休日の一日‐2
6010年7月20日
起床。午前6時。ずいぶんと早い時間帯に起きてしまった。今日は学校がないけど、バイトには行かないといけない。
「え?」
自分の脳味噌を整理していて
「最悪だ………」
思わず頭を抱えたくなった。
今日はとても面倒な一日になるらしい。
「行きたくないなあ」
とは言うものの足は商店街の方に向かわざるを得ない。昨日バイトに出ていない報いだ。仕方ない。
まあ。
もっとも。
今から行くのはバイトじゃないんだけど。
でも、未来を知っているから行かない、という理由ではもしも未来が変わったときに、とても面倒なことになる。だからこそ行かないという選択肢が消える。
結局。
「はぁ」
行くしかないのだ。
大体なにが起こるか分かっていたとしても。
「せんぱーーい」
「来てくれたんですね」
店の前には漆原が立っていた。
「来ないわけにもいかないでしょ。昨日バイトさぼっちゃったんだから」
「それじゃ先輩」
「え?」
腕を両脇から組まれた。
「行きましょう!」
「え?ちょ、ちょっと!?」
どこか別のところに連行される。
「ちょっと待ってよ!今日僕はバイトをするために来たんだよ!?」
「ああ。それでしたら」
「昨日、父を説得したので」
「お父さんも仕方ないと言っていたので」
「問題ありませんよ」
「問題あるでしょ!」
「「えぇ~~」」
「えぇ~~、じゃない!今日は手伝わなくていいの?」
「休日は手伝っていないので。いつも通りです」
「とりあえず今バイトに行っても先輩はすることがなくなりました。暇ですよね?」
「それはそうだけど………」
「というわけで、一緒に買い物ですよ」
「今日は私たちも暇なのでお願いします!」
はぁ。やっぱりこうなったか。まあいいや。たまには後輩に付き合うのもいいだろう。
「いいよ。行こうか」
「「やった~~!!!」」
「行きたいところとかあるの?」
「先輩こっちです!」
「ちょっと買いたい物がありまして」
「荷物持てるでしょう。全く」
「まあ、そう言わずに」
「ほら、行きましょう」
「はいはい」
まあ、ここまでならいいんだけどね。
本当に面倒くさくなるのはこれからなんだよ。
「えっと、次はですね」
都市の中心部にある通りの西通り。図書館やカフェがあったりするここは店も多い。中には5階建てで、その中にいろんな店が入っている場所もある。
「あら。あなた達。奇遇ね」
「か、会長!」
「ど、どうしてここに!」
「まるでここにいてはいけないみたいな口振りね」
「い、いえ!そういうわけではないんですが」
「な、何の用があったのかなあと思っただけです」
「ふうん。そう」
「レネさんもこんなところに来るんですね」
「あなたもよ。こんなところで会うなんて思ってもなかったわよ」
『で、なんで漆原と一緒なのかしら』
「え?」
「どうかしましたか?」
「い、いや。どうもしない」
『理由を教えてもらえるのかしら?』
頭の中に響く声。レネさんのもののようだ。
何で目の前にいるのにと思いレネさんを見ると、ものすごく良い笑顔で笑っておられた。………怖い。
『バイトに行ったんですよ。そしたら』
こちらも小声で返す。
「一緒に着いていってもいいかしら。一人で回るにしても飽きてきたところだから」
「まあ、いいですけど」
「いきなり予定が狂っちゃったね」
『そしたら?』
「何か言ったかしら?」
「いえいえ。何も言ってないですよ」
「あら、私はうるはに言ったのになんで泪が返すのかしら」
「え!?」
「今度はうるはね。2人して何企んでたのかしら」
『バイトはしなくていいから買い物に付き合ってくれって』
漆原はレネさんに気を取られてる。だから小声で話せるのだけど。
というかレネさん。いくら能力を使っているとはいえ、良く2人と会話ができますよね。
「へえ。なるほど」
「か、会長?何がなるほどなんですか」
会長が漆原に何か言ったのだろう。
「「!」」
ものすごく動揺している顔になった。
「ごめんなさいね。邪魔することになっちゃって」
ん?邪魔?
