オープニング
セラという不思議な力が使える世界、
マホウツカイという名の神様が信じられている世界。
そんな一風変わった世界で未来を見る少年が繰り広げる物語です。
楽しんでもらえることを願いつつ……
6010年7月11日
朝の7時。目覚ましが鳴り僕は目を覚ました。眠気はあまりないが頭が動いてくれていない。少しの時間ボーっとする。いつも起き掛けはこんなものだ。
そうした後、ベッドから抜け出して着替えを始めた。そのあとで食パンを焼いて、牛乳を取りだして、朝食とした。朝は忙しいし面倒くさいから毎日こんなもので済ましている。朝食を抜くと午前中の授業を耐え抜くことはできないのは分かっていることなので、少しでも腹に物を入れることを心掛けている。
朝食を取り終えたならもう学校に行くだけといいたいところだが、洗濯物も干していかなければならない。一人で住んでいると自由な代わりに面倒なことも全部自分でしなければならない。
だが、こうなってしまったことはどうにもならないのだからするしかないのだ。僕は朝に終えなければならない家事を全部済ませて家を出た。
このように朝にやることが多いため、僕の登校時間は一般的な生徒よりもはるかに遅い。とはいえ今まで一度も遅刻したことがないのは奇跡と言ってもいいだろう。
その要因としては徒歩5分で着くほど近い学校に通っているということだと思う。これには随分と助かっている。おかげで遅刻をして教師に目をつけられるということもなく、毎日を平和に過ごせている。
5分経った。目の前に巨大な門と校舎が広がっている。自分の家の何倍の面積があるのか、比べたことも測ったこともない。巨大な壁と広大な面積を併せ持つ。これが僕の通っている学校、私立セラ学園だ。普通はセラ学と呼ばれる。この西大陸の首都でも有名な学校だ。
学校自体は極近年にできたばかりできれいなこともあり、人気も高い。そしてなにより私立なら学費が高いそうなのだが、ここはそこまで高くないし、もしもお金がなかったとしても制度もしっかりしているおかげで通うことができる。
学校ではそれなりに楽しくさせてもらっているが、近くに自分の数少ない友人はだれも住んでいないので、通う相手はいなくいつも一人寂しく通っている。
校門を抜けた。そこから僕の口が動き始めた。他の人には聞かれないぐらいの小さな声で、まるで誰かとしゃべっているかのようだ。それは校舎に入り、自分の教室に入るまで続いた。
教室に入った途端、ホームルームの鐘が鳴った。騒いでいた教室も少しだけ静かになり、皆、着席を始めた。理由は共通している。
「おう、お前ら。連絡事項なし。以上」
一瞬だけドアを開けてそれだけを言い残して帰って行った、担任が恐ろしいためだ。とはいえ怖いわけではなく、むしろ皆尊敬していると思う。2年連続で担任であるニクラス先生に頭が上がらなくなっているからだ。いつの間にあの先生は僕たちを従わせたのだろうか。
本来なら後10分は授業の時間まであるのだが、担任が早く終わらせることを考えているので時間が空いた。それによってまた教室が騒がしくなってきた。
「なあ、ちょっといいか?」
僕にも話しかけてくるやつがいた。どうせ宿題を見せてくれとかいうくだらない用事だろうが、一応目立たないように過ごすのが信条なので対応することにした。
さて、この学校の大きな特徴がある。それがこのセラ学と言われる授業のことだ。名の通りセラについて勉強する学問だ。
セラというものを簡単に説明すると、手から炎を出したり、獣の姿に変化したりすることができるようになる不思議な力のことだ。しかし、これは人間の場合のみで、他にも流用することができ、学園で付いている光や空調、学校を管理しているシステムもこれで動いている。とにかくいろいろと出来るようになる便利な力だ。と考えてもらえればいい。
「じゃあ今日はセラというものの成り立ちについて」
少しおどおどしている頼りない教師が教壇に立ち、説明を始めた。他の教科よりは面白いので僕は一応聞くようにしている。しかし、こういう態度の教師は大抵生徒になめられるものだ。ほとんどの生徒はしゃべっていて、あまりまともに授業がされているとは言い難い。そんなことにはおかまいなしにこの教師は説明を続けていた。
