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オープニング-2




6010年7月12日


「はっ、はっ、はっ、はっ」

 目覚まし時計もなっていない時刻、6時ぐらいに目が覚めた。起きた気分は最悪。そしてこれから始まる一日も同時に最悪なものになると分かってしまった。

 とりあえずのろのろと体を動かし、顔を洗いパンだけを焼いた。洗濯物も干す気にはなれない。仕方ないので普段よりも相当早く、家を出ることにした。憂鬱な気分なのだがしょうがない。学校にはいつも通り、通わなければならないのだから。


 暦の上では一応秋なのだが、夏が終わったばかりのこの時期は、朝でも少し暑かった。それでも、いつも登校する時間よりははるかにましだ。今日は逆に早すぎて誰もいない通学路を通って行った。


 学校の前に差し掛かったが1人か2人見かけるぐらいで、他には誰もいない。今いる連中も朝練のある部活に入っている連中だろう。そんな連中は校舎の隣にある、部活塔の方へ駆けて行った。それを横目に見ながら校舎の中に入っていった。


 校舎の中は閑散としていて、いつもざわついている廊下も今だけは静かだった。その中を淡々と歩く。階段を上り3階にたどり着いた。自分の教室を覗いて見るとすでに人がいた。女子の委員長だ。真面目な感じの子ではあったが、こんなに早く来て何をしているのか。僕には到底無理なことだ。

 あまり人とは出会いたくなかったのでそのまま足を階段の方へ向けた。


 ギギィと、鉄がさびた音のする扉を開けて屋上へと出てきた。たまに来るが鍵は掛けられてない。休憩するためのスペースとして使えるようベンチが置いてあるのだが、さすがに今の時間では誰もいないようだ。

 ふと耳をすませると部活塔の方から音が聞こえてきた。トランペットの音色だ。個人的には正直あまり好きではない。どちらかというとピアノやヴァイオリンの音色の方が好きだ。しかし、今は屋上にいたかったのでその音に耳を澄ましていた。


 音色も消え、校舎の方が徐々に喧騒で包まれる中、そろそろ潮時かと思い屋上を後にしようとした時だった。校門から校舎までの道より少し外れたところにあるグラウンドで大きな声がした。

「今日はお前のためにこうして部下も持ってきたんだよ!!」

「こいつですか?」

「ああ。女一人だからって遠慮はいらねぇ! やっちまいな!」

 腕にギプスらしきものを巻いた男がわめいていて、周りの男が女学生に突っ込んでいったようだ。しかし、女学生は動じることもなく向かってきた男たちの水月を正確に突き、無力化していくのが見えた。いや、正確に言うとそこまでは見えないのだが、彼女ならきっとそうするのだろうということぐらいは推察できた。

 やがてそこに立っているのは彼女と腕にギプスを付けている男の2人だけになった。男は目の前の惨状に怯み、

「おぼえていやがれーー!」

 負け犬の代表格のお決まりの言葉を吐いて逃げて行った。

 その後、グラウンドは女子の黄色い悲鳴でとても五月蝿くなった。ここよりは教室の方が静かになっているだろうからと思い、教室へ戻って行った。

 

 戦っていた子はカタリナ・ノルティモ。僕も聞かされたから名前ぐらいは知っている。隣のクラス2-Cにいる女の子で確かめたことはないがおそらく僕らと同じ被害者の一人だ。

 さて、聞かされたと言ったが、そんなことを聞かさせてきたやつが向こうから歩いてくるのが見えた。

「やあ、フレン」

「おう、パルじゃないか。見たか? さっきのやつ」

「屋上から見てた。なかなか凄かったな」

「だよなー。あいつらには困っていた人たちも多かったけど、今回ので少しは落ち着いてくれると思うんだよなー。ところでさ、その彼女の写真いる?」

「僕よりも女の子に売った方がいいと思うよ。きっと言い値で買い取ってくれる」

「そうか。じゃあ今から女の子に売ってくるぜ!」

 言うが早いがフレンはどこかへ駆けて行った。

「元からそのつもりだっただろうに。なんで聞いていくかな」

 お調子者で、情報収集が得意で、なにかとかこつけては校内の女の子の写真を売ろうとしてくる、未だに原理がよくわからない僕の数少ない友人と思える一人だ。こんな僕と5年間付き合っているのだから、きっと彼は根がお人よしなのだと、とりあえず思うことにしている。