「邪魔ってどういうことです?」
「せ、先輩は気にしなくて良いです!」
「そうです!何でもありませんから!」
レネさんに言ったのにどうしてか漆原から返事が返ってきた。どうしてだろう。
「それじゃ、行きましょうか」
そしてレネさんはとても楽しそうな顔をしていた。
「ふう。これ持っていてもらえる?」
本屋の袋を渡された。
「分かりました、って重い!何冊買ったんですか!」
「男の子でしょう。頑張りなさい」
「まあ、持ちますけど」
言われては仕方ない。持つしかないだろう。
「仕方ないとは思っているんだけど」
「まだ機会はあるから。頑張ろう」
「ええ。そうね」
漆原が変なことを言っていた。そんな時だった。
「あれ?パル?」
「お、アルクにイザ。珍しいね」
「おお、ほんとじゃ。パルじゃ。奇遇じゃのう」
なんとアルクとイザがいた。
「どうしたのさ。アルクとイザが一緒って」
「こっちも偶然会ったんだよ~」
「我も驚いたぞ。たまたま入ったらアルクが居るとはのう」
「へえ。そういうこともあるか」
こっちもレネさんに会ったからね。
「で、この子達誰なの?」
レネさんがなぜか怒っているかのような口調。何故に?
「ええと、クラスメイトのアルカンシエルとイザです。こっちはレネ生徒会長と漆原な」
「ほぉ、せいとかいちょーは始めて見たぞ」
「私もこんなちっちゃい子は始めて見たわ。よろしくね」
「我はちっこくなんてないぞ!うぅ~~、その手を離せ~~!」
レネさんがイザの頭をなでている一方で。
「パル君の後輩なのかな。よろしくね!」
「まあ、よろしくお願いします」
「で、早速聞きたいのだけど君たちは双子かな?」
「ええ。そうですよ」
「ほぇ~~。初めて見たよ~。生まれた時から一緒ってなんかいいね」
「そうですかね?本人としてはあんまり良いものではないですよ」
「あっ、その言い方はヒドイ!………勉強とか見てあげてたのはどこの誰でしたっけ?」
「うっ!………うるはさんです。はい」
「仲もいいんだねぇ~。うらやましいなぁ。私は一人っ子だったから」
結構盛り上がっているようでなにより。自分に親しい人が仲良くしているという光景はなぜかホッとできるものだ。
「で、なんで私はこんなところにいるの」
「私初めてだよ~」
「我もじゃ。しかし、うるさいのう」
「僕達はたまに来ることはありますが」
「私は見てるだけのことが多いけどね」
「みんな暇なんだからいいんじゃないかな」
ということで、何故だかゲームコーナーの一角に6人が居ることになった。
「ま、せっかく来たんだし楽しまないとね」
「あ、もぐら叩きがある!懐かしい~」
「え、なんでそのチョイスなの!?」
漆原が勝手にモグラ叩きの方へと向かっていった。
「私たちも何かしましょうか、ねぇ?」
「おぬしには負けぬぞ!」
レネさんとイザも連れだって行く。………あまりかかわらない方がよさそうな雰囲気を醸し出しているようだ。
「アルクはどうす―――あれ?」
いつの間にかアルクは消えていた。
「………探してみるか」
迷子になったりしたら面倒だしね。
アルクはすぐに見つかった。
「よし!あと、もうちょっと………あーーー!」
ゲームコーナーの方に居たのでほっとした。しかし、何をやっているのかと思えば。
「クレーンゲーム?何かとりたいの?」
「あ、パル。うん。あれ」
アルクの指差す先には………
「ちょっと。何これ」
「え?どさゑもんさんだよ。もしかしてパルは知らないの?」
そんな。こんなものが常識だなんて思いたくないよ。
「なんで、この人形手と足がだらんとしてるの。無表情だし」
「可愛いよね!」
「ちょっと待てい!!!」