昼時になった。教室で弁当を食べると周りがうるさいので、僕はいつも外で食べることにしている。最近、周りから見つからず静かな場所を見つけたので、そこに移動しようと階段を降りた。
「「あ、先輩。お疲れ様です」」
階段を降りたところで見知った顔と出くわした。『漆原』という漢字の名字を持つ『双子』男の方は泪、女の方はうるはという。普通のやつらと少し雰囲気が何か違う、校内では美男美女の天才双子として有名だ。天は、いや、世の中は不公平に出来ているものだとこの『2人』と出会った後から考えるようになってしまった。
「先輩どうかしましたか?」
「なんかぼーっとしていらっしゃいますけど、何かありました?」
「いや、世の中ってなんだろうなーと考えていた」
「「?」」
あわてて取り繕った。とても取り繕えたと思えないような言い訳だったけど、一応納得というか流してくれた様だ。
「いいですけど」
「今からどこかに行かれるんですか?」
「うん。昼食を食べに外にと思って」
「先輩よくいつも弁当ですよね」
「面倒だと思いませんか?」
「自分で作ってる君に言われてもなあ」
「いえ、私が作ってるのは大したものじゃないですよ。昨日の余りとか使ってますから」
「俺も似たようなもの……」
彼が何かを思ったかのように止まった。そして
「「では、これで」」
「うん。また、後で」
あわただしく去っていった。何かあったのだろう。ただ僕には分からないことだから、とりあえず自分の行きたいところに行った。
学校から出るといつも窓から見える、森というのにふさわしいほど木々が生い茂っている地帯に入った。なぜ学校にこんなものがあるのか分からないが、あるものはありがたく利用させてもらっている。夏が終ったばかりで外はまだ暑い。しかし日の射さない森の中は、森の中の方から風が吹いているのでとても涼しい。何より学校の喧騒が届かない。個人的には穴場だと思っている。
「さて、食べるとしますか」
木々が光を遮っているのに、森の中は判断できるぐらいには森の中は明るい。
「……」
ふと気づくと僕よりあまり離れていない場所に女の子がいた。
僕と同じように食事をとっているようだ。
「……」
もっとも向こうは購買で買ったらしきアンパンをもふもふと咀嚼していた。
「……」
こちらに気付いた様子もなく食べている。
「……」
どうやら食べ終わったようだ。
「……」
こちらを黙ったまま見てきた。お互いに特に驚きはなかった。たぶん数秒ほどこちらを見てきた後、森のさらに奥の方へと入っていった。
「ここの奥って、迷うと思うけどなあ」
そんな疑問を抱きながらも始業のベルが鳴るまで、食事をとり終わった後もずっとその場にいた。
就業のベルが鳴り、一瞬だけ顔をのぞかせた我が担任も行った後、家に帰ろうと思い席を立った。
しかし、それも無理な話だったようだ。仕方なく足を生徒会室の方へ向けることにした。
そう、先ほど言った通り僕が向かっているのは生徒会室だ。あまり生徒に任せるのではなく大体のことを大人がやっているが、生徒とのパイプライン役は必要なことだ。それで作られたのが生徒会だ。
言っておくが、僕は決して生徒会に入ったつもりはないし、帰宅部で通している。それなのに、なぜか僕は生徒会室の前に立っている。ちなみに今日は何の用事もない日だ。おとなしく帰っても何も言われまい。
「失礼します。失礼しました」
「捕まえなさい」
「「りょ、了解であります!」」
我が担任のまねをしてみたが、上手くいかなかったようだ。一瞬だけ開けて、すぐに閉めようとした扉は何者かによって支えられていた。
「先輩、毎度のことですけど観念してください」
「私の身が持ちませんよー」
支えているのは男女のペア、昼にも会った漆原だ。
「放して欲しいな。怪我するよ」
「「いえ、無理です。お願いですからまともに入ってきてください」」
懇願するような声で言われた。
「入ってきなさいよ。入らなかったらどうなるか分かってるでしょ?」
奥からハスキーなボイスが聞こえた。僕も観念して扉から手を放す。
「うわっ」「きゃっ」
その反動で漆原はこけてしまった。
「だから言ったんだけどなあ」
半ば観念しながら入った。
「いらっしゃい。ゆっくりしていきなさいよ」
奥にいたのはこの部屋の主、生徒会長ことレネ・アルブレヒトだ。僕の1つ上の学年にあたる。