 しかし、最近はフレンとあまり会っていない気がする。新聞部の部長をしているから、多分そのせいで忙しいのだろう。もうすぐ予鈴が鳴るというのに。


 こちらは何もしていないのだから遅れる謂われはない。教室に入ると小声で会話するようになった。どうやらあの人が話しかけてきているようだ。始業ベルまで続き、相変わらずすぐに終わった朝のHRも終わり、ちょうど授業が始まる直前のことだった。

「皆の衆、遅れた!」

 偉そうな口調と共に入ってきたのは、僕たちよりもはるかに小さく、年齢も5歳は歳下に思える女の子だった。

「イザ! 久しぶり!」

「お、おおう。確かに久しぶりじゃが……これ、抱きつくでないわ!」

「この感触久しぶりよ!!」

「はぁ。癒される……」

「はーーーなーーーせーーーー!!」

 もみくちゃにされていた。見ていられなかった。

「そうしてるのはいいけど、次の授業始まっちゃうよ?」

 僕が独り言のように言うと、女の子はイザを除いて全員着席した。理由なんか一つしかない。

「おう。これから授業を……イザ。来たなら席につけ。授業始めるぞ」

「は、はひぃ」

 次の授業は我らが担任、ニクラス先生の授業だ。あまり下手なことはできない。

 もみくちゃにされていたイザは、何とか立ち上がり自分の隣の席に来た。椅子の位置が高く座るのに苦労しており、座ったとしても足をぶらぶらさせていた。

「それじゃ、始めるぞ。まずは前回の続きからだ」

 何事もなかったかのように授業が始まった。

「パル」

 小声で隣の主が話しかけてきた。

「なに?」

「ありがとうなのじゃ」

 満面の笑顔で言われてしまった。とはいえこちらは感謝されることに思い当ることがなかったので不思議そうな顔をしていたら

「まあ、ええわい」

 笑顔のまま授業を受けていた。おそらく、研究の方が一段落したのだろう。

 この子の名前はイザ・ソリア。れっきとした17歳であって、ズルしてこの学校に入ったわけではない。最初クラスが一緒になったときには驚いたものだが、今は慣れた。天才と言われており試験では常にパーフェクトをたたき出し、クラスの平均点の向上に一役かっている。

 普段は研究所にいるのだが、たまにこうしてクラスの中で一緒に勉強している。学業の免除がされていなく、出席日数は稼いどかないといけないからだそうだ。

「ニクラス!そこは我が答えようぞ!」

 ……おそらくこの校内で唯一、ニクラス先生と対等に渡り合える人物だと思う。


 そんなイザの登校もあったが、それ以外は何事もなく昼をむかえた。僕は昨日と同じ場所に行くとした。

 唐突だがこの大陸の木々は赤い。僕の知り合いの中で最も変人の男が言っていたことだから、とても信用ならないことだったけれども、普通は緑色なのだそうだ。赤はきれいな色だが、あまり目にはよくない。だから、緑色に囲まれた中で食事をとってみたいと思う。

「……」

 どうでもよいことを考えながら昨日と同じ位置に僕が行くと、また昨日と同じく昨日と同じ場所に彼女がいた。

「……」

 今日は向こうも僕が来たことに気付きじっと見てきた後で、アンパンを咀嚼した。

「……」

 昨日よりもおそらくだが咀嚼そしゃくスピードが速い。何か急いでいるのだろうか。

「……」

 僕が弁当箱の中を半分食べ終わる前に、彼女はここから森の奥の方へ立ち去って行った。

 とりあえず、今日わかったことといえば、彼女が学校の生徒で僕と同じ学年だったということだ。この学校は制服で学年を見分けることが出来る。だからこそ分かったことだ。

 僕も弁当を食べ終わったので、持ってきた本を読むことにした。少し暗いが見えないことはない。なんとなく買って読んでいる推理小説ではあるが、意外と面白い。また続きを読むとしよう。


