「へえ。そうなの」
「レネさんはおかしくなったことあります?」
「……ええ。あるわね」
「そういうときにどういう風に対応しましたか?」
「……きっと人それぞれだからあんまり私のは参考にならないと思うわよ」
「それでも出来るのなら教えてください」
「そうね……。私は必死にそれを隠してたわね。それで時間が過ぎるのを待ったわ」
「それでは」
「あなたが欲しい回答ではないわね」
「うぐっ……」
先回りされた。
「彼女の場合すぐにでも解決しそうなら聞き出して、それを解決してあげればいいんじゃないかしら」
「それが無理そうなら」
「時間が解決してくれるわよ、きっと」
「そんなもんですか」
「そんなものよ」
うん。昨日も姉さんから同じようなことを言われた。
「じゃあ直接聞き出すにはどうすればいいでしょうか」
「それは……体当たりでないとダメなんじゃないかしら」
「うっ……やっぱりそうですかね」
「あなたは彼女から信頼されてないの?」
「あるていどは……信頼されてると……嬉しいなあと」
「あ、そう」
「投げやりですね」
「パルの問題だから」
「その通りですけど」
しかし、レネさんは姉さんと気が合いそうだ。性格が似ている。
「お金はあったから今の問題は解決したんじゃないかしら?」
「そうですね。アルクに見つかったことを言ってきます」
「それがいいわね。まだ探しているでしょうし」
「はい。それではありがとうございました」
「私なにもしてないに等しいけどね」
「それでもですよ。ありがとうございました」
「そう。またいらっしゃいな」
扉を閉めた。アルクがいそうなのは、一階かな。先に帰ったことも考えると靴箱を確認しておきたいし。
「ふむ。靴がある」
でも、あるのは上靴のほうだけど。
「一応教室にも行ってみようかな」
彼女なら僕の言うとおりに今日来た道筋をたどって家に帰ったみたいなのもありそうだしね。かばんを教室に置き忘れて。
「そしてそれは予想通りになったのでした」
どこにナレーションしてるのかは自分にも分からないけど、まさか自分の考えているとおりになっているとは思いもしなかった。
「さてと」
持っていくとしますか。彼女の家は一度近くまで行ったことがあるから分かるし。
もう一度靴箱を確認。やっぱり校舎を出ている。追うとしようか。
先日、アルクと一緒に帰ったルートを辿っていく。途中で見つかることを期待したのだけど、残念ながら家につくまでに見つからなかった。よってアルクの家のベルを鳴らすことになった。
リンゴーン。普通の家のベルの音が鳴った。
「はーい」
若い女の人の声が聞こえた。
「いらっしゃい。あなたが噂のパルくんかしら?」
「僕はいつの間に噂になっていたのでしょうか」
「ええ、最近。特にうちの娘の周りで」
「はぁ。そ、それはどうも」
本当ならそれはとても嬉しい。
「それじゃ上がって上がって」
「いやいや、僕はアルクに……アルカンシエルさんに言伝があってきただけですから。今家にいますか?」
「ええ。部屋の中にこもっちゃったけどね」
「えっと、それじゃあ茶色の封筒は見つかったって伝えてくれますか」
「そういえばあの子でもわかるかしら?」
「はい。問題ないと思います。あとこれを」
「あの子のバッグね。持って帰っているようには見えなかったから気になっていたのよ。ありがとう」
「いえ、どういたしまして、お姉さん」
「あらあら。そう言ってくれるのは嬉しいけど私はお姉さんじゃないわよ」
「えっと、従姉妹の方ですか?」
「いいえ。あの子の母親をやらせていただいている者ですよ」
「え!!」
驚いた。うちの姉さんと同年齢、もしくは下に敷く感じかと思ったらまさか逆とは。思いもよらなかった。人は見かけによらないとはこのことを言うのだろう。
「本当にあなたには迷惑をかけっぱなしのようね。どうかしらうちのアルクは」
「どうって、どういう意味ですか」
「うふふふふ」
その微笑で誤魔化すのは少し怖いです。
しかし、アルクがいないならこれはチャンスかもしれない。アルクがおかしいのは僕よりも家族の方の方が知っているだろう。
「あの、最近のアルクの様子がおかしいのに心当たりはありませんか?」
「ないことはないのだけどね。でも私たちが聞いてあげるより、あなたが聞いてあげた方があの子も喜ぶんじゃないかしら」
「えっとそれは」
「私から言うことも言えることもないけれど、あの子が今迷っているのは本当。だからあなたがどうにかしてくれると私としてはとても嬉しいわね」
「はぁ。なんとなく分かりました」
結局、アルクから動いてくれないのなら僕が動くしかないのか。
これで用事は終わったし、ここらで退散させていただくとしようか。
「それでは失礼します」
「はい。またいずれ」
いずれ? その言葉に引っ掛かりを覚えたものの、もう用事もなかった僕はそのまま家路についた。
「あ、お金持ったままだった」
このお金はアルク個人のものでなく、学園祭で使う共通のものだからいいのだけど。
次の日。
アルクは地面にのめりこみそうだった。
というほどに落ち込んでいた。
傍から見ていても分かるほどに彼女は落ち込んでいた。昨日のミスもたいしたことではないのにね。
「ほらアルク、手が止まってるよ」
「あ、ごめんなさい」
そして今は自分たちのクラスのパンフレットを作って提出しなければならないのだが、アルクの作業が度々止まる。あまり進まない。
「アルク? 何かあったの?」
「ううん。何もないよ」
と言う割には分かり易いほどに落ち込んでいるじゃないか。
どうやって聞き出そうか。やっぱり直接しかないのかなぁ。
「ね、ねぇ、パルくん」
「ん? 何?」
アルクが何か言いたげにこっちを見てきていた。
「ううん。何でもない」
でも、僕がそちらに顔を向けたら何も言わずにうつむく。という流れがさっきから何回もあるのだ。
ううん。何とかせねば。
「ねぇ、アルク。何か困ってることはない? 解決はできないかもしれないけどそれでも人に言えば少しは楽になると思うんだ。だから」
「パルくん」
僕の言葉を遮るように、僕の名前を呼ぶ。
「……僕には言えないかい?」
「ううん。これは誰にでも言いづらいから」
「そうか」
それじゃあしょうがないかな。無理に聞き出すことも出来ないし。
「じゃあ準備が出来てからでいいから、アルクが思ってること僕にも教えてほしいな」
「……うん。分かった」
「それじゃあ今日は帰ろうか」
「え、あ」
会話している間に作業は完了した。
「僕はこれをレネさんのところまで届けてくるからアルクは先に帰っておいていいよ」
「……やっぱり、パルくんは」
「ん? 僕は?」
「それじゃあね、パルくん!」
「へ? あ、うん。それじゃあ」
僕の声は彼女に聞こえただろうか。彼女はすぐに僕の視界から消えてしまった。
「何か用事でもあったのかな」
この時の僕はそれぐらいにしか考えてなかったのだ。