いやいやいやいや。こんな不気味な人形が可愛いわけないでしょうが。どうやったらこんな水死体のようなものが可愛いと思えるのだろう。
「というわけだよ。パルにもあげないよ」
「いやいや!僕はいらないから!!」
例えプレゼントとして贈られたとしても捨てる自信があるよ。
「そなの?」
「うん。僕は取ろうとか思わないから」
「なら、私が頑張って取るね」
「うん。そうしてくれたら店の人も喜ぶだろうから」
多分そんな人形誰も取ろうとか思わないだろうからね。
「うぅ~~~。とうぅりゃぁ!!」
アルクが取るわけじゃないんだから別に掛け声はいらないよね、とは僕は突っ込めなかった。
「うぅ~~~。また駄目だったよぉ~~~」
半泣き状態になりながら100ナヴィ硬化を投入。またクレーンが動き始める。
「そこぉ!!」
狙いはいいのだけどちょっと逸れていたのだろう。
「よしっ!!あ、あぁ~~~~!!!」
クレーンがちょっとつかんだと思ったが、すぐに落ちてしまった。
「店員さんに位置を変えてもらうのは?」
「だめっ!!これは私の戦いなの!!」
彼女は誰と戦ってるのだろう。クレーンなのか、人形なのか、はたまたはこのゲームコーナーのオーナーとなのか。
「うぅ~~~。いいところまでは行くのに~~~」
実際惜しいのだけど、見ていると少しタイミングが遅いのだ。
「むむむ~~」
ふむ。
「わっ!」
「のわぁぎゃぁ~~!!!」
僕が驚かしたことによってアルクがボタンを押すことになった。というか彼女の驚き方には僕の方が驚く羽目になったけど。
「もう!!これでまた駄目だったらパルのせいだよっ!!」
「まあ、そうなるよねぇ」
でもクレーンは順調に人形をつかみ
「おぉ~~~~!!!獲れた~~~~!!!」
「人形は熊や魚じゃないんだけどね」
「獲ったど~~~~~~~」
「まあ、それでいいのならいいけどさ」
あと、そんな見てくれの悪い人形を掴んで持ち上げてるのってどうなんだろう。
「よしっ!!次はこれを獲るぞ~~!!!」
「なんでそんな呪われそうな人形ばっかり選ぶかなぁ」
「可愛いよねっ!!」
「えぇ~~~!?」
とりあえず、今日分かったことは彼女の人形選びのセンスはどうかと思うぐらいひどいということだ。
「ふぃ~~~。楽しかったぁ~~」
「そりゃあ、あれだけ遊べば楽しかったでしょうねぇ!こっちは着いていくのに疲れたよ………」
「ふふふ。あなたにもお疲れ様、と言った方がいいのかしら」
「ええい!敗者に慰めをかけるでないわ!!」
なぜだかとても分かり易い。ゲームコーナーで何があったのか。
「えへへへへ~~~」
アルクは戦利品を紙袋に持ってずっとこんな調子。きっと、昨日のことも頭にはないだろう。
「それでは、また明日。今日は楽しかったわ」
「次こそリベンジしてやるからの。顔洗って待っておれよ!」
「はいはい」
「それでは、レネさん。また明日」
「ええ。明日はちょっと働いてもらうからちゃんと顔を出すようにしてね」
「また明日です、会長」
「ええ」
レネさんは大通りの中心の方に行くので、僕たちとは方向が違う。よって、この建物の前で別れることになった。
「あれが、会長さんなんだよね。なんだかかっこいい人だったねぇ~」
「かっこいい、ねぇ」
少し話しているとそんな印象は消えると思うけど。
「いや、アルクよ。騙されてはいかんぞ。あやつはそんなやつではないわ。もっと恐ろしい。あの悪魔のよーな………」
「「イザ先輩!!それ以上は言わない方が………」」
「うっ!!!」
イザも悪寒を感じたようだ。
「ごほん。我も帰る」
「あれ?イザちゃんのおうちって私の家の近くじゃなかったの?」