 昼の授業は退屈だった。何が楽しくて古語まで習わないといけないのかが理解できない。

 隣のイザだってお休みモードだ。もっとも彼女はすでにこの程度のことは知っていると思われるが。とはいえ僕も知っているため、することもなくぼーっと外を眺めていた。

 授業が全て終わったため、今日は帰ることにした。たぶん明日レネに文句を言われるだろうが、かまわない。授業を終えてすぐに、予兆は来ていた。


どこにも寄り道をせずにまっすぐに家に帰った。タイムセールがあるとかそんなことを考えている場合ではない。かろうじて玄関の鍵だけはかけ、靴を脱ぎ捨て、バックをその辺に捨て置き、洗面所へ向かい、

 そして――――――――







 目が覚めた。







6010年7月12日


「はっ、はっ、はっ、はっ」

 目覚まし時計もなっていない時刻、6時ぐらいに目が覚めた。起きた気分は最悪。そしてこれから始まる一日も同時に最悪なものになると分かってしまった。

 とりあえずのろのろと体を動かし、顔を洗いパンだけを焼いた。洗濯物も干す気にはなれない。仕方ないので普段よりも相当早く、家を出ることにした。憂鬱な気分なのだがしょうがない。学校にはいつも通わなければならないのだから。


 暦の上では一応秋なのだが、夏が終わったばかりのこの時期は、朝でも少し暑かった。それでも、いつも登校する時間よりははるかにましだ。今日は逆に早すぎて誰もいない通学路を通って行った。


 学校の前に差し掛かったが1人か2人見かけるぐらいで、他には誰もいない。今いる連中も朝練のある部活に入っている連中だろう。そんな連中は校舎の隣にある、部活塔の方へ駆けて行った。それを横目に見ながら校舎の中に入っていった。


 校舎の中は閑散としていて、いつもざわついている廊下も今だけは静かだった。その中を淡々と歩く。階段を上り3階にたどり着いた。自分の教室を覗いて見るとすでに人がいた。女子の委員長だ。真面目な感じの子ではあったが、こんなに早く来て何をしているのか。僕には到底無理なことだ。

 あまり人とは出会いたくなかったのでそのまま足を階段の方へ向けた。


 ギギィと、鉄がさびた音のする扉を開けて屋上へと出てきた。たまに来るが鍵は掛けられてない。休憩するためのスペースとして使えるようベンチが置いてあるのだが、さすがに今の時間では誰もいないようだ。

 ふと耳をすませると部活塔の方から音が聞こえてきた。トランペットの音色だ。個人的には正直あまり好きではない。どちらかというとピアノやヴァイオリンの音色の方が好きだ。しかし、今は屋上にいたかったのでその音に耳を澄ましていた。


 音色も消え、校舎の方が徐々に喧騒で包まれる中、そろそろ潮時かと思い屋上を後にしようとした時だった。校門から校舎までの道より少し外れたところにあるグラウンドで大きな声がした。

「今日はお前のためにこうして部下も持ってきたんだよ!!」

「こいつですか?」

「ああ。女一人だからって遠慮はいらねぇ! やっちまいな!」

 腕にギプスらしきものを巻いた男がわめいていて、周りの男が女学生に突っ込んでいったようだ。しかし、女学生は動じることもなく向かってきた男たちの水月を正確に突き、無力化していくのが見えた。いや、正確に言うとそこまでは見えないのだが、彼女ならきっとそうするのだろうということぐらいは推察できた。

 やがてそこに立っているのは彼女と腕にギプスを付けている男の2人だけになった。男は目の前の惨状に怯み、

「おぼえていやがれーー!」

 負け犬の代表格のお決まりの言葉を吐いて逃げて行った。

 その後、グラウンドは女子の黄色い悲鳴でとても五月蝿くなった。ここよりは教室の方が静かになっているだろうからと思い、教室へ戻って行った。

 