ぶっちゃけるとかなりの美人だ。本当に僕の1つ上かと見紛うほどだ。プロポーションもすごく、隠れファンがファンクラブを作っているのも、若干僕が恨みを買っているのも知っている。原因はおそらく今の生徒会だろう。
今、生徒会の中にいるのは僕、レネさん、そして漆原兄妹のみ。生徒会は会長しか所属していなくて、副会長も書記もいない代わりに僕たちが強制的に手伝わされている。
どうやら会長は、自分以外の生徒会役員をいなくなるようにし、実際それでも問題ないよう証明をして見せた。それで、生徒会には会長以外の役員は存在しない。問題ないなら手伝わなくても良いじゃないですか、と以前言ってみたことがあるが、凄まじい笑顔で微笑まれたのでその質問はしないようにしている。
「どうしたの? ぼーっとして。なにかあった?」
「いえ。別に何もないですよ」
あのときの笑顔は今思い出すだけでも戦慄が走る。思い出していたことも気取られないようにするとしよう。
「それで、今日は何も用はないですよね? なんで呼び出したんですか?」
「なんとなくよ」
一言であっさりと返された。なんとなく、であまり時間を消費されたくはないがしょうがない。この人には一生逆らえないだろう。
「あら。いいのかしら?」
「もう、諦めましたよ……」
椅子に腰を掛ける。反論しても無駄な事を悟り、話を聞くことにした。
生徒会での時間を過ごさされた(こう言うのが一番正しいと思うので)後、スーパーに寄った。タイムサービスセール中でいくつかのものが安くなっていたので購入して、帰った。
帰るととりあえず買ったものを冷蔵庫に収め、干していた洗濯物を取り囲み、夕食を作った。風呂に入り、出された課題をこなし、ベッドに入った時刻は12時45分。そのまますぐに寝た。
というところで目が覚めた。
6010年7月11日
朝の7時。目覚ましが鳴り、僕は目を覚ました。眠気はあまりないが頭が動いてくれていない。少しの時間ボーっとする。いつも起き掛けはこんなものだ。
そうした後、ベッドから抜け出して着替えを始めた。そのあとで食パンを焼いて、牛乳を取りだして、朝食とした。朝は忙しいし面倒くさいから毎日こんなもので済ましている。朝食を抜くと午前中の授業を耐え抜くことはできないのは分かっていることなので、少しでも腹に物を入れることを心掛けている。
朝食を取り終えたならもう学校に行くだけといいたいところだが、洗濯物も干していかなければならない。一人で住んでいると自由な代わりに面倒なことも全部自分でしなければならない。だが、こうなってしまったことはどうにもならないのだからするしかないのだ。僕は朝に終えなければならない家事を全部済ませて家を出た。
このように朝にやることが多いため、僕の登校時間は一般的な生徒よりもはるかに遅い。とはいえ一度も遅刻したことがないのはある意味では奇跡と呼んでもいいだろう。
その要因の一つとしては徒歩5分で着くほど近い学校に通っているということが挙げられるだろう。これには随分と助かっている。おかげで遅刻をして教師に目をつけられるということもなく、毎日を平和に過ごせている。
5分経った。目の前に巨大な門と校舎が広がっている。自分の家の何倍の面積があるのか、比べたことも測ったこともない。巨大な壁と広大な面積を併せ持つ。これが俺の通っている学校、私立セラ学園だ。普通はセラ学と呼ばれる。この西大陸の首都でも有名な学校だ。
学校自体は極近年にできたばかりできれいなこともあり、人気も高い。そして本来私立なら学費が高いそうなのだが、ここはそこまで高くないし、もしもなかったとしても制度もしっかりしているおかげで通うことができる。学校ではそれなりに楽しくさせてもらっているが、近くに自分の数少ない友人はだれも住んでいないので、通う相手はいなくいつも一人寂しく通っている。
校門を抜けた。次の瞬間だった。
『おはよう、パル。今日も遅いのね』
突然何の前触れもなく、声が聞こえた。
「おはようございます。レネさん。僕の事情ぐらい分かっているでしょう?」
他の人には聞かれないぐらいの小さな声で返答する。ちなみにパルとは僕、パルミラ・アガスティアのこと。レネさんは生徒会長のレネ・アルブレヒトのことだ。
『大変なら手伝いに行きましょうか?』
「毎日世話になっていたら多大な借りを作ることになりますので、やめてください」
