表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

明日の傘

作者: かみすき
掲載日:2026/05/16


寂れた商店街の片隅。激しい夕立が、古びたアパートの屋根を激しく叩いていました。

シングルマザーの美咲(みさき・35歳)は、昼は弁当屋、夜は深夜の清掃と、身を粉にして働いていました。しかし、物価高と重なる出費で、家計は常に火の車。小学2年生の娘、つむぎに新しい服一枚買ってあげられない自分を、美咲はいつも責めていました。

第1章:雨の日の出会い

ある日の仕事帰り、美咲は途方に暮れていました。古びた自転車のチェーンが外れ、おまけに突然の豪雨。傘もなく、雨に濡れながら壊れた自転車を押す美咲の前に、一本の大きな傘が差し出されました。

「あの、よかったらこれ使ってください。家、すぐそこなんで」

声をかけてきたのは、同じアパートの1階に最近引っ越してきたばかりの会社員、拓海(たくみ・26歳)でした。少しぶっきらぼうですが、その目はとても優しげでした。

拓海は手際よく自転車のチェーンを直すと、美咲に傘を握らせ、自分は上着を頭に被って走り去っていきました。それが、すべての始まりでした。

第2章:差し伸べられた手

それからというもの、拓海と美咲、そして娘の紬の距離は少しずつ縮まっていきました。

拓海は、美咲が夜の仕事に出ている間、寂しそうにしている紬のことが気になっていました。ある日、アパートの廊下でうつむく紬に、拓海は声をかけます。

拓海のサポート

宿題のわからないところを教えてあげる

得意のチャーハンを作って、一緒に夕食を食べる

壊れかけた網戸や、調子の悪い家電をサッと直す

美咲は、最初は「これ以上、人に迷惑をかけられない」と遠慮していました。しかし、拓海が紬に向ける真っ直ぐな笑顔や、自分の体調を本気で気遣ってくれる誠実さに、凍りついていた心が少しずつ溶けていくのを感じていました。

「美咲さん、一人で全部背負い込もうとしないでください。俺、二人の力になりたいんです」

第3章:新しい家族の始まり

季節が変わり、冬が訪れた頃。美咲が無理を重ねたせいで、高熱を出して倒れてしまいました。

パニックになる紬から連絡を受けた拓海は、仕事を早退して病院へ駆けつけ、付き添いました。

数日後、すっかり回復した美咲は、拓海の部屋を訪れて深く頭を下げました。

「拓海くん、本当にありがとう。でも、私たち、これ以上甘えるわけにはいかないわ。あなたはまだ若いし、もっと自分のために……」

そこまで言った美咲の言葉を、拓海は優しく遮りました。

「俺の人生で一番大切なものは、もうここにあります。美咲さんと紬ちゃんです。二人を支えたいんじゃない。俺が、二人の隣にいたいんです。俺と、家族になってくれませんか?」

美咲の目から、大粒の涙がこぼれ落ちました。それは辛い日々の終わりと、温かい未来の始まりを告げる涙でした。

エピローグ

それから1年後。

3人は、日当たりの良い新しい部屋で暮らしています。

美咲は深夜の仕事を辞め、夕方には家に帰って笑顔で「ただいま」と言える心の余裕ができました。紬のランドセルには、拓海がプレゼントしてくれたお気に入りのキーホルダーが揺れています。

貧しかった日々は、もう遠い過去。

左手の薬指に光るシンプルな指輪を見つめながら、美咲は今日も、大好きな家族のために温かい夕食を作っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