 戦っていた子はカタリナ・ノルティモ。僕も聞かされたから名前ぐらいは知っている。隣のクラス2-Cにいる女の子で確かめたことはないがおそらく僕らと同じ被害者の一人だ。

 さて、聞かされたと言ったが、そんなことを聞かさせてきたやつが向こうから歩いてくるのが見えた。

「やあ、フレン」

「おう、パルじゃないか。見たか? さっきのやつ」

「屋上から見てた。なかなか凄かったな」

「だよなー。あいつらには困っていた人たちも多かったけど、今回ので少しは落ち着いてくれると思うんだよなー。ところでさ、その彼女の写真いる?」

「僕よりも女の子に売った方がいいと思うよ。きっと言い値で買い取ってくれる」

「そうか。じゃあ今から女の子に売ってくるぜ!」

 言うが早いがフレンはどこかへ駆けて行った。

「元からそのつもりだっただろうに。なんで聞いていくかな」

 お調子者で、情報収集が得意で、なにかとかこつけては校内の女の子の写真を売ろうとしてくる、未だに原理がよくわからない僕の数少ない友人と思える一人だ。こんな僕と5年間付き合っているのだから、きっと彼は根がお人よしなのだと、とりあえず思うことにしている。

 しかし、最近はフレンとあまり会っていない気がする。新聞部の部長をしているから、多分そのせいで忙しいのだろう。もうすぐ予鈴が鳴るというのに。


 こちらは何もしていないのだから遅れるいわれはない。教室に入ると

『パル、どうしたの?』

 声が聞こえた。周りを見ても自分に向かって声をかけた人は誰もいない。間違いなくレネさんだろう。

「どうしたって言われても。どうもしませんよ」

『そんなわけないでしょ。どうしてこんなに早く来ているのよ』

「たまたまですよ」

 自分の席に着く。

『明日は槍が降るわね』

「別に僕は遅刻魔でも何でもないんですけど」

『むしろ、いつもこのぐらいに来れるのならそうなさい』

「無理です。勘弁してください」

 と僕がつぶやいた次の瞬間、始業のベルが鳴った。それと同時にレネさんとの会話も途切れ、僕は姿勢を正す。とはいえその姿勢も、相変わらずすぐに終わった朝のHRとともに終わり、そして教室に響き渡る大声が聞こえたのは、授業が始まる直前のことだった。

「皆の衆、遅れた!」

 偉そうな口調と共に入ってきたのは、僕たちよりもはるかに小さく、年齢も5歳は歳下に思える女の子だった。

「イザ!久しぶり!」

「お、おおう。確かに久しぶりじゃが……これ、抱きつくでないわ!」

「この感触久しぶりよ!!」

「はぁ。癒される……」

「はーーーなーーーせーーーー!!」

 もみくちゃにされていた。見ていられなかった。

「そうしてるのはいいけど、次の授業始まっちゃうよ?」

 僕が独り言のように言うと、女の子はイザを除いて全員着席した。理由なんか一つしかない。

「おう。これから授業を……イザ。来たなら席につけ。授業始めるぞ」

「は、はひぃ」

 次の授業は我らが担任、ニクラス先生の授業だ。あまり下手なことはできない。

 もみくちゃにされていたイザは、何とか立ち上がり自分の隣の席に来た。椅子の位置が高く座るのに苦労しており、座ったとしても足をぶらぶらさせていた。

「それじゃ、始めるぞ。まずは前回の続きからだ」

 何事もなかったかのように授業が始まった。

「パル」

 小声で隣の主が話しかけてきた。

「なに?」

「ありがとうなのじゃ」

 満面の笑顔で言われてしまった。とはいえこちらは感謝されることに思い当ることがなかったので不思議そうな顔をしていたら

「まあ、ええわい」

 笑顔のまま授業を受けていた。おそらく、研究の方が一段落したのだろう。

 この子の名前はイザ・ソリア。れっきとした17歳であって、ズルしてこの学校に入ったわけではない。最初クラスが一緒になったときには驚いたものだが、今は慣れた。天才と言われており試験では常にパーフェクトをたたき出し、クラスの平均点の向上に一役かっている。