『あら。別に良いと私は思うわよ』
「僕がいろいろと困りますので勘弁してください」
こうして会話をしながらも、僕は普通に学校に入る。もう何度も繰り返されてきたことだ。慣れている。
『困るってどんな風に?』
「レネさんが借りだと思ってなくても、僕が思うんです。それに毎日することなので、もう慣れましたから」
『慣れていない時期に言えばよかったかしら?』
「その時期はまだ僕たちまだ会っていませんよ」
校舎に入り靴を履きかえる。周囲のみんなは急いでいるが、僕は特段気にすることもなくいつものペースで履き替え階段を上る。
『仕方ないわ。パルが一度遅刻したら提案するとしましょうか』
「そうしてください。遅刻しないように気をつけますので」
3階まで階段を上り、教室に入った途端、ホームルームの鐘が鳴った。騒いでいた教室も少しだけ静かになり、皆、着席を始めた。理由は共通している。
「おう、お前ら。連絡事項なし。以上」
一瞬だけドアを開け、それだけを言い残して帰って行った担任が恐ろしいためだ。とはいえ怖いわけではなく、むしろ皆尊敬していると思う。2年連続で担任であるニクラス先生に頭が上がらなくなっているからだ。いつの間にあの先生は僕たちを従わせたのだろうか。
本来なら後10分は授業の時間まであるのだが、担任が早く終わらせることを考えているので時間が空いた。それによってまた教室が騒がしくなってきた。
「なあ、ちょっといいか?」
僕にも話しかけてくるやつがいた。どうせ宿題を見せてくれとかいうくだらない用事だろうが、一応目立たないように過ごすのが信条なので対応することにした。声は今は聞こえなくなっていた。
さて、この学校の大きな特徴がある。それがこのセラ学と言われる授業のことだ。名の通りセラについて勉強する学問だ。
セラというものを簡単に説明すると、手から炎を出したり、獣の姿に変化したりすることができるようになる不思議な力のことだ。しかし、これは人間の場合のみで、他にも流用することができ、今学園で付いている光や空調、学校を管理しているシステムもこれで動いている。とにかくいろいろと出来るようになる便利な力だ。と考えてもらえればいい。
「じゃあ今日はセラというものの成り立ちについて」
少しおどおどしている頼りない教師が教壇に立ち、説明を始めた。他の教科よりは面白いので僕は一応聞くようにしている。しかし、こういう態度の教師は大抵生徒になめられるものだ。ほとんどの生徒はしゃべっていて、あまりまともに授業がされているとは言い難い。そんなことにはおかまいなしにこの教師は説明を続けていた。
『この授業つまらないわ。話し相手になりなさいよ』
「授業中に能力使って話しかけてこないで下さいよ。独りごと言う変な奴だと思われたらどうするんですか」
『パルの責任じゃない』
「ですよねー」
僕もこの時間の授業は大半のことを知っているし、退屈なのは本当なのでレネさんに付き合うことにした。
昼時になった。教室で弁当を食べると周りがうるさいので、僕はいつも外で食べることにしている。最近、周りから見つからず静かな場所を見つけたので、そこに移動しようと階段を降りた。
「「あ、先輩。お疲れ様です」」
階段を降りたところで見知った顔と出くわした。漆原兄妹だ。
「先輩どうかしましたか?」
「なんかぼーっとしていらっしゃいますけど、何かありました?」
「いや、少し考え事してしまった」
「「?」」
あわてて取り繕った。一応納得というか流してくれた様だ。
「いいですけど」
「今からどこかに行かれるんですか?」
「うん。昼食を食べに外にと思って」
「先輩よくいつも弁当ですよね」
「面倒だと思いませんか?」
「自分で作ってる君に言われてもなあ」
「いえ、私が作ってるのは大したものじゃないですよ。昨日の余りとか使ってますから」
「俺も似たようなもの……」
彼が何かを思ったかのように止まった。そして
「「では、これで」」
「うん。また、後で」
あわただしく去っていった。何かあったのだろう。ただ僕には分からないことだから、とりあえず自分の行きたいところに行った。
学校から出るといつも窓から見える、森というのにふさわしいほど木々が生い茂っている地帯に入った。なぜ学校にこんなものがあるのか分からないが、あるものはありがたく利用させてもらっている。