「確かにそうなのじゃが、今日は研究所に泊まる予定じゃからの。おそらくじゃが、明日は学校に出れまい」
「えっ!それは問題なんじゃ………」
「いや。イザ、気をつけなよ」
「大丈夫じゃ。ここから研究所はそれなりに近いしのう」
では、またの。そう言い残して、イザはレネさんの行った方向とは反対側に歩いて行った。
「問題ないってどういうことですか」
「一つ上の学年にとんでもない天才がいるって話聞いたことあるかい?」
「ああ。その話なら、ってあの先輩が!?」
「うん。どんな噂が流れているか分からないけど、おそらくその噂はイザについてのものだろうね」
「イザちゃんってそんなにすごいの?」
「うん。って、アルク。君はクラスメイトでしょ」
「だって、イザちゃんが頭がいい子だっていうのは分かるんだけど、でも自分ではそんなこと言ってくれなかったし」
「まあ、普通なら言わないとは思うけど」
「そんなものかなぁ」
「それにしても驚きました。そんな風な人には全然思えなかったので」
「人は見かけによらない、ってことですかね」
「さあ?どうなんだろうね」
「?」
「先輩?」
なぜか、漆原がいぶかしげな反応をした。
「それじゃ、僕たちも帰ろう」
「え、ええ」
「アルクも同じ方向?」
「うん。私の家、学校の近くだから」
「それじゃ行こうか」
「はい」
ヒカリのまぶしい方に進む。目が悪くなるかもしれない。
「では、私たちはここで失礼します」
「へぇ~~。本屋さんだったんだねぇ。今度寄らせてもらうね」
「はい。いつでも歓迎します」
「アルクって何か本読むの?」
「あ、ひどいなー。もしかして私が何も読まないおバカな子だって思ってたの?」
「いや、思ってないけど、少し意外だったのは事実かな」
「ぶぅ」
「あ、ちょっと、アルク!」
頬をふくらましたままアルクが歩いて行ってしまった。
「じゃあ、また明日な!」
「「では、また明日」」
「ああ!」
急いでアルクの後を追った。
「そこまで怒ることじゃないじゃないか。意外だっただけで他意はないよ」
「むぅ」
「いや、聞いた時に思ってもみなかったと言うか」
「………さっきからパルは私を慰めたいの?貶めたいの?」
「あれ。もしかして僕墓穴掘ってた?」
「うん」
おかしいな。そのまんまのことを言ってるのだけど。
「ともかく、パルの言葉によって私はふかーく傷つきました」
「はい」
口調からしたらそんなに傷ついているように聞こえないけど。
「責任を取ってください」
「まあ、僕にできる範囲のことならいいけど」
「では………うーーん」
「アルク?」
「何してもらお」
「考えてなかったんだ」
とてもアルクらしいけど。
「うーーん。ええとこういう時は………貸し1つ?で合ってるのかな」
「貸し1つ、ね。絶対に何か違うと思うけど、分かったよ」
本を読むアルクより、貸しという言葉を使うアルクの方がよっぽど想像できなかったけどね。
「よーーし、じゃあ決定!パルに貸し1つ」
「いつ返せばいいのやら」
「それじゃあ、いつか返してね。いつでもいいよ」
「分かった」
「それじゃあね。私の家ここだから」
「ああ。そうなんだ」
この都市では普通のレンガ造りの一軒家。商店街から少し離れたところにある建物だった。
「今日は楽しかったよ!また明日ね!」
「僕も楽しかった。また明日」
そう言葉を返すと、アルクは笑顔で門をくぐり家の中に入っていった。
「僕も帰るか」
一人。ほんの少し暗くなった明るい世界を歩いた。
確かに、大変な一日だったけど、楽しかったなと。
HPはじめました。よろしければそちらも見ていただけると幸いです。
すとろーの住処 http://www.geocities.jp/leonhardt0724/