 普段は研究所にいるのだが、たまにこうしてクラスの中で一緒に勉強している。学業の免除がされていなく、出席日数は稼いどかないといけないからだそうだ。

「ニクラス!そこは我が答えようぞ!」

 ……おそらくこの校内で唯一、ニクラス先生と対等に渡り合える人物だと思う。


 そんなイザの登校もあったが、それ以外は何事もなく昼をむかえた。僕は昨日と同じ場所に行くとした。

 唐突だがこの大陸の木々は赤い。僕の知り合いの中で最も変人の男が言っていたことだから、とても信用ならないことだったけれども、普通は緑色なのだそうだ。赤はきれいな色だが、あまり目にはよくない。だから、緑色に囲まれた中で食事をとってみたいと思う。

「……」

 どうでもよいことを考えながら昨日と同じ位置に僕が行くと、また昨日と同じく昨日と同じ場所に彼女がいた。

「……」

 今日は向こうも僕が来たことに気付きじっと見てきた後で、アンパンを咀嚼そしゃくした。

「……」

昨日よりもおそらくだが咀嚼スピードが速い。何か急いでいるのだろうか。

「……」

 僕が弁当箱の中を半分食べ終わる前に、彼女はここから森の奥の方へ立ち去って行った。

 とりあえず、今日分かったことといえば、彼女が学校の生徒で僕と同じ学年だったということだ。この学校は制服で学年を見分けることが出来る。だからこそ分かったことだ。

 僕も弁当を食べ終わったので、持ってきた本を読むことにした。少し暗いが見えないことはない。なんとなく買って読んでいる推理小説ではあるが、意外と面白い。また続きを読むとしよう。


 昼の授業は退屈だった。何が楽しくて古語まで習わないといけないのかが理解できない。

 隣のイザだってお休みモードだ。もっとも彼女はすでにこの程度のことは知っていると思われるが。とはいえ僕もある程度は知っているため、することもなくぼーっと外を眺めていた。


 授業が全て終わったため、今日は帰ることにした。たぶん明日レネさんに文句を言われるだろうが、かまわない。授業を終えてすぐに、予兆はすぐそこまで来ていた。


 どこにも寄り道をせずにまっすぐに家に帰った。タイムセールがあるとかそんなことを考えている場合ではない。かろうじて玄関の鍵だけはかけ、靴を脱ぎ捨て、バックをその辺に捨て置き、洗面所へ向かい、

そして――――――――



 



吐いた。



それはもう見苦しいほどに




吐いた。




洗面台に向かって胃の中のものをぶちまけ続けた。




途中から吐き出すものがなくなった。




胃酸が出てきた。




倒れた。




床が冷たい。




そしてそれでも地に向かって嘔吐し続けた。




酸っぱい。





キモチワルイ





鼻からも何か出てきた。







ナニガキモチワルイノ







咽びかえるような液体の海が作り出した腐臭。








ワカラナイ







それでまた吐き、本当に何も、水すらも出なくなっても吐き続けた。








ボクニハワカラナイ   ワカラナイヨ









身は捩れ、やがて体は胃酸の海に沈みこんだ。ナニカが体に付着する。










ナンデボクハコンナコトヲシテイルノダロウ









何も考えられなくなっても、ただただ吐き続けた。













アア、マホウツカイサマ










ワタシハナニカ

ツミヲオカシタノデショウカ







 











 頭の中では鐘が鳴り響いている。





キモチワルイ





 きっと、零時を告げる世界の鐘だ。





ナカニナニカイル





 その音色は自分の頭を腐らせる。





ソレハソコニハアッテハイケナイ





 鐘の音がますます大きくなり、

 自分が何をしていたのか、どこにいるのかもあいまいになる。









アア。








イッソコノママ

キエテシマエレバイイノニ












 目の前が全て黒色に染まり、

 僕のナニカは暗闇の中に落ちていった。




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