今の季節は夏が終ったばかりで外はまだ暑い。しかし日の射さない森の中は、森の中の方から風が吹いているのでとても涼しい。何より学校の喧騒が届かない。個人的には穴場だと思っている。
「さて、食べるとしますか」
木々が光を遮っているのに、森の中は判断できるぐらいには森の中は明るい。
「……」
ふと気づくと僕よりあまり離れていない場所に女の子がいた。
僕と同じように食事をとっているようだ。
「……」
もっとも向こうは購買で買ったらしきアンパンをもふもふと咀嚼していた。
「……」
こちらに気付いた様子もなく食べている。
「……」
どうやら食べ終わったようだ。
「……」
こちらを黙ったまま見てきた。お互いに特に驚きはなかった。こちらはあちらの存在を事前に知っているからこそ驚かなかったが、向こうは全く驚かなかった。こんなところ普通の人は来るはずかないのに。たぶん数秒ほどこちらを見てきた後、森のさらに奥の方へと入っていった。
「ここの奥って、迷うと思うけどなあ」
そんな疑問を抱きながらも始業のベルが鳴るまで、食事をとり終わった後もずっとその場にいた。
就業のベルが鳴り、一瞬だけ顔をのぞかせた我が担任も行った後、家に帰ろうと思い席を立った。
しかし、
『今日は生徒会室に来なさい』
それも無理な話だったようだ。仕方なく足を生徒会室の方へ向けることにした。
そう、先ほど言った通り僕が向かっているのは生徒会室だ。あまり生徒に任せるのではなく大体のことを大人がやっているが、生徒とのパイプライン役は必要なことだ。それで作られたのが生徒会だ。
言っておくが、僕は決して生徒会に入ったつもりはないし、帰宅部で通している。それなのに、なぜか僕は生徒会室の前に立っている。ちなみに今日は何の用事もない日だ。おとなしく帰っても何も言われまい。
「失礼します。失礼しました」
「捕まえなさい」
「「りょ、了解であります!」」
我が担任のまねをしてみたが、上手くいかなかったようだ。一瞬だけ開けて、すぐに閉めようとした扉は何者かによって支えられていた。
「先輩、毎度のことですけど観念してください」
「私の身が持ちませんよー」
支えているのは男女のペア、昼にも会った漆原だ。
「放して欲しいな。怪我するよ」
「「いえ、無理です。お願いですからまともに入ってきてください」」
懇願するような声で言われた。
「入ってきなさいよ。入らなかったらどうなるか分かってるでしょ?」
奥からハスキーなボイスが聞こえた。僕も観念して扉から手を放す。
「うわっ」「きゃっ」
その反動で漆原はこけてしまった。
「だから言ったんだけどなあ」
半ば観念しながら入った。
「いらっしゃい。ゆっくりしていきなさいよ」
奥にいたのはこの部屋の主、生徒会長ことレネ・アルブレヒトだ。僕の1つ上の学年にあたる。この人がたまに頭の中に聞こえる声の主だ。
「どうしたの?ぼーっとして。なにかあった?」
「いえ。別に何もないですよ」
特に妄想でもなんでもない。初めて聞こえたとき向こうに確かめたことで、彼女の持つセラの力を使ったもので『音』の力を持っているそうだ。
「それで、今日は何も用はないですよね?なんで呼び出したんですか?」
「なんとなくよ」
一言であっさりと返された。なんとなく、であまり時間を消費されたくはないがしょうがない。一度だけ逆らったら、3日間ほど大音量でレネさんの声を耳に流され、授業は聞こえないのに当てられるや、友人との会話も一切成立しないで大変な目にあった。唯一の救いは学内だけで、始業と就業を告げるベルのなっている間は聞こえなかったということぐらいだ。
「あら?いいのかしら?」
「もう、諦めましたよ……」
椅子に腰を掛ける。反論しても無駄な事を悟り、話を聞くことにした。
生徒会での時間を過ごさされた(こう言うのが一番正しいと思うので)後、スーパーに寄った。タイムサービスセール中でいくつかのものが安くなっていたので購入して、帰った。
帰るととりあえず買ったものを冷蔵庫に収め、干していた洗濯物を取り囲み、夕食を作った。風呂に入り、出された課題をこなし、ベッドに入った時刻は12時45分。そのまますぐに寝た。
これが、僕のいつもと変わらない…………繰り返される日常だ。
出来ればでよろしいのですが、オープニングだけは1~3まで一気に読んでほしいと思っています。