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インタールードアルク2

「ただいま~」

「お帰りなさ――あら?」

 お母さんの不思議そうな声が後ろから聞こえた。

 でも、私は家の中を走って私の部屋に駆け込んだ。

 扉を閉める。

「ふぅ」

 そこで私の力がなくなった。足に力が入らなくなって床にそのまま座り込んでしまう。はしたないなあ、ってお母さんには言われそうだけど。

 ほんの少し頭が冷えてきて最初に浮かんだのは、よく学校からずっと走ってこれたなぁ、ということ。我ながらすごい、って思った。普段はきっとこんなに走れないもの。

「どうしてかなぁ」

 そのまま床に倒れこんだ。冷たい床は、なんだか体の熱くなった私の体に心地いい。熱いのはきっと学校から走ってきたからで、それで、走ることに、なった、原因、は、

「はふぅ」

 う~~~~。なんでかなぁ。また熱くなってきちゃった。床が冷たかったんだから、私の体も冷えてもおかしくないのに。

「うぅ。どうしてあんなことしちゃったのかなぁ」

 ふと、思いついちゃったから言ってみたことが、ホントに出来るか分かんないのに、どんどんどんどん膨らんでってどうしようって思ってたけど、パルくんがうまくまとめてくれて、安心したらなんだかほっとして、近くにいたパルくんに

「はふぅ」

 お父さんにもあんなことしたことなかったのになぁ。でも、ちっちゃい頃にはあったのかも。覚えてないけど。

 なんでパルくんにしちゃったんだろ。

「うぅ~~~~」

 頭がこんがらがってきちゃった。

「アルク~~、もうすぐご飯だから出てらっしゃ~い」

「は~~い」

 そうだ。お母さんに訊いたら分かるかも。

「よし!!」

 勢いよく立ち上がった私の頭に火花が散った。もしかしたらゴンって音が鳴ったかもしれない。

「いった~~~~」

 うぅ~~~。どうして扉の取っ手に頭が当たるかなぁ。

「できたわよ~~、早くでてらっしゃ~い」

 お母さんの声が聞こえたけれど、頭が痛くて返事が出来なかった。


「いただきます」

「いただきま~~す」

 今日の机の上には鳥の唐揚げとサラダとご飯がのっかっている。お父さんはいない。今日はお母さんと2人だけの夕食だった。

「ねぇ、お母さん」

「な~~に~~」

「私って小さい頃はお父さんに泣きついてたりしてたっけ?」

「え、う~~ん。どっちかっていうとお母さんの方に泣きついてたわよ~」

「そうだよね」

 やっぱり。そこは何となくそんな気がする。

「どうしてそんなこと訊いたのかしら」

「えっとねっ、今日学校で――」

 今日起こったことをお母さんに話す。夕食の時の日課だ。といってもお父さんがいないと話すことがそんなになくて自然とその話題になっちゃうんだけど。

「それでそれで――あ」

「どうしたの?」

 パルくんにしちゃったことを話す前に思い出してしまった。

「今日はお父さん帰ってくるかな」

「もうちょっとしたら帰ってくると思うけど。お父さんになにか用があるの?」

「うん。前に向こうから返品されたっていう服があったでしょ。あれがまだ残ってるかなって」

「あれね。もう残ってないんじゃないかしら~」

「え」

 私の背中に汗が伝う。

 嘘だと叫びたくなる。

「どうしたの、アルク。顔が青白いわよ」

 お母さんの口調も変わってるよって言いたかったけど声がでない。

 頭の中はどうしようって言葉で埋め尽くされた。

 パルくんは大丈夫って言ってくれてたけど、それでもこれは私のせいになるのかなという考えが頭をよぎる。

「ただいまーー!! 帰ったぞーーーい!!!」

 そのとき玄関の方から大きな声がした。お父さんだ。私はあわてて駆けだした。

「お父さん、お父さん、お父さん!!」

「おう、どうした我が娘よ。母さんにでもいじめられたか?」

「私がいじめ――もといいじるのはお父さんだけですからご安心を」

「おお、なんかあまりうれしくない言葉が返ってきたがまあよい。何があったんだ?」

「あのね、あのね、前に業者側から突き返されたっていう服があったでしょ」

「おお、あったな。それがどうしたんだ?」

「あれってまだある?」

「あれなら今日処分したぞ」

 目の前が真っ暗になった。

「アルクどうしたんだ」

「話から察するに文化祭で要るのではないかしら」

「あんな服が――文化祭か。普段は着ないであろうが、祭りなら気分で着るやもしれぬな」

「でも今日だったの。間が悪かったわね~」

 お父さんとお母さんが何か話している。でも、内容はちゃんと頭の中に入っていなかった。

「むう。まあ箱ごとゴミ捨て場に運んだだけだからまだ残っておるやもしれんが」

「そうなの~。それなら。アルク、アルク」

 お母さんが何か私に話しかけている。

「よく聞いてくださいね~。お父さんが今から服をとって来てくれるそうですよ~」

「おい、母さん。俺はそんなこと一言も」

 え、ほんとうに?

「ええ。本当ですよ~。アルクはその服を着るんですよね~」

 多分そうなると思うから首を縦に振った。

「……母さん。夕食は後だ。今から会社に戻る」

「は~~い。行ってらっしゃ~~い」

 私はお父さんの背中をぼんやりと見送った。

「ふう。私のことよりも動くのが早い気がしますけど、まあよしとしましょうか」

 ようやく頭が物事を理解してくれた私の脳味噌は、安心したのか部屋の時と同じようにその場に座り込むことを要求した。

「よかった~~~~」

「そうね~~。それで、アルクはそれで何をやるのかしら?」

「学園祭で喫茶店をやることになって。そこで着ることに決まったの」

「それで必要だったのね~」

「うん。そうなの」

 それにしても、お父さんにすごく迷惑かけてしまった。

「お父さんにあんなことまでしてもらってよかったのかな」

「いいに決まってるわよ~。だいたいお父さんはきっとあなたがあの服を着たところを見たいだけだと思うわよ」

「そうなの?」

「そうよ」

 本当にそうなのかな。お母さんが私のために言っているようにしか聞こえないんだけど。

「きっとお父さん帰るの遅いから、もう寝ておきなさい」

「うん。わかった」

 寝る気はないけど、部屋には戻ろう。ここにいても今はしょうがないから。


 部屋に戻った。

 ベッドに倒れ込む。いつかのぬいぐるみが跳ねた。

「本当にお父さんに迷惑かけちゃったな」

 こんな私が委員なんてやってて良いのかな。

 今回はたまたまどうにかなったからよかったけど、もしも明日だったら間に合ってないと思う。

「はぁ」

 この部屋の主も、今の私も、この体の持ち主も、全部私のはずなのに。


 どうしてここにいるのが苦しいの?

 わたしはここにいちゃいけないの?


 このままやってたらパルくんにも迷惑かけることになっちゃいそう。

「先生に頼んでみようかな」

 でも、たぶん無理だ。きっと私じゃあの先生の前に立ったところで何も言えなくなると思う。

「どうしよう」

 問題は解決したはずなのに。

 私の頭の中はまたその言葉で埋め尽くされた。


ここから3話ほど展開進まない短い話が続きます。


か、書くのが楽なようにしたわけじゃないんだからねっ!!

